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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第一章》旅の途中
32/297

ドロイドの正体

  

  

「マトスを奉れぇぇ。でないと白神様の崇りがあるぞ!」

 タタリって言っちまってるよ。それだと悪霊じゃないか。


「ああああ。白のマトス…………白神様の伝説はほんとうじゃったんだ」

「あの……おバアちゃま?」

 ようやくこの騒ぎが自分の言動だと気付いたナナは取り繕い始めた──遅せぇぇんだよ、バカ。


 感極まって泣き崩れる婆さんの肩に手を添え、顔の内を覗き込む。

「ワタシはアンドロイドですが、白神様なんて知りませんよ。一介のお茶汲みガイノイドに過ぎません……よね? コマンダー」

「可愛らしく首を捻ったって知らねえよ。どうすんだよ、この騒ぎ」


 テントの外は狂乱の騒ぎだし。おそらく今日はもう仕事に戻りそうもない。

「おまはんの肌が白いのが余計にあかんかったんかな?」

「肌の色なら自由になりますよ。なんなら今すぐ緑色に変更しましょうか?」

「あほ! 白でエエっ! カッパやないねんから、よけいなコトしなはんな! 話がもっとややこしなるやろ」


 カッパ伝説のほうが、こいつにはお似合いだぜ。

 俺はほくそ笑み、社長は不安げにウロウロ。


「あーどないしょ。えらいことになってもうたデ。ほんま」





「待てっ!!」

 一人の青年が厳しい顔をして騒ぎを止めた。

 青い目がいくぶん緑掛かった深海色で、村人の中では背が高いほうだ。


「伝説なんか作り話だ。くだらないことで騒ぎ立てるな!」

 そうそう。俺も同意見だぜ。


「お前こそ、伝説をバカにするのか!」

 横から口を挟んだのは、さっきマトスの説明をしてくれた青年だ。青い衣服で肩の部分にこげ茶色の継ぎ当てがしてある。よけいなお世話かもしれないが、もう少し違う色の布は無かったのかよと、ひとこと言ってやりたい。


 背の高いほうが胸を張る。

「伝説をバカになどはしていない。ただの偶然だと言うんだ。まずよく見ろ。オレにはこの子がアンドロイドだとは一概に信じられない。この人は人間だ。マトス様は高性能なアンドロイドなのだぞ」

「主宰様がはっきりと見なさったんだ。それともお前は主宰様がウソをおっしゃると言うのか!」


 青年は白ヒゲのジイさんを見つけて、パタパタと瞬き、

「い……いや。そんなことは言っていない。アンドロイドだとしても、それだけで、なぜお前はこの人がマトス様だと決めつける」

「ガイヤは崩壊寸前だろ。こんなときに異なる星域からオートマトスがやって来て白神様が降臨なさる。まさにその時じゃないか」


 なるほど、機械人形(オートマタ)のマトスか。このコミュニケーターとかいう翻訳器はなかなかの高性能だな。


「何の確証もないじゃないか。この人らのお供のアンドロイドだというだけだ。まだ何も奇跡を見せていない。白神様の降臨はなされてないのだ。いや、そもそも白神様などいない」


 いやまったくそのとおり。あんたの言うとおりだぜ。



「奇跡はもう起きたんだ。テトリオンリアクターのことも超亜空間理論も知っておられる。この方はもうマトス様ではない。白神様として生まれ変わったのだ」

「理論なんぞ、勉強さえしておれば誰でも解ることだ」

 いいこと言うぜ。だけどこいつのはもっとひどいぞ。勉強もしてない、ただの立ち聞きだぜ。


「この人は白神様が降臨されたマトス様なんだ」

「なら。スフィアのエンジン起動プロセスを完了させることができるか? エンジニアのジヨンドさんがドロイドにやられ、未だに本格的に起動できていない」


「起動プロセスは最終工程まで行くんだ。残りの工程など白神様にはたやすいことだ」


「何を言う! 最終プロセスが最も難しい。オミクロン分子生成だぞ。それを突破できたのはジヨンドさんだけだった。オレが10歳の時だ。あれから6年。未だにオレたちは突破できていない」


 うっそぉ。こいつまだ16才なの?

