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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第四章》悲しみの旋律
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  侵入者警報  



  

  

「んだぁ――っ!」

 田吾が弾けるようにその場から逃げた。

 薄く虹色の光りが立ち昇る。

 物々しい武装をしたにもかかわらずデバッガーの侵入を許してしまったのだ。

 その巨体が目の前でたちまち半実体化。


『侵入者警報! 無許可の転送シーケンスを検知しました!』

 銀龍のシステムがけたたましいアラームと共に叫んだ。


「あかん! 侵入される!」

 ブンと空気が揺れて黒緑の光沢をした巨人が現れた。続いて額のスキャンが赤く光る寸前、今度は緑の光線に包まれて消えた。


《外に転送しました》

 パーサーの声だ。


 再び通路で虹色の光がほとばしり黒緑した不気味な姿が実体化するものの、パーサーが排除する。しかしこのままでは限界を越えるのは目に見えている。


「社長! フォトンビームを数発撃って、怯んだ隙に逃げよう」

 俺もひどく怯えた。悪夢の再来だ。


「来るわ」

 スクリーンに映った六角形の船が俊速で近づいて来た。


「タマ! あいつのどこを狙ったらいいんだ?」

「頭の中心!」

 思わず自分の頭の天辺を手のひらで押さえちまった。


「ムズイな……」

 船体が薄いので真横から対峙する銀龍からでは、真っ平な天辺へは焦点が合わしにくい。


「だからVRCを使えって言っチャのに。あれだと立体的に目視できるんだよ」

「今さら言うな!」


「機長! 照準が定まらへん。敵船が下になる位置に移動してくれまっか」

 機長からの返事は無く、その代わりにスクリーンの映像が激変した。スケイバー艦がぐいーんと下方向へ移動。


《これでどうですか?》

「よ、よし。センターにロックした。撃つぜ!」

 腹を揺るがす発射音。同時に、銀龍の真下を通過中の艦船に光球が拡がる。六角形のど真ん中だった。

 だが何事もなかったかのように、銀龍を素通りすると停船。即座に折り返して来た。


「敵機のディフェンスフィールドに共振していません」と優衣が叫び。シロタマが飛んでくると俺の後頭部にプヨプヨしたボディをぶつけて憤慨する。

「フェーズ共鳴スキャンのパターンを合わせろって言っチャろ! ほら左上の波形をなるべく同じ形にしゅるんだヨ!」


「わ、わるい。いろいろあって操作がムズイんだよ」

 ひとまず調整して、

「発射!」


 コルクを捻ったのとよく似た甲高い音と共に太い発光のビームが銀龍から放たれ、スケイバー艦のど真ん中で炸裂するものの。そいつは堂々と俺たちの前を横切って行った。この程度の武器では一切のダメージが無いと言わんばかりの態度だ。


「あかん! 瞬時にフィールドの共鳴周波を変えよるんや!」


『共鳴周波の変更アルゴリズムは解析可能です』

 という報告モードの声に、

「よっしゃもうええ、潮時や。サンプルが手に入ったし、次会()うた時が楽しみや。ほな機長、逃げるでデ。どこでもエエから転送や! ハイパートランスポーター起動!」


 ほんの少しの間が空き、

《ダメです。システムがダウンしています。起動できません》

「ちぃぃっ!」

 珍しく社長が派手な舌打ちをした。


「タマ! ハイパー再起動に何分かかりまっか?」


『10分から15分です』

「5分でしなはなれ!」

 口答えもせずにシロタマは風を切って司令室を飛び出した。その空間が転送された3体のデバッガーと入れ替る。

『時間剥離症候群にツイテ、詳細ナ情報ヲ述ベヨ!』

「せぇぇーい!」

 反射的に振り下ろした玲子の剣を中の一体が右手で払い、部屋の後部で実体化した4体目のデバッガーがあっさり奪い取った。


『無駄ナ抵抗ヲ試ミルな。タダチに情報ノ提示ヲセヨ』

 ザリオン並の体格をした緑を帯びた黒色のヒューマノイド型人造人間。製造主を殲滅寸前にまで追い込んだ悪魔のアンドロイドが450年の進化を果たした姿だ。ダルマロボットとは比較にならない滑らかな動きと、素早い反応が俺たちの抵抗をなんなく阻止した。


