過去の柵と不法侵入
卒業して早くも2年。
大体の連中は大学へ行き、サークルやらに入って
彼女を作り、青春の延長を楽しんでいる中、
就職の道を選んだのは俺や遊くらいだろう。
就職といっても派遣会社で誰でも出来る
オペレーターの仕事をしている事は
人に自慢出来る訳がない。
極論、高校生でも出来る仕事だ。
「あいつら、、今は何してんだろ。」
不覚にもふと考えてしまった。
2年の初めから一切関わりを持たない様に
したのは俺だし、あいつらの事を考える事自体
傲慢だ。
思い出すと疲れてくる。
今は今で悪くない生活をしているし、
家に帰れば風呂を入り、パソコンを開いて
7ちゃんねるに暴言を撒き散らし、アニメを見ながら酒を飲んで寝る。
世間ではそれをニートと呼ぶが、
働いてるだけまだマシだろ。
あれこれ考えていると自宅に着いていた。
玄関の取っ手に手を掛けると鍵がかかっていなかった。 確か家を出るとき掛けたはずなんだが。
恐る恐る取ってを回すと、あら不思議。
玄関先には散乱した3人分の靴。
いつもならベランダで煙草を吸っているはずが
部屋に充満した匂い。
そしてテレビが付いている。
そこから流れる音声は何故か
俺がスピーチをしている声。
もう分かった。
いや、分かりたくないけどね。
というか、もう家から出て行きたい。
脱ぎかけた靴を履き直し
玄関を開けようとすると、
"戻れ"
背筋の凍るハスキーな声が三条一間の部屋に響き渡った。
「ただいま帰りました」
それ以上の言葉がでてこなかった。
奥に進むと、円卓を囲んで
相変わらず癪に触る顔をした遊。
左手にはビール、右手に煙草を持った彩先生。
その向かいには、何故か凪先生も座っている。
凪先生はテレビをずっと見つめていて、
話しかけようにもかけられない悲しい顔をしていた。
心中お察しします。
折角推薦した教え子が、在校生の女の子を
号泣させるなんて思ってもいなかっただろう。
静かに鞄を足元に置き座り込んだ。