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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第二章》時を制する少女
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  大根役者が勢ぞろい  

  

  

 自分自身に対する想定外の改変をしたため大規模な記憶の入れ替えが起きる、と奇妙な発言をしたナナは、それから間もなくして目をつむりうずくまってしまった。


 初めて見るその仕草に俺たちは驚きを隠せなかった。最初は何らかの機能不全でも起こしたのかと心配したのだが、ナナは朗らかな表情のまま顔を上げた。

「社長さん。武器を取りに行くのは、やはりワタシだけにします」

「なんでや?」

「先ほどの歴史の改変で武器を取りに行くには過去へ戻らないといけない状況になりました……それと」

 途中でナナは再び口をつぐむと、細い人差し指を唇に押し当てて黙り込んだ。


 その姿は、玲子が何かよからぬ事を思い悩む時の姿と瓜二つだった。だんだんこいつが玲子化していくのが、なんとも恐ろしい気がするのは俺だけだろうか──にしても、黙り込んでしまった時間が長くないかい?


「故障かしら?」

 と言った玲子に、ついとナナが顎を上げた。

「あのー。これから話そうとする内容に、時間規則に反する事柄がたくさん含まれていまして、どう判断していいか解らなくて……」

「なんだよ。まだそのことで悩んでんのか? こっちはてっきり故障したのかと思ったぜ」


 ナナは丸い目を俺に向けた。

「え? 故障? ワタシがですかぁ?」

「お前だって故障することもあるだろ?」

「ありませんよぉ」

 ケロッと言い切り、さっさと立ち上がる。


「とにかく先を急ぎましょう。このままでは超新星爆発に巻き込まれます。ワタシは武器を取りに行って来ますので、みなさんはここでお待ちください」


「おい、時間が無いんだろ。先に爆発から避難したほうが……」

 俺の言葉を最後まで聞かず、ナナは発光に包まれた。


「うおぉっ!」


 全身から激しく噴き出した光が色鮮やかに変化する。それは瞬く間に虹色になり、最後は閃光となって消えた。


「跳躍光や! 時間跳躍しよった!」

 俺や社長の驚きは本物で、初めて時空間転送を目の当たりにした瞬間なのだ。


 それは激烈な強い光がほとばしり、眩しくて直視できず俺は手で目を覆った。そして思わずナナが消えた空間へと叫んだ。

「時間がねえって言ってんだ、うぉっ!」

 間髪入れず、消えたばかりの同じ場所から強い光が広がり、目映い光彩の中から人の姿が浮き出し──。


「お待たせしました」


「え~! もう行ってきたのか?」

「そうですよ?」

 ケロッと言いのける彼女を目の当たりにして、過去のセリフが蘇った。跳躍した次の瞬間に戻れば、限りなく刹那の出来事になると。これが無限の時間を持つという意味だ。


 ところが、仰天したのはそれだけではない。

「うなぁぁぁ~」

 ナナではない別の人物が俺の鼻の先にいきなり出現して、とっても間の抜けた声を漏らしてしまった。


 そのまま後ろに尻餅を突いて、ひっくり返りそうになった体を慌てて両腕で支えた。そんな俺を覗き込む白い顔。

「こんにちわ~」

「だぁぁぁあぁぁぁぁっ!」

 俺は仰向けの逆四つん這いの体勢で後ろへ逃げた。

 覗き込んできたのは見慣れた銀髪ショートカット。Fシリーズ、管理者のガイノイドだ。


 何でまた連れて来たんだろ。イクトのコンベンションセンターはすでに消えている。となると消える前の時代に遡って?

 色んな思考が駆け巡った。


 ごんっ。

「痛ぇぇ!」


 後頭部に堅い物が当たり、逃げ道を絶たれた。

 振り向いて、さらに仰天の上塗りをする。


「どわぁぁ! 何んだこれ!」


 ワケのわからない装置のような、あるいは部品のような。でっかい銃身が付いた物まである。それらが実体化して司令室の大半を占領していた。


「わたしが作った機材れぇーす。完成までに数十年掛かったのよ」

「お前が作ったって……まさか」

「そうレすよ。そのためにおジイちゃまと3500年過去に飛んだんですから」

「それじゃ。お前は……過去のナナ」

 息をするのも忘れて見上げたまま数秒間固まる。その間、そいつは腰を屈めて俺が動き出すのをじっと待っていた。

 間違いない。このノンビリとした空気が出せるのは、あいつだけだ。


「むふふふ」

 クリクリと丸い潤んだ目玉がじっと俺を見下ろしていたが、その容姿は隣に立つ黒髪ロングの少女と瓜二つ。


「ナナ! どういうことだ、これっ! こいつまで連れて来たのか?」

 未来のナナがゆっくりと歩み寄ると、銀髪のナナの肩を抱いて言った。

「コイツって言わないでくださいよ。ワタシたちのために過去へ飛び、武器を作って未来から呼ばれるのをじっと待っていたワタシなんですよ」


「ども。コマンダー。オシ、サシ、ブリです」

「押したり、挿したりするな。それを言うなら、お(ひさ)しぶりだ」


 もう一度、未来のナナに目を転じる。

「バカのまんまじゃないか」

「過去のワタシは、未来の管理者に呼ばれてDTSDを装着することになります。その時に一気に言語レベルをアップグレードしてもらうのですから、こればかりは仕方ありません」


