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第六章《小話》 戦いに不慣れな女鬼

「はぁぁ…全くもってどうすればいいのかわからないわ…」

「青行燈様がそんなので大丈夫なんですか…」

「そんなこと言ったって…」

 鬼神と九尾の番が江戸城へ向かってからというものの、私、青行燈はあやかしをまとめ、指示をする係になってしまっていた。

(戦いに関しては頼れる犬神様はどっか行っちゃっていないし…もとより私がこういう場に不慣れなことをわかってて鬼神様にしろ犬神様にしろ頼んできたんじゃないでしょうね…!?)

 …あの二人ならば…ありうる。

「ちょ、ちょっと青行燈様ー?」

「あ、あぁごめんなさい、私ったらもっとちゃんとしないと…」

 沙冬(さと)の区の門番である(ぬえ)に呼ばれ、ハッとしたとその時。

 一際強い風が吹いたかと思うと、

「青行燈様、もうすこし鬼火を大きくしていただけませんか」

「これじゃあいくら俺たちでも人間の目に止まっちまうかもしんないんすよ…」

「今は小鬼さん方がなんとか頑張ってくれてますが…」

 鎌鼬(かまいたち)の三人が、町の鬼火が小さくなってきそうだということと、それを小鬼がなんとか頑張って大きくしようとしていることを報告しに来た。


「鬼火を大きくすればいいのね?だとしたら簡単よ」

 私はお願いします、といって頭を下げる三人に言われた通り、大きめな鬼火を手に灯し、「こういうことは鬼神様のほうが慣れてるでしょうけど…」とボヤきながら、町の方へ向けてその鬼火を一気に放った。

「さすがです。これで満足に人間と対峙できます」

「ありがてえっす!」

「いやぁ、本当に助かります」

「何、そんなに大したことはしてないわ」

 嬉しそうにそう言い、「では、我々はこれで」と町へ戻っていく鎌鼬を見送りながら、私は再び鵺と戦の指示をどうするかについての話し合いを再開した。


 …人間やあやかしを殺すことは不得意ではないけれど…

 こんな指示をする側に回ったのはほとんど初めてに等しい。

「改めて思うけど、鬼神様や犬神様って凄いのね…」

「え?なにか言いました?」

「いえ、何も…まぁまずは雪女様と氷柱女様にあそこを頼んでおいて…」

「雪と氷でなんとかしよう、って訳ですね」

「あぁそう、そんな感じよ」

 そういえばこの間鬼神が、鋭峰も人やあやかしを殺す分には不自由しないけど、喋りがあんな調子だから指示する側には向いてない、と言っていた気がする。

(って違う違う、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて…!)

「あ、そうだわ、(みずち)って今どこにいるのかしら…」

「蛟様なら…確か怪我したあやかしに薬ばら撒きながら全力疾走していきましたよ」

「…なんか想像するだけで面白いわね、その光景」

「まぁ蛟様のことですから、こうなるとは予想ついてましたけどね」

「それもそうね…」

「おーい青行燈ー!」

「あっ、犬神様…って、ええっ!?何したのよそんな血まみれで…!!」

 蛟のことを話していたら顔や着物を血で真っ赤にした犬神が私と鵺の元に駆け込んできた。

(…せっかくの白の着物が赤になってるわね…)



 …そうこうしているうちに、私が戦の指示をしようとした時にはもうほとんどのあやかしが自由に戦っていた。


(…何かもうどうにでもなれって感じだわ…)

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