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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第三章》追 跡
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アルトオーネ(愛しの故郷)

  

  

 宇宙──。

 それは有限の空間を無限の時間が包み込んだ泡のような存在。生命体にとってそれは極上の揺りカゴとなっている。



「あー、ひりひりする」

 指先に付けた軟膏を耳の下あたりに塗るのは、先日の砂の惑星で耳元を通過した高エネルギーシードが俺のコメカミに火傷(やけど)を負わせていたからで。その日は全然気にならなくて、日焼け程度にしか思っていなかったのだが、片頬だけがいつまでも痛むのはおかしい、とよく見ると軽度の火傷(やけど)だった。


 玲子に文句を言ったところ。笑い飛ばされ、そばにいたシロタマがステージ3に切り替わり治療をしようとしたが、俺は飛んで逃げた。あんなゴキブリ野郎に火傷の治療をされて堪るか、あいつは盲腸の手術だと言っておき、大腸ごと切り落として平気な顔をしていそうで、そりゃ恐ろしい奴なんだ。


 仕方が無いので医務室にあった軟膏を塗って急場をしのいでいるのだが、それにしてもヒマだった。

 ヒマを潰す理由は簡単。怪人エックスからの連絡が来ないのでやることが無いのさ。


 シロタマと優衣がいくら検知範囲を広げるべく探知機の効率を上げようとも、十数光年が精一杯で、その範囲にドロイドが発する輻射波は見つからない。ようするに探知圏外へ逃げたことになる。



「ふぁぁぁぁ」

 誰かの間の抜けた声が司令室を渡り、

「ダレや!」

 社長の怒鳴る声が轟く。


「ほんま~、たるんどるデ」

 鼻息を吹かすけど、あんただってさっきヒマそうに屈伸運動をしていたじゃないか。


「田吾。連絡は入ってまへんか?」

 ケチらハゲの機嫌が悪い。これまではきっかり24時間周期で入電していたのに、途絶えて十数時間以上経過していた。その間、銀龍は行くあてもなく無駄に宇宙空間を漂ったままなのだ。『無駄』『無益』『無毛』を死ぬほど嫌うオヤジの機嫌が悪くなるのもうなずける。


