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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第二章》時を制する少女
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  新たなるミッションの幕開け  

読みやすくするために物語を分断しております。申し訳ありません。2018.06.30

  

  

 ──でもって、転送室。

「段取りは理解しましたな?」とパーサーに念を押す社長。

「はい。スフィアに転送されるナナくんのシーケンスにスクランブルをかけて、一旦、向こうの機関室に送ればいいのですね」

「せや。それでエエ」

「でも、それではスフィアの転送係の人に時間的なずれを察知されて、騒ぎになりますよ?」

「それは私に任せてください。寸刻間違いなくその時間域に戻して転送シーケンスの途切れを修復します」

「そんなことが……」

 できるんだろうな。こいつなら。


 最初に持っていたナナに対する懐疑的な気持ちは、いまや綺麗さっぱり洗い流されており、なんならドゥウォーフの婆さんのように崇め奉ってもいいとさえ思っている。しょせん人間の考えなんて、このように風前の灯、フラフラ揺れ動くモノであるよのう……な。玲子。

「ばーか」

 うーむ。その言葉は、哲学的でさえあるな。



 そうこうして──。

 さっきと同じフロアーの物陰へと身を隠した。時間的に約小一時間後になるが、薄暗い階段の隅にうずくまり肩を寄せ合っていた。


「あいつ、ちゃんと旅に出たいって言いますかね?」

「歴史どおりやから言うやろ。言わへんかったら、えらいことになりまっせ」

 おいおい、あんたが言い切っていいのか?

 時間の流れなんてとんでもなく不安定なものじゃないのだろうか。

 ほんのちょっとの気の変わりや、タイミングのずれが生じて大きく変化するということはないのか。

 もしモタモタしていると、こっちもこのスフィアと一緒にブラックホールへ連れ込まれてしまう。


 緊張で胃のあたりがきゅうっと絞られた気分になった。正しい歴史が流れているとしたなら、そろそろ地面から巨大なカタパルトを引き上げ始めるはずだ。


 過去ナナの手によって、イクトからこの惑星へ飛ばされた後、行くあても無く、地上を彷徨っていた時に初めて目にした人工の建造物が、そのカタパルトだった。三角形の枠だけの巨大な物なのだが、その大きさに度肝を抜かれた。高さ670メートルのトライアングル。


 それが何をするものか、その時はまったく理解にも及ばなかったし、主宰から超新星爆発のエネルギーを利用して次元の地平線を超えるモノだと説明されても、まだ俺たちは眉唾物だと思っていた。


 ところが実際にドゥウォーフ人はブラックホールを利用した超亜空間跳躍をみごと成功させ、3500年もの過去へスフィアを移動させた。驚愕に値するとんでもないものだったのだ。