 というより、こいつらエンジニアなの?

 ガキじゃん。


 シロタマが俺の耳元で囁く。

『種族によって、かつ、その惑星の主なる恒星の規模など、あらゆる影響で成長率が異なるのが一般的です』

「あーそうかい」

 解ったような解らないような。ようするにここの人種は犬みたいなもんか?

 タマはとっとと素に戻り、俺に向かって憎たらしくほざいた。


「違うよ。バカじゃね?」


 だんだん口調が俺と似てきているのが、しゃくにさわる。

「じゃ亀か? 万年って言うじゃんか」

「あほ……」

「あ、社長の真似すんな、タマ」

 にしても、程度の低い会話してんな、俺ら。


 片やドゥウォーフの青年たちは熱い。

「オミクロンができなければ超亜空間跳躍など夢のまた夢だ。もし最終工程をこのアンドロイドが突破できたとしたら、オレはこの子に白神様が降臨されたと信じる」

「よし。それじゃエンジンルームへ行こうじゃないか。いかがですか白神様?」


「エンジン? いーっすよ。内燃機関から、原子力エンジン、はたまた半物質反応炉。なに? オミクロン生成? テトリオンサイクルれすね。簡単でーす。なんだって持ってきてくらさい」


「お、おい……」

 軽々しく口にするバカの腕を急いで引く。


「これ以上知ったかすんな。俺たちの身の置き場がますます狭くなるだろ」


 ジイさんも熱い二人のあいだに杖を差し込み、

「マトス様はお疲れじゃ。お主ら、ここは一旦引き上げてくれ」


「いやいや疲れないから。あんたもマトスはアンドロイドだと言っただろ?」


 ジイさんは何でもなさそうに、

「マトス様は疲れもするアンドロイドなんじゃ」

「そうなったら、もうアンドロイドじゃねーし」

 白ヒゲのジイさんはプイと俺を無視し、もう一度二人の正面へ向かい、

「そろそろドロイドが出没する時間帯じゃ。エンジンルームへは行かんほうがええ。結論を出すのは明日に延期とする。よいな?」


 青年は天井を一瞥して時刻を把握したのか、

「確かに今からエンジンルームへ行くのは危険だ。私も主宰さまに従う」


 よく知らない理由で、ナナが原因となった熱きバトルは一時保留となった。





「さて……」

 社長は思いつめた顔をして、スキンヘッドをぴしゃりと平手で打った。

「今度はワシらの立場をはっきりさせなあきまへんな」


 昨夜も地面で眠り、今夜も行くあてが無い。せめて追い出さないでくれと、懇願する気で社長は民衆に立ち会おうとしたが、人々は勝手に俺たちを白神様の従者だと決めつけてくれて、ナナと同行することを許し、ひとまずあのバカを祀る祭壇を拵えなければいけないと言って、引き上げて行った。


 従者はナナのほうなんだと言おうとした俺を社長は強く止め、

「今日のところは住民の気持ちを逆なでるようなことはしなはんな。明日、機関室へ行けばわかるやろ」


 なるほど、と俺は納得する。

 こいつに未知の巨大船のエンジンなど起動できるはずがない。話を聞くと6年間も動かないって言うし……それはそれで不安だけどな。



 小一時間が経過。

 俺たち専用のテントが建てられたと連絡を受け、せっかくなので見に行くこととなった。



「うっきゃ~」

 のんびり歩く社長と主宰の片腕に、ジュジュと呼ばれた幼女がぶら下がって、喜びにまみれる声を上げていた。


「ほんで。あの黒いロボットは何でんの?」

「あきゃぁ~」

「うむ。平たく言えば農作業用ロボじゃ。新天地で土地の開墾などを主にやらせるつもりじゃった」


 女の子はブランコよろしく二人の腕にぶら下がり、

「じぃちゃん。もっとたかくぅ」

「なぁ……ジュジュ。あまり体重を掛けてくれるな。重くなったのぉオマエ」

 絶賛の言葉であることは間違いない。ジイさんの顔はずっとほころんだままである。


「ジュジュちゃん。あたしが高くしてあげよぅ」

「うん」

 玲子は幼女をひょいと肩に乗せた。


「うぁぁぁ。たかいよー」

 なかなか甘酸っぱい光景だった。


 秘書課の制服姿で部下を引き連れ、さっそうと会社の廊下を歩く凛々しい姿。新入社員など一斉に道を空けたものだ。その姿からは想像できない穏和な玲子を見るのは、これが初めてだ。



