五話 感情
今日で、ひしゃげた扉事件発生から七日目。 これといった進展はなく、無駄に日数ばかりが過ぎていく。 他の惨劇の路地裏事件や電撃の追い剥ぎも同様になんにもない。 最悪だ。 警察として最悪だ。 ん、電話か…。
「はい、もしもし。 平城、どうした? …え? ほんとか?」
「はい。 東郷さんの意見や現場の状況から考えて、自動人形の可能性もあるって本部で結論が出て、犯人が人だったらいつも通り、自動人形だったら即破壊だそうです」
「そうか、分かった。 あぁ」
結局、そーなるのか。 ま、叶町警察として、特務捜査官として、魔法使いとして、仕事はキッチリこなしますか。 つっても、どこいるんだかなぁ。
事件現場を中心にパトロール中の東郷。 その進行方向からは…。
私は、人を殺してしまった…敵じゃない人達を。 故郷を失って帰る場所もない。 動いていても…意味が…私には…………無い。 こうして、町を歩いていても居場所は見つからない。 それに、走れないから、遠くへも行けない。 なら、あのビルから飛び降りて…。
ずっと、走り続けていたのが原因で少女の右足駆動部が壊れている。 いくつかコードが焼き切れ動かないことはないが、早くは走れない。 それに、この体は戦闘兵器。 強硬に作られているので、そう壊れもしない。 だから、逃げれないし、死ねない、そんな体。
あれ? 今の子どっかで…あ! 昨日の、図書館行きたがってた。
「ちょっと! そこの」
何て呼べば…。
東郷はとっさに手を伸ばし、それは少女の肩へ。 東郷のことにようやく気づいた少女は振り向いて。
「昨日、交番にいた…」
「よ! どうだ、昨日はちゃんと図書館に行けたか?」
「…ぁ…あぁ…」
「ん? どうかしたか?」
やっぱりこの子、俺の目を見てない。 ずっと口を見て…なんで?
「なぁ、大丈夫か? 俺の口ばっか見て、俺なんか付いてるか?」
「わ…たし…」
人を殺しました。
「あ、おい! しっかりしろっ! おいって!」
少女は意識を失い突然、倒れてしまった。 東郷はその子を抱き上げるが意識が戻らない。 それに。
ね…つ? すごい熱い。 まずいな。 魔法、使うか。
「移り変わる領域。 少女と私を飛ばせ」
緑色の球体の領域が東郷を中心に広がり、直径がだいたい五メートルくらいになったところでシャボン玉が弾けるみたいに消えた。 内側には他に何人もいたが、領域が弾けると共に東郷と少女だけが姿を消した。
「ん…ここは…」
「お? 目覚めたか?」
「私…」
「急に倒れたんでビックリしたよ」
「倒れた…」
あ、論理思考の回路が溶けて壊れてる。 負荷のかかる処理を連続でしたからかな。 記憶は無事だけど。 これじゃ、もう。
「覚えてないのか? 意識を失って倒れて、すーごい熱だったからここに連れて来たんだけど」
「そうですか、ありがとうございます」
「いやいやいいって、俺、警察だから。 体調はどうだ? 薬、飲んどくか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「そうか」
「それで、ここって」
「あ、最初は署に行こうと思ったんだけど遠いからな。 ここになら飛べるから、熱冷ましの薬もあるし」
「とべる?」
「あぁあぁ、魔法だよ。 条件の揃ってる場所に瞬時に移動できる魔法」
「移り変わる領域ですか?」
「あれ? 知ってるの? 物知りだね。 あ、もしかして図書館で調べたの魔法のことだったりするか?」
「いえ…、あ、まあ、それに近いことを」
「そうか」
質素ですこし薄暗い部屋。 少女はベッドに腰かけていて、その横にある椅子に座っているのは東郷。 静かで穏やかな時がここに流れた。
「じゃねぇよ」
「えっ」
「倒れる前、聞こうと思ってたことがあったんだよ。 前も今もそうだが」
「はい?」
「なんで、俺の口ばかり見てるんだ? なんか気になることがあったりするのか?」
「あ、それは…くちっ」
「くち?」
いけない。 唇を見てたと話したら、なんでと聞かれる。 そうなれば、耳のこと話さなきゃやらなくなる。 自動人形だって、ばれちゃうかも。 人殺しだってばれちゃう。
「いえっ…あ、その…えっとぉ…」
お年頃、的な? もしかして、なんかのフェチ? 気になるがここはスルーしとくか。
「まあ、いいや。 はい、こっから真面目な話、名前は? 言いたくなかったら、まあ住所だけでも」
「どうして…ですか?」
「どうしてって、いつまでもここに居るわけにはいかないだろう。 ご両親が心配するだろうし、家に帰らなきゃな。 あそうだ、後で家に戻ったら一応病院行っとけよ」
「帰る…」
「ん? あ、それって、一人で歩いて帰るって意味か? それはそれで構わないが、体はほんとに大丈夫か? それに道とか分か」
「帰りたく」
「え…?」
「帰りたく、無い…です」
家出…か? まさか、この歳でホームレスはないだろうし。 ここは警察としては家に送り届けた方が正しい。 しかし、そればかりが正しいとも言い切れたもんじゃない。 もしかしたら、あまりいい両親じゃないのかも。 とは言え、俺は警察だし…。 あ、いや、しかし…。
「看病、ありがとうございました。 もう大丈夫ですので、行きますね」
なにっ?! それはまずいな。 一番まずい。
「分かった。 好きなだけここに居ていい」
「どうして」
「どうしてって。 今、このタイミングで君が外に行っても家に帰らないんだろう? そうなれば、町をふらふら、そいつは一番恐ろしいことだ。 君がなにか事件に巻き込まれたらって思うとな。 不安でしょうがない。 これでも警察だからな」
「いいんですか」
「おう。 気が済むまでいていいさ」
しかし、どうしたもんかなぁ、この状況。 名前もなにも教えてくれないし、いつまでも家に置いとくわけにも。 それになにより、事件のこともあるし…。
「あの、あなたの名前は…」
「あ俺? 東郷だ。 東郷雨彦」
「東郷さん…ありがとうございます」
「いいって。 俺、あっちの部屋にいるから、なんかあったら呼んでくれ」
「はい」
私が人間だと思われてるうちはここに居れそう。 でも、これからどうしよう。




