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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第一章》旅の途中
28/297

愛しのレイコくん

  

  

《わぁ。楽ちんだぁ──♪》


 ムービングプレートの上でトンスケが子供のようなセリフを吐く姿を白い目で見つめつつ、私がいきなり防護スーツのマスクを剥ぎ取ったのでパーサーが仰天。声を荒げた。


《今田! 勝手なことをするな! もし空気が無かったら即死だぞ》

「心配性のパーサーくん。何度も言うが、この建物の中は真空ではない。アルトオーネと同じ気圧で同じ成分の大気が満ちておるのだ」


《それもあれか……》


 ぱしゅっ!


「……W3Cが伝えて来るのか?」

「ああ。W3Cがウソを吐くわけが無かろう」


 パーサーは胡乱な目つきのままマスクを外すと、長めの前髪を指で振り払って慎重に息を吸い、田吾はバタバタと剥ぎ取るとブハブハと鼻を鳴らした。


「本当にブタだな。オマエ」

 ここまでくると感心してしまう。


「先を急ぐぞ」

 プレートが停止する間ももどかしいのか、パーサーはマスクを脇に挟んだ格好でさっさと飛び降りた。続いてブタオヤジ、しばらくモタモタしてから床に短い肢を降ろした──足ではない。肢だ。



 コンベンションセンターとはよく言ったものである。考えも及ばないマシンが適度な高さの台に載せられて、ずらっと並べられておった。

 一台ずつ手にとって調べたいところだが、何だか落ち着かない気分なのは奥に設置してあるとりわけ大きな装置がうるさい音を出して唸っておるからだ。


「これは何ダす?」

 田吾が杖のような物体を握ろうとするので、

「その装置は空中のアルゴン粒子に映像信号を当てて立体画像作るものだ」

「へーーよく知ってるダな」

「知らんよ。W3Cの説明が聞こえてくるだけだ」


 田吾は四角いメガネの奥で丸っこい目を回し、パーサーが興味ありげに訊く。

「しかしすごいな。他種族の作った機械を操作したり、見るだけで説明できたり……」

「どうってことはない。W3Cが私をコントロールしておるだけだ。悲しいかな操り人形だよ、パーサーくん」

「W3Cはそれだけの情報をどこから仕入れてくるんだ?」

「うむ。簡単なことだ。W3Cを作ったスン博士は管理者の人間なのだ。ま、私もこの衛星に来て初めて知ったのだがね」


「ふーーむ。となると管理者と我々(アルトオーネ)との(あいだ)で、何らかの関係が築き上げられているわけだ」

「そうだ。W3Cが芸津のハゲと懇意なのも何らかの理由があるのだ」


 固く腕を組んだパーサーは精悍な面差しに疑念を灯していたが、すぐにそれを振り払った。

「その話は後回しだ。まず、どこをどう見れば社長らが飛ばされたと解るんだ?」


 ずらりと並んだハイパートランスポーターの装置と、私とを交互に観察し、

「たしかにこの機械は起動したままになっているようだが……」

 私もうなずく。そう、この装置に関する詳しい情報がつい今しがた頭に蓄積されたところだ。


「ここだ!」

 と言いつつも、自分でさえ初めて見るインジケーターなのだが、

「空間グリッド19584、Z軸のポイントも3345で固定されておる。たぶんここに芸津たちは送られたのだろう。だが……」

 腕が勝手に動き、別の装置のインジケーターを指差した。

「ここに、気になるデータが現れておる」


「と言うと?」


「生体アナライザーだ。この数値ではどうも生体反応が無い」

「どういう意味だ。だいたい3万6000光年もの先の生命反応が検知できるのか? ちゃんと証拠を示せ」

「簡単なことだ。3万6000光年先にプローブを送り込み、そこの空間情報をここまで再転送して検査する。別に難しいことではなかろう? 距離が短ければ今の銀龍に積んである機材でもできる」


「なるほど……」


「いい加減に信じたらどうかね、パーサーくん。私はウソなど言わぬ。もしそうならW3Cがエモーショナルサージを送ってくるはずだ。この中でもちゃんとリンクされているのは、機長と連絡が取れることで証明されておる」


