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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第一章》旅の途中
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ドロイド殲滅に燃えるハゲ

 

  

 色々あったが、ひとまず一段落。俺たちは与えられたテントに戻り、嗚咽を堪えつつ遅い朝食を口に押し込んでいた。とにかくとても食事とは言いがたい光景だった。


「あー。トーストとコーヒーが飲みたいわ」と玲子が溜め息を吐き、

「俺は暖かいスープだな」

 ナナは横に立って、ニコニコしたメイド顔で、

「これで何か作りましょうか?」

 銀色のティーカップに似たエマージェンシーキットと呼ばれる装置を出してきたので、二人そろって目で重圧を掛けてやった。


 ナナは俺たちの態度にビックリして、キットを背中の後ろに引っ込めた。

「このキットは分子構造さえそろっていれば、何だって作れちゃう優れ物なんでれすよー」

 理解できない、てな表情で小首をかしげるので言ってやる。

「ここの水を使うかぎり、俺たちの口に合わない物ができるんだよ」

「核力の問題でっかな?」

 シロタマと向き合っていたスキンヘッドが顔を上げる。


『光速より速いものが存在しないのと同じで、物理法則は同一宇宙内ですべて同じなのが定説です。しかし水の分子がこの惑星で異なる挙動を起こすことに関して、現時点ではデータ不足です。説明できません』


「ほぉかぁー。おまはんが解らんちゅうんやから、謎やゆうことで済ましときましょか。ほんでどないや。ドロイドのプロセッサに侵入できそうでっか?」


『ステージ4を使えば理解はより簡単になります』

 と聞いて、俺は急いで席を立つ。


「さぁって。腹ごなしに畑の仕事でも手伝いに行くかな」

「なんや裕輔。そないなことになってまんのか?」

「いや。そうじゃなくてさ。これからここの人らのお世話になるのなら、田畑の仕事を覚えなきゃならんだろう? 毎日が開墾の日々だぜ」


 ついとナナが首を伸ばし、

「カイコンの日々? 何か悪いことしたんですか?」

 たたた、と駆け寄って来て相も変わらずトンマな質問だ。


「バカヤロ、悔恨じゃない──なんで毎日懺悔しなきゃならんのだ。開墾だ。開墾。田畑を耕したり、山の木々を伐採したりして人が住めるようにするんだ。新しい星へ行ったら忙しくなるぜ」


「そんなことを考えてるの?」

 ナナは解ったのか解らないのかキョトンとし、玲子は驚きを隠せない様子で問い返してきた。


「だってよ。もう救助は見込めないだろ。3万6000光年だぜ。光でさえ到達するのに3万6000年掛かる距離だぞ。現実を見つめてみろよ。これが正解さ」


「あたしはあきらめないわよ」

 きっぱりそう言うが、こっちだって色々思うところはある。


「どうぞご勝手に。でも、言っとくけど俺もあきめたんじゃない。考えを切り替えようとしてるだけだ」


「まぁ。ええがな。裕輔の考えも玲子の気持ちも解らんでもない。とにかく今できることをするのが正解や。ワシはどの道やらなあかんコトを優先させるデ。このスフィアにおるドロイドを殲滅させたるからな」


 社長は床に横たわったドロイドの上半身を顎で示して、

「ここに活きのエエ献体がおますやろ。こいつを調べて弱点を探りますんや。ほれシロタマ。ステージ4を起動しなはれ。ワシの脳とそいつのプロセッサと直結させるデ」


「よかった。俺が餌食になるのじゃないのか」

「当たり前やろ。おまはんにそれなりの知識があるなら任せるけど。バグだらけのプログラミングをするヤツにこんな重要な仕事を任せられまっかいな」

 バカで助かったよ。


「「……………………」」


「なに見てんだよ」

 白い目を向ける玲子とナナの表情がまったく同一だったことに一抹の驚きを見せつつ、俺は気が休まる気分に落ち着いた。

 あの気持ち悪い神経インターフェースは二度とゴメンだ。





『プロセッサ中枢部に接続しました。パワーを入れます』

 ドロイドから軋む音がして、垂れていた腕に力が入り、肩のところに取り付けられていたレーザーポインターと頭部にある2個の赤いドーム状の光源が点灯した。

「ぉお、トランスオプティックデータリンクやがな。ボディ内では光通信で、外部とは超低周波(ELF)帯通信でっか。ほぅ。これでリンクしあってあいつらデータを共有してるんやな。これが主宰の言ってたデータリンクか。ほんま、こりゃ気づかんわな」


