魔法の前進3
「辛いか?」
魔道具店をでて金閣寺に戻ってきた。本当ならこの後にでも表世界で出歩こうかと思ったがそれどころじゃないだろう。
自分の置かされている立場の悪さを知って、他人の嫌悪を買ったんだ。
「ええ、そうね。私は恐れられているのね。嫌悪の混じった視線は正直キツい」
乃愛の人生であんな視線を貰ったことは無い。普通に学校へ行き、習い事をして何不自由のない生活の中で生きてきた。
「マシな方なんだぜ?あの程度で済んでるんだ」
空は椅子に座ると魔法界における罪人の扱いを語る。
「もっと最悪があるの?」
乃愛はあまり楽しそうな話じゃないなと思いながらも知っておかなければならない事だと割り切った。
「奴隷だな。中には訳分からずに死ぬまで働かされる奴もいる。女なんて娼婦の真似事をさせられることもあるそうだ」
衝撃だった。奴隷なんて大昔の出来事でしかも死ぬまで。考えられなかった。そして、自分がもし、空が無理矢理でも契約をしていなかったらと考えるとゾッとする。
「酷い、相手は魔法使いなの?」
「魔法使いじゃない。……種族間では未だ戦争は起こりうる。人間以外の種族を知ってるか?」
人以外。そうだ、私がいる世界はそういう世界だった。実感がわかない。
魔法を何回かまじかで見て、慣れた気でいた。
「えっと、御伽噺とかに出てくる様な?」
取り敢えず、昔、寝物語で読んでもらった絵本を思い出してみる。
そこには妖精だったり、狼男だったりが出てきた様な気がする。
「ああ、そうだ。エルフだったり、ヴァンパイアだったりな」
想像してたのと違う単語が出てきたけれど確かにエルフとかは有名だ。誰も見たことないくせに誰もが知っている。
「でも地球上に居ないわよね?これだけ科学技術が発展して世界の隅々まで見ることが出来る世の中よ?」
「表向きには居ない。この世界は表。そして表があるなら裏がある」
「よく分からないわね」
「うーん、なら行ってみるか?」
言葉では伝わらないと思ったのか空がそう提案する。
「いいの?あっ、でも私」
私は自由でいるべきではない。さっきの店主は批判をしたが期待もしてくれた。
でも全員が全員、そうではないだろう。
「評価を変えるんだ。批判ぐらい喜んで浴びとけ。そんでもって変えていけばいい。やってられない事じゃない。俺もいるしな」
「ありがと、でも、私に構ってていいの?」
「1人では無理な気がしてな。お前は俺の共犯者だ。だから、まあ、共犯者が弱いままだと支障が出るからな」
空は照れたようにそっぽを向いて吐き捨てる。
「フフフ、心強いわ」
そして、貴方にとって私が名実共に必ず支えになってみせる。そう決意した。
「裏世界には何個か行く方法がある。一般人が巻き込まれる事故もある。それは神隠しなんて呼ばれたりもする」
「なら神様もいるの?」
「居るよ。日本は特に多い、そして、タチが悪い」
「どうゆうこと」
「……日本は陰陽師が居るんだが彼らは神様を管轄下に置いてるんだ。信仰する代わりに有事の際には力を借りる。そんな取り決めを何千年も前からやってきてる、らしい」
「もしかして、酷い目にあうって」
「そうだ。神様達の奴隷だ。これには政府も関わってるんだが、日本では罪人を裏世界へ行かせる」
「でも、刑務所があるし、その中に罪人だっているじゃない」
「アレは幸運なヤツらさ。魔力がない」
「魔力があると奴隷、なの?」
「ああ。大抵は魔法に溺れたヤツらさ。乃愛お前はそこで言い方は最悪だが性奴隷とかになってたかもしれない」
「ひっ!」
本当に、良かった。空に忠実でいよう。死ぬ気で守り抜こう。
でも、私が暴走した時、統括会最強の緑の魔法使いでも逃げ切ったらしい。そう考えると普通の魔法使いでは監視や管理は無理なのもわかる。
それで神様の供物にしてお互い得をする様にしてるのは酷だが頷ける。
「な、お前はマシなんだよ」
「そ、それにしても複雑ね」
「そうしてるのが……」
空がに空中に杖で文字を描き終える。
光る文字が宙に固定されて、陣となる。
陣が輝くとその先には平原が広がっている。
空が足を踏み入れ裏世界へ入っていく。
乃愛も慌ててその後に続く。
風が吹く、その風は凍えるような冷たさなのにこの空間には春のような暖かな陽射しが刺していて、どこまでも広がる地平線の先に1つ、物々しい、いや、禍々しい物がそびえ立っている。
そこにあるだけなのに威圧される。
見てはいけないものなのではないかと錯覚し、乃愛は無自覚に足を引いていた。
「なに、これ」
音のない世界で乃愛が振り絞るようにして言葉を言う。喋るのも辛い。目を閉じれない。
心臓を鷲掴みにされているようだ。
緊張で口はカラカラで体は震える。
「終末時計。世界の根源さ」
何故、空はそんな顔をしているのだろう。