「社長ぉ。一度会社に戻ろうぜ」

 という俺の意見に、

「戻るっちゅうても、この時代はワシらから見たら2年も過去になるんや。そのまま帰ったらどうなりまんねん?」

 クルーの視線が優衣に集中する。彼女はちょっと驚いたような面持ちで答えた。


「この過去の時間域ではみなさん遭難中です。そんな時にひょっこり帰ると歴史の流れに齟齬が発生して、恐らく大規模な時空震が起きるかと」


「それはどういうこと?」

「多重存在だよ」とは俺。


「多重? 存在?」

「あのな。お前の筋肉質の脳ミソで考えてみろ。過去の俺たちがいるだろ。そこに今の俺たちが混ざるんだ。おかしなことになるだろ」


「ああぁ。ほんとだー」


「疲れるぜ、ったく」

 こいうバカは放っておいて。

「そうじゃなくて。元の時代の会社に戻ればいいじゃないか」

 俺の理屈が最も正しいのに、優衣は首を振る。


「生命体の時空間移動は極力控えたほうが賢明です。回数に限度が有りますので、そのぉ……ここで待機するほうが」


「にしても……ヒマや」

 ケチらハゲは溜め息を吐き吐き、

「しゃあぁない。田吾以外は自由にしてエエデ」

 と解散を宣言。

「え~~~。オラだけなんでぇ?」

 豚オヤジのほっぺたが大いに膨れる。


「何ゆうとんや。おまはんは無線技士やろ。通信を待つのが仕事ちゃうんかい」

「もぉ~。オラも寝不足なのに……」

 豚のくせにアヒル口を左右に振ってアピールするが、お前、俺よりも先に寝ていたじゃないか。


「そんかわり、カメラを返したる」

 ぽいと田吾の膝にデジカメを落として社長は司令室を出て行った。


「うほぉぉぉ。オラのデジカメ。あ~ユイちゃんの写真がやっと戻って来たダ」

 満面の笑みを浮かべてカメラを操作し始める田吾の横から、玲子が小声で告げた。

「データは消されてるわよ」

「うそっ!」

 急いで太短い指をカメラの裏に連打。


「うぁぁ。ほんとダすっ!」

 玲子はすくめた肩に田吾の叫び声を楽しげに受けながら、優衣と連れだって部屋を後にした。


 そこへそっと近づくのは茜だ。

「だからぁ。わたしのブロマイドを見てくださいって、あげたでしょ」


 メガネの奥で目玉を小さくすぼめた、悲しげな田吾。

「いや、アカネちゃんのはダブダブの作業着姿でまったく萌えじゃないダすよ」


「どうしてですか? サイズはおユイさんとほとんど同じですよぉ」

 茜はその場でくるりと舞って見せるが、(たる)んだ上下、安物のジャージ姿では田吾の言うとおりまったく萌えるものではなかった。





 数時間後、精も根もつき果てたという顔をした田吾に呼び出され、ふたたび司令室に集合。

「怪人エックスからの位置情報を受信したダ」

 と言ってメモ用紙を社長に手渡し、奴はかったるそうにデスクに突っ伏した。


「ちょっと寝かしてくんろ~」


 社長は横目で睨むが黙認して、優衣へ指示を飛ばす。

「大至急、場所の特定をしてくれまっか?」


 自分の席へどっかりと腰を落として唾を飛ばす。

「すぐに出発するデ。止まっとるだけでも、どんだけゼニが消えていくか」

 星以外何も映っていない船首モニターを眺め、ケチらハゲらしいひとりゴチを漏らしていた。




 そして数分後──。

 何とも言い難そうな面持ちで優衣が頭をもたげる。

 待ちわびたようにみなの視線が集中するが、その顔色はどうも優れない。どうしたことだろう。


「プロトタイプなんですが……あの……」

「どこでんねん。ハイパートランスポーターでも行かれへんぐらい遠方なんか?」

「いえ、1500光年……戻ったところです」

「ほなええがな。何を言うてまんねん……戻った?」

 社長は煮え切らない顔を傾け、優衣も困ったふうに少し間を空けた。


