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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第四章》悲しみの旋律
256/297

  特殊危険課・ザリオン支部参上  

  

  

「ザリオン呼ばんでもなんとかならんか? デバッガーは残り何匹や?」

「あと15です」

「たったの15ダす。直接フォトンビームでぶっとばせばいいダすよ」

「それがな田吾。連中もバカじゃないんだ。銀龍が近くにいることがバレバレで、どこから撃っても防弾ガラスみたいなヤツで弾いちまうんだ」

「せや。こっちは一機や。単発の拳銃ではどないもならんやろ」

「だよな。せめて機関銃クラスの物が無いと」


「だから、特殊危険課のザリオン支部を呼んで、かき混ぜるのよ。そのどさくさに紛れてプロトタイプを優衣に打ち抜いてもらうの。いい作戦でしょ?」

 玲子は自慢げにそう言い、なおかつ俺ではなく優衣に撃たせると言い切るのは、あんな奇跡のシューティングを見せつけられたら誰だって納得さ。


「せやな。こんなとこで(あぶ)られてる場合やおまへんからな」

 腕を組んでひと唸りした社長、

「機長! 惑星軌道から離脱や。安全圏まで下がるデ。ほんで田吾。ザリオンを呼び出しなはれ」


「えっ!」


 四角いメガネの奥で目を大きく見開き、

「オラが? ダすか?」


「当たり前やろ。それがおまはんの仕事や。お人形さん相手だけとちゃうデ」


「んダばが……おっかないだヨ」

 田吾が二の足を踏むのもよく分かる。ワニだもんな。


「やらんかったら、またカメラ取り上げるデ」

「わ……わかったダよ」


 ガキかよ……。


 渋々と田吾は片手でヘッドセットを耳に当て、片手で無線装置を操作。

 しばらく不満げな態度で機械をいじくっていたが、

「ぬぁぁ。つ、繋がったダ」

 震えながら首を後ろへ捻るが、繋いだのはお前だろ、と言いたい。


《誰だっ!》

 映像無しの音声のみで、正面に取りつけられたビューワーが震えんばかりに響く極低音の怒声だった。


 礼儀もへったくれも無い態度に田吾はビビって何も言い返せない。

 全員の視線が玲子に向き、玲子は瞼をぱちくり。


「もう……」


 湿気(しけ)た吐息を一つ落とし、黒い画面の向こうへと告げる。

「誰だは無いでしょ。通信データの識別コードを見なさいよ!」


 おぉ。ザリオン相手に命令口調だぜ。


《ヴォル……ティ……》

 地獄から語りかけるようなうめき声がして、ビューワー内のスクリーンが明るくなり、見慣れたザリオン艦のブリッジが映った。


「あら?」

 玲子が戸惑うのは当たり前だ。俺だって驚いた。

「軍服を着てないのね。今日はお休みなの?」


《ザリオン軍は軍隊ではなくなったんだ。侵略行為を放棄した。今はただの民間人だ》


「それじゃあ。ジフカリアンたちの解放計画もうまく進んでるのね?」


《ああ。ザリオンは今変貌の時を迎えた。いい意味でのな》


 明るくそう言い切り胸を張るザグル。見慣れたごつい体に着込んだのは軍服ではなく、サファリルックとでも言うのか。それでいてとてもラフな感じなのが調子狂う。


 筋骨隆々のボディは何も変わらず、ポケットが多めに付いたカーキ色の半袖シャツから、丸太みたいな腕を出している。

 そしてお馴染みの、岩と大差ないゴツゴツした肌とワニ顔をこちらに曝け出し、オレンジ色の片目で睥睨する姿。間違いなくザグルだ。


《何の用だ?》


 不躾(ぶしつけ)にもほどがある。

 絶句しそうなほどの傲然とした態度は、ザリオン人以外では真似ができない。


「あなたね。あたしたちが窮地に陥った時は、どこへでも参上するって言ってたわね」


《ああ。ザリオンはウソを言わん。そんなに戦況はヤバいのか?》

 さすが元戦士だ。すぐにそっちへ繋いでしまう。