「──農作業用のロボット、ちゅうことは、ここの人が作ったんでっか?」

「恥ずかしいことじゃがな」

 ジイさんは小難しそうな顔で首肯し、玲子の肩に乗った女の子に据えていた視線を外した。


「それで……連中にはスキャンされましたかな?」

 社長を見据えた。

「どこまでをスキャンちゅうのか分かりまへんけど、この裕輔が捕捉されたんは確実ですわ。執拗にパワーレーザーを打ち込んできましたからな」

「よくご無事じゃったな?」

「はは。悪運だけは強いっすから」


 俺に転じられた青い目に笑顔を見せて頭を掻きむしり、隣から微苦笑の社長が言う。

「ほんで、命の危険を感じたので、破壊させてもらいましたデ」

「恐縮することはない。正しい行動じゃ。ヤツラは破壊するに限る……じゃが」

 言い淀み、トーンをひとつ下げる。

「残念ながら中枢部には情報が行っとるな。ユウスケくん。ヤツラは捕捉した者を忘れることは無い。気をつけなされよ」

 とても気が滅入る言葉だが、連中は人間じゃない。執念深さも相当なもんだろう。つまり、俺はドロイドに指名手配されたということだ。


「ははは……」

 空笑いでもしておこう。



「シロタマが調査したところ、エライぎょうさんおるようやけど。いったい何体ぐらいがウロついてまんの?」

 ジイさんは溜め息混じりにつぶやく。

「自己増殖とセルフインポートと呼ばれるくだらん機能を着けてしもたからな。手に負えん状態じゃ」

「潰しても潰しても増え続けるちゅうワケでっか?」


 ゆっくりと首を前後に振るジイさん。

「そう。新天地に到着後、メンテナンスフリーで活躍させようと、そこの状況を学習して自らの機能を高めるセルフインポートと、新しい仲間を人の手を借りずに作りあげる、自己増殖のおかげで増えに増えて、おそらくこのスフィアの中で数千。地上や他のスフィアで増殖した数を合わせると……たぶん数百万を超えるじゃろ……10年前でな。ねずみ算式に増えるから、今じゃもう手が付けられん」


「じゅ、10年前で……数百万でっか……」

 一千万を超えた可能性もあるということか。

 数千万の黒い軍団を想像して、ぶるっと背筋が震えた。


「自己増殖を抑える、抑制的な機能は無いんすか?」


 ジイさんは俺の問いに虚しく首を振る。

「セルフインポートは自己機能を外すこともできるんじゃ。自分の意思で自由にカスタマイズしよる。都合に合わせてどんどん高機能になって行く」

 重苦しい空気に包まれ、ますますしんみりとなってきた。


「新しい土地へ到着した後、我々はそこで苛酷な試練が待ち受けるだろうと想定しておったんじゃ。じゃからなるべく作業ロボットに手を掛けたくなかった……そんな思いが誤った進化を与えてしまった。倫理回路まで外した連中は悪魔に変貌したんじゃ」


「それでもそこまで増える前になんか手立てがおましたやろ?」


 社長の問い掛けに、ジイさんはこれまで見せたことも無い大きな吐息をした。

「ワシらの親が子供時代の頃じゃ。数百人規模に分かれてスフィアの中で暮らしておる時代があった。年々強くなるガイヤの放射線から逃れるのと、長い航海に慣れるためでもあり、また試験運用のつもりもあった。互いに地面の中と言うこともあり直接赴くことは無くて、ネットワークだけの交流じゃったが、それが突然絶えたんじゃ」


