名も無き魔法の国1
「精霊の力が欲しいですね」
1面のガラス張りの部屋。その部屋から見下ろす街並みは通常のものとは違う。
無駄のない配置、街に漂う魔力の残滓。
ここは、魔法使いによる魔法使いの為の国。
「精霊、ですか?」
親指の爪をガジガジ噛みながら、街を見下ろす男と、その男の言葉を反復した女。
女は長い黒髪で、東洋の人種だと分かる。
女の横にはまるで子供のような小ささの男もいる。目付きが悪く、右手にグローブを付けていた。
「ええ、この国は未だ発展途上!あの、統括会に遠く及ばない。嘆かわしい。あの隠れて臆病に世界に住まうあヤツらに何故誰も刃向かえないのか。力ですよ」
男は忌々しげに言う。
「その為に精霊がいるんですね」
具体的なことはいつも言わない男。それでも、多くの部下がいて、信頼されているのは、この国をここまで成長させた張本人だからだ。
女も、皆まで言わずとも、命じられたことをするのみである。
「そういうことだ、アイルランド、スコットランド、イングランドからはそれぞれの火に纏わる精霊を捉えましたが、何の成果もなしに死にましたからね、もっと強く頑丈なものでなくては!」
男は自身の研究と、目的が現状、上手くいっていない。
それは、媒体が弱く、質も低いためと考えた。
ならば、もっと高貴で、強ければいいと落ち着く。
「そこで、耳寄りの情報が手に入ったんですよ、君達、日本へ行きなさい。そこで式神を手に入れるのですよ」
この男の耳は、複数の魔法使いの耳だ。
世界の情報を掴むことにおいて、地球上では五本の指に入るであろう。
その男が、ターゲットにしたのは二振りの刃。
ある陰陽師の式神だった。
「行け」
「ハッ!」
女と小さな男は指輪から次元の狭間を作り出し、その中へ消えていった。