「あの……距離の問題ではなく。指定の場所にアルトオーネがあるんです」


「んなっ、アホな!」

 絶句するのはよくわかる。


「まずいっすよ。さっき言ったばかりだ。見つかったら大きな時空震が起きてミッションも何もかもがムチャクチャになる」


 優衣はさらに顔を曇らせる。

「それも会社のある……ワタシたちの都市です」


「あ、有りえまへんで。この広い宇宙で何でよりによって、そこへ逃げ込みますねん。どんだけの確率やと思てまんねん?」


「ゲイツが配った宝クジが一等を取るよりも低いでしゅ」

 そう言ったあと、すぐに報告モードに切り替わり、

『比喩表現です』


「誰や! シロタマにしょうもないコト教えたのワ!」

 誰も教えていない。プルプルと首を振る。


「当たりクジと分かったら、半分は取り返しまっせ。だいたいワシなら、そういう条件付けしてから物をあげますワ」

 うへっ。どこまでケチなんだ。このオッサン。


 そこへ、可愛らしい声が落ちる。

「アルトオーネ、見学してみたぁい」

 胸の前で指を絡め合い、きらっきらの目で社長を見つめる茜。


「あかんあかん。ワシらはこの時期にアルトオーネにおったらあかんねん」

「でもぉ、わたしは問題ないですよ~」

 ちっちゃな口を尖らせて訴える。


 確かにお前は関係ない、というより茜の場合は幽霊的存在だもんな。管理者にもネブラにも知られない存在。時間のパスが繋がった稀有な身柄なんだ。


「でも、よりにもよって、なぜそんな場所にプロトタイプは逃げ込んだのかな?」

 と尋ねる玲子に優衣が答える。

「社長さんが言われるとおりです。ワタシたちが存在できない空間だというのを理解しての行動だと思われます」


「舐めやがって」

 と、口にはしたものの、ふと頭をよぎる。

「それよりさ。例のメッセンジャーがまた仕組んでんじゃないだろな?」

「抹消派の連中が送り込んでくる(やから)でんな」

「ありえそうですね」

 忌々しそうに顔を歪めて見せる玲子。俺と共にメッセンジャーとの出会いはあまりに苦々しい経緯がある。



「ここでウダウダゆうててもしゃあない。とにかく近寄ってみまっせ」

 船内通信のボタンを叩き。

「機長、ステルスモード起動や。遮蔽パワー最大で行きまっせ」

 と操縦席に指示を飛ばしてから、ちょっと上目に天井を仰ぎ、

「なんで自分の惑星に近寄るのに、銭を払って身を隠さなあかんねん……」

 悔しげに自問をした後、渋そうな顔をしてから言い直した。


「機長、今の撤回や。アルトオーネの5光年手前で停止。輻射波を調べてから近づきますワ。また偽モンやったら大損やからな」





 数時間後──。

 3万光年以上の距離があろうと、ハイパートランスポーターを使えば数秒で到着するのだが、近寄れない理由があり、5光年手前で何とも歯痒い時間を過ごしていた。


「どないや? メッセンジャーの偽電波でっか?」


『前回のデータと比較しますと、メッセンジャーの作った偽の輻射波には、わずかにスペクトルの異なる部分が混じっています。この輻射波は純粋にドロイド固有のものと推測されますが……』


 通常モードのシロタマはひどいもんだが、報告モードに切り替わっている時は、まず正しいことを断言する。なのに今回は妙に言葉を濁して伝えてきた。

「そやけど、その辺を改良して来たとも言えまへんか?」


『答えられません。データ不足です』


「やろな……」

「ワタシかアカネならメッセンジャーを見破れます。ぜひ現地に行かせてください」

 頬にかかる黒髪を払いながら、優衣は透き通った黒い瞳を輝かせて振り返り、茜はそれよりも煌めく、マゼラン星雲を高解像度で撮影した天体写真をマッピングしたみたいな目をして社長に飛びついた。