「たしかにそうダすな」


 パーサーは、ぎんっと田吾を睨み返し、

「キミはどちらの味方なのかね?」

「ご、ごめんなさい」

「ふん。まあ。ブタは素直なのだ。許してやれ」


「では社長はもう生存していないと?」


「そうは言っておらん。それならW3Cが我々をここまで誘導しない。おそらく惑星から脱出した、あるいはプローブの検知範囲外に出たか、だな」


「そうか。では次の作戦は?」

「どうやらようやく私を信用する気になったかね、パーサーくん」

「仕方が無い。社長や玲子くんたちを救出するためだ」

「その話だが……。この際、レイコくんだけ助けようではないか」

 パーサーは怖い顔をし、田吾は何度かうなずく。


「はは。相変わらず冗談が通じないようだな、パーサーくん」


「W3C、一秒サージ放射!」


「どぁがぁぁぁぁぁぁ。痛ででで。や、やめろ! 冗談の通じない男はモテんぞ……わぁぁ! すまん。ゆるせ。あ痛たた……もうサージ嫌い!」


 しばらく肩で息をして、

「ったく。気軽にサージを要求するな。されるほうは堪ったもんじゃないんだ。こら、トンスケ、笑うな!」

 2秒ほど田吾を睨み倒し、

「このハイパートランスポーターを銀龍に積み込み、船丸ごと芸津の飛ばされた星系へジャンプするんだ。そして大掛かりな捜索をし、奴を発見次第、銀龍に転送回収。またここに戻って来る。どうかな? 他に良策があるかな?」


「ば……バカな……」


「気付かぬのか!」

 両腕を軽く広げて示してやる。


「みろ。W3Cからサージが来ぬだろ。つまりそれで正しいと判定したんだ」

「しかし。こんな大掛かりな装置をどうやって銀龍に運び込むんだ?」


「銀龍にも転送機があるだろ。じゅうぶん転送圏内だが?」

「転送したとしても大きすぎて、銀龍の転送室では実体化が不可能だ」


「やっぱり頭が固いな。銀龍の第三格納庫なら入るだろ。あのデカイ機体はハリボテかね? そこへ直接転送すればよい」


 パーサーは悔しげに頭を振る。

「無理だ。転送室の外に転送物を送る方法など、ワタシには知識が無い」

「オマエもその程度の技術者なのだな」

 奴は少しむっとするものの、さすがは銀龍の乗務員は一流だ。一部を除くがな。

 ちらりとブタを窺うとヤツは変な丸みを帯びた物体に手を出しておった。

「それを触るな。死ぬぞ」


「うがぁあぁ。ゴメンナサイ。危険な物なんダすか?」

「知らん」

 跳ねるようにしてそこを離れたブタに言ってやった。

 田吾はホゲーと気が抜けた顔をし、パーサーは私の肩を引いて訊いた。

「お前ならできると言うのか?」


「いいか。転送理論は私が基礎を立ち上げたようなものだ。芸津とはタッチの差で発表が遅れただけのことでな。よく聞け。転送物を直接転送ルームへ送るのではない。バッファーに溜めた状態で別のエリアに再転送するだけだ。反転時の操作が、まぁ少しクリティカルではあるがな。尻込みすることはない」


「裏技的な操作はちょっと心細い。万が一失敗すれば、転送中のハイパートランスポーターを破壊するかもしれない。ワタシにはあまり自信が……」


「弱気なパーサーくん。その美青年面(びせいねんづら)もまたよいな」

 彼は半歩たじろぎ、手を広げて首を微妙に振ったので急いで否定する。

「勘違いするな。私はその気は無い」


「ワタシだって無い!」


 ったく、冗談の通じない奴。





 自信が無いとか漏らしておったくせに、パーサーはワタシの教えをすんなり覚え込み、あれだけの機材を短時間の(うち)に全てを銀龍の第三格納庫へ転送し終えた。


「ほぉぉ。この機械で銀龍を何万光年も先に飛ばすんですか?」



 格納庫に広がる装置を感心と驚きの混ざる熱い眼差しで見据えておるのが銀龍の機長だ。衛星の表面に船を着陸させるや否や、格納庫に飛んできた。

 ひょろっと背の高い男。私と変わらぬ身長がある。それよりちゃんと食事を取っているのかと思わせるやせ細った姿は少し気になる。私もふくよかなほうではないが、こいつのは病的である。