 眉間を堂々と横切る赤黒いスリットの中で、目映い赤光が左右に振られている。

『時間剥離症候群とはナンダ? 詳細ナ情報ヲ述ベヨ!』

 連中は同じ質問を繰り返すだけだ。ぎしっと体を軋ませて半歩前へ出た。


「そんなもん、知っとったらこんな苦労はせんで」

 続いて嫌な音を出してどこかで爆発。噴煙が司令室まで流れ込み、パーサーが駆け込んで来た。

「社長! デッバガーが転送室で実体化。ドアツードア転送を試みたのですが、逆に占拠されてしまいました」


「なんやて!」

 急いで船内通信に飛びつく。


「機長! 方法は任せる。何とかデバッガーの転送圏外まで銀龍を動かしてくれ!」

《ワタシの愛娘に汚い手を出すとはけしからん! インパルスエンジン最大出力!》


 瞬間、スクリーンに映っていたスケイバー艦が遠くへ流れ去るが、すぐに磁石に引き寄せられる金属片みたいにもとの位置に張り付いた。

 俺たちに技術の差をひけらかすその動きは堂々としている。そして同じセリフを放つ。


『無意味ナ回避行動をトルな』



《だ、だめです。最大出力でも離脱できません!》

 焦燥感に駆られた機長の声に続いて、司令室内にずらりと列をなしてデバッガーが実体化していく。


『直チに情報ヲ提供セヨ』

 万事休す。中の一体が俺たちの前へ迫った。

 これが奴らのヤリ口さ。数で押し寄せて抵抗するまもなく制圧する。最悪な集団だぜ。


 威圧してくる筐体にせめてもの抵抗を試みるべく、近くにあった座席を持ち上げて振りかぶろうとした時だった。一体のデバッガーがスキャンビームを発射、焦点を絞りつつ社長へと悪魔の視線を差し伸べようとした光景が一瞬にして目映い閃光に包まれた。