『他のドロイドとはまだリンクしないほうが賢明です。こちらの正体が知れる恐れがあります』

「大丈夫や、抜かりはおまへん。ところで超低周波通信って何か利点がおますんか?」


『鯨などが超低周波通信を使って、仲間どうしで長距離通信を行っています』

「水中なら分るけど、空気中やで?」


 目を閉じ、わずかの思案ののち、再び社長が目を開いた。

「そうか、地面や! 地面を通して別のスフィアと通信し合ってたんや。せやからこいつらの反乱が見抜けへんかったんやデ!」


『通信速度は遅いですが、電磁波の影響も受けません。ただ宇宙空間での挙動はデータがありませんので不定です』

「あいつらには宇宙に出て欲しないな。さらに厄介なことになるデ……」


 不気味な機械音がして、ドロイドのレーザーエミッターが小刻みに動いた。

「うぇっ! ちょ、ちょっと」

 エミッターの先っぽが俺を示すたびにビビるのは、さっきまで散々そいつに狙われていたからである。


「……これがレーザースキャンシステムでっか。赤い目玉の部分が視覚システムや思っとったけどちゃうんや」

 淡々と説明しながら、筐体を動かしているのは社長で、スキンヘッドに神経インターフェースポッドと呼ばれる銀色のベルトが貼り付いて、その先はシロタマの内部に入り、新たなポッドがドロイドの中枢部と接続されている。これで社長の脳神経とドロイドのプロセッサがシロタマを介して直結になり、思うがままに動かせるのさ。


 この状態を維持させるのが、シロタマのステージ4と呼ばれるよく解らないカラクリだ。俺の脳からナナに言語マトリックスをダウンロードさせたのもこれだ。マシンと人間の仲介(ちゅうかい)をするマシンと言ったところかな。


「ふーん。なるほど。レーザー光を反射させて戻って来た光のスペクトルから物体を識別するんや。それにしてはレーザー光の波長の分解能力が知れてるデ……あ、それであいつら動きが鈍いんや…………ん?」


 閉じていた社長の瞼がぱちりと開いた。

「これはすごいがな。ビット幅に余裕がある。拡張されたらエライことになるがな」


 いきなりレーザー光が眩しく輝いた。激しく色が変化し、外から見ると虹色だ。

「せやけどなんでこの部分が使われてないんやろ?」


 社長の独りゴチは続き、一拍の後。

「分った! ドゥウォーフの人らはこの部分の知識をわざと与えてないんや。知られたら一気にこいつら進化しよる。きっとえらい犠牲を払って、これだけは教えんかったんや」


「犠牲って、どういうことっすか?」

「連中に探られる前に死を選んだんちゃうかな。そうでもせんと強制的に抜き取られるやろ」

 ぞぞぞ、と背筋が寒くなった。捕まったが最後、知識を抜き取られて葬られる。抜き取った知識を利用してドロイドはさらに進化する。

 ならば抜き取られる前に自らの命を絶つことだ。そうすればヤツらの進化は止められる。言葉にすればたやすいが相当な覚悟が無いとできない。



「おぉ。パルス幅を10フェム、色波長を492ナノメートル(青色から緑色の周辺)にすると、シロタマ、おまはんが見える」

 興奮気味に、聞いたこともないテクニカルタームと単位を並べ立てた社長の言葉に続いて、レーザー光は青竹色に輝き、シロタマのセンターを正確に指し示した。白いボディに当てられた緑の光点が鮮やかだった。


