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よろしくお願いいたします。

「ごめん。……やっぱり俺、君との結婚は考えられない」


 すでに“何度も”聞いたセリフを目の前の男性が話す。


「ど、どうして? 私が手伝うと畑の作業が楽だって、ずっと一緒に働きたいなって言ってくれたじゃない!」


 それでも(すが)ってしまうのは仕方のないことだろう。


「……ごめん」


 作業服を着た朴訥(ぼくとつ)そうな青年は深く頭を下げた。そのまま背中を向けて去っていく。


(ああ……やっぱり“また”ダメだった)


 たった今結婚を断られた女性――――シェーラはガックリとうなだれた。

 それも無理はないだろう。なにせシェーラが結婚を断られるのはこの男性で五人目なのだから。


(いったい私の何がいけないの!?)


 心の中で叫ぶが、当然答えなどありはしない。

 果てしなく落ち込みそうな心を頑張って奮い立たせる。


(いやいや、なんのこれくらい。……北のクリセルファ王国との激戦に比べれば、蚊に刺されたようなものよ。あの時は寒さも厳しく、兵の士気を保つのがたいへんだった)


 ――――それは、結婚を断られた女性が我が身と比べるには、あまりにもかけ離れた苦境だ。

 しかし、シェーラはそれには気づかず胸の前で拳を握る。


(それに、一筋縄どころか鋼鉄のチェーンでもどうにもならないような魑魅魍魎ばかりの皇国の妖怪貴族どもとのかけひきに比べれば……ストレートに断ってくれる若者の言葉はなんとも清々しいものではないか!)


 ――――もちろんこれは明らかな強がりだった。

 遠回しに断られることもストレートに断られることも、結果はまったく同じなのだから。


(それに、それに――――)



 シェーラは数限りなく経験した“今まで”の苦労を端から思い出し、少しでも失恋のショックを和らげようとする。



(――――そう、それに比べれば、一回や二回や……五回くらい結婚を断られたって)



「……って! 平気でいられるかぁ~!!」



 最後にシェーラは大声で叫んだ。涙が頬をダァーと流れ落ちる。




「あ! いたいた! シェーラぁ~!! どうだったぁ? 無事失恋記録を塗り替えられたの?」


 そんな傷心なシェーラの傷口に塩を塗るような声が聞こえてきた。

 彼女を見つけパタパタと駆け寄ってくるのは、みんな似たり寄ったりの十代後半の少女たち。


「失恋記録って何よ!」


「え~? だって、シェーラったら毎回毎回必ず失恋するじゃない」

「そうそう。最初はいい雰囲気でも、いざ結婚ってなると“絶対”破局するのよね!」

「今回で五回目だっけ? 二年で五回ってすごくなぁい?」

「一人あたり半年もたないってことでしょう?」

「ある意味すごいわよね?」


 好き勝手に言われてシェーラの我慢が限界に近くなる。

 少女たちを睨み付け怒鳴ろうとしたのだが――――



~キンコーン~カンコーン~



 ちょうどそのタイミングで、長閑(のどか)な調子の鐘が鳴りはじめた。


「きゃあ! いけない予鈴だわ!」

「昼休みが終わっちゃう!」


 少女たちは、あっという間に走り出す。


「シェーラ! 早く、行くわよ!!」


 呼ばれたシェーラも仕方なく走り出した。

 彼女たちは町の織物工場で働く女工。今のは昼休み終了五分前を知らせる鐘で、この後は午後の仕事が待っているのだから。


(まぁ、決まりきったルーチン作業だから楽でいいんだけど。何より相手の言動の裏の裏まで考えずにいられる仕事なんて最高よね!)


 一緒に働く仲間からは決して賛同してもらえないだろう思いを抱えてシェーラは走る。




 シェーラ・カミュ十六歳。

 広大な領土を誇るレーベンスブラウ皇国の属国メラベリューの田舎町ミーム。

 その西区に住む平民の娘である彼女は――――前世において皇国の女王、つまりは女皇だった記憶を持っていた。

お久しぶりの方も、はじめましての方も、お読みいただきありがとうございます!

とんでもない前世のせいで、ちょっと普通の人とは感覚の違うシェーラのお話にお付き合いいただけましたら幸いです。

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