 遠くに馳せていた視点が社長に戻り、ふいに問い掛けた。

「どうなったと思われるかな?」


「そりゃ原因を究明するために互いに出向いて相談し合いまっしゃろ? 復旧のためや」


「こっちは生きていくだけで精一杯じゃし、地上は放射能の雨。1時間も晒したら身は解け出し骨が出てくる」

「うはぁぁ」

 想像して身震いした。


「じゃから……隔絶した」

 そうなったのか。


「元々スフィアの設計思想は孤立に耐え得ることなので、なにも問題無かった。しかし外からの情報が消えて隔離されると、人の心は病んでくる。事故でネットワークが途絶えたのではなく、誰かが作為的にやったのじゃないかとな。ドロイドがやらかした、と疑う者はいなかった。自分たちの周囲を動き回っていた奴らは設計通り従順でよく働き、燃料の確保から、我々の農作業の手伝い、町作り、なんにでも手を出し命令通りにこなす、そんな可愛い連中を誰が悪魔だと思うか」


「ですわな……」


「じゃが連中はどこから仕入れた技術なのか、超低周波(ELF)ネットワークを構築して我々も気付かないうちに全筐体を一本化して反撃のチャンスを待っておったんじゃな」


 俺はジイさんの言葉に誘発され、変な想像をしてしまい、シロタマとナナの動向をちらりと観察した。あいつらが反乱を起こしたらとても俺など太刀打ちできない。


 シロタマは蝶を追い駆け、ナナは幼女と手を繋いでお遊戯の真っ最中だった。


 どう考えても思い過ごしだ。

 つい怪訝な目で見てしまった自分に大きく反省。こいつらバカは安全だ。


 主宰の怖い話はまだ続く。

「状況が悪い方向へ進んでおるとは誰も気付かず、このスフィアから行方不明の者が出る度に、他のスフィアの人々を疑い出したんじゃ。それまでは仲間じゃったのにな」

「ドロイドはそれを狙ったんでっか?」


 ジイさんは憂いのある目でじっと俺たちを見て言う。

「そう、態度を見抜けなかったワシらも悪かったんじゃが、奴らの黒い計画はもっと巧みじゃった。そこまで連中の知識は高まっていたんじゃな。気付いた時はすでに手遅れ。ある日、あいつらは態度を反転させおった。命令はことごとく無視され、人命などまったくお構いなしで知識、情報を抜き取り始めたんじゃ。見たじゃろ?」


 顎ヒゲを握りしめ、急激に尖らせた剣呑な青い目で俺たちを窺い、

「あの水槽じゃ。塀の外にある建物すべてに、ヤツらは必ず一つ作りおる」

「あんなもんが作れるんすか、連中?」


「動きは鈍いが手先は器用じゃ。我々より数段な」

 お思わず注視したドゥウォーフ人の指の先。太短い指がついと持ち上がり、自分の頭を横から突っついた。

「奴らは、ここを狙ってくる」

「脳でっか?」

 ジイさんは、生唾を飲むほど凄みのある形相でうなずき、

「そうじゃ。スキャンポインタから脳の中に侵入してきた特殊な探索レーザーで記憶内をサーチして、情報をむさぼり出す。すべて抜き取ると不要物と判断してあの水槽に浸けられるじゃ」

 白ヒゲのジイさんから穏和な雰囲気が完全に消えていた。ヤツらに向けた強い怨念のこもる形相はこれまでの災厄がいかほどのものかを想像させてくれた。


「あの水槽が……」

「食料用の生け()か何かと思っていたわ」

 玲子は朱唇を閉じ、俺は固唾を呑む。


「ふぁふぁふぁ。あれが生け簀のはずが無かろう」

 ジイさんは本気で呆れたように言う。

「あれはな、棺おけじゃ。この惑星の水は浄化作用が強いから、あの中に亡骸(なきがら)を入れて水を流しておくと、骨まで綺麗さっぱり洗い流し、中で泳いでおる水棲生物がミクロの単位までキレイにさらってくれる」


「………………」


 言葉が無かった。

 精神的な攻撃を可能にするほどロボットの知能が高まるというのも驚異だが、孤立した環境が最もよくなかったんだ。人々は疑心暗鬼を生み出し、人間が人間を信用しなくなった隙を連中は突いて来たワケだ。