 次の刹那。社長を残してデバッガーが粉塵となってその場から消失。

 素早い動きで別の筐体のスキャンビームがそこへ的を絞ったが、同じように粉となった。


『無駄ナ抵抗ハやめよ。我々はネブラだ。タダチニ降伏(こうふく)し、使用してイル武器の詳細ヲ述ベヨ』

 圧力じみた言葉を放つデバッガーだったが、他の奴らが慌てて二歩ほど後ろへ逃げたのは恐らく脅威に感じたのであろうが、こっちだって理解不能だ。



 デバッガーは社長へ体の向きを合わせて繰り返す。

『使用シテイル武器の詳細ヲ述ベヨ、無駄ナ……』

 言葉途中にして、そいつも煙のようにその場から消滅した。


「どないしたんや、転送したんか?」

 デバッガーたちの体勢が乱れた以上に、こちらも驚いている。


 パーサーは社長の問いに首を振る。

「私はここにいますし、転送装置はしばらく使用不能です」

 精悍なハンサム面に戸惑いを色濃く浮かべていた。


「なぜ消えていくんだろ? 今のは銀龍の転送光線じゃない。連中、引き上げたのか?」

「自分の艦に戻ったとは思えないわ。喋ってる最中だったもの」

 玲子の意見は正しいようで、スケイバーからは同じ質問が返ってくる。


《無駄ナ抵抗ハやめよ。我々はネブラだ。タダチに船ヲ明ケ渡し、使用シテイル武器の詳細ヲ述ベヨ》


 大音声の響きが船内を渡り、再びデバッガーが次々と実体化。俺たちの周りにずらっと並んだのだが、

「うあー!」

 思わず声あげた。あげざるを得なかった。連続で実体化したデバッガーがすべて煙りとなって消えたのだ。はっきり言えるのは転送ではない。跡形もなく粉砕して消滅するのだ。


「どないなってまんねん」

 唸る社長と脅威に慄くデバッガーの声が重なる。

『説明セヨ。その武器は何ダ。詳細ヲ述ベヨ』


「俺たち以外の者が連中を攻撃してんだぜ。どうなってんだ?」

「きっと怪人エックスダすよ」

「そんな都合よく行くかな」


「でも侵入してくるデバッガーがことごとく消えていくわよ」

「せや。どんな武器を使ったら煙りに変えらまんねん」

 妙な期待感と困惑の混ざるおかしな空気だった。


「ここに来て新たな助っ人ダか?」

「未来の管理者が誰かを送ってくれたのかも」

「だからそんな都合よくはいかねえって。もっと最悪のパターンだ」


「あなたは臆病だからね」


「そうじゃない。」

 みたび侵入してきたデバッガーが、まるで水に溶ける角砂糖みたいに外縁部から中心に向かって猛烈な速度で消えていく。

 俺の予想が正しければとてもまずいことが起きているのだ。


 ハイパートランスポーターの再起動に出向いていたシロタマが、電光石火の勢いで戻ってきた。

『原子核の崩壊を検知しました』

「ハイパートランスポーターの再起動はどないしてん?」


『それよりも重大な問題が起きています』


「何のことや、再起動のほうが優先やろ!」

『先程のデバッガー消滅の原因が解りました』


「それが何で重大なんや?」

『グルーオンの鎖を断ち切られた原子核が陽子と中性子に戻り、消滅していく現象です。陽子は反発し合い宇宙の塵となって消えています』


 全員が息を飲んだ。

「エルだ!?」


《その武器の詳細ヲ説明セヨ》

「知らんちゅうとるやろ!」

 社長は焦りを怒りに急変させ、あり得ないほどの大声で怒鳴った。


 実際、どうやるのか不明だが、

「ヤバいがな。目覚めさせたんや」

「でも、オラたちは助かったダ」

 と気楽に田吾は言うが。


「バカタレ。もっと恐ろしいことが起きるかもしれねえだろ。原子核の崩壊って意味解るか」

「どんな強敵が現れても勝てるダよ」


「あー。そうさ。俺たちの絶対なる仲間ならな。だけど我を忘れて制御不能になったらどうする。この世の終わりだぜ」

 未だにシロタマは抑制手段の研究中だ。エルが暴走したら宇宙の終焉となるかもしれないほどの能力なのだ。


「でも、エルは亜空間チェンバーの中ダよ。たぶん怪人エックスが助け船を出してくれたんダすよ」

「正体も明かさない人物を信用するんじゃねえよ」

「でも……」

 デモもストライキもねえって。


「ユイ……。このあとの展開がどうなるか知ってんだろ? それも時間規則で言えないのか?」

 優衣は肯定とも否定とも言えない微妙な顔をした。

「時間のパスが途絶えています」

「まさか。またアカネがホールトしてんのか?」

「はい……」

 ということは。


「やっぱり! 間違いなくエルが覚醒したんだ」


 この時、俺たちが手を出す時間は残っていなかった。

「あ、あれ。ミカンちゃんダすよ!」

 田吾がスクリーンの映像を指差した。小さな翼と煌めくキャノピーはミカンが救命ポッドにトランスファーした時の姿だ。


 その向かう先には、六角形をしたスケイバー艦がまばらに停船していた。

「ミカンのやつ、何する気や?」

 瞬間に悟った。

「仇討だ!」

「エルが連中を破壊する気なんか? ほんまかいな! 裕輔、亜空間チェンバーの確認に行ってくれへんか」


『亜空間チェンバーから出るなんて不可能です』

 とシロタマは(いぶか)るが、俺の読みのとおりだとエルは亜空間チェンバーの中にはいないはずだ。


 俺は跳ねるようにして席を立ち、

「タマ! 第二格納庫まで来てくれ! あの臆病なミカンが勝手に外に出るはずがない」

 司令室を飛び出したシロタマは、銀の光線となって俺を追い抜いて行った。


 第二格納庫に飛び込むと、先に来ていたシロタマが亜空間チェンバーの内部をスキャン中だった。

『ユースケの推測どおり、エルが居ません。ミカンが実空間に転移させた模様です』


「エルが外からミカンを操作したんだ」


 茜は亜空間チェンバーの前に陣取った椅子の上で眠らされていた。

『すべてエルの考えです。アカネをホールトしたのはユイに悟られないためです』

「やっぱりな。ユイに知られると事前に止められるので、アカネの機能を停止させたんだ」


 船内通信のマイクボタンを叩いて報告する。

「社長! やはりエルはいません。ミカンに乗ってスケイバー艦に向かったと思われます」


《わかった! 何とかミカンの回収を試みる》


 続いてデスクに置いてあったエルのバイタルモニターのパッドを引っ掴み仰天した。

「細胞分裂が異常値だ、タマ。寿命がどんどん短くなっていくぞ」


『特殊能力を使うほどに寿命を削るようです』


「くそ、何とか引き戻さないと」

 バイタルモニターを持って再び第二格納庫の床を蹴った。

  

  

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