「おい、機長。オマエもたまには病院へ行け。どこか病気じゃないのか、田吾の真反対だぞ。ちゃんと食う物を食っておるのか?」

「体重を増やすとこの()に申し訳なくてな……」

 手のひらで機内の壁をそっと撫で、

「──少しでも軽くしてやりたいんだ」


「…………」


 こいつも病気だな。


 オマエが痩せるより田吾の体重を落としてやったほうが、銀龍は泣いて喜ぶと思うのだが……まぁ。ハゲの乗組員のことなど、どうでもいいのだ。


 クソ真面目なパーサーは熱心に装置の仕組みを学ぼうとするが、オマエ如きの頭脳を駆使したところで理解に及ぶような代物ではない。


「私的には業腹だが、これで銀龍も管理者のレベルにまで達した宇宙船となるだろう。ん?」

 W3Cから連絡が入った。

「ひとつ忠告があるそうだ」


 パーサーの白い顔が装置から引き離され、こちらに向いた。

「転送を一度すると、この銀龍のパワーモジュールでは8時間の充電時間を要するらしい。注意して使うようにと仰せだ」

 話の内容がハンディタイプの掃除機みたいになったが、理屈は間違っておらん。


「さて行こうではないか。全員持ち場に戻れ」

 と手を上げた私をパーサーは怖い目で睨んだ。

「お前は囚人だ。命令するな。サージを放射するぞ」

「わかった。わかった。好きにすればいい」


 両手を小さく上げてその場を譲る。パーサーは私に据えていた視線を外すと毅然とした態度で、何も映っていないビューワーに決意を表した。

「では社長と玲子くん、そして裕輔くんの救助に向かう。みんな。すぐに持ち場に戻ってくれ」


 カタイのぉ……。パーサーくん。



「私は何をすればよいのかね?」

「今田にはこのハイパートランスポーターを操作して欲しい。キミしかできないだろ?」

「キミ……ねぇ。『お前』から出世したもんだな、私も……」

 ほくそえみながら応える。

「仰せのとおり、やらせてもらいましょう」


 私には一つの策略があるのだが、ずっと意識には出さないでいる。

 意識しないで思い続ける。常人にはできない芸当であろうな。だが私はW3Cが脳の意識野を周期的にスキャンすることを長い付き合いなので解っておった。そしてあるパターンを持つことも。その話もいずれしてやろう。ここでW3Cに察知されてはまずい。





 田吾は司令室へ、機長は操縦席へ戻り、パーサーと私が第三格納庫のハイパートランスポーターの前にいた。

 無駄にでかい銀龍である。これだけの大型の装置を入れ込んだのに、余った空間のほうがはるかに大きい。アイ子なら100機は入るな。


 あのハゲオヤジめ。ここに何を入れるつもりだったのだろう。


 呆れの境地で首を捻る横でパーサーが壁に張り付いた船内無線のマイクを叩いた。

「田吾くんは社長の無線機の周波に合わせて呼び続けてくれ」


《了解したダよ》


「機長の準備はいかがですか?」


《エンジン好調。現在離陸準備中。システムオールグリーン。この娘と共に行けるのなら、例え灼熱の太陽の中だって飛び込んで見せますよ》

 戦闘機をオンナと例えるのはパイロットではよくあるが、オマエのは病気だ。たまには特種病院で診てもらえ、機長。


 ひと通りのチェックを済ますと、パーサーはさっそうと私に命じた。

「転送してくれ、3万6000光年彼方へ」


「うむ。よかろう」


 W3Cの指示とおりにハイパートランスポーターをスタートさせる。

 起動音が甲高くなると、ほどなくして銀龍の船体が青く光った、次の瞬後。船はイクトの上空から亜空間へと消えた。


 亜空間内には時の流れはない。したがって意識も無い。

 経過した時間は0秒である。詳しく言うと、亜空間とは時間の流れが無いのに空間としての広がりがあるため、『0秒経過』などと意味の無い時間が『経過』する、まったくもって不可思議な世界である。勉強になるな、青年。