「スキャンビームはまだまだ絞れまんがな」

 独り言は興奮気味になり、シロタマに当てられていた直径1センチほどの光点が針の先ほどに縮まり、ゆっくりと右へ動き出した。

 物体を破壊するほどの高エネルギービームから極細の索敵ビームまで、柔軟に移行できるとは驚きだ。


「こんな小さな光点……。建物の隙間から侵入されたら絶対気付かないぜ」

 息を詰めて見つめる俺の前で、緑色の光点はシロタマのボディを外れ、床を移動すると、玲子の膝を通って俺の胸で静止した。


「しゃ、社長。平気っすか? 撃たないでくれよ」

 心臓のある位置から動かないので、気が気でない。


「ははは。心配ない。パワーレーザーのエミッターは壊れとる。せやけど理解できたデ。電磁パルスはこのレーザーのパルス変調から出とる。ほんで個々の周辺データを付近にいる筐体と共有して、自分の行動パターンを解析して決定するんや。その時に使うんが固有のフェーズ周波や。他の筐体と区別するための鍵になっとる。そうせんとどれが自分のデータか解らんようになるからな。うん、これは使えるデ」


 何かを思いついたらしく、社長は微かに赤みを帯びたスキンヘッドを平手でぺしゃりとやり、みたび瞼を開いて言う。

「こちらから常に変化するフェーズ周波を放射したら、自分のデータと他人とが混ざり合って、ムチャクチャに動きまっせ」


 頭からインターフェースポッドを外した社長の視点は遠くを見ており、頭の中で色々な思考を練り込んでいる様子。ほどなくして焦点の合った目を俺にくれ、にやりと笑んだ。

「もう一丁思いついたデ、裕輔。このパルスを探索するレーダーを作れば、どこら辺にあいつらが潜んどるのか、何匹おるのか、丸見えにできるワ」


『その計画は有効です』

「よっしゃ。主宰はんからパーツを貰って、簡易的でエエから拵えようや。タマも手伝いなはれや」

 もの作りを始めると、とんでもない集中力を見せる社長だ。こうなるともう止めることはできない。


 俺と玲子はそろって腰を上げ、

「それでは私たちはその旨、主宰に知らせて来ます」

 玲子は社長に向かって秘書の顔。


「行くわよ、裕輔!」

 俺には特殊危険課の上司然として振る舞い。俺は玲子の切り返しの良さに肩をすくめ、ナナを立たせる。

「ほらよ。お前もここに居るとじゃまになる。出るぞ」


「あ、はーい」


 俺たちはジイさんのいるテントへと移動した。




           ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆




「おほぉ。さっそく新しい風が吹き始めたんじゃな。なるほど、行動を乱す……か。ワシらは破壊することばかりを考えておった」

 と言って自分の住居から出てきた主宰は使いを走らせ、俺たちのテントに必要な部品や工具を届けさせる手配を終えると、やんわり振り返った。


「準備はいかがですかな、白神様?」

 クセになった振る舞いで白ヒゲをしごき、優しげな青い目でナナを窺うが、

「あ……はい?」

 ナナは疑問を混ぜた返答し、俺に「何のことだ?」と言わんばかりに戸惑った顔をして見せた。


「お前、記憶デバイスにネズミが入り込んでんぜ」

「えっ?」

 丸い目を見開いて、銀髪のショートヘアを振る。

「どうしましょ。すぐに頭部のゲートを開けますから、コマンダー、追い出してくらさい」

