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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第二章》時を制する少女
71/297

  過去の未来と未来の過去  

  

  

 機関室の物陰にしゃがみ込む俺たちの視界に、同じ顔をした少女が二人いた。


「どっちもナナよね……」

 ぽつりと玲子がつぶやくのも無理はない。

 一人は俺たちと一緒に、銀龍からここへ転送されてきた未来のナナだ。

 もうひとりのナナは──。

 そう《過去》のナナだという。俺たちを3万6000光年彼方に吹っ飛ばし、自分までもくっ付いて来たあのナナだと……。


 その子が十数メートル向こうで、ドゥウォーフ人の若者とエンジンを掛けようと躍起になっていた。


「これでもまだ疑ってまんのか?」

「むぅぅぅぅぅ」


 額の傷が痛むのはマジで外は宇宙だったという立派な証だが、まだ信じていない俺は、ナナのトリックを(くつがえ)すつもりで付いて来たのだ。するとどうだ。転送された先はスフィアの機関室だった。


 俺の記憶どおりにオレンジの球体が部屋の中央にあり、それを囲むようにして制御パネルが設置され、その後ろは一段低くなったスペースがある。何度も見直したが、寸分たりとも違いはなかった。



 もしもの話をしよう。

 もしもここが本物のコロニーなら、2年前に超亜空間跳躍でこの星域から過去へ飛んでおり、存在するはずがない。まぁ、ここが過去だと言うのなら、あり得ないことも無いがな。でも実際はあり得んよ。ほんと。


 だから俺は、ここで新説を唱えてやる。

 これはSF映画のセットだと、な。そしてあそこで作業をしているのは、ナナによく似たエキストラだ。つまりアルバイトを雇ったんだよ。

 となると、これは相当に金が掛かったトリックだが、スポンサーが玲子ならそれぐらいのことは朝飯前だ。軽トラの運転席と助手席のあいだに鉄格子をはめてしまうぐらいの女だからな。ところであの軽トラは、その後どこ行ったんだろ。



 ま、どうでもいいか。



(ふっ。俺って天才な……)

 ニヒルに鼻を鳴らす。


 なぜか。

 そうここで俺しか持ち得ない記憶が甦った。


 もしこのセットを細密に拵えたとしても、俺の記憶の中にしかない無い物は再現することはできない。


 それは何か。

 缶ビールのプルトップさ。


 機関室までの通路が複雑だったので目印として置いて来たやつさ。ま、最初の一個は玲子もチラ見をしていたが、一つは俺しか知らない場所に置いたし、回収もしていないからまだあるはずだ。


「──ちょっと確認したいことがある」

 社長たちは驚愕の情景に見入っており、俺の動きにかまう気配が無い。だがナナだけが俺に気付いた。

「どこへ行くのか、察しがつきますけど、行っても無駄ですよ」

 俺がどこへ何しに行くのか、こいつにはお見通しだというのか? んなばかな……。


「とにかくすぐ戻る。このドアの向こう数メートル先なんだ」

「早く戻ってくださいね。ミッションはこれからなんです」

 その澄んだ目は何の疑いも無く俺を放任しているが……それでいいのか?


 誰かに見つかったらとか、楽屋裏を覗かれたらとか、そういう懸念は思い浮かばないのだろうか。


 首を捻りつつ、そっと半開きになっていた扉の隙間から外に出てみる。

「むおぉぉ……」

 感心したぜ。よくできたセットだ。ちゃんとコロニーの機関室周辺を再現してある。ディテールもばっちりだ。


 おお。この角まで……すげえ。鋭角でなく丸くなったこのコーナー。この向こうの床にちょっとしたへこみがあってそこにプルトップを置いたんだ。


 身を乗り出して向こう側へ視線を落とす。


「おいおい。あるじゃないか……」

 声を出さずにいられなかった。


 記憶のとおり、へこみにちょこんとプルトップが置いてあった。まるでここに置いてくださいとばかりに丸く削れていたへこみがあったのを覚えている。


 そっとつまみ上げ、じっくりと観察する。

 間違いない。あのときのプルトップ……と同じプルトップだ。こんなものは酒屋へ行けばいくらでも手に入るので、これに関しては鼻で笑ってやれるのだが、ここに置いたことは誰から聞いたのだろう。


