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旧式 時と歌  作者: 新規四季
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黒霧の少女2

ビクッとなる。いきなり声をかけられれば誰だってそうなる。と、思う。


顔を少しあげ、目線上げて声の主を上目遣いで見る。


青一色で、腰に拳銃やら警棒やらを付けた男が2人居た。


どうやら見回りの警察に見つかったらしい。

・・・やましいことなんてないはずなのに警察に声を掛けられただけでなにか悪いことをしたような気になる。


気分の悪い時に最悪だ。


警察官もこんな遅い時間に年端も行かない女の子が道に、それも路地裏に居たら業務に関係無くとも声を掛けるだろう。それが善意か悪意かは知らないが。


もっとも、警察官からしてみれば道端に見目麗しい精密な生き人形かと間違うほどの漆が清流となって流れているかの様な美しい長い黒髪に目を奪われ近づいただけだったが、よく見れば人だということはすぐにも分かっただろう。


然れど少女の蒼く、底の見えない瞳は虚ろだが同時に何処までも引き寄せられるようだった。


「だ、誰なんですか?」


私は警戒心を隠すこともなく尋ねる。少しだけ声は震え上ずってしまったが、勘弁して欲しい。


もしかしたら声が届いてなかったかもしれない。けど、こんな記憶も不確かで訳の分からない状況でこんな状態になったことに関係する人かもしれないと考えるだけで恐怖心は際限なく湧き出て来る。


1度疑ったら最後。警察官の顔が悪鬼のように思えてくる。


「おじさん達はね、お巡りさんだ。お巡りさんは困っている人を助けるお仕事をしているんだ。まあ、お嬢さんくらいの子が1人で居るのはそれ以前に補導の対象なんだけどね」


体格の良い警察官が乃愛を怖がらせまいと笑いかけながら言うが、今の乃愛に対しては逆効果だったし、なにより乃愛は顔を膝に埋めてしまい表情など見てはいなかった。


笑ってる。私を食べるつもりなんだ。ご馳走が目の前にあるからこらえ切れなくて嗤ってるんだ。抵抗しなきゃ。なんでもいいから拒絶しなきゃ。


「あ、あっていって、近づかないでっ」


ああ、まともな声になってすらいなそう。


今は、と言うか暫くは誰も信じられそうに無い。だから側に来て欲しくなかった。誰も近づかないで欲しい。


そんな思いが強くなる程、私の影が揺らめいて見えた。


警察官は乃愛の心情など読めるわけもなく、また、補導しなければならないと立場上引くわけにもいかなった。


体格の良い警察官の袖をヒョロリとした糸目の警察官が掴み耳元で何かを伝える。


体格の良い警察官は糸目の警察官の言葉を聞いて驚いたように糸目の警察官に向き直る。


糸目の警察官は一つ頷き何処かに連絡するためかその場から立ち去って行った。


体格の良い警察官が恐る恐ると言った感じで、乃愛のドレスを注視した。


居心地が悪くて思わず肩を抱く。気持ち悪い。


「ねぇ、素敵なドレスだね。でも、その血はどうしたのかな」

「ち?えっ、血...なんて付いて......」


ドレスを見下げる。頭の中に警告音がなるが目にしてしまった。脳裏に途切れ途切れの記憶の断片が流れては消えていく。


記憶の中の男は乃愛の手を引き、こちらを振り返り何か愛おしいものを見るかのような表情で笑っている。この男の人を知っている気がする。でも、顔に靄がかかり誰なのかが分からない。


声がする。女の声だ。澄んでいて遠くまでよく通る声だった。声の方に顔を向けるとそこには……。


途端、頭が割るような激しい痛みが襲って来る。頭を抑えても目を瞑っても何をしても痛みが引いていかない。


「あああ...ああああああああああああああ!!!!!」


乃愛は記憶の映像を払拭するためか、痛みからか、突然金切り声をあげる。


突然叫びだした乃愛に一瞬怯むがすぐさま冷静さを取り戻す体格の良い警察官。


乃愛の様子がおかしい事にいち早く気が付いた細い警察官は通りに止めてあるパトカーの無線で何処かに連絡をしている。


細い警察官は体格の良い警察官に報告をする。


「緊急時の連絡をしました。このこの様子は変です、車で休ませ……」


細い警察官は最後まで言葉を発することは無かった。乃愛の脱力しきった体を黒い靄が包、その一部が日本刀の様な形を成して細い警察官の胸部を刺していた。


細い警察官は目を見開き血走り、焦点はあっておらずその瞳は虚空を写すのみだった。


血液が逆流し、口から、咳とともに血反吐を吐き、ヒューヒューと、か細い呼吸をするのが精一杯の様だ。今から治療したとしても助かる見込みは内容に思えた。


乃愛の意識は既になかった。叫び声と一緒に意識が遠のきそのまま気絶した。


細い警察官が黒霧に殺られたのは乃愛とは別の何かが、乃愛を守ろうとしたに過ぎなかった。


体格の良い警察官は突然の事に体が金縛りにあったかのように指の先も動かず、瞬きすら出来なかった。


細い警察官が地面に倒れ伏せているのが視界の端にはあり、視線が固定されたかのように動かない。


乃愛の黒い霧は形を変える。大人1人を簡単に包み込むことが出来るほどの大きな両腕を創り出し、体格の良い警察官を包み込む。それは一瞬の出来事で、大きな黒霧の手は交差する様に体格の良い警察官を貫通した。


血は一滴も出てはいないが、このには川と骨だけで、ほんの数秒前まで同一人物だったとは思えない見窄らしい風貌となった男がいた。


自分自身の体重すら支えられなくなった元体格の良い警察官は膝から崩れる様に倒れた。


人体に宿る生命力、微弱な魔力をも、根こそぎ奪われた者は一般人にはどうすることも出来ない。


乃愛はフラフラと左右に搖れながら、ゆっくりと暗闇に溶けていく。黒色の霧に包まれて。


力尽き、倒れたかと思いきや実態を消し、霧となりその場から消え去って行った。

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