クジ運最悪な俺とまだ見ぬ未来の少年少女3
アシモフ博士の研究所に俺はウエハラ博士宛ての手紙を送った。
超極秘らしいピュアシリーズトモの事とそのバグ。タイムマシンで平成にやってきた少年少女と俺の思い出。断片的な未来。俺の考察。そして俺のクジ運がもたらしてきたトンデモ現象の数々とそれが科学の発展に役に立つだろうという案。正直に自分の言葉で手紙を認めた。ジイちゃんが信じたように信じてくれと願いを込めて。失明のことは黙っておいた。切り札はとっておくものだ。
手紙の最後はこう締めくくった。
「タイムマシンを発明する大天才ノブアキの父親とパートナーを組もう!君の娘はノブアキの大親友にして世界初のアンドロイドタイムトラベラー!父親同士、明るく楽しい未来を共に信じようではないか」
悩んでちょっと付け足した。
「君が真の科学者になるのを手助けしたい。大親友の為に人間を傷つける事が出来るアンドロイドは幸せにならないといけない。まずは生まれないとならない!一緒に迎えに行こう」
我ながら良い文を考えたぞと俺は返事を、待たなかった。毎日手紙を書いて送った。すぐには返事が無いだろうと、毎日毎日送り続けた。途中から書くことが無くなって日記になっていった。でも意地になって何でもいいから手紙を書き続けた。それにしても全然返事がない。何度か電話もしたが俺の拙い英語では伝わらなかった。そのうち着信拒否された。解せぬ。
約一年経過してついに返事が返ってきた。
「採用通知。肩書き"僕の人生のパートナー"鉄腕アトムの初版本持ってこないと追い返す」
365通以上のラブレターの返事は素っ気なくて物騒だった。生意気なガキめ、説教してやる。
切り札の一つ、秘蔵の宝物。漫画の神様の初版本を俺は泣く泣く手放すことになる。いつだかの手紙に「鉄腕アトムの初版本を持っている。譲ってもいい。採用求む」と書いたのが効いたらしい。新聞に「目標はアトムを作ること」と書いてあったのを思い出して書いた苦肉の策だった。
畜生!外道め!
俺はキャベツ農家を飛び出した。
ほとんど夜逃げ。
***
アメリカのアシモフ博士の私設研究所に快く招かれた。車椅子に座るアシモフ博士はツヤツヤした老人だった。一見弱々しそうだけど、まだまだ長生きしそうな活気を感じる。逆に隣の少年の方が覇気が無い。俺はひとまずこの少年、上原真にジイちゃん直伝のチョップを食らわせてやった。
「いきなりなんだよ!」
なんか冷めた目をした、人生つまらなそうな少年。こんな子供良くない。それに頭が良くて地位があるからと何でも手に入ると思うなよ!
「よくも無視し続けたな!」
「あんな怪しい手紙誰が信用すると思う?キチガイだろ!」
なんだ。普通の子供じゃん。
「精神的苦痛のため慰謝料として鉄腕アトムの初版本を貰う!」
「はあ?」
渡してもいないのに俺は宝物を取り返してやった。上原真はポカンとしている。よしよしこっちのペースだ。アシモフ博士が何故か笑いを堪えていた。
「それから失明に対する慰謝料を払え!」
「はああ?」
「アンドロイド製作の国際規格三大項目。第一項、アンドロイドは人間に危害を加えないように製作しなければならない。お前が作るトモは俺を失明させる!慰謝料の前借りだ!鉄腕アトムも絶対渡さないからな!」
ジイちゃんが残して綺麗に保存してきて俺に残した財産。形見であるし単純に俺の宝物。そう簡単に渡してたまるか!