 少々気になったので、持ち帰ってナナを問い詰めてやろう、とポケットへ忍ばそうとした時だ。

「ダメですよ、ユウスケさん。そのプルトップはワタシが(のち)に過去のユウスケさんのポケットへ入れなければいけない物です」


「うだぁぁぁぁ!」

 肩越しからナナに取り上げられた。


「脅かすな、ナナ。大声出しそうになっただろ」

 出しちまったけど。


「おかしなことを言うな。俺は最初からポケットに2個のプルトップを持っていたんだ」

「残念でしたぁ。入れたのはワタシなんです。だって今どきプルトップが外れるアルミ缶ってないでしょ?」


「うっ……」

 言葉がねえ。

 確かになんでこんな物がポケットに入っていたのか、ずっと疑問に思っていたのだ。


 黙りこけた俺を見て、ナナは愉悦に浸りながら謎の笑みを浮かべた。

「それとね、ユウスケさん。ここにプルトップを置くように、へこみを作ったのもワタシなんです」


「ぬなっ!」

「床の表面をこういう形にしておけば、必ずここに置いて、この時間域にまた確認しに来るだろうと……ね? 来たでしょ?」


「それって何を意味するのか理解して俺に告げてんのか? すべて最初から仕組んであったということだぞ!」

「ずっと言ってますでしょ。ワタシはどの時間のどの場所にも移動ができるんです」


 そしてにっこり笑ってこう言った。

「大きく歴史からはみ出さない限り、ワタシの自由に時空修正をしてもいいという許可も得ています。だからそのプルトップもそこに置いておかないと、これから数時間後、過去のワタシが拾って再び過去の裕輔さんのポケットに戻すときに齟齬(そご)が発生するの。それがこの歴史の時間規則なんです」」


「………………………………」

 とんでもないことを暴露しやがった。となるといったいこのプルトップはどこから発生たんだ?

 あー。プルトップなんかどうでもいい。こいつのトリックを(あば)いてやろうとしたのに、新たな事象が吐露されて、また訳がわからなくなった。


 じゃあ、俺がここに来る、つまり過去のナナと機関室に来ることは誰かの作られたシナリオの(もと)、誘導されたのか?

 そうだとしたらさらに不可解なことになる。過去のナナはそれを知っているのか?

 あるいはもしここで、俺が大声を出して村へ戻ったらどうなる。この時間帯だと、たしか社長らと一緒になって地上でドロイドに囲まれていたはずだ。



「とにかく次のジャンクションが間近です。みんなのところに戻ってください」

 ナナはそう促し、プルトップをへこみに入れるとリングの部分を壁側に向けて置いた。

「あ……っ!」

 向きまで俺の記憶どおりだ。こいつはそこまで知っていたのだ。


 魂が抜けたようになった俺の背を押して、ナナはもとの場所へと戻った。



「なんや? どこ行ってたんや?」

 と社長に聞かれたが、

「便所……」と答えるのが精一杯だった。


「ホンマ、緊張感の無いヤツやな」

 とんでもない、尻子玉(しりこだま)まで抜かれてますよ。



 ナナの言うことがすべて真実だと……たとえばだが、仮定しよう。


 俺の横で物陰からエンジンルームを窺うナナは未来の姿。あそこでエンジンを掛けようとしているのもナナだとしたら、2年前の姿になる。だがこの後、あの子はスフィアと共に3500年過去へ飛ぶ、そして──。


 もう一度ゆっくりとこっちのナナに視線を合わせる。

 こいつはそれから3500年の時間を経過させて、さらには450年未来で時間渡航の装置をつけてやって来たと言った。


 思いっ切り頭を振った。

 どう考えても俺の脳髄が納得してくれない。4000年近くも隔たりがある者が同時に存在する。あり得ない……。


「やっぱりしんじられない……」

 独り言を漏らす俺を社長が睨む。

「まだゆうとんかい。だれがこんなもんに銭を掛けるヤツがおるねん」


「玲子あたりが、社長の誕生日サプライズとしてさ」

「アホ。ワシの誕生日はまだ半年先や!」


「むぉぉ……」


 ここがセットかどうかは二の次にして、まずは同じ人物が二人存在するという現象さ。

 残念だったな、ナナ。お前らが人間じゃねえおかげで何とでも説明ができる。


「お前らはアンドロイドなんだから、同じ顔したヤツがたくさんいても不思議じゃない」

 これでどうだ。いいところに気付いただろ。


 そしたらナナは、

「ワタシたちは学習型のシステムです。稼動している環境に順応していきますから。性格とか癖とかが出てくるんですよ。なので最初は同じような容姿振る舞いですが、そのうち少しずつ表情なんかも変化するものです」