 通常空間へ戻った銀龍の外が真っ赤に燃えていた。


《な、何ですか、これ!》

 あの元戦闘機乗りの機長が慌てふためき、

「今田! お前。何か企んでいるな!」

 目を吊り上げたパーサーが傲然と突っかかって来た。


「ま、待て。私も面食らっておるのだ。何も悪巧みなどしておらん。ちょっと慌てるな。すぐに調べる」




 分析装置が吐きだした情報は──。

「赤色巨星だ!! これは星から吹き出した水素の海なのだ」


 すぐさま機長へ命じる。

「機長! このまま方向転換。全速で後方へ下がれ!」


「赤色巨星と言うと……」

 強張るところを察すると、これがどういうものかパーサーには知識があるようで、

「今田。司令室へ戻るぞ!」

 機長からの返事を待たず、私を引っ張って司令室へ飛び込んだ。


 すぐにマルチビューワーを点ける。

 混沌とした赤い流れが黒い空間に広がり、前方へと収束されて行く光景が映った。


 どうやら船首を後ろに回す時間を省くために、姿勢を崩さず、そのまま真っ直ぐに後退を始めたようだ。さすが元戦闘機乗りであるな。機の操作を熟知した咄嗟の判断だ。あそこでもたもたUターンを実行すれば、否応なく水素の奥深い場所で銀龍の最も剛性に欠ける腹を曝け出すことになる。

 感心するのはそれだけではない。機長は後退速度が最高になったところで船尾スラスターを操作させて船首を後方へ持ちあげた。それはまるで風にめくれる枯れ葉のように、いとも簡単に巨体の向きを反転させるという離れ業であった。


 むぉう。相も変わらず見事な操縦である。殺すには忍びない。コヤツは生かしといてやろう。


「この海は、なんだス?」

 田吾はヘッドセットを握り締めて立ち尽くし、説明を求める丸っこい目玉を彷徨わせた。


「赤色巨星が超新星爆発を起こす一歩手前なのだ」

「何ス……か?」

「超新星爆発だと?」

 力なくつぶやいたパーサーが座席に崩れた。ただの爆発ではないことを知っているからこその振る舞いで、田吾は理解できない恐怖に慄いていた。


「ああぁ。心地よい。清々する」


 クルーは突発的に起きた驚天動地の出来事に震え上がったのだが、先程から強く感じるこの快然たる気分。まるで正反対ではないか。

 そう、明鏡止水の如く我が思考は冴え渡り、静かに澄んでいくのだ。


 私はこの時をずっと待っていた。ああ。なんと心休まることか。久しぶりにゆっくりと深呼吸ができる。


「乗務員の諸君。今から簡単な話をしてやろう。芸津たちのことはこれより見限る。そして我々だけで新たな世界を切り開こうではないか」


 パーサーが強く振り返った。

「何を言い出す、今田! W3C、サージを二秒放射!」

「ふっ。パーサーくん。今後の指揮は私が取らせてもらうから、そのつもりでいたまえ」

「W3C! サージ放出!」

「無駄だよ。W3Cは3万6000光年彼方だ。如何(いか)に優秀なシステムであろうとも、こんな遠距離までコントロールは不可能」


「…………っ!」


「慎重なキミにしては失態を演じたな。ま、社長の救出に専念するがあまり、重要なことを忘れておったのであろう。気にするでない。誰でもミスはある」


「お前っ!」

「吊り上げた目が男前だよ、パーサーくん。それより、またキミからお前に格下げかね?」


「裏切ったな…………」

 ギリッと奥歯を噛み締め、

「いやしかし。なぜW3Cは見破られなかったんだ。BMIを装着していたら潜在意識の奥までスキャンされ、それを回避する方法は無いはずなのに……」

 慙愧(ざんき)に歪む渋面を私に向けた。


「ふはは。私に対する評価を低めにしていた罰だな。そんなこと私にはさして問題にはならんのだよ」


「どういうことだ?」


「私はW3Cとも長い付き合いだ。ヤツは私の鼓動に合わせて脳内をスキャンしていることを知ったのだ。つまり奴は世界中のコントロールを一手に引き受けておるため、スキャンがインターバルになって一秒未満の隙間ができていたのだ。常人ならさらに間隔が空いても問題は起きん。だが私はスキャンが途絶える時だけに思考を巡らし、スキャン中は消し去る術を会得したのだ。併せて常に従順であることをイメージさせ続けることに努めた。それがこの結果なのだよ、パーサーくん」