「せやけどな」と社長が口を挟んだ。

「自身の歴史を変えてやデ、未来の管理者がこの子を呼び戻さないような方向に曲がったら、おまはんの身体から時間渡航装置が消えてしまわへんか? 過去を弄った障害が出るんちゃうの?」


「ネブラ抹消のためにはDTSDを装着するのが必然となっていますので、必ずどこかの時間で装着されるようにワタシが誘導します。それが上手くいっているからこそ、みなさんがここに存在するのですよ」


「つ──ことは。さっき別れてから数十年も経過したわりに、何も上達しないのは仕方が無いと言いたいんだな?」

「そんなことありましぇ──ん。らいぶ上達してまーす」

「そうは思えんが?」

「言語品位はレベル4まで上がりましたでごじゃる」

「まだ『ごじゃる』とか言ってんぜ?」


 銀髪のナナは俺の肩に手をポンと置き、

「やだなぁ。無理してコマンダーに付き合ってるんじゃないかー」

 くのやろー。


「無理して付き合うな。それとタメ口になってんぞ。ったく。それに何年経っても相変わらずの格好してんな、お前」

 衛星の裏で初めて会った時と同じ服装、長袖水着姿だった。

 (のち)に聞いた話だが、それはガイノイドスーツと言うらしい。


 ま、連中のユニフォームみたいなモノだ。ついでに言っておくと未来のナナと玲子は同じ秘書課の制服だ。言うまでもないが、俺たちは本来の仕事を抜け出してここに連れて来られたのだ。


 そいつが可愛らしい顔を俺に近づけて、こう言った。

「今日から、ワらシもお世話になりまぁす。よかったろ? コマンダー」

「えっ! 世話って?」


 驚くのはまだ早いぞ。俺!


「鼻の下が伸びちぇるぜ。エロ(ざる)ぅ」


「げぇっ! その声は……。恐怖の帝王さまじゃないか!」

 嫌な予感が渦を巻いて通るが、目を背けるわけにはいかない。たとえ視線を逸らしたって向こうからやって来るに決まっている。


「また、あちょんでやるからな」

 鼻先に回り込んできた球体からクビが引き千切れる速度で視線を旋回させ、俺はナナに向かって喚く。

「おい! 変なヤツがここに混ざってんぞ!」


「ふんっ。しゃる(猿)にヤツ呼ばわりされたくないでしゅ」

「うるせぇ、クソタマ!」

「ちょっと裕輔。あたしのシロタマを汚いものみたいに言わないで」

 玲子は自分がスカート姿だということを忘れて、どがっ、と俺を蹴り倒し、頭上の白い球体には滑々した手のひらを差し出した。


「お帰りぃ。調子はどうなの?」

 手の中にシロタマを迎える玲子。その前で恐怖の帝王は報告モードに切り替わる。


『機能不全は見つかりませんでした。すべて異常無しです。現在W3Cとリンクが切れています。シロタマはスタンドアロンモードで機能中です』

 いつもにも増して冷徹な声に聞こえた。


「あ痛ててて」

 蹴られた腰をさすりつつ、銀髪のナナに助けられながら起き上がる。そこへと未来のナナが朱唇を近づけた。

「あの。ユウスケさん。ピザ屋さんはどこのが美味しいんですか?」


「はぁ──?」だ。


「こんな時に、なに言ってんの? ナナ」

「何も言ってましぇーん」と口を尖らすのは銀髪のナナ。


「お前じゃない。未来のほうだ」


「ユウスケさんにピザを出せと言われて、ワタシが買いに行くことになったんですが、同じなら美味しいのを選んだほうが言いかなって思ったんです」

 俺は頭痛でも堪えるようにして額へ手を当てた。


「あの時、部屋の外に待機していた未来体って、お前だったの?」

「あ、はい」


「このクソ忙しい時にかよ?」

「でも、この時のギンリュウはハイパートランスポーターの充電で、2時間の余裕が有りましたから」


「……………………」


 この話はどこからどう繋がっているのだ。じゃあ、俺や社長の子供時代に飛んだのは、今ここでヘラヘラするほうだと言いたいのか。

 よくもまあ、とんでもない事をいけしゃあしゃあとやり遂げちまうヤツだ。


 キョトンとしたナナがまたもや訊く。

「ピザはどこがいいですか?」

「ピザキャップでも、ドノミ・ピザでも。どこでもいいんじゃね。どうせあの後チンして食べたのは田吾だし……」

 まさかあの時の出題をここで俺が手助けをしていただなんて……。

 あー、過去に戻りてぇ。そしてそんな提案しても無駄だぞって言ってやりてえワ。


『ナナに依頼すれば、その時空修正を実行してもらえる可能性が有ります』と告げたのは報告モードのシロタマ。


「いらねえよ。これ以上ややこしくしたくない」

  

  

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