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旧式 時と歌  作者: 新規四季
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黒霧の少女

夜の駅、田舎の駅は意外と広い。居酒屋なんかは掛け入れ時らしく外からでも騒がしさが伝わって来る。


きっと、仕事終わりで嫌な事をお酒を飲んで忘れているか、その逆で良いことがあり、そな祝い酒でもやっているのかもしれなかった。


私には分からない事だった。駅の周辺は光の密集地となり、夜を明るく照らしている。


時間帯はもう日付の変わる頃。もう桜も随分前に散り、木々には青葉をつけ始め来る夏に向け準備をしているようだった。


夜はまだ寒い。


人が喋って、笑っている。騒いでいる。


きっと、少し前の私なら気にもならなかった、いや、気付くこともなかった人の五月蝿さ。品のない人間は此処まで五月蝿いものなのかと驚愕する。


人間以外の全ての生き物は常にこの五月蝿さと隣合わせで生きているのかと思うと頭が上がらない。


不快だ。殺してやりたい。


ふと、今、頭の中に流れ込んできた声は誰のものかを考える。と言うか、幻聴が聞こえている?


もしかして、今の声は私の心?だとしたら、そんな事を思ってしまう自分が恐ろしく鳥肌が立つ。きっと寒さのせいだけではなかった。


頭が痛い。内側から刃物で切りつけられているかのようだ。痛い、痛い、痛い。目が開けられない。


堪らずその場で蹲る。路地裏で体操座りで頭を抱える。


頭に浮かんだ声を必死に振りほどこうとする。どうかしている。そう、どうかしているのだ。


頭を抱える手が震える。震えるのは夜の寒さが故か、それとも、あんな恐ろしい事を思ってしまった思考を自分のものではないと思いたいが故か。


しかし、何処かでわかっている自分もいる。今も、胸がムカムカする程に苛立ちが沸いてくるのが分かる。


頭が痛いし、ムカムカするしで、最悪だった。


そもそも、私はどうしてこんな所にいるのかが分からない。理解できない。自分の名前すら思いだせない。


あぁ、頭が痛い。記憶が、無い?


その答えに至った途端怖さが沸いてくる。孤独感が私を支配する。


辺を見れば肩掛け鞄があった。きっと私の物だろう。今の私を知れる唯一の物。もしかしたらどうしてこうなったのか分かるかもしれない。


中を探り、すべて外に出してみる。


出てきたのは、刺繍が豪華な黒のハンカチ、何処かのブランド物っぽい財布、そして、何故か木の棒が入っていた。何かの美術品の様にも見える。


そんな木の棒よりもハンカチだ。ハンカチに漢字で乃愛と彫られていた事から私の名はきっと乃愛なのだと推測する。


乃愛の身なりはキチッとしていて、黒のゴシックドレスを身にまとっている。ドレスはあちらこちらに薔薇の刺繍が施されており、腰の部分には控えめにリボンがあしらわれていた。


ただ、このドレスには血が染み付いていた。服に染みついた血。それが目に入る度に頭に痛みが走る。何か思い出しそうになるけど、これ以上見てはいけない、思い出してはいけないと警告が鳴る。


その度に乃愛を黒い霧が包む。


何がわたしを包んでいる感じがする。何だろう。コレに包まれていると孤独感も痛みも何もかもが溶けていくようで、母に抱かれているような安心感をくれる。


「お母様...」


気付くと霧は晴れていた。


「ねぇ、君。こんな時間に何してるの。お家の人は?」

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