『エモーションチップが搭載されてないアンドロイドが陥る暴走状態です』

「エモーション?」

 頭の上からシロタマが漏らした言葉に反応するジイさん。


『精神攻撃が可能になるには、ヒューマノイドの感情及び脳神経構造を理解することが必要です。その中で善悪の学習をしなければいけません。あなた方はそれを怠っていたか、その機能がドロイドに備わっていなかったために起きた暴走状態だったと推測されます』


 シロタマに突っ込まれてぽかんとするジイさんに補足する。

「こいつらに備わった機能らしんです。感情を理解する装置らしいっすよ」


「ほぉ……」

 シロタマに戻したジイさんの視線は、さらにグイッと回り、幼女と手を繋いでしんがりをついて来るナナへと巡る。


「どうやら、ワシらの種族は航行技術ばかり追いかけて、ロボットの精神工学だけが出遅れていたんじゃな。」

 社長は手を振り、

「惑星崩壊までのタイムリミットが決まってまんのや。開発を急ぐんはしょうがおまへんやろ。それにしてもすごい技術やでテトリオンリアクターは」


 互いに優しげな視線を注ぎ込む主宰と社長。重くなり出した歩のテンポがようやく軽快に戻り、数分後。

「さぁ着いた。ここがお主らのテントじゃ。自由に使っておくれ」

 主宰は明るくなった面立ちを起こして立ち止まった。


「うはぁ。真新しいやんか。いやーほんま。お気遣いありがたいんやけど、ワシらは雨露さえしのげたら、それでええんでっせ」

「なにを言う。白神様が御降臨なされるマトス様を粗末に扱ってみぃ。村人が騒ぎ出すワ」


「その話やけど……」


 社長は言いにくそうに言葉を曇らせた。

「この子は人工生命体ではありまっけどな。白神様が降臨される気配はおまへんで。あの青年がゆうてたみたいにただの偶然ですわワ」


「ふふふ」とジイさんはヒゲの奥で含んだ笑いを漏らしてこう言った。

「結構、結構。伝説とはそんなもんじゃ。じゃが見てくだされましたか? (たみ)の目が輝きを増したじゃろ。不安感が払しょくされたんじゃ。再び強く結束する。それだけでもこのテントに住む価値がありますぞ」

 この人の懐の大きさが垣間見れた気がした。主宰と呼ばれるに値すると、俺は実感した。


「それならエエんやけど。あとでがっかりする結果になっても知りまへんで」


「だいじょうぶじゃ。なにしろ我々の旅立ちには白神様の登場が必須なんじゃ。ワシが子供の頃、いや、ワシのジイさんが子供の頃以前から伝わっておった。それがこうして、ほれ目の前で踊っておられる」

 ナナは、玲子の肩車を見て学習したのだろう。きゃっきゃっとはしゃぐ幼女を肩に乗せてスキップを踏み踏み、俺たちの周りを回っていた。


 かー。バカヤロめ。




「すごい。VIP扱いじゃないの。あー、ふかふかのベッドがあるわ。昨日は地面の上だったからうれしい」

 テントの中に入って玲子が出した第一声だ。確かにベッドがあることはある。でも一つだけな。


「これもワラしのおかげですね」とナナ。

「うっせぃ。首の皮一枚で繋がっただけだ。明日エンジンが掛からなかったら、オレたちゃ、また地べたで寝なきゃならねえんだ」


 社長もナナのおかげだとうなずいているが、そりゃ片腹痛いぜ。所詮自分の蒔いた種だ。ここに転送されなければ神様にも祀り上げられない。ま、とりあえず今日の寝床は確保できた、と言ったところだろう。


「このベッドあたしが使うわ」

 おいおい。

「お前、社長を差し置いてよく言えるな」

「かまへん。ワシはそこの長椅子でエエ。あれも柔らかそうや」


 となると……ぐるりと見渡す。


「俺だけ地べたかい」


 結局、明日がどうなろうと、俺だけは地べたで寝る運命なのだ。

  

  

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