ラストプラン
火曜日
澄み渡った青空
まさに秋晴れの朝を迎えた。
昨夜話し合って、シンゴやナチはどうか解らないけど、少なくともイチは、何かすっきりするものがあった。
まだまだ、問題は山積みだけど、なんていうか・・・方向性がハッキリしたし、仲間が1つになった瞬間が昨日はあったからだ。
イチのような、いや、おそらくシンゴもナチも
方向性が決まるとそこからは迷い無く一直線に突き進む。誰よりも速く。競うようにして。
そんな性格の3人だ。
この3人だからこそ出来る仕事なのだ。迷いとか恐れなどが邪魔するようなら、一瞬で失敗する仕事だ。
仕事・・・かどうかは解らないけど、この世の中で、あの兄弟と監禁されてる少女を救うことが出来る可能性があるのは、この3人だけなのは間違いない。
日本の警察は優秀と言うけれど、少なくとも俺たちが知ってる警察はダメだ。
こういう事件には尻込みして、その汚いケツを上げようともしない。
ストーカー規制法だって、どれだけの犠牲者が出てから出来た法律なんだ?
少年法でどれだけの被害者家族が未だに救われないでいるのか。救われないどころか、二次被害、三次被害で、永遠と苦しんでることを知ってるのか?
悲惨な事件が明るみに出るたび
世論は法律が・・・とかヌカスが、断じて法律のせいではない。
頼りになる警察が近くにいれば、未然に防げた事件なんて、どれだけあることか。
だから、俺たちは警察なんてハナからあてにしてない。
自己防衛あるのみ。
イチはそんなことを考えながら、コンビニのバイトをこなし
DVDショップのバイトに向かっていた。
移動の電車で携帯を開くと、2通のメールが届いているマークが付いていた。
一通目
明からだ
「お疲れ様です。その後、先輩達からは連絡はありません。でも、学校で変な噂があります。
今週末に全体の召集がかかるそうです。今までで初めてです。何でも、人を埋める作業があるという噂です。。。ボクは恐いです。あの監禁されてる女の子が死んだのか?とか色々考えます。いや、絶対そうです。どうしましょう?なるべく早く連絡ください。お願いします。」
イチはすぐに返信した。
「あと、10分後に電話できるか?」
するとすぐにメールが返って来た
「ハイ!お願いします」
二通目
ナチからだ
「一応俺なりに、ソレ系のヤバイDVD製作会社、プロダクション、を調べた。
幾つかピックアップ情報をファイルにしてDVDショップのPCにメールするから、ショップに着いたら、メールアドレスを調べてメールくれ。あと、解ってると思うが、そのメールは読んだらすぐに削除するように」
イチは
「了解」
とだけ返して携帯を閉じた。
葛西駅に着くとすぐに人影が無い場所を探して、イチは携帯を取り出し、明の番号を呼び出し、電話をかけた。
2コールで繋がった。
明にはとりあえず落ち着くように、ゆっくり話した。
噂をを信じないこと。無理にでも。
それと、噂の出所を詮索しないこと。もし、カトウ達から呼び出しがあったら、すぐにメールで知らせること。
週末までなんとか会わないようにかわすこと。
本当に週末召集があったらすぐにメールして知らせること。
以上の指示を明に出した。明は素直に「解りました、頑張ります」と答えた。
イチは、一安心した。
イチは職場に着くと早速ショップのPCを開き、アドレスをナチに送信した。
すると、ナチから、PDFファイルが添付してるメールが来た。
イチは早速ファイルを呼び出し、プリントアウトして、メールを削除した。
どうやって調べたのか、そこのは50項目くらいの名前がピックアップされていた。
ナチのメールによれば、これでも絞った方だそうだ。
日本って国は・・・
どれだけ病んでんだ。。
全部のDVDを観るわけにはいかないので、リリース日、パッケージ、サンプル、などからショップにある情報を駆使して、DVDの中の「真美」を探した。
一番やりたくなかった仕事だった。でも、あの真美の決意の篭もった目を思い出したら、そんな淡い泣き言は言ってられなかった。
必死になって探し、怪しいと思うDVDをピックアップしては、ナチに情報を送り、ナチの方でも動画を探した。
この間、シンゴはというと、夜な夜な餓鬼どもを見張るという仕事に徹していた。
行動パターンをチェックし、変な動きがあったら逐一報告するということだ。
それと、週末の準備。
