黒霧の少女4
そこに書かれていたものは今回のターゲットとなる少女の特徴と被害者の状態を写した写真。また、接触したと見られる魔法使い達の被害報告書と、依頼書だった。
「んー、なんて言うんか事件なんやけどな、我先にと手柄立てたい連中が嬉嬉として討伐なり、拘束しようとしたらしいんやけどな、みーんな、返り討ちや」
チッ、と舌打ちをして、言うこときかんからやと悪態をつく。
これが怖いんだよなあ。イライラを発散するために俺を使わないで欲しい。と、言うか。
被害報告書の階級は皆第一級の魔法使い達だった。その魔法使い達が十人がかりで囲んで全員が魔力欠乏症となり今も昏睡状態にあるらしい。
「返り討ちって、第一級を10人なんて大掛かりな大規模作戦じゃないですか。それが、全滅?考えられない」
信じられない事だった。
「うん。有り得へんね。で、金閣寺に回ってきたって感じやな」
はぁ、とため息を吐きながら面倒くさそうに言う。
「......それって禁止級依頼になるんじゃ無かったっけ」
一般公開されている依頼や自由参加型の作戦なんかは随時統括会所属の魔法使いたちに行き渡り、日本では唯一の支部となるここに集まり燈火の許可が降りたら動くことが出来ると言った流れなのだが、例外は存在する。位持ち限定だったり、今回の様に第一級の魔法使いでもこなせない依頼なんかは表向きには禁止級依頼となる。だが放置しておくわけにはいかず、燈火の独断と偏見で適任者に依頼が回ったりする。
ああ、手続きめんどーやな、せや、空にやらせよーっと。
と、まあ、こんな感じに面倒くさがる燈火に半ば強制的に何回も押し付けられる経験を持つ。
ライセンス無しなんだから無茶はやめて欲しい。
「で、やれと?」
「空やったらいけるやろー」
ヘラヘラしながら事もなしに言ってくる。
考える。第1級が10人係でなんの情報すら残せない相手、か。普通に考えて無理だな。うん。無理。
燈火に向き直り、口を開こうとしたら燈火に遮られた。
燈火は空間を超越でもしたんじゃないかと思う程どっからか出してきた指輪を見せて、
「ほら、契約の指輪あげるさかい」
そう言ってポイッと俺に投げてきた。言葉が出ない。
まず、ポイッと投げていいものじゃなかった。それは時計ランクの魔術具だったからだ。
魔術具のランクは魔法使いのランクと同じだ。
つまり、この時計ランクは上から2番目で、時計の位の魔法使いと同等の魔法か、それ以上の力を持つ。
一般の魔法使いは見ることも無く生涯を終えるだろう。ある程度の力を持つ魔法使いであってもよほどのことがない限り縁のないものだ。
燈火がしてやったりと言った顔でニヤニヤしている。ムカつくが今はそこじゃない。
天秤にかける。
契約の指輪とは、その名の通り魔法による魂を縛り、主従関係を結ぶ魔術具なのだが、まずお目にかかることが出来ない一品だった。
まず、魔術具が馬鹿みたいに高価なため、それこそ位持ちか、その弟子達が運が良かったら2級の魔術具が手に入れれるかと言ったところだった。
時計の魔法使い、燈火のお世話になっているとはいえ俺は別に燈火の弟子ではない。燈火さんがどう思ってるかは知らないが。
傍から見たら完全に師弟にしか見えないそうだが師弟となる契りの魔法契約を行っていないため正式な弟子ではない。
そんな俺が時計ランクの魔術具を手に入れれる機会が目の前に来てしまった。
でも、少し不思議に思う。燈火は魔術具に頼らないと言うか、必要だと思わないため金閣寺の宝物庫に山ほど溜まっている現状だ。
依頼には成功報酬が出されることが多く、金銭と場合によっては魔術具なんかが配られる。だが基本的にはA以上は報酬の欄には載らない。
俺にポイッと投げた二つの指輪は時計ランクの最高級の魔術具だった。
持っていても不思議では無いけれど腑に落ちない。
燈火の持つ権限は非常に大きく、日本においては燈火に指図できる人間など10人も居ない。
が、そんな事はどうでもいい。
時計ランクが欲しいと、目が眩んだ空だった