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強制連行される未来の救世主

 保護したノブアキ・サカキバラ博士は沈黙して遠くを見つめていた。蝋燭の灯りに照らされる白い肌にほろりと一筋の涙が流れた。


「子供はいる!証拠は無くてもいる!それから浮気も本当!マジで!ワンナイトでバレなきゃ良いと思ってたゴメン!でもやっぱり謝らないわ俺!だって浮気は本当なんだ」


 相原隆(あいはらたかし)の最後の言葉をスタンダはメモ書きしながらサカキバラ博士を一瞥(いちべつ)した。無邪気で心底楽しそうだった少年の面影は何処にもない。絶望しきった暗い表情。


「本当にお人好しだよなジイちゃん。こんな面倒な病気の他人の子を引き取って育てて。しかも実は元婚約者の孫だなんて本当にくじ運最悪だよ」


 サカキバラ博士の所持する人型アンドロイドが彼に寄り添って頭を撫でた。その姿はまるで仲の良い兄妹か恋人同士のようだ。


 神話になりつつあるロストテクノロジーの人工頭脳プログラミングP7(ピーセブン)の親愛の(こも)った瞳はまるで生きているように感じられる。アンドロイド歴史博物館の特別展示室に飾られているPURE8(ピュアエイト)と様々な分野で救世主となるサカキバラ博士。この仕事をしていて良かったという気持ちと、あまりに悲しそうなサカキバラ博士への同情で複雑な気分だった。


「貴方が誰だか分かって自ら幸福を捨てた。とても素晴らしい心根の方です。一目見れて光栄です。もちろん博士も」


「当たり前だろう。俺のジイちゃんは世界一なんだ……」


 誇らしそうにサカキバラ博士が微笑んだ。それから酷く打ちのめされたように眉毛を下げた。会話してくれそうなのでスタンダは更に口を開いた。歴史的人物と話せるまたとない好機を無駄にしたくない。


「浮気と隠し子の写真で婚約破棄騒動を起こして、破棄を撤回させるとは考えましたね。隠し子に目がいって浮気についてはあまり調べない。片方嘘で、片方本当とは考えませんからね」


 相原隆が浮気は本当なんだと叫んだ瞬間にサカキバラ博士とスタンダの消滅は停止した。あの瞬間に榊原敬信と矢野藍子の結婚は決定的になった。相原隆はよく見抜いたと感心する。


 相原隆にタイムパトロール特務部隊は一切干渉してはならないと時空法の第零項目に記載されている。時空管理局と時空法が生まれてから不変の掟。半信半疑で当局は焦っていたが、結局運命というのは変わらないようだ。当局が何もしなくても歴史はきちんと正常に流れる。


「上手くいったと思ったのに……昔っから勘が良いんだよなジイちゃん」


 大きくため息を吐くくとサカキバラ博士はソファに深く沈んだ。PURE8(ピュアエイト)が彼の頭をポンポンと叩いた。サカキバラ博士は自身の消滅を確信し、相原隆にPURE8(ピュアエイト)で忘却薬を打った。


 しかし相原隆はサカキバラ博士の正体に気がついた。そして自らの結婚よりもサカキバラ博士の誕生を選んだ。この先ずっと相原隆は独身である。


 予定調和。正しい歴史の一ページ。非常に珍しいケースだ。


「写真の捏造にネットワークの改竄まで古い科学で良くしましたね。貴方のアンドロイドが相原さんの友人の子になってた」


「ちゃちなプログラムばっかりだから朝飯前ですよ」


 つまらなそうな表情でサカキバラ博士は鼻を鳴らすと目を(つむ)った。スタンダはそれ以上サカキバラ博士と会話することは出来なかった。

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