「すごいダなぁ」

「トンスケから褒めれても嬉しくは無いが。ま。そういうワケだ。W3Cより私のほうが上手(うわて)だったということで、諦めてくれたまえ」


「くそっ、今田! ぐわぁーっ!」


「私を襲おうと思っても無駄だぞ。パーサーくん」

 彼は細身でスタイルのいい手足を床に投げ出し、ぶるぶる痙攣を起こして倒れた。


「だ、大丈夫ダか!」

「パラレティックイコライザーだよ。田吾くん」

「死んだのダか!」

「死にゃぁせん。痺れて体が動かんだけだ。キサマも逆らうと同じ目に遭うぞ。よければ暴れてみるか?」


「い……いや。よすダ」


 コンベンションセンターに並んでいたヤツをちょっと失敬して来ただけだが、なかなか思ったより役立ったな。


《パーサー。どこまで下がればいいんですか。まもなく中規模の惑星に近づきます。衛星が三つありますけど、どれかの裏側にでも身をひそめれば、太陽からの放射線と水素の流れから逃れられると思うんですが》


「機長。パーサーは現在指揮が取れない状況だ。よって今後は私がこの船を仕切らせてもらう」


《どういう意味だ、今田!》


「どうもこうもないな」

 ずらっと並んだコンソール装置の一つを操作しながら、スクリーン内を惑星系の映像に切り替える。

 ほう。意外と大きな惑星だったんだな。だが新星爆発が起きればここも蒸発するだろう。芸津の棺桶に利用するには上等すぎるな。


「たった今を持ってこの船は私のモノだ。司令室の二人の命が惜しければ、私の言うとおりにしろ」


《社長たちを見殺しにする気か!》


「ハゲた男などに未練はない。だがレイコくんは惜しい。彼女だけを救助することにする。あの人の転送マーカーを見つけたらこっそり銀龍に転送してしまえばいい。ふははは」


 さらに思いは募る。

 如何に気の強いレイコくんであろうと、宇宙で二人きりである。知識豊富な私になびくのは時間の問題。この銀龍と敏腕操縦士を従えてハネムーンも悪くはないな……ん?


「こら、トンスケ。何を気色悪い顔してにやけておる?」

「いや、裕輔よりかは、お似合いだと思ってるダよ」

「そ、そうか。よし、オマエは今日より私の第二秘書にしてやる。よかったな。命拾いしたぞ」


「何で第二なんダすか?」


「第一はレイコくんに決まっておろうが。ツルっパゲの分際であの美しい女性を自由にしておって」

「いや。自由にはなっていないダよ」


「うるさい、ブタ!」


 私なら大事にするよ、レイコくん。ああぁ愛しのレイコくん。


「………………………………」

「なんという顔をするんだ、トンスケオヤジ。渋柿でも食ったのか?」


 まぁよい。怪訝なヤツは放っておこう。

 それよりレイコくんの捜索が先である。


 まず、芸津たちが飛ばされた場所が目の前の惑星であるのは、トランスポーターに記録されておる。そして三人とも必ず生きている。だからこそ、ここに私が呼ばれたのだ。


「はー。そういう事か……」

 澄み渡った私の思考はさらなる解答を得たようだ。


 レイコくんと私は結ばれる運命だったのだ。


 これが正しい時空連続体のあるべき姿なのだ。そう、こうなるのが必然なのだ。いやなに、若干の見解の相違はあるだろうが、W3Cはこれが言いたかったのに違いない。


 うむ。だからW3Cは私を選んだ。


「機長。そこの惑星の裏側へ船を回せ。ハイパートランスポーターの充電が完了するまで、恒星から噴き出す放射線を回避する。それからブタ! オマエはレイコくんの転送マーカーを探せ。いいか、ハゲと男の従業員はどうでもいい。レイコくんだけを救助する。これがこの宇宙の歴史らしいのだ」


《今田…………》

「ぐずぐずするな、機長! 司令室からすべての監視ができるのは、承知しておるだろ。さっさと惑星の裏へ回れ。いやならこのトンスケから締め上げるぞ」


《くっ…………》


 スクリーンに広がっていた映像が急峻な角度に傾き、三つの衛星を従えた赤黒い惑星へと移動する光景を満足げに見つめる。


 私の名は今田薄荷。世界一聡明な科学者である。

 だが本日より一部改名させていただこう。


『宇宙一』とな。


 ぶはははははははははははははははは。

  

  

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