魔法の前進2
「魔道具店は通常の道では辿り着けない」
コイントスをする様に親指で人差し指を引っ掛けるようにしてあげると鍵をが現れる。
「じゃあ、どう行くの?」
「これを使う」
鍵を摘んで乃愛に向ける。
「鍵?」
「第1級以上の魔法使い又はそれに準ずる組織の肩書きが必要になる。燈火さんのコネで俺は持ってる」
他にも鍵がなければ行けない場所は存在する。
鍵には履歴が残る。誰が、いつ、同伴者はいるのか等細かく記録される。
犯罪の抑止にも繋がる。故に審査は厳しかったりする。
「それ以下の人はどうしますの?」
「付き添いで入れる。今回の乃愛みたいにね。……ひとつ言っておく」
外に出る、それも他の人がいるところだ。そこで空は想像しうる最悪も想定して乃愛に助言する。
「なによ、改まって」
乃愛は知っている。普段は相手の目を見て話さない空が視線を合わせて会話をする時は相手を思っての事だと。空と夢の中で言い争った時も空は目を背け無かった。
「誰かに何を言われても受け止めろ。お前にはそうしなければいけない理由がある」
事細かに言ってしまっては身構えて言葉を受け流すかもしれない。それは駄目だと空は考えていた。基本的に他人はどうでもよかった筈なのに乃愛には、甘えて腐って欲しくはないと思っていた。
「うん?よく分かんないけど分かったわ」
抽象的で要領を得ないが余り気楽でいるのは良くなさそうだと言う事は察しがつく。
魔法の鍵は扉に触れれば鍵が記憶している場所へ飛んでくれる。
扉がひらけば上に長い部屋に出る。壁は全て収納になっていて色んなものが詰められている。
「この紙に書いてあるやつが欲しい」
空はカウンターで煙草をふかしているオジサンに紙を渡してオーダーする。
オジサンは目を通して頷くが空の後ろ、乃愛に覚めた目を向ける。
敵意のある目だ。疑いの目だ。あの目を乃愛はよく知っていた。
「そりゃ、構わねぇがそこな嬢ちゃん。何しに来た?」
「何って……」
「おいおいおい、勝手に喋るなよ俺の店だぜ?いいか、嬢ちゃんお前のことは皆よーく知ってんだぜ?可哀想だと言う奴は多いがやっちゃあいけねーこともしてんだ。分かってるよな」
グッと拳を握って言葉を受け止める。私には喋ることすら許されない。それだけの事をしたのかもしれない。でもその時の記憶は私にはなかった。
心にチラつく、どうして私が。という考え。
「ええ、心得ています。本来なら良くて投獄、最悪処刑でしょう」
毅然としなくては。乃愛は罪人だ。それでも今は空の従者だ。みっともない事は出来ない。
「だよなあ?なのにおめーの魔力からは誠意が低いんだよなあ。もしかしてアレか?坊主の役に立ってあげられるなんて思ったちゃねーよな」
ビクリと跳ね上がる。図星だ。乃愛は力は、黒霧があれば役に立つと対等だと思っていた。事実空は対等に接してくれる。それは、ただの優しさで甘えなのだ。
本来ならばかしずしいて然るべきなのに。どこか幸せと思える、今はもうない、記憶の中にしかない過去の生活がプライドとして、態度に示せないでいる。
「旦那、その辺で」
空は自分からは言いたくない、言っても分からないことと思ってここに来ていた。それでも想定よりもバンバン言うものだからもうこの辺で勘弁してもらおうとした。
「いや、あと一言だけ言わせろや」
オジサンは見る目はある。長年色んな魔法使いを相手に商売をしてきたのだ。顔を見て、魔力を見ればどんな可能性があるのかは分かる。
「乃愛、これが世間のお前の評価だ」
空は普段の態度から乃愛が外部から離されていたことを察していた。だから知って欲しかったのだ。現在の立ち位置を。
「心入れ替えな。おめぇさん魔法に滅茶苦茶にされてもそれでも今、ここに居るんだ。役に立ってみろそうしたら鍵をくれてやる」
じっと聞いていた。乃愛は罪人だ。そして被害者だ。その立場で認めさせてみろと言うのだ。
乃愛が顔を上げた時オジサンは不敵に笑うのであった。
「良いのですか?彼女は…」
店の中にいた神経質そうな男が口を挟む。
「皆まで言うな。魔法で狂わされた奴は少なくない。その中で前向きに来いようってやつは少ない」
「だってよ、生き方決まっちまったな」
乃愛を小突いて空が笑いかける。
「ッ、はいっ!」
乃愛の中の迷いや余計なプライドはもうない。
チラリと指輪を見る。指輪に誓うように魔力を込める。指輪に剣の模様が刻まれた。
乃愛の中にある、黒霧が彼女を慰めた様な気がした。それはきっと些細な成長を喜ぶ母親の愛情なのかもしれない。




