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B‐BOY秘密結社  作者: 東雲 ヘルス
夢みる熱帯魚
14/23

アタック

「寝れた?」


午前8時イチからメールがきた。

眠れるはずがなかった。緊張と興奮で体がガチガチで神経も高ぶっていた。

ただ、気持ちはいくらか落ち着いていた。


「寝れないよ。でも、肝心な時に電池切れになるわけにはいかないよね。ハルシオンあるから飲んで寝るよ。イチは寝れそう?」


「大丈夫。俺も薬あるから。じゃ、おやすみ」


シンゴは不眠症で心療内科に今でも通っているほど、寝つきが悪いのだ。

ハルシオンは処方された常備薬。

普段の倍飲んでやっと体から力が抜けてゆき、闇の中に引き込まれていった。



ピピピ

ピピピ

ピピピピ

ピピピピ

ピピピピピピピピピ・・・・


携帯のアラーム音で目が覚めた。

一瞬どこにいるか解らないほど寝ぼけていたが、瞬間的に重い気分が襲ってきた。

5分ほど微睡んですべてを払しょくするように布団から出て、熱いシャワーを浴び髪の毛をワックスでガチガチにセットした。少しでも痕跡を残さないように、全体的にワックスを塗りたくった。

これも決まりの一つ。

次に、黒のつなぎを着た。これも3人お揃いのユニフォームだ。群馬に行ったときにホームセンターで買ってきた。事が終わったら捨てる用の物だ。

次に携帯。これもこの日のために3台昔のつてを頼って、トバシの携帯を用意した。15時以降はこの携帯で連絡を取り合うことになっていた。

メモリーには3人のトバシ携帯のアドレスと110番のみ入れてある。


ちなみに、3人は全てアイコンタクトのみで行動が行えるように徹底して訓練した。

コードネームも一応決めた。

携帯のメモリーには、

シンゴ=スペード

ナチ=ハート

イチ=ダイヤ


スハダクラブの由来通りだ。

ただ、初めてのことなので、うっかりイチ!とか本当の名前(あだ名だけど)を言ってしまう可能性があったので、なるべくアイコンタクトのみで行動できるようにしたのだ。


これで用意は万全。腹は決まった。


つなぎの上にディーゼルの緑のダウンを着込んで黒のニューエラを被って、車のキーを持ち家を出た。


イチ、ナチの順番に拾い、葛西橋を葛西方面へ

西日が雨のあとのアスファルトを照らしていた。そういえば今日は雨が降ったんだと今更気が付いた。

車の中では、確認事項を一人一人言っていった。3回言うことで漏れが無いように徹底して確認した。


張り込みといっても、3人乗りの車が住宅街に停まっているのはさすがに怪しいので、完全に日が暮れるまで、つまり17時30分までは、トモの家が見える近くの公園で一人ずつが読書を装い監視する。残りの二人は車でたまり場の公園を監視することにした。


初めはナチが「読書役」をすることにした。

公園にはシンゴ、イチが向かった。

車の運転は基本的にシンゴがするので、シンゴが「読書役」をすることはないのだ。


黒のNeweraのキャップをかぶり、patagoniaの青いダウンを着込んで、小さい文庫本を持ったナチが、車から降りると、あたりをゆっくり見まわし、ベストポジションのベンチに座って徐に、文庫本を開いた。

それを合図に、二人を乗せたランサーは発進した。


公園に着くと二人は一旦車を離れ、公園の中の様子を伺った。

たまり場の公園では、今日は召集がかかっていないこともあり、5,6人の餓鬼どもがバスケットなどをして遊んでいるだけだった。相変わらず、公園の外には下品な単車が3台ほど停まっていた。


「すーーーはっ!」

「肩慣らしにいくよー」


被っていた黒のニット帽を深くかぶり直し、灰色の厚手のスラッシャーのパーカー姿のイチが言った。

どう見ても、30超えたおっさんには見えない。

公園の中では、「スケーター」として溶け込んでるみたい。

そんなイチが突然言ったのだ。


「へ?」

間の抜けた返事で返した。

何を言っているのか全く解らなかった。打ち合わせにもないことだ。

よく見ると、イチのケツポケットには小さめだがモンキースパナがキラリと見えた。

しっかり軍手までしている。


次の瞬間

イチはバスケをしている餓鬼の方に走って行き、一人の餓鬼からボールを取って、そのままシュートしてしまった。

全くの計画外!


訳が解らなかった!

止める間もなかった。

瞬時に、怒りが湧いたが、次の瞬間には木陰に隠れた。

自分でも自分の行動が不思議だった。


(あの野郎!勝手なことしやがって!)