 頬を撫でる黒髪を後ろに払いながらそう言い放つ姿の自然なこと。


 煌めく黒い瞳に息を飲みつつ、

「にたような環境はどこにでも転がってるものさ。言い訳にもなっとらん……」


 あくまでも否定的な俺に、社長は眉根を寄せた。

「おまはん、どこまで頑固やねん」


 ぶっきらぼうな口調で言うと、顎を突き出した。

「ほな、あれはどう説明しまんねん?」

 過去のナナに寄り添っていたドゥウォーフ人がこちらへ(おもて)を見せていた。


「ぬぉーーっ!」

 網膜に飛び込む衝撃的光景。思わず目を見張る。

 あの顔を忘れることはない。航行技術クラスのトップエンジニアで、グリムだ。間違いない。


 どうだ、的な目で見るハゲ親父に返す言葉が無く、それでも、

「に、似ているだけで別人だと思う」

 社長はアホか、のひと言で俺をいなし、背中を向けた。


 突然、足元が激しく揺れた。これも記憶にある。スフィアのエンジンが点火する時の振動だ。


 目の前約10メートル、コンソールパネルに張り付く暫定、ナナ。トンマでバカのほうだ。

 そして青白い泡が踊るオレンジの球体。オミクロン分子が生成し始めたのが見て取れる。

 何もかもが俺の記憶のとおりだ。漂う気配も吸い込む空気までも、あの時のままだった。


「マジかよ……」

 溜め息とも声とも言えない俺の言葉に玲子が反応した。

「あなたも往生際が悪いわね」


「お前はこの状況をどう思うんだよ?」


「よくわかんない。でもナナの言うことは信じる」

「けっ。よくあるオンナの結束か? なんでお前ら手を繋いで便所に行くんだ?」

「ぷっ! 手なんか繋がないわよ、バカ! それよりトイレの陰からじっと見てるワケ? ヘンタイ!」

「ば……バカなこと言うな。誰が見るか! ただな、よくきゃあきゃあ言いながら歩いてんのを見るからな」


 社長は、世界一間抜けな人間を見るような目をした。

「おまはんらな。ようこの重要な局面で、それだけくだらん話しで盛り上がれまんな」

「あ、いや。思い立ったことを口から出したら、こいつが噛みついてきただけでして……」


「あれはな、女性どうしのコミュニケーションや。かならず化粧道具も持って行くやろ。あーやって他人と比較検証して情報交換とかしとんのや。ええか、化粧品小物の流行りを予測するのは観察からや」


 観察って……あんたもヘンタイの一人か?


