超ショートストーリー その1
ふと時計に目をやると、短針はとうに文字盤の一番上を通り過ぎていた。
再び視線を前に戻すと、真っ暗な中見える明かりは自分の車のヘッドライトのものだけで街灯すらもなく、退屈な景色が続いていた。
突如、ルームミラーに光が映った。反射的にアクセルを少し踏み込み加速するもその光は小さくなることはなく、むしろみるみるうちに大きくなっていった。
「――随分、飛ばしてるんだな」
どくん。と彼の中の血が沸き立つ感覚を覚えた。即座にシフトダウンし、限界までアクセルペダルを踏み込む。
エンジンの回転数は一瞬のうちに上がり、ハイカムに切り替わった。パワーバンドに入ったエンジンは力強く唸りをあげ、車を加速させていった。
並の車では追いつけないであろう速度まで加速した彼の車は、あっという間に真夜中の峠を下っていった。
しかし、後ろの車はちぎられることはなくピッタリと後ろを走り続けていた。
もっとも、後ろをついてきているとはいってもその走りには余裕のなさが滲み出ていた。
それに気づきニヤリと不気味な笑顔を浮かべると、左端に寄ってハザードを焚きあっさりと前を明け渡してしまったのであった。