「バカヤロ。本気にすんな」

「こいうのはジョークって言うのよ」玲子まで呆れ口調だ。


 俺は(ほう)けながら肩を落とす、という不可思議なリアクションをしながら伝える。

「エンジンだろ。お前がエンジンを起動できなかったら、神様からただのマトスに格下げになるんだよ」

「あー。そのことですか。ワタシにはどうでもいいことですけどね」


「おいおい、待ってくれ」

 主宰が急いで割って入った。


「悪いが、民の前ではそのセリフを口にしないでほしい。お主がたとえエンジンの起動ができんでも白神様の役を下りんでいて欲しいんじゃ」


「でも後でがっかりさせることになりますよ」とは玲子。

「かも知れん。じゃが今日の観測ではっきりした。もうガイヤ(この星の太陽)は限界じゃ。民の結束を固めんことには出発ができん」

「そうなったら否応なしにでもエンジンを掛けなきゃダメだろ。もし起動しなければ一巻の終わりだぜ?」

 俺がこんなにも危惧しているのに、主宰がそれほどでもないのはどういう理由だろう。


「今問題になっておるのは、超亜空間跳躍に必要なオミクロン分子の生成ができんことじゃ。通常航行はできる。まあ、そうなると目的地まで数千年は掛かるじゃろうがな。なに。スフィアで生活するだけじゃ。これまでと何も変わらん。そんなことは計算の内じゃよ」


 とは言うものの主宰は悲しげな表情を浮かべた。

「もっとも。そうなるとワシが生きておるうちに新天地を見ることはできぬがな……。それよりゲイツさんも動き出してくれておるんじゃ。ワシはどんなことをしてもこの子を白神様として敬う。じゃから今の話は内密に頼む」


「いや。頭を下げられても」

 村人を騙すことにはなるが、良い結果で終わるのであれば反対する理由は無い。俺と玲子はそろって首を縦に振り、ナナはとぼけた顔をして俺たちを見ていた。



 一刻ではあるが、穏やかな空気に戻った村の中は静かで、壁の外に数千の悪魔が潜んでいることなど微塵も感じられないほど平和な景色だった。


 温かみを増してきた人工太陽は地面を煌々と照らし、地中から漂い昇る陽気に誘われて小さな昆虫がふわふわと乱舞。その中を灰色と白の布で拵えたワンピースの裾を風になびかせてスキップを踏むナナの姿は俺たちの前で光り輝いて見えた。



「白神様じゃ……」

「マトス様だ」

「あぁ。神様だわ」

 村人がナナの姿に気付かないはずがない。知らぬ間に小道の両脇が人でいっぱいになった。


「もう御降臨されたのだろうか?」

「今日は眩しいぐらいに輝いておられるぞ」


 頭の中はもっと眩しいぜ。空っぽの中に裸電球が一つだからな。とか、言ってやりたいが、口に出せないもどかしい気分に苛まれる。


 村人の中には昨日の話を知っている者もいて、

「エンジンの視察に行かれるんだ」

「御降臨されていたら最終プロセスなど容易いはずだ」

「うまくいきゃあ、オレたちが生きているあいだに新世界へたどり着けるんだ。ああ、神様……お願いします」

 あぜ道から男たちが囁き合い、手を合わせ祈りをささげる。


「白神様は、今からスフィアを試験起動させるために機関室へ向かう! 道を通せ、じゃまをするな!」

 どこから現れたのか、身内面して集団の整理に当たるのは昨夜祭壇から離れなかったバアさんだ。頼みもしていないのに、いつの間にかナナの先頭に立って、杖を振り回していた。