車の調達、資金の調達に奔走していた。
時間は4日間
金曜の夜までと考えるなら、3日間
時間は無い。
木曜日
ついに尻尾を捕らえた。
イチとナチのコンビは3本のDVDまでに狙いを絞ったところで、ショップで3本ともDVDをすぐに取り寄せ、買った。
同ジャンルのDVDが3本売れたところで、何も怪しくないと判断した。
その中のひとつに「ディスカス」なる製作会社が出したタイトルのDVDの中に「真美」を発見した。
予想は的中した。
シンゴの方でも、カトウがとある荒川区の事務所に1人で出入りしている現場を目撃していた。
その場所の住所から、調べると、とある組のフロント企業の金融会社が入ってることがわかった。
もっと調べると、その組はそこまで大きくなく、地元に密着した組であることも判明した。
そして、金融もやっているが、最近の不況のせいで金融一本では立ち行かなくなり、裏DVD方面にもシノギをかけていることが判明した。その製作会社こそ「ディスカス」であった。
ディスカス・・・・飼育の難しい、観賞用の熱帯魚。
見世物になってる少女達は水槽の中でどんな夢を見てたのか。
現に監禁されている少女はどんな夢を見るのか。
早くその悪意に満ち満ちた水槽から開放してやる。
住むべき所に魚達を返してやる。
水槽のなかで失ってしまった輝きを取り戻せたらいいな。
本来の自然の輝きを。
ミーティングは何時もの「第3会議室」で行われていた。
「うん。尻尾、捕らえたね」
ナチがコカコーラを一口飲み、言った。
「あとは実行のみだ。」
シンゴも言った。
「そうだな。あとは明日次第だな。」
イチもグッとジンジャーエールを飲んで言った。
3人はココのところ酒を口にしていなかった。
示し合わせたように、シンゴが言った
「来週の週末には、レモンサワー浴びたいな!」
みんな少しだけ笑顔になった。
みんなが笑顔なんて久しぶりだった。
3人はある作戦を立てていた。
先ず、餓鬼どもに制裁を加えるのは簡単だが、バックがいるのだ。
そのバックにしてみれば、自分達に金をせっせと運んでくる餓鬼どもを潰されて黙ってるはずは無い。
ここが一番ややこしいのだ。
まぁ成功すると思う。失敗しても保険は掛けてある。
イチの昔のツテに話を通してある。でも、実際どこまで話が通っているか解らないが・・・
実に当てにならない保険である。
次に準備だが、これも完璧にシンゴが整えてくれた。
先ず、車。
3人で話し合った結果、4ドアのセダン。町に溶け込み目立たない色
そして、中身はえげつなく速い車。
運転は勿論シンゴ。
群馬時代走り屋に少し席をおき、峠で慣らした腕があるし、仕事でもプライベートでも一番運転をしているのがシンゴだからだ。
車種は三菱ランサー Evolution IV
Evolution シリーズではこのシリーズが5ナンバーの最終形で、丁度群馬の知り合いの工場にシルバーのノーマルが眠っていたのだ。
シンゴはその整備工場に頼み込んで、金曜つまり明日には仕事を休んで引き取りにいくという。
ナンバーは取れなかったが、工場側が代車として使用していたため、一応ナンバーはついている。
名義変更など手続きが間に合わない為、工場のナンバーのまま「一旦納車」という形をとってくれたのだ。
車庫も東京では高くて維持できないので、事情を話すと、工場側は快く
「店に置いとけばいいよ。車庫代はいらないよ」
と言ってくれたのだ。
尚且つ、車の代金が安すぎてビックリした。
さすが、持つべきものは友達だ。
というわけで車の準備は完璧
あと、シンゴはRBで稼いだわずかな金と、自己預金を崩し
1人頭20万のお金を用意した。
この金は特に使い道はないが、もしもの時の現金だという。
これで、すべての準備は整った。
あ、あと、明、真美にも連絡は取ったが、カトウ達からの連絡は今のところ入っていないようだ。
安心した。
これで、明日、金曜または土曜に明の例の噂通りに召集が掛かれば、俺たちの作戦もよりスムーズにいくという寸法だ。
しかし、現実はそう都合良くなかった。。
カトウ達が連絡を明によこしていなかったのは理由があった。そして、あの噂・・・
大きく運命は変わっていた。
そんなことも知らず、シンゴ達3人は何度も計画を見直し、これで「上手く行く」
と信じて木曜日は解散した。
そう。上手く行くはずだった。