黒霧の少女35
連日魔法を乱用したせいか空はまだ眠ったままだ。
ここは緑の魔法使い、咲の自宅のある一部屋。
ベッドの横の椅子に座って書物を読み耽っているのはくうだ。
くうは自分の無力を痛いほど痛感した。無知で無謀。
「あまり痕を詰めるな、黒霧はイレギュラーだ」
「だからって何もしないの?」
「……くう」
キッと咲きを睨む目は雫を貯めて、震える声を絞り出す。
「初めて怖いと思った。もうダメだって。でも空はフォールスは!諦めなかった、次を見据えてた!」
「経験の差だ。何を焦ってる」
咲はなんて事ないように答える。心底理解く苦しむ様な顔だ。
くうはそれに余計に腹を立てる。
「……惨いものを見た。人の闇を垣間見た」
くうの切実な訴えはしかし、高みにいる咲には届かない。
「……割り切れ」
一言。それ以上何も言わない。
「なっ、お前はあれを見てないから……」
激情するくうの言葉を面倒くさそうに遮る。
「勘違いしてもらっては困るな。そんなもの腐るほど見てきた」
くうは目を見開く。
「見てきたって!?なら!」
「で、どうにかできるのか?お前に。無理だろう」
確かな現実を突きつけられしかし、何も言えない自分に腹が立つ。悔しくて悔しくてただ拳を握ることしか出来ない。
「うるさいな、頭に響く」
だるそうな声で空が呟く。
「空っ!」
目を覚ました空に勢いよく抱きついたくう。
うわ言のように空の名前を連呼して嗚咽を漏らす。
「どうにかしてみせるよ、緑の魔法使い」
「ほぉ」
無表情だった咲が薄ら笑いを見せる。
ポンとくうの頭に手の乗っけてぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。
「ただ、1人では無理ってだけだろう」
咲は瞠目した、空の顔は初めて会った時の斜に構えたガキだったくせに、今はどうだ。一丁前に大人の顔をしているじゃないか。
「フン、好きにしな。元々あんたの依頼だ」
そう言って何かを空に投げて寄越す。それは2組の指輪だった。
空が何かを言おうとした時にはもう咲の姿は見えなかった。
「不器用な人だ」




