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血染めの魔王は勇者を嗤う  作者: 結城紅
序章 領主 ランドルフ・ハイター
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森の中

 今回の目的は周辺の魔物の一掃。規定された範囲は孤児院を中心とした半径2km。地理的な観点から、主な敵は森林に出没する魔物と窺える。中でも、注意すべきはファングと呼ばれる四足歩行の魔物。体長は110-140cmほどで、細身、全身に浮かぶ斑模様が特徴。会敵したら抗戦しながら撤退、討伐する場合は最低でも10人は必要と教わった。それほどまでに恐ろしい魔物だ。


 孤児院を抜け、森林地帯へと突入する。

 少々の思考の間に足場は険しいものへと変わっていた。

 足元を流れる細流、木の根などに足を取られないよう注意しながら進む。そんな行程を開始してから数分、前方で声が響いた。


「隊列、どうする? このままでいいのか?」


 子供にしては少し低い声。最前列にいた11歳の少年が振り返る。


「教官殿が各人を呼んだ順の配列になっているからな」


「これこそが教官殿の望んだ隊列なのでは?」


 少年の背後から少女の反駁の声が上がる。その声音は毅然としているが、発言に保守的な傾向が垣間見える。教官の組んだ隊列を崩し、あとで叱られた場合のことを想定しているのだろう。

 ここで俺が発言すると彼女の気を逆撫でる可能性があるが、言っておくべきことは口にした方がいいだろう。

 俺は背後を一瞥してから口を開く。


「差し出がましいようですが、教官殿も隊列の変更についてはリーダーの采配に一任するとのように仰っていたかと」


 11歳の少年に視線を合わせる。彼の相貌が微かに歪んだ。


 ――安心しろよ。お前をリーダーの座から引き下ろすつもりはない。


 つまりはそういうことだ。少女は保身に走り、少年は武勲に走る。あんな施設にいても、成績さえ優秀なら正規の軍人や教官にだってなれる。運がよければ貴族の養子に引き取られる可能性すらある。

 それらの目的を叶えるには、リーダーという誰かを率いる立場にいるのが好ましい。経歴にも箔がつく。

 まあ、だがそんなものはどうでもいい。

 俺は視線を少女へと引き戻す。


「ですが! もし教官殿の意志が……」


「それに、個人の資質に見合わない不出来な隊列と最適な隊列では生存率も異なるでしょう。死んでしまっては元も子もないです」


「うっ……」


 少女が口を引き結ぶ。反論がないのを確認してから、視線を横に逸らす。少年と目が合った。その表情には何かを懸念するような不安が滲んでいる。


「教官から指定されたリーダーは貴方です。采配の方、よろしくお願いします」


「あ、ああ……。それじゃあ、各々訓練での成績を述べてくれ。まずは体術から――」


 リーダーの顔色があからさまによくなった。まったく、これだから単純な奴は扱いやすい。

 今の発言によって、少女の俺に対する好感度は下降。リーダーからの信頼度は上昇した。この場ではリーダーから信頼さえしてもらえればいい。俺を好まない人間の方が遥かに多い。

 案の定、後ろから刺々しい声が聞こえてきた。


「はぐれのくせに何様だよ」


 反骨心を剥き出しにした顔が目に入る。俺と同齢の幼い少年だ。ちょっと体術に秀でているだけで、他は何もない奴。利己的な欲求が強く、邪魔な者は対話ではなく力により排除しにかかる傾向にある。典型的な悪人といった感じだ。


「何様って言われたら……俺様って言った方がいいのかな?」


「……あんま調子のってんじゃねえぞ。てめーなんて誰も信用してねーからな」


 いや、そんなのどうでもいいんだがな。興味のない奴から信頼されても迷惑だろ。

 思考を口にすることなく、俺は聞こえなかった振りをして前を向いた。

 さて、隊列はどうなるのか。

主人公、九歳です。

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