囚われ四重奏52
「さてと、まだ自我は残ってるかい?」
エレが爆発寸前といったプリンセス二呼びかける。全身が赤黒い肌に変色している。
完全に白目を向いて、その目からは血が涙のように流れている。
苦悶と、絶叫。
プリンセスの内なる魔力が拒絶反応を起こしている。
ヴァンパイアの王族の守護が働いているのかもしれない。
「…………」
「帰らないと」
返事のないプリンセスよりも、大切な人を思う、レーナ。
目の前の惨状は気にも止めないと態度で語っている。
「姫様は血が足りねぇんだ。きっとそうだ。おい、オマエら、良い血液タンクだな。魔力も多そうだ」
完全に理性を無くしたのはビアのほう。
鬱血した後のような肌。荒い呼吸。
口の端からは泡が汚らしく出ている。
声はもはや女性のものでは無い。
甲高く、そして、聴き取りづらいほどの低い。
声が2重でレーナ達の耳には届いた。
「……アンタなんなの。キャラ変わりすぎ」
不快感しかなく、侮蔑の目線付きで心底嫌そうに言う。
「喋るな、家畜の分際で」
ビアがそう言ったきり、体を震わせている。
激しい動きで、服がはだけ、服の上からは分からなかった女性らしさが顕になる。
「レーナ、私に付く気はあるかい?」
「……現状の最善ね。どうするの?」
レーナのカンに触った様で、その顔には雄弁に殺すと書かれている。
そんなレーナに苦笑いしつつ、エレは冷静に戦局を見通す。
「まずは、この2人から離れなきゃねぇ」
レーナ、ビア、プリンセス。どれもが未知数。
このまま流れでやり合うのは良くないと判断した。
ビアは血走らせた目を向けている。充血は不自然に瞳孔に集中した。
赤い目。これは、まるで……
「魔眼だねぇ、厄介だねぇ」
「ん、ゾクゾクする」
「ところでアンタ、なんでそんなに魔法が使えるんだい」
「……才能?」
「ハッ、そりゃ傑作だ」
「何それ?」
「ん?最高って意味さね!」