「あたし行きまぁーす。ぜったい行きたいでーす」

「二人一緒はあきまへんで、何かあったらえらいことになりますからな。そうやな、ユイが行きなはれ」


「えぇ~~~~」

 瞬時に空気が抜けた風船人形となる茜。


「つまりませ~ん。わたし絶対にミスりませんよぉ」

「やはりここはアカネを連れて行ってください。お願いします」

 意外にも真剣な表情で頭を下げる優衣。それは異様に感じるほどの真顔で、必要以上に瞳を潤ませて社長を見つめていた。


 久しぶりの萌え優衣だった。当然田吾が動き出す。

「これはチャンスだス」

 カメラを起動させた途端、またもや社長にそれを取り上げられた。


 ハゲオヤジは取り返そうと飛びつく田吾から逃れながら訊く。


「なんでそんなに真剣なんや?」


 優衣は丸く見開いたハゲオヤジの瞳を覗きこみ、ゆっくりと顔を近づけ、

「社会勉強です。可愛い子には旅をさせろって言うでしょ。ね?」

 その中に向かって悩ましげに応えた。


「ぬぉっ……」

 気迫がこもる優衣の表情にたじろぎ、顔と頭の境目を示す額、その所在がシロタマでも判断がつかない表面全体を一気に赤く染めた。

「あ、アカネをでっか?」

「あ、はい」


 茜は「やったー」と躍りながら司令室内を一周。元の場所に戻ると、自分の未来体の横で潤みを帯びた瞳で手を合わせる。

 慈しみの視線でそれを見つめる優衣。

「お願いします。この子にも社会勉強をさせてあげてください。このままでは何も知らないまま時が経ってしまいます。そうなるとあまりにも不憫で……」


 異様なほどに懇願する優衣の姿に、庇護欲を大いに刺激させられたハゲオヤジは大きく嘆息する。

「なんでそこまでして……」

「この子は学習時間を大きく削ってこのミッションに強制的に参加させたのです。かわいそうだと思いませんか?」

 柔和な表情で優しさに満ちた優衣の真剣な姿勢に、ハゲオヤジはさらに狼狽(うろた)える。


「ど……どないしたんや、ゆ、ユイ」


 俺も心動かされた。

「社長。俺からも頼んます。茜はこのミッションが終わったら、舞黒屋に就職するんだと張り切ってんだ。だったら今のうちに社会勉強をさせたほうがいいんじゃないんすか? このままではちょっと間が抜けすぎて、バカな子、みたいだぜ」


「そりゃそうやけど。この子に何かあるとユイに影響が出まっせ」

 すっかり忘れていたけど、茜は優衣の過去体だった。それは過去に何か起きると未来に影響が出ることを示唆している。社長が懸念するのも当然か……。


「いえ。アルトオーネなら安心です。ワタシも半年間の調査任務でそう感じています」

「そぅか。おまはんも寮住まいでしたな」


 思案に沈む社長。鼻から息を静かに抜くと自分に言い聞かす風につぶやく。

「アルトオーネは平和な星や、よほどのことがないかぎり事件は起きひんわな」


 寸刻して、何度も重々しい息を吐いて決心する。

「よっしゃ。残る問題は過去の街へ戻るということや。会社の連中や家族に見つからんようにするよりも、この銀龍をどないするかや」


「そうか。いるはずの無い宇宙船がアルトオーネを周回したら藩主のことだから大騒ぎをするぞ」

「そうですよねえ……」

 玲子も腕を組み朱唇を柔く噛む。

 科学技術の進んだ惑星へ、宇宙船がこっそりと接近するのは意外と難しい。


 なにしろ惑星上空の飛行物体は常にレーダーで監視されており、識別信号の不明なものは未確認物体として攻撃の対象になる。そのため銀龍からは常に識別用の信号が発信されるのが常識だ。だからうかつに近づけば俺たちだということがばれる。


『未来の銀龍が現時間で発見されることは望ましくありません。その後の歴史がどう変化するか予測不能です』

 さっきから黙って天井に張り付いていたシロタマが注意喚起するのは当たり前だ。

 かといってこんな大きな宇宙船が識別信号を止めて周回軌道に乗れば、未確認飛行物体としてスクランブルが掛かるのは必然だし。


「これはむずかしいっスね」

 腕組みをしたまま田吾が唸り、じっと通信機のインジケーターを睨んだ。


 それからいくら待っても、誰れからも良案が浮かばなかったのだが、

「名案がありまぁーす」

 無駄に元気な茜が社長に向かって挙手をした。


「なんでっか?」


「ハイパートランスポーターで、ワタシたちだけを転送すれば、どうでしょぉか?」

 社長は膝をぽんと打って、

「せやせや。宇宙船ごと転送せんでエエがな。2年前もそうやって3万6000光年も跳んだんやったな」

「こんどこそ失敗しませんよ~」

「されてたまるかよ──前回はえらい目に遭ったからな」


 後ろめたそうに目を落とす茜にハゲオヤジが手を振る。

「かまへん、かまへん。失敗してもアルトオーネや。何とかなるやろ」

「ひでえなぁ。そんな状態だったら俺は上陸志願しねえからね。田吾、お前行け」


 豚オヤジは脂ぎった顔を派手にしかめて、

「オラは通信技師ダす。ここを離れるわけにいかねえんダ」

「都合が悪くなるとそれだ。俺だって嫌だ」


「裕輔。今回はユイが操作するんや、問題無いやろ」

 と言いつつも社長は半笑で俺の不安感を煽る。

「せやけど……。こっちへ戻す時のタイミングが分からへんがな。通信では無理やで。アルトオーネからここまで、光でも5年は掛かる距離や。戻してくれ、っちゅう連絡を寄こして帰って来れるのは5年後でっせ」