「嘘つき野郎!詐欺師に手紙なんて書くんじゃなかった!」
「嘘なんてついてない!俺は大真面目だ!」
初日の初対面で13歳の天才児と38歳の俺は大喧嘩した。最終的に鉄腕アトムの次に偉大な漫画は火の鳥かブラックジャックなのか論争が巻き起こった。ちなみに鉄腕アトムとドラえもんはどっちが上か戦争は、同列だという結論で和解した。
狸みたいなアシモフ博士が大笑いして俺を指差した。行儀悪いなこの博士と思っていたら「アダプト!タカ!」と叫ばれた。
日本語で上原真と話していたのに突然英語。よく分からなかった。
***
真に呼び出されるようになり、1ヶ月もしないうちに俺は真に四六時中こき使われるようになった。真はずっと部屋にこもって機械と睨めっこしていてつまらないので、俺は野球観戦に何度も連れて行った。日頃の恨みだと、通訳としてこき使ってやった。
食事は時間の無駄と真がほざくので、毎日弁当作って口に押し込んでやった。そのうち大人しく一緒に飯を食うようになった。食べることは生きる基本。成長期におろそかにするのはダメだ。なんて単に節約なんだけど、一人で飯は御免だからついでに二人分。それだけ。
真の実験が上手くいかなくてイライラしてる時は八つ当たりが嫌なので揶揄ったり、漫画を与えてみたり、意味もなくチョップした。いちいち反応が面白いんだ。白衣にワニクリップを大量につけたらついにやり返された。朝目が覚めると俺の髪がドレッドヘア風に細かい三つ編みだらけになっていた。この野郎!
暇なので、研究所にかかってくる電話に出て遊んだ。英語が面白くてネイティブさんたちに通じるか試したくてたまらなかったから。トンデモ理論のクレームに働きたいと言う懇願。「来れば?」と言うと本当にやって来る奴がいた。俺は時間はたっぷりあると朝から晩まで語り合った。拙い言語なのにコミュニケーションって案外取れる。伝えるって大事。クレーマーの一人がすっかり大人しくなって、俺を草野球チームに入れた。ポジションはピッチャーの約束がセンターだった。ムカつくけど楽しいから受け入れることにした。やっぱ野球好きだわ。
サービス残業三昧だったサラリーマン時代とは打って変わって楽しい職場。といっても俺は出入りを許された余所者で別に研究員でも何でもないけど。真の雑用係。一応、衣食住はアシモフ博士の研究所から提供された。しかし365日無給で雑用。貯金も減ってきて腹を立てた俺は嫌がらせを思いついた。
手彫りのデッカい名刺を作って真の机に置いておいた。紙の名刺も刷って積み上げておいた。
【ひよっこ博士シン・ウエハラの未来開発研究パートナー タカシ・アイハラ】
一週間かかって作り上げた大作に「給料良こせ」と書いた紙を置いといた。真は怒らず、なんでか嬉しそうだった。
翌日アシモフ博士が俺にこっそり見せてくれた銀行手帳。勝手に作られていた銀行口座にとてつもない額のお金が貯金されていた。
「タイムマシンの開発資金さ!タカはズボラで自己管理出来ないだろう!シンの教育係り兼バグ回収の仕事の報酬だ」
アダプト
Adopt
採用
雑用嫌だと文句を言いながら、俺は単純に遊んでいるつもりだった。試しに給料寄越せと言ってみただけで、本気では無かった。生活保障はされていたし、徐々に知られている俺のエキセントリック・クジ運に対してそのうち仕事をくれるだろうと思っていた。真の面白い反応が楽しみだっただけ。そんな俺なのにとっくに採用されていたらしい。
アシモフ博士って変なジジイ。でもキチンと弟子の未来を案じているとても優しい男。見習うことにして俺はアシモフ博士にまとわりついた。煩いと接触禁止令が出たけど無視した。
世界最先端の開発品の初使用が俺の主な仕事。演算不可能、大天才二人にも予測不能、理論上あり得ないバグを次々発生させる俺への正当な評価。
遊んでるだけの楽しい職場。
そして今日も俺の視界はハーフグレー!