「あの、おバアちゃんさ。あんたがどんな風に考えてんのか知らないけど。こいつは大した者じゃないぜ」

 今のうちにショックを和らげておかないと思って忠告してやったのに。

「馬鹿者! 白神様の従者のくせにタワケタことをぬかすな! この白さ。この銀髪。この愛らしさ。まさに白神様じゃ。このおろか者めが! 喝ぁーっ!」


「本物の白神様を見たことあんのかよ。婆さん?」

 肩をすくめる俺に向かって根元のぶっとい杖を振り回すバアさん。ナナを俺から引き離すと鼻息も荒く、

「ささ。バアが付いております。こんな馬鹿者は相手にしてはいけませぬぞ。あ、ほら、足下が悪うございます。もちっと道の真ん中を歩きなされ」


 主宰も迷惑ぎみに言う。

「おおババさま。お主は扉の前までじゃぞ。外に出ることは許さんからな」

「わかっておる。もう機関室までは歩けん。じゃが、新たな土地を見るまでは、なんとかして生き延びてやるんじゃ」


「……………………」

 主宰が言うように、白神様の存在を生きる(かて)にして日々を暮らす信心深い老人からナナを取り上げるような行為はやめたほうがよいと思う。


「こらー。門番! 扉を開けるぞ。白神様のお通りじゃ! さっさと開けんか!」

 前言撤回。超亜空間跳躍ができなくても、このバアさんなら新天地到着まで生き続ける。うん。保証する。



 バアさんが振り回す杖を避けながら一人の若者が駆け寄り、主宰がうなずくのを確認してから片手を上げて振った。

「門を開けろ! 白神様が通る!」


 巨大な門が開けられ、バアさんはそこで、よっこらせ、と背筋を伸ばし。主宰は門番から壁と同じ材質の盾を受け取って俺たちに説明する。

「ドロイドのスキャンビームを拡散する盾じゃ。連中のパワービームから身を守ってくれる」


 用心深く辺りを警戒していた若者が近寄った。

「先ほどの騒動で連中は次の手を模索中のようです。行くなら今がチャンス。グリムたち技術クラスの者はすでに機関庫に行っております。それと主宰さま、護衛をつけたほうがいいかと?」

「護衛はいらん。我々には白神様の従者が付いておる。ドロイドの軍団をお一人で蹴散らした女性の戦士様じゃ」


 戦士じゃねえって。ただのじゃじゃ馬だ。すげえ馬力があるけどな。


 若者は玲子に丁寧な会釈をして、

「それは心強い。では白神様をお願いいたします」


「あ、はい。承知しました」

 複雑そうな顔をして首肯する玲子と、

「行って来まぁーす」

 秋の青空みたいに抜け通った返事をして、バアさんと取り巻き連中に手を振るナナ。


「ったく……」

 こっちは渋柿をかじったような気分だぜ。




「閉めろ!」

 外に出た俺たちの背後で大きな扉が閉められた。急激に襲う半端無い孤立感にちょっち焦る。


「さて。目的地はこちらじゃ」

 外のどかな風景と、今から行く先のギャップに苦笑いを浮かべる。まるで自慢の畑にでも案内される気分だが、実際はこの巨大な宇宙船スフィアのメインシステムだぜ。



「あれ?」

 田んぼを三つほど進み、右に折れると、この地下空間の入り口となっていた艶のある丸い屋根と同じものを発見。

「地上にあったのと同じだ」思わず声に出した。


 主催は、ふぉふぉふぉ、と笑い。

「そのとおり。同じ構造じゃ」


「あの……。ずっと疑問を持っているのですが」

 珍しく自ら疑問をぶつける玲子。


「このスフィアの入り口が開けっ放しなのはどういう理由なのですか。ドロイドがどんどん入って来きますよ」


 主宰は笑顔を絶やさず、

「扉を開け放すのはワシらの意思表示じゃ。我がスフィアは同志を拒絶しとらんという意味でな、来る者拒まずじゃな」

 と言って、またもや、ふぉふぉと笑い。

「じゃがドロイドは拒むぞ」

「でも開けっ放しです」


 ジイさんは小さく顎を振って、

「ドロイドにはおかしな習性があってな。取り込んだ知識を空間認知処理に回さんのじゃ。たぶん不便を感じとらんのじゃろうな」

 と長い前置きをしてから。

「奴らは障害物にぶち当たると必ず左へ迂回する癖がある。常に左へ回り込むんじゃ」


 頭の中で明るい光りが(とも)った。

「あ、そうか。それで右回りに行けば中に入れる構造なんだ」


「ご名答。螺旋形にして距離を稼いでいるのは、たまに右へ折れる筐体もあるが、途中であきらめて引き返すんじゃ。連中には辛抱と言う言葉は学習されとらんからな。ふぉふぉふぉふぉふぉ」


 散々笑い通し、俺にまで苦笑いを浮かべさせたところで、

「その代わり、人殺しに関しては躊躇せんぞ」

 とても怖い目で睥睨した。


 おかげで右回りに歩いて内部に入るまでの空気の重いこと。ナナ以外は沈黙だ。


「くーるくる。回って入りまーす」

 思いついたままの言葉を並べて主宰の後ろを行く、そのケツを蹴りあげてやりたい心境だった。

  

  

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