「あなたとは目線が違うわ! 最近化粧品部門の成績が好調なのは、月に2回、化粧室内で女性どうしの会議を開いてるからなのよ」

「女便所イコール猿山みたいなもんだな。それにしてもうちの会社は電気屋だろ?」


「儲かるんやったら、なんでもやるデ」

 やっぱし…………。



「あの……みなさん。こちらに集中してもらえますか?」


「ほんまや。裕輔がしょうもないことを言いだすからや」

 なんでも俺のせいにしやがって。


「あなたもいい加減、事実を認めなさいよ……」

 玲子は俺をギンと睨んで捲し立てた。

「だいたいね! あなたは余計な話を振って現状を誤魔化そうとする癖があるわよ」

「いや、そんな気は無いんだけどな……」



 一旦整理しよう。

 ここまで完璧に過去を再現したうえに、同じ顔をしたナナが二人いる。しかも顔見知りのグリムもそこに存在する。


 どう考えてもこれは事実だと認めたほうが簡単に説明できる。逆にこれ全部が作り物だとする説のほうが無理がある。

 なら。これは真実か。2年過去の3万6000光年彼方の、あの惑星、そしてスフィアの機関室。その陰に俺は立っているのだと。

 確かにすっきり整理できた。


 のに、

「釈然とせんな」

 わだかまりが残るのは、やはり二人のナナだ。


「こうゆう現象がおますんやな。これはどう説明しまんの?」

 ちょうどいい具合に俺の質問をケチらハゲが訊いてくれたので、視線をこっちのナナに移す。まったく同じ顔をしており、思わず目頭を押さえたね。



「同じ時間に存在時間の異なる同一人物がいますので、異時間同一体といいます」

 と言って自分の胸元に手を当て、

「ワタシが未来体で、あそこのワタシが過去体になります」


 再び部屋全体が揺れた。

 向こうのナナが点火ボタンを押したのだ。手の動きを見ていれば解る。


 エンジンは低い唸り音から無限音階みたいに、ゆっくりと周波数を上げていく。緩い振動が徐々に激しくなり、快調な兆しが見えそうになったところで──突然の無音。静けさが広まり向こうのナナが首をひねる。


 手に持っていた長さ5センチ足らず、水色の薄っぺらな長方形の物。あれが点火チップだ。残り2枚。

 1枚をコンソールのスリットへ差し込み、パネルの上で指を躍らせて点火タイミングやら燃料の混合比などを調整。


 そして点火ボタンをもう一度プッシュ。


 どんっ、という腹に響く音と共に振動が激しく持続する。そしてそのまま維持。順調に振動は安定し、起動音が甲高くなった。

「始動しちまったじゃないか」

 俺のつぶやきとグリムが目を輝かせて、部屋を飛び出して行くのが同時だった。


 だが未来体のナナが静かに首を振り説明する。

「この時、ワタシも上手くいったと思ったんですけどね……」

 エンジン音はますます甲高く好調になる。振動も微細になりインジケーターは良好な数値を示しかけた、次の刹那。忽然と静寂に落ちた。


「ああぁぁぁん」

 あっちのナナの落胆した声が渡って来て、

「ほらね。失敗でしょ?」

 こっちのナナが俺の顔を覗き込む。

 視線を振り回すのでめまいがした。


「これで点火チップはラスト1枚でっせ。どないしまんのや?」

 社長の問いに、こっちのナナがすくっと立ち上がり、

「行きましょう。今がその時です」

 泣きそうな表情を浮かべる向こうのナナへと、俺たちは走り寄った。



 ここからさらにややこしくなるので、ひとまず機関室に元からいたほうを過去ナナ、あるいはトンマと呼び、俺たちをここに連れて来たほうを未来ナナ、あるいはたんにナナと呼ぶぜ。



 一瞬驚きの表情を浮かべた過去ナナが後ろに数歩退いた。俺たちを見つめた後、しばらく戸惑って動揺に震える視線を彷徨わせていたが、すぐに平常に戻り、人懐っこい潤んだ瞳を色濃くさせた。


「ワタシが誰か解るよね?」

 リボンで結った長い黒髪をなびかせて、未来ナナが尋ねる。


「あ、はいぃ。識別用のEM波が出てますから、ご同業の方だと判断できますけどぉ」

 途中でナナは銀髪ショートヘアーをかしげた。

「はて? なんだかちょっと変ですねぇ」


「変なのはお前の頭の中だ。あの時とちっとも変わってないな」

 黙っていようと思っていたのだが、我慢できなかった。


「あらら~。コマンダぁでごじゃりますか?」

 いきなりぺこりと頭を上下させ、

「こんにちわー。おんやぁ? どうしたんでごじゃります? ギンリュウさんちへ帰ったのじゃないんですか?」


「こ……こら、言語品位のレベルを下げるな。レベル2を維持しろ。俺が恥ずいだろ!」

 あの時のままだ。はっきりした。ここは過去のコロニーだ。

 こいつのトンマが本物だと認めたことで、ここが真実だと思えたのがどこか悲しいがな。でもマジでこんなのが今のナナに変身するのか?