 そのスフィアの中にいる。そう考えるだけで落ち着かない。



「大丈夫よ。ナナがついてるわ」

 体育座りをして丸めた肩を俺にぶつける玲子。何を根拠にそう明るく答えられるんだ。

「今だってここでデバッガーに襲われたら、俺たちゃおだぶつなんだぜ」

 首をすくめる俺へ社長が答える。

「大丈夫や。そんときは玲子が何とかしてくれる」

 玲子はニカニカと乾いた笑みを浮かべて受け流している。

 もちろんそれは痩せ我慢だし、社長の言葉も本心ではない。



 新型デバッガーとまともに向き合ったが、玲子であってしても手に負えなかった。進化したドロイドは素手で相手できる連中ではなくなっていたのだ。


「ぅぉっ!」

 ついと浮遊感を覚え、次の瞬間には床へ押さえつけられる感じを受けた。

「おいおい。スフィアが離陸を始めたぜ。超新星爆発まであと何分だ?」


「落ち着きなはれ」


 ナナは静かに目を閉じていたが、やにわにあらぬ方向へ見開いて視線を固定した。

「いま、第一因子のドロイドにプログラムがリロードされました。やはり隣の区域にあるスフィアの点火プロセッサーです」

「何で解りまんねん?」

「ドロイドの出すEM輻射波を検知したからです」


 社長は、はぁと息を吐き、

「ほな、これでミッションの失敗が決定的になりましたな」

 そこへ光の球が浮かび上がり、過去のナナが転送されてきた。


「はて? ここは機関室れす……。ありゃりゃ。みなさんもおそろいでぇ。今日はどこへ行かれるんですかぁ?」

 予想外の場所に実体化されて、戸惑った顔を俺たちにくれるが、発するセリフは相も変わらずトンマなものだった。


「おい! こっちの顔色を見てみろ! 駅前で知人と出会ったのにしては緊迫度が違うだろ。これが理解できないのか?」

 怖い顔で言い放つ俺だったが、こいつは平気の平左だ。ぴょんと一歩飛びつくと、

「あっはぁー。コマンらーだぁ。こんにちわー」

 だめだ、誰か代わってくれ。


 時間が無い。ナナはすぐに伝える。

「対策案を決行することになったの。頼むわね」

 未来体が言ったことは事実のようで、トンマのほうが大きく首肯。


「りょうかい、つかまりまつりました」

 何かに掴まって祭ったようだ。


「解ってんのかな?」

 首をかしげる俺の目の前で今度は虹色の光に包まれて消えた。


「26秒前の主宰さんの横に送り届けました」

 と未来体に言われて、ほんの少し頭の奥が熱くなった。

 なぜなら今の26秒のあいだ過去のナナは主宰の横、そしてここで俺たちとも向き合っていたことになる。

 これが重複存在だ。考えれば考えるほどに熱くなるので、頭を振って(ぬぐ)い去り、改めてナナに訊く。


「どうだ? 段取りどおり行ったのか?」

「あの子はワタシですよ。その結果はワタシがしっかりと把握しています」

「ワタシ、ワタシって……あのよ」

 喋り続けようとする俺の腕を引いたのは、社長だ。

「時間がおまへん。確認できたんやからすぐに戻るで!」





 そして再び司令室──。


 ビューワーのスクリーンには、今にも破裂しそうなほどに膨れ上がった赤色巨星の姿が映し出されていた。

「いよいよや。超新星爆発が起きる寸前やろ」


「ねぇ、ナナ?」

 玲子はさっきから同じ質問を繰り返していた。

「あの子にどんな武器を頼んだの?」

 質問はこればっかりだ。武装すると聞いただけで血沸き肉躍る、女暴力団だもんな。


「武器だけではありません。探知装置なども頼まれました」

「頼んだのはお前だろう?」

 と口を挟むのは──ナナがへんな受け答えをするからだ。

「あ。そうでした。頼んだのはワタシで、頼まれたのがワタシでしたね」

「だめだこりゃ……」

 派手に脳みそがグツグツしてきた。


 ナナはにこやかな面立ちのままで怖い宣言をし、かつ不思議な誘いをする。

「急がないとブラックホールに引き込まれます。さぁ、武器を取りに行きましょう」

 自信満々に告げる彼女の言葉に社長が賛同。

「せやな。早よせんと事象の地平線に捕まりまっせ。したらノシイカ状態でっからな」


「行こうって、ナナは今さっき武器を作る事をあの子に伝えたんですよ。どうして、もうできてるんですか?」

 戸惑う玲子に、ナナは困った風に笑いながら説明する。

「レイコさん。過去のワタシはこれから3500年の旅に出るんです。ね、それだけあれば、武器を作るにはじゅうぶんの時間があるでしょ」

「それはそうだけど……」

 納得いかない表情は何も変わらない。


 過去体のナナとここにいるナナが本人であるならば、過去体のナナの行動は自分の記憶となる。ならば──説明できる。

 俺の思いを代弁するように社長が言葉にしてくれた。


「あの子も、この子も同じ人物やろ?」

「ということですよね」

 訝しげな玲子は首を捻りつつうなずく、という首の筋を痛めそうな素振(そぶ)りで首肯。


「ほんなら。ナナにそう伝えた瞬間に、その後の結果まで自分の記憶に湧き出すんや。ほんまに作ったか、どうやって作ったか。どこに行けばそれが保管してあるかまで解る……やろ?」


「でも、このナナは作ってませんよ。作れって伝えただけです」


 進展しない玲子の考えに、

「そうや。そう伝えたことによって、自分の歴史を変えたんや。これも時空修正のひとつや。そうやな、ナナ?」

「はい。社長さんのおっしゃるとおりです。ワタシ自身の歴史をワタシが覆したのです」

「せやがな。自分の歴史をこちらにとって都合のエエように修正したんや」

 社長は自分なりの解釈で答え、玲子は意味不明の顔をする。


「ぜんぜん意味が解らないわ」

 じれったくなって、つい口を挟んだ。

「とにかく深く考えるな。俺だって頭から煙が出そうなんだよ」


 そうさ。ナナが3500年過去に飛ぶのはこのミッションが起きるという結果があるからなのだ。つまりネブラの存在ありきの話になる。武器を作る作らないは、今回の修正での話。それ以前にいろいろ絡むのだ。


「な? 入れ子になった疑問が頭の中を焦がすだろ?」

 問いかけた俺に向かって、玲子は目をつむって鼻にしわを寄せた。


「もう……勝手にしてちょうだい」


 頭の中をリセットさせたようだ。

 こいつを黙らせるにはタイムパラドックス的な話をしてやるにかぎるな。

 これは今後、俺の武器になるかも知れん。


 ナナ。やっぱ武装は必要かもしれないぜ。

  

  

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