囚われ四重奏49
「正気か?忠誠心は大したものだがマトモじゃない。ああ、マトモじゃあ、ない」
刃を何の得物も持っていないビアが弾いた。
甲高い音は金属同士のぶつかる音だ。
ビアが人間ではないと改めて実感した。
「ビ━━━ア、引き、なさい……!」
「姫様!」
微かに残る自意識の中で最善をしなければ全滅。
ヴァンパイアという誇り高き生命体は家畜に成り下がる。
今はそういった瀬戸際なのだとヴァンパイアの王女は知っている。
「意識がハッキリしてるうちに言いな。自分の状態と、これからと、知ってる事を」
ネクは鋭く敵意を漲らせプリンセスへ詰問する。
決して大きくない声は、しかし、どこまでも低く地の底へ誘う様だった。
「わた、し、の意識がのっとられ……る。ビアとレーナさんで………くっ、ゲートを開いて逃げて……!媒体に……わたし、を……」
「駄目です!姫様!置いて行けません!今ここで貴女を置いていったら私が私である意味が無い!私を殺さないで!」
悲痛な叫びだ。
きっと彼女は知っている。ヴァンパイアの王女の決意の強さを。
きっと彼女は知っている。現状の最悪さと、最善を。
きっと彼女は知っている。この後の自分の末路を。
それでもやらなければいけないと、分かっている。
体は動かない。
震えているのは怒りか、悲しみか。
「分かった。具体的には?」
酷く重い空気の中、発言したのはレーナであった。冷たい瞳、迷いの無い姿勢。
レーナ自体、急な展開の筈なのに。
レーナの無表情の中に悦を感じた。
レーナは異質だ。
巨大な斧を軽々振り回す女よりも、
老獪で味方すら恐れる女よりも、
歴戦の戦士よりも、
ただの女の子の筈のレーナが1番異質で、気持ちの悪い、生き物だった。
レーナの異様な雰囲気に呑まれ、プリンセス以外は固唾を呑んで沈黙していた。いや、沈黙させられていた。
「………?どうしたの、早く、早く私に、力を」




