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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第一章》旅の途中
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ようこそ宇宙(そら)へ【前編】

少し書き方を変更しています。

  

  

 ブレインタワーの会議室で社長が散々弄ばれたのは、裏でシロタマが藩主を操っていたのが真相だった。

 あいつの言葉に直して伝えるとだな、

『ゲイツみたいなおしゃるさんにまかせていたら、お金ばっか取られて何の効果もなくチンタラ帰って来るだけでしゅ』


 さすがに藩主も旧友の社長をそこまでけちょんけちょんにコケ落とされたら反論もしたいだろ。

『そこまでいうことはないと思うぞ、シロタマくん。あいつはやる時はやる男じゃ』


『どーだかね。イクト行って何も調べず、地表の砂でも持って帰って来るのがしぇきのやま(関の山)でシュよ』

 うーむ。案外的を射ているかもしれない。


『それよりシロタマが経費をかけじゅ、最新テクノロジーの装備にしてあげるでシュよ』

 てな感じで突き通されたに違いない。




 で、シロタマの手によって改造された銀龍が、まもなく俺たちの目の前で披露されるというシーンに戻ってくるわけさ。


「主任、聞こえまっか? ゲイツや。格納庫を開けてくれまへんか?」

 ビルみたいにでっかい扉の前に付いた小さなインターフォンへ向かって名を告げる社長に声が戻る。

『お早いご到着ですね』

 あの会議で技術主任として出席した男の声に間違いなかった。


「そらそうや。ワシのアイデアをことごとく蹴散らしてくれた、くそタマのお手並み拝見や。悔しゅうてオチオチ寝てられるかい」

『その節は……お気の毒様です。すぐにゲートを開けますので少々お持ちください』

 主任は心底気の毒そうに言うとすぐにゲートを開けてくれた。重々しい音を放って巨大な扉に縦筋が走ると、眩しい光が噴き出してきた。


「す……すごーい」

 最初に響いたのは、色気がにじむ玲子の感嘆の声だ。

 次に聞こえたのは社長で。

「な、何やあれ!」

 続いて機長。どこの国の言葉か知らないが、思わず口に出す。


「おーマイガ……」

 だろうね。美しかった機体が台無しだ。


「……………………」

 田吾は言葉を失い、パーサーはそれでも何とかセリフ絞り出した。


「あれが量子ディフレクターと呼ばれるもんですか?」


 どこが改造されたかについての説明は先に伝わっているようで、パーサーや社長は真っ先にそこへ目が行ったようだが、素人の俺からしても明らかに異質の物だった。


 流線型が最も美しい形をしたのが銀龍だ。機長の自慢がまずそこさ。それと鏡面仕上げの美しいフォルム。この両者が揃って舞黒屋の銀龍だと言える。マジでカッコいいのだ。


 それなのに、異質な物体はその最も美しいスタイルを根底から覆していた。


 尖った先端から少し後部に下がったあたりに取り付けられた、横に押しつぶした巨大な三角帽子みたいな楕円放物面の物体だ。しかもその丸い底面が進行方向に向けられていたため、銀龍を正面から見ると、口を開けて翼を広げた間抜けなアヒルのようだ。


「おーマイガー。ワタシの銀龍が……」

 持ち主は社長なのだが、銀龍ラブは誰にも負けない機長のだ。


「ど……どういう理屈からこんな形になったんや……」

 社長も信じられない様子。


 そこへ悠々と宙を移動してきた銀色の球体がいけしゃあしゃあと自論を述べた。

『空気の無い宇宙では、機体が流線型である必要はありません。本来なら翼も必要ありませんが、大気中を飛行することを考慮して、今回は排除しませんでした』


「これはなあに? とんがりお帽子を逆さにしたみたいね」

 ぶさいくなディフレクターを見せつけられて何も言えなくなってしまった関係者に代わって、機械音痴の玲子が質問した。


 見たって解らないクセに、巨大な物体の中を覗き込み、

「あ、キレイな青い板がたくさん並んでるわ」

『ブルーのプレートは重力子を放出する量子フィールドエミッターです。光速飛行における必需品で、重力子を進行方向に放出して、迫る微粒子やデブリなどを弾き飛ばす役目をするものです』


「デブリって?」

『宇宙に漂うゴミです』

「あは。掃除機みたい」

『それでは吸引になります。そうではなく、ディフレクターは放出します』

「掃除機のお尻みたいね」

『…………』

 説明する側は量子物理学の最先端を理解するシロタマなのに、対して質問する側は幼稚園児にも劣る玲子である。全くかみ合っていない。


 堪らず代わって質問をしたのはパーサーだ。

「そのディフレクターの反動がイオンエンジンの抵抗になるのではないのですか?」

 結構専門的に突っ込んだ質問だった。


 しかしどんな難解な質問が浴びせられようと、シロタマは揺るぎないのである。


『重力子は物体にしか反応しませんので、何もない真空の宇宙では反応することはありません。ただ速度がさらに高速になると真空中に存在するわずかな水素原子が障害になりますが、ディフレクターは水素原子を跳ね飛ばします。そしてこの装置のもっとも優れているところは、逆に巨大な物体になるほど強力なブレーキとなって衝突を防ぐことです。極端な言い方をしますと彗星などとの衝突は有り得ないことになります』

「じゃあ、衛星イクトに墜落なんてコトはないということダスか?」

 横から口を挟んだ田吾へ、シロタマが身体を回転させる。

『物体が巨大になるほどブレーキがかかります。衝突コースを取ったとしてもディフレクターが機能しているあいだは物体に激突することはなく、逆にそれからはじき出されることになります』


「もうええ。能書きはそこまでや。ほんでいつ出発やシロタマ?」


「今からだよ」

「今?」

「うん。全部準備ができてる。すぐに乗って」


 さっさと搭乗口へ行こうとするので、

「ちょ、ちょっと待て、俺は心の準備が……」

「かまへん。さっさと行って、さっさと帰って来るんや。もたもたするだけ無駄な経費が流れ去るワ」


「俺はそこまでドライな考え方は……あーちょっと。れ、玲子引っ張るなって!」

「うだうだ言わないで、さっさと乗り込むのー」


「俺は腹が減ってるんだ。いったん食堂へ行こう、出発はそれからでもいいじゃないか」

 反対側からは、社長が俺の腕をグイグイ引っぱり、

「向こうへ行けば何かあるやろから、辛抱せい、裕輔」

「うひゃぁぁぁ……田吾助けてくれ、俺は拉致られて宇宙へ行くのは嫌だ!」


「うるさいわね! 行くったら行くのー」


 有無を言わず、俺は銀龍の中へと放り込まれた。

  

  


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