「それもまずいな。上陸者は5年間も向こうで隠れて暮らすことになる」


「12時間後に強制転送するというのはどうでしょう」

 滲み出てきた一抹の不安要因に対して、優衣が落ち着いた口調で答えた。


 それにしても、これまで以上に彼女が積極的なのはなぜだろうか。



「せやな。何があってもそれまでに調査を終えておけばエエわけや。ワルないな」


 その言葉を聞いて、茜は花が咲いたように顔を輝かせ、いつもより透明な光を帯びた目をしてハゲ頭の腕にすがりついた。

「社長さん……お願い……わたし行きたい」

 衛星イクトにある謎の建造物内で生まれ、その後ドゥウォーフの白神様となって過去に飛び、開拓民と一緒に暮らしつつ、ただひたすら武器を作ることに従事し、その後ここに強制転送された茜にとって、現在のアルトオーネは天国のような世界に映るのだろう。


「むむむ……。しゃぁない。行くか、アカネ?」

「あ、はいっ! はいっ! は──いっ!」

 濡れた瞳をさらに大きく広げて、首が千切れるほど前後に激しく振り続ける。

「はいっ! はい! 行きます、はい!」

「もういいって」

「あ、はい。コマンダー」

「こういう時だけは俺の言うことを聞くんだ、こいつ……」

「ほんまやな」


 ハゲオヤジは俺の肩に手を添えて命じる。

「よっしゃ。コマンダーのゆうことを聞くんやで」

「あ、は~い」


「え~~~っ」

 激しく拒否るものの、聞く耳持たずでハゲは反論する。

「アカネのコマンダーは誰や。おまはんやろ。ほな決定やがな」

「その理屈で行くと、優衣が行くことになっても俺が同行することになるじゃねえか」


 ハゲオヤジは「あー。ほんまやなぁ、ちーとも気付かへんかったワ」と白々しく言い放ち、

「ワシは面が割れとるから行けるはずがないやろ。そこそこ有名人なんや」

 と付け足した。すると玲子も口を合わせる。

「あたしも無理ね。テレビでお馴染みだもの」

「何がお馴染みだ。お前なんか会社対抗制服美人コンテストでちょっと顔が知れただけで、お馴染みなのはヤバ系の人らにだけだ」


 嘘は言ってまい。本当の話だ。ついでに負け惜しみをぶっ放す。

「お前なんか、ちょいっと化粧して変装すれば誰だかわからんって」


「ほんまやな。二人とも変装して行きなはれ」

「はぇ?」

 なんということを俺は口走っちまったんだろうな──後悔後に立たず。覆水盆に返らずだ。


「仮装やがな。田吾、準備したって。おまはんこういうのは得意やろ?」

「んだ。フィギュア作りで似たようなことするからオラ得意ダすよ」


「あっ! てめえ、嬉しそうに……友人を売る気か!」


「オラは無線技士ダす」

「関係ねえぇ──よ!」





 再び8時間後。

 ハイパートランスポーターの充電にそれだけの時間が掛かるんだ。何とかしろよケチらハゲ。


「ええか。何が起きても12時間後にはここへ強制転送するさかいに、それまでにはメッセンジャーなのか本物のプロトタイプなのかを判断しておくんやで……」

「あ、はい。わたしに、おっまかせください!」

 ぱしっと(かかと)をくっつけて、茜は挙手をする。どこで覚えたのか、それは敬礼と呼ばれるものだ。

 呆れる俺に、地下鉄の職員がするのを見て覚えたのを伝授しましたと、優衣はどうでもいい報告を済まし、茜は玲子と一緒に転送室へ消えて行った。


 俺は一人、司令室で黄昏(たそがれ)た。

 腑に落ちんな。なんだよ。この変装……は。

 こういうのは、変装とは言わないんだろ。

「…………」

「何しとんや。おまはんも早よ行かんかい」

 社長に顎で示されて転送室へ向かう俺の足取りは、相当な重みを感じ取っていた。

  

  

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