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大天才サカキバラ博士への道のり8

 一年以上ぶりに訪れたアイカの私室。俺は緊張する気持ちを深呼吸で落ち着けた。科学防護服のマスクはいつも息苦しい。


「アイカ」


 インターホンを鳴らして声をかける。ものの数秒でアイカが扉を開いた。


「プー……」

「ノブに昇格した。新型アンドロイドPURE7(ピュアセブン)開発に携わる。その後タイムマシンを完成させる」


 途端にアイカの表情が険しくなった。いつもの悔しいではなく、激しい怒り。これがアンドロイドだとは誰も思わないだろう。しかしアイカは俺とウエハラ博士以外の前でこんな風に感情を剥き出しにしない。


「失望しました。誰もが貴方を大天才と呼ぼうと私は無能と呼び非難し続けます」


 そういうやアイカは俺に背を向けた。部屋に積み上げられた紙を手で払った。俺は思わず部屋の中に入った。床に散らばる資料を手に取る。


「第一助手は解任」


 気持ちとは正反対のことをアイカに告げた。拾い上げた資料はタイムマシン運用に関する論文だった。投げつけられた資料はタイムパラドックスの論文。アイカがぐじゃぐじゃに握りしめたのはタイムマシンによるバタフライエフェクトの危険性と予防法。何もかもが俺との研究の為の資料だ。


 失敗してしまったが、計画上では完璧だった旅行の発案者はアイカ。アイカはいつも俺を気にかけていた。誰にも伝わってなくても、言葉選びがおかしくても俺には伝わっていた。一番熱心に過敏性人工光源(トラーティオ)症候群(シンドローム)の研究をしていたのもアイカ。ジイちゃんといい、俺って愛されすぎじゃね?


「ノブの単純明快な思考回路は手に取るように理解できます。私欲のために、自殺のために行う発明を私は許さない」


 今にも泣きそうなアイカを俺は抱きしめた。涙を流す機能はまだないのだろう。いつかウエハラ博士が開発するに違いない。アイカが俺を引っ叩いた。


「相原隆はそれを望まない」


【アンドロイド製作の国際規格三大項目】

 第一項

 アンドロイドは人間に危害を加えないように製作しなければならない。


 ウエハラ博士は近い将来国際アンドロイド学会から追放されるな、これじゃあ。


「ジイちゃんは俺のことなんて知らずに変わるんだ。悲しくも何とも無いだろう」


 ウエハラ博士の人工プログラミングP7(ピーセブン)はこのままでは必ずバグを起こす。何故かって?人間とアンドロイドの恋愛は破滅しか生まない。誰よりも純情(ピュア)なアイカは苦悩するだろう。誰が献身相手に相応しいか判断した結果、アイカは俺を選んだ。アイカにとって俺が有益だから。アイカに幸福をもたらすから。しかし逆はどうだ?アイカはノブアキにとって無益だと判断するに違いない。ジイちゃんに対する俺の気持ちと同じように。


「私は悲しい……それでは駄目ですか?」


 懇願の上目遣い。こんな挑発されたら今すぐ抱き竦めてキスしたいのが男ってもんだ。でも俺はアイカに触れられない。近くにいられても、触ることは困難を極めるだろう。それでまたアイカは傷つく。俺を害する存在だと自らを責める。俺が病気のない普通の人間の男なら、アンドロイドの恋人になれただろう。


「ああ。俺の人生で一番大切なのはジイちゃんだ」


 合理的なアイカの思考は単純明快。俺の幸福を"家族"と導く。アイカには俺の家族は作れない。俺がアイカだけで構わないと言っても耳を貸さない。アイカは科学を捨てられない。俺に危害を与える側である事にずっと悩むだろう。アイカの純情は何もかもが破滅へ向かう。矛盾した思考回路はいつか故障する。


 破滅の純情


 バグの名前はこう呼ばれる。俺はそう呼ぶ。


 相手を想う気持ちを"愛"と呼ぶ。ウエハラ博士の高笑いが聞こえてきそうだ。ウエハラ博士の娘は間違いなく"愛"を発現した。プログラムやプログラミングによる擬似愛だとしても俺にはそう見える。ウエハラ博士はアンドロイドに自立を促し、幸せを掴めというがどうやって?


「貴方を軽蔑します。顔も見たくない」


 ピシャリと扉が閉められた。新型アンドロイドPURE7(ピュアセブン)をアイカは愛するだろうか。そうなって欲しい。アンドロイド同士の方がアイカは幸せになれる。悩みも苦しみも、俺といるより断然少ないのは子供でも分かる。

 

***


 翌日、廊下でアイカとすれ違った。まるで他人みたいに俺を無視した。アイカの中で俺は最も優先順位が低い者として位置付けられたのだろう。


***


 これは少し先の話


 公式にはPURE6アイカ・ミタにP7が搭載されPURE7(ピュアセブン)アイカ・ミタが完成したと記録されている


 PURE7(ピュアセブン)アイカ・ミタは己を最も評価しP7による優劣の最高峰に育ての親と自分を位置づけた


 世界初の自分を愛するアンドロイド


 ノブアキ・サカキバラへの恋はアンドロイド史には残っていない


 

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