耳無しほういち
ボロロン♪ポロロン♪
俺たちが窓際のボックス席で壊れたラジカセを修理していると、どこからともなくギターのソレらしき音が聞こえて来た。
思わず俺とナチは視線をラジカセから離し、見つめ合ってしまった。
ナチが言った
「今の音、有線じゃないよね」
「でしょ。」
二人して目線でその音の鳴るほうを探した。
すると、3席くらい離れた窓際のボックス席に、真夏だというのにニットキャップを被って、髭伸ばし放題の浮浪者?風のその人はミッキーマウスのTシャツに迷彩のハーフパンツといった
なんともいえない服装だった。
しかし、その人から出てるオーラは人を寄せ付けぬ、鋭い「何か」があった。
警察とかヤクザが身に纏っているソレと同じような。しかし、また違ったオーラだ。
その人はこともあろうに、ファミレスでアコースチックギターをポロポロと鳴らしていた。
曲を弾いているわけでなく、ただポロポロとチューニングでもしているかのようだった。
するとおもむろに、被っていたニット帽を取り、頭を掻き毟りながら
「あーーーちがうっ」
「んーーちがうっっ」
などと、1人芝居をはじめた。
いや、作曲でもしてるのか?
どのみち、こういう人はこの辺では珍しくないので、関わらないことにして、壊れたラジカセをそのままにして、ピザを注文する事にした。
「すみませーーん♪」
ナチが、店員さんを呼ぼうと手を挙げると
店員さんと、そのボサボサ男が一斉にナチを見た。
店員さんが来ると、俺はピザを注文し、ナチに「あのボサボサ男知り合い?」
と尋ねると。
「んーー。。。なんか知ってるきがする」
とのこと。
すると、そのボサボサ男が、急に席を立ち
俺たちのほうに歩いてきた。
俺は、「あーー絡まれる」と咄嗟に思ったが。
そのボサボサ男は、ナチに
「あのーー柔道部の皆川君?」
と聞いてきた。
するとナチも「は!」と目を輝かせ
「皆川じゃないけど、わかったぞ♪ 桜井君だ!」
「おーー!そおうだよ。桜井だよ!皆川じゃなくて・・えーと、ま、いーや!ひさしぶりーー!」
と二人は俺をさておき、昔話をはじめた。
どうやら、二人は昔柔道部だったらしく、大会などでよく会う仲間だったらしい。
ちなみに、ナチは中学、高校と柔道部で主将。全国大会にも行ってる猛者だ。
引きこもっていても、しっかりTVでは柔道の試合は観ていたらしい。
この桜井君も、かなりのやり手だと聞いた。
この再開を祝して、珍しくナチが居酒屋に行きたいと言い出したので、近くの居酒屋に行く事にした。
時刻は午後4時
この時間でも、競馬の客目当ての居酒屋は何件もやってるので、困る事はないのだ
三人はとりあえず
レモンサワーで乾杯した。
他愛もない話でも、結構盛り上がった。
レモンサワーが好きな人に悪い奴はいない。
ひとしきり、地元話で盛り上がると
桜井君はレモンサワーを5杯目飲み干し
自分の今までを語ってくれた。
酔って自分の過去を話したがる奴はあんまし好きじゃないけど、なんか彼は許せた。
また、その話の内容が内容だけに。
桜井君は、高校でも柔道をやっていて、卒業後も柔道をずっと続けながら、地元の先輩に誘われ
クラブで働きながら、普段はお酒などを運び、時には「セキュリティーチーム」の仕事をしていたという。
セキュリティーチームというのは、簡単な話、クラブ等で開催されるイベントなどの治安を守る為に、結成されたチームで、「喧嘩」が強くないと勤まらない大変体を張った仕事だ。
ある日、某有名大学のパーティーが開かれる事になり
その、仕事のの「セキュリティー」を桜井君のチームが任されることになったのだ。
当然引き受けたのだが、その日に限って主力の2人(先輩)が不在で一旦は断る話であったのだが、後輩や仲間の後押しもあって、桜井君がリーダーとして、引き受けた。
「学生のイベントなら大丈夫。」と甘く見ていた
イベントが始ったと同時に事件は起きた。
突然正面入り口から、10数人の黒ずくめの男たちが、異国語をわめきながら、乱入してきたのである。
勿論、これを止めるのが「セキュリティー」の仕事なのだが、想定外。
エントランス(入り口)には3人体制で任務に付いていたのだが、あっさり突破された。
通常、ボディーチェック2名 控え2名で配置につくのだが、今回は人数不足ということで、3人体制になっていた。
直ちに、20人総出で、その外国人を取り囲むと
一斉に刃物(包丁)を取り出し、切りかかってきた。
仲間のうち5人が切りつけられ、負傷したので、
桜井君は、一旦仲間に「待て」をかけ、降参する形になった。
すると、一組のカップルを探し出し、この外国人集団はなにやら中国語で話はじめ
その二人を連れて行ってしまった。
セキュリティーのチームはというと
負傷した5人を含む20人全員呼ばれ、一列に並ばされた。
するとおもむろに、1人の片手の指を4本切り落とした。
仲間の悲鳴と、全員の悲鳴がクラブ中に響き渡った。桜井君は
「俺がリーダーだ。やるなら俺だけにしてくれ!」
と頼んだが、奴らには言葉も通じない。
結局、メンバー全員、体の一部を失い
桜井君は両耳を削がれることとなった。
後から、同じパーティーにいた大学生に聞くと
連れ去られたカップルのうちの、男子大学生が、新宿でデートしていた女(連れ去られたカップルのうちの女子大生)が
不良中国人グループのリーダー(15歳)のバイト先の知り合いで、憧れる女子大生だった。
これに告白した15歳のリーダーは、この女子大生にこっぴどく振られ、ガキ扱いされたらしい。
新宿でこの2人を目撃したリーダーは大いに嫉妬し
この報復だと推測された。
このカップルは連れ去られてしまったので、事実は闇の中だ。
この事件がきっかけで、桜井君のチームは解散。
先輩からは逃げるように、地元に戻ったのだという。
長いボサボサの髪の毛は、耳が無い事を隠す為だという。
その後も、バイト先では、耳が無いことがばれると「耳無しほういち」とバカにされることが
あり、そのたびにそいつを殴っては、職を転々としていたらしい。
この話を聞いて
俺は酔っていたせもあり、大胆なことを言ってしまった。
「じゃーさー。これからも、遊ぼうよ。俺たちリサイクルショップの真似事やってるから、暇なとき遊びにきてよ」
すると、桜井君は、あっさり、イクイクと言った
別れ際に、俺はさらに大胆なことを口走った。
この口のせいで何度も痛い目みたのに。。酒が入ると。。。
「耳無しほういちっていうか、イチって呼んでいい?殺し屋みたいでカッコイイじゃん」
桜井君は笑顔で
「イーよー」
と言ってくれた。
これで、シンゴ、ナチ、イチの「RBN」のメンバーが揃ったのだった。