しかし、胸がまだドキドキしているシンゴは、木陰からイチを見守ることしか出来なかった。


シュートを決めたイチは、バスケのゴールネットから落ちてきたボールをそのまま持ち、バムバムとドリブルをしていた。

最初は何が起こったか解らなかった、餓鬼どもだが、一番遠くにいた、ノッポの一人が

「オイ!コラ!何してんだよ、お前!」

と、当然の反応を見せた。


イチは、待ってましたとばかりに一番近くにいた、小柄な餓鬼に

「ヘイ、パス!」

とボールをパスし、小柄な餓鬼が受け取るか取らないかの瞬間に、一番遠くにいたノッポ目がけてダッシュした。

ノッポが構えるのと同時に、イチは両手を前に出し、相手の頭をボールを掴む様に抱え込むと、次の瞬間、イチの体が浮き、膝がノッポの口から鼻にかけてめり込んだ。

一瞬の出来事だったが、ノッポは口と鼻から血を流しぶっ倒れた。

少しだけ、ノッポが動いたと思ったが、イチがすかさず追い打ちのパンチを倒れているノッポの顔面に叩き込んだ。

完全にノッポは失神した。


少しだけ乱れた息を整えながらイチは言った

「仲間に入れてくれよー」


すると一番マッチョなニット帽をかぶった餓鬼が、少し強張った表情で言った。

「お前だれ?殺されたいの?」


「あれ、お前らのバイク?」

イチは、下品なバイクを指して言った。


「だからなんだよ!コラ!」


「奇面組ナメてんのか、コラ!」

別の、黒いジャージを着た餓鬼が吠えた。


シンゴから見て、餓鬼どもの威勢は良いが、完全にイチの行動に度肝を抜かれて、ビビッてる。

チビの餓鬼と黒ジャージの餓鬼は腰が引けてるし、この中のボスであろうマッチョな餓鬼も、表情が硬い。

もう一人のキャップを後ろに被った餓鬼は無表情だが、かすかに足が震えている。


「やっぱりね」

言い終わるか終らないかと同時に、キャップの餓鬼へ走っていき、タックルをかました。

と同時に、キャップの餓鬼の体が宙に一瞬浮き、そのまま地面に叩き付けた。

そのまま、素早くマウントを取ると、

「なめんなコラー!」

怒号と共に、マッチョが突っ込んできた、後を追うようにチビとジャージも突っ込んできた。

マッチョがイチの体にけりを入れたが、マウントを取りながら、イチはひょいとかわし、下の餓鬼のおでこあたりに手のひらを乗せたかと思うと、グッと体重を預けその勢いで肘を相手の鼻と口の間に叩き込んだ。

「グエッっっ」

っとくぐもった悲鳴と共にこの餓鬼も戦闘不能になった。

イチは素早く立つと、遅れて来たチビに向かってハイキックを繰り出した。

チビは、モロに側頭部に体重の乗ったハイキックを食らったが、辛うじて倒れなかった。

チビが持ちこたえたおかげで、ジャージの餓鬼がイチの片足を取り倒した。

倒れたイチの上にチビの餓鬼が乗ってきたが、イチはクロスガードに戻した。

しかし、後ろから後頭部をマッチョの怒涛の蹴り攻撃が襲ってきた。

イチは蹴りを受けながらも、チビの片腕を取り、下からの十字でチビの片腕の肘関節を外した。

「ぎゃーーー」

チビの悲鳴がこだました。と同時にマッチョに後ろから羽交い絞めにされ、ジャージの蹴りがイチを攻めていた。


ここでシンゴの出番だ。

ヒーローは遅れてやってくる。

すっかり落ち着きはらったシンゴは、興奮しきってるジャージの背後から、忍び寄り腕をジャージの首に巻きつけ、余裕顔のチョーク。5秒でジャージはぐったりとした。

落ちた。


羽交い絞めにしていたマッチョは一回立った。

イチも、ゆっくりと立った。


「おー、痛てぇ、もっと早くコイよなーー」

後頭部を抑えながら、シンゴを見た。

次にマッチョを見ながら

「さ、タイマンだな。お前いくつ?」


2対1で負けを覚悟したのか、

「16だよ。あとはみんな中学生だ」

「こいつらは勘弁してくれよ」


今更、兄貴風を吹かし始めた。そんなこの餓鬼に気色悪さを覚え、笑けてきたが

「ふーん。じゃあ俺とタイマンね」


と言ってイチがファインディングポーズをとった。

するとマッチョも構えたが、同時にイチのフックからアッパーが綺麗に入り

ローキックで、マッチョが倒れた。

これで、終わりかとシンゴは思ったが、イチは更にマウントを取り、容赦ない鉄槌をマッチョに浴びせた。

ボコボコになったマッチョの金髪の髪の毛を掴み少し起こして

「二度とこの辺を歩くな。次見かけたら、殺す。」

とだけ言って、車に向かって歩き出した。


シンゴはぽかんとした。

たった一人で、16と中学生とはいえ5人の不良どもをボコッたイチは凄かった。

そんな思いで、イチの後に続くように車に向かったのだ。


シンゴは急に振り返ると、道路わきに停めてある、餓鬼どもの下品な単車の方にツカツカとあるきだした。

イチはその様子を見ながら少しだけニヤついた。

シンゴは先ず一台づつ単車を蹴り倒し、徐に一台の単車を、もの凄い怪力で持ち上げ、地面に横たわっている単車めがけて叩き落した。もう一台も同じように叩きつけた。

すっきりした顔で

「コレで良し!」

と言って、運転席に乗り込んだ。


車に乗る前に汚れた服をパンパンとはたき、イチは自動販売機で買ったコーラを一本シンゴに渡し、

「ゴメン。勝手なことして。言い訳は車の中でさせてくれ」

と言って助手席に乗り込んだ。


コーラを受け取り、グッと半分ほど飲み干すと、無言でキーを差し込み、エンジンをかけると、ゆっくりと走り出した。


公園の滞在時間15分ほどの出来事。











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