七話 叶
「東郷…さん?」
聞くべきか? しかし、自動人形だったら、殺さなきゃならない。 いやいや、俺の推理なんて警察になってから今まで…。 ……めっちゃ当たってるんだよなぁ。 今回も当たっちまったら、どうすればいい。 しかし、聞かないことにはどうしようもない。
「なぁ、お前は、なんなんだ?」
気付かれた。 のかな。 あ、でも、ここで話せば、東郷さんに私を壊してもらえるかもしれない。 でも。
「そ、それは、名前を聞いてるんですか?」
ちょっとは、逃げたい。
「違う。 その、人なのか自動人形なのか。 聞いてるんだ。 人か物か」
すっごく怖い。
「私…は」
それでも。
「じ、自動人形。 なんです」
生きていても。
「そうか」
あんまり、意味がないから。
「黙っていて、すみませんでした」
少女は東郷の前に立ち。
「私は、殺す必要のない人達を殺しました。 ですから、私を壊してください」
と、言い放った。
「それは、どういう」
「どういうって、そのままの意味です」
「そうか」
「それじゃ、東郷さんの魔法で私を」
「いくつか」
「…?」
「聞かせろ」
「はい。 なんでしょう」
「後藤正喜…つっても分からないか。 目覚めたビル、分かるか?」
「はい」
「そこで、男をひとり殺害したよな。 理由は?」
「それは、近くに遺体があって、その人が殺人犯だと論理思考が判断し、敵と見なしたからです」
「なるほど。 その後、ビルの扉を蹴破って逃走」
「そうです」
「どうして女性を襲った?」
「服を調達するためでした」
「どうして、その人を殺さなかったんだ?」
「必要がなかったから」
「ふーん。 それからどうしてた?」
「ずっと、夜も朝も昼も、この町を歩いてました」
「ずっと?」
「はい、ずっとです」
「じゃあ、昨日追い剥ぎした訳は?」
「服が汚れたので、交換するために」
「汚れた? なにで?」
「血です」
「もしかして、路地裏で男を三人殺害したのはお前か?」
「そうです」
「何故だ」
「町を歩いてるとき肩が当たりまして、そしたら路地裏に連れていかれました。 それで…そこからはあまり覚えていません。 ですが、論理思考が敵と判断したのは確実です」
「敵ね。 じゃあ、図書館行った理由は?」
「帰りたくて」
「帰りたい?」
「故郷に」
ザルト王国か。 図書館でザルトについて調べたってことか。
「それで」
「故郷、ザルトは滅んだと知りました」
「そうか」
「はい」
「どうして、町から出なかった?」
「出なかったわけではないです。 居場所が無かったので、ただふらふらしていただけです」
「なるほどな」
「はい」
「…じゃ、次な。 なんで倒れたんだ? なんだか頭が熱かったが」
「それは、論理思考回路が壊れたんです」
「え?」
「負荷のかかる処理をしていたので、発熱して溶けてしまいました」
「なにを考えてたんだ?」
「論理思考が最後に考えていたことは私には分かりません」
「どういうことだ?」
「論理思考が記録するのは結論が出てからなんです」
「じゃあ、結論が出る前に壊れたのか」
「そういうことになります」
「原因不明か…。 ってか、思考回路が無いのに、どうして動いてられるんだ?」
「実は、よく分かってません」
「そうか。 じゃあ、死ぬのは怖いか?」
「怖くないと言えば、嘘になります。 本当はすっごく怖いです。 でも、そうも言ってられません」
「それはどうしてだ」
「だって、私は、人殺しです。 ザルトも滅んで居場所もない。 生きてきたって、意味が、無いんです」
「…………そうか…」
「そうです。 ですから」
「そうか、怖いか。 だったら、殺すのやーめたっ!」
「え?」
「いや何、実はな。 お前の話聞いてて思ったんだがよ。 いっつも人殺してるの、その論理思考ってやつだろ?」
「あ、はい」
「でも、その論理思考はすでに壊れてる。 それに、現状のお前は人を殺す意思どころか罪悪感すらあるんだろ? そんなお前を殺す理由なんかねぇよ」
「そうなん、ですか?」
「そうなんだよ。 この事件は、俺が何とかしてまとめとくさ」
「じゃあ、私は、どうすればいいんですか? 人殺しなんですよ、私は…」
「どうすればって…。 俺も、人殺しだよ。 上司の命令があれば、俺は犯罪者を人を、殺す道具でしかない。 理由がどうであっても、殺してるのは事実だ。 お前を攻められる立場じゃないんだ。 それに、お前に関しては自分の意思じゃないんだから、気に病むことはないよ。 普通にしてりゃいい」
「でも…」
「どうした?」
「私には、居場所が…」
「ここにいりゃいいじゃん。 好きなだけいていいって言ったろ」
「そんな…いいんですか?」
「問題ないよ」
「ありがとう……ございます……」
さて。 とりあえず、状況終了って感じ? この子は、自動人形…物じゃなくなった。 人になった。 今度は、俺の番だな。
「あ、最後の質問だ」
「はい」
「お前の名前は?」
後日、警察署。
「解決したって、ホントですか?」
「なんだ、ちゃんと署長に説明してきたぞ。 嘘言ってるように見えるか?」
「あいや、そういう訳じゃないですが…。 あの、何やってるんですか?」
「なにって、片付けてんだよ」
「いや、何やってるんですか?」
「今まで世話になったな。 警察、辞めることにしたんだわ」
「…そうですか」
「あれ、つまんないの。 驚かないのかよ」
「驚きませんよ。 いつも言ってたじゃないですか。 道具に成り下がってていいのかなって、その答えがこういうことなんですよね」
「…あぁ。 まあな。 あ、あと俺、引っ越すから」
「えっ、そうなんですか?」
「っしゃ! 驚いたな」
「…で、どこに?」
「言うわけないでしょ」
「ん、まぁ、はい。 …はぁ、東郷さん」
「なんだ急に」
「今までお疲れ様でした」
「おう。 お前も、これから頑張れよ」
「はい」
今度は俺が、道具から人になる。
─数日後─
ルグドール南柱州海凪地区大里海町。 海の見える一軒家。 前と違って窓も多く、家の中が明るい。
「ふぁ~。 おはよう 叶は起きるの早いな。 つか、ちゃんと寝てるのか?」
「おはようございます。 東郷さん。 私は、あんまり睡眠は必要ないので」
「ふーん」
私は叶。 人です。