 未来のナナは苦笑いを俺へと浮かべ、目の前のトンマには優しげに言う。

「その点火チップをワタシに貸してくれない?」

 過去ナナは。「あ、はい」とうなずいておきながら、

「あ、いやいやいや。だめですよぅ。大切なドゥウォーフさんのエンジン点火チップでごじゃりますから」


「お前じゃ始動できないんだ。だからこの人に代わってもらえ。これはコマンダーからの命令だ」

「そんなことありません。あと数枚あれば確実にテトリオンサイクルが始動しますよ」


「そりゃあ、わかる。でもな予定より早めに出発しないと、後でとんでもないことになるんだよ」


「でもぉ。見ず知らずのガイノイドさんですよぉ……」

 と口を尖らせるものの、いきなり黙り込んだ。

 きょときょとした丸い瞳を未来のナナへ固定して、頭の天辺からつま先まで移動させてじっくりと観察していたトンマは、首をねじりながら疑問を漏らす。

「EM干渉波がまったく同じれす。なぜでござる?」

「オサルはお前だ。バカ」

 過去ナナは、くにゅんと首を傾けたまま、きっかり3秒間──だと思う──固着した。


「よく聞いてね。ワタシとあなたは時間域の異なる同一体なのよ」

 容姿以外に鼻にかかった甘えたような声音はどちらも同じなのだが、言葉遣いは未来体のほうがずいぶん大人っぽい。

 トンマのほうは一瞬、目を丸くして体を反らし、再びキョトンとした。


 いやしかし、二人のナナが並ぶ光景はとても不思議だった。

 髪型と口調は異なるが、顔つき体格、プロポーションなどはまったく同等の少女が二人並んで、双子にも見れるがそれも違う。互いに本人どうしなのだ。この関係、考えるだけで頭から煙が出る。


「………………………………」


 しばらく時が流れ。

「あのぅ…」

 過去ナナが目を瞬かせた。

「時間航行はまだ不可能れすよぉ」


 あぁぁぁ、じれったいぜ。


「ほらEM干渉波が一致するということは……ね? 解るでしょ?」

 銀髪のナナは首が折れたのかと思うほどカクンとうなずき、

「EM干渉波、および輻射波は生命体の指紋と同じでアンドロイドどうしであっても一致することは有り得ましぇーん。 一つを除いて……」

 再び言葉を途切ると、あの時とまったく同一の愛らしい瞳を丸くし、玲子の方を見てみたび止まった。


 あ~~。イライラ、イライラ、イライラするぜぇ!

 頭皮に悪いが、爪を立てて掻き毟りたい衝動に駆られる。


 玲子も同じだ。じっと見つめたまま固着した銀髪少女の肩を激しく揺すり、

「ひとつってなによ。ほら、早く答えなさい」

 トンマのナナは玲子に揺さぶられるがまま、身を任せて、

「あわ、わ、わ、わ、わ、わぁ」

 首の付け根で頭をガクガクと揺らされた後。

「あぁー。はいはいはーい」

 ようやく手を振り上げて了解の意思表示をした。


「EM波が完全に一致するとなるとぉ、それはワらシ自身でーす。ということで、この人わー、ワらシの同一体ですね。同一体がここに存在する理由は一つ。時間域が異なるという結論になりまーす」


 誰に向かって説明したのか、その方向にはエンジンルームの壁があるだけだが、やっと柔和な表情に変わり、

「レイコさーん。お久しぶりれす。お元気でしたかぁー? あっ!」

 俺に丸い目を大きく開いて見せ、派手に驚きやがった。

「コマンダぁーだ。お久しぶりです」


 ずりっ、

 こけたね。社長といっしょに思いっきりこけたね。コントロールパネルの角で頭をぶつけるところだったぜ。


「この、バ、カ、や、ろ、め。さっき俺だと認めたじゃねえか。お前には記憶力というモノがねえのか!」

「だってぇ、さっきのはコマンダーの過去体だと思ったんでごじゃります。でも今は未来体だと認識しとるでござる」

「慌てるなぁ! 言語マトリックスのレベルを落とすな!」

「あ、は、はーい」


 疲れる──。

 こんなトンマな奴が3500年経つと、こっちのナナみたいにしっかりとしたガイノイドになるのか?

 見ると、ナナはずっと苦笑いの状態を崩していなかった。

  

  

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