「別に苦戦してるわけじゃないけどさ。人手が足りないの。手伝いに誰か寄こしてくれない?」

《分かった。すぐに行く、待ってろ……》


 通信が切れた。


「何だありゃ?」

 拍子抜けもいいとこだが、玲子はのほほんとして上半身を振り返らせる。

「元気そうでよかったわね」


「何言ってんだよ。気楽な奴だな」


 俺はそんなところを問題にしているのではない。

 連中のワープ技術はこっちより進んでいたが、管理者のハイパートランスポーターの足元にも及ばないはずだ。


「奴らの母星からここまで何光年あるんだよ、タマ?」

 眼の前に移動して来た口紅野郎に尋ねる。柔かげにたゆむ球体に赤い丸印がくっきりしていた。


『惑星ザーナスとは840光年離れています。彼らの技術では84回のジャンプを繰り返す必要があります』


「期待薄だな。約束を守って来てくれたとしても、数日後だ」

「そやろな。しゃあない。別の手段を考えまひょ」


 と言ったって、新たな戦略がホイホイ出てくれるんなら、こんな苦労はしない。


 玲子はワニ顔の残像が星空に切り替わったスクリーンをいつまでも睨んでいた。

「あの人の言葉……あたし信じる。絶対に来るわ」


「ザリオン人がいくらヴォルティ・ザガに忠実だと言っても、物理的に無理なものはムリなんだ。気持ちを切り替えたほうがいい」


「そっか……」

 まだ歯切れ悪そうな返事を俺に向け、

「体育会系は往生際が悪いのよ」

 小さくすくめた肩が寂しげだった。


「まぁ。連中もいい方向へ変わったようだし、これもお前の指導の賜物だぜ」

 慰めてんのか、俺?

 なんで?


「そーでーす。初めて会った時から、ザグルちゃんは良い人だと思ってました」

 と言うが、茜よ。

「お前は酔ってぶっ倒れていたから知らないだろうけど……」

 社長の手前、あまり大声では言えない。俺たちとザリオンとの出会いは散々で、俺と玲子が連中に拉致られたことは今でも内密なのだ。


 ハゲオヤジが優衣とディスプレイを覗き込むあいだに思いを吐き出す。

「あの時……玲子と俺は縛られ、特に俺なんか殴られたり蹴られたりしたんだぜ。とってもいい奴だなんて思えなかった」


「でも力と力をぶつけ合って、初めて心が通じたのよね。言葉は要らないわ」


 俺にとっては妄言に近い言葉を吐く玲子に、ひと言垂れてやる。

「理解できんね」


「そうね。あなたには生涯理解できないでしょうね。体育会系ってそんなものなのよ」

「どうりで付き合いにくそうな相手だと思ったぜ」


「ばーか」

 玲子はやけに色っぽい仕草で赤い舌を出した。


「でも……何も言ってないのに、連中にオラたちの居場所が分かるんダすか?」

 丸い目を社長に向けたまま固まっていた田吾は、雑音だらけになった通信機を切りつつ首をかしげた。


「通信データに発信元の各種プロパティが載ってるラろ。ちょれを読めば特定できるでシっ……バ~カ」

 侮蔑の混じる言葉を平気で吐くのは当然シロタマさ。面白いので俺も参戦。


「通信士のくせにそんなことも知らないのかよ」


「ふん。知ってるダよ。ド忘れダす」

 鼻息一つでその場を切り抜けた田吾であった。






 それから半時もして。

 これといっていい戦略も浮かばず、無駄に時だけが過ぎていた。


「ちょっと……。何かおかしいダ!」

 メタボヲタがまたもや目を剥き、落ち着き無さそうに無線装置のダイヤルをいじっていた。


「何が?」

「通信機が……あれ? あれあれ?」


 異様に慌てだした田吾に伝染されて、こっちにも緊張が走る。奴は装置をガチャガチャひねくり回すが、その仕草は叩き起こされた目覚まし時計を寝ぼけながら必死で止めようとするマヌケな奴にしか見えなかった。


「どないしたんや田吾。はよ報告せんかい」


「い、い、いや。よく分からないダ。通信機が機能してないダよ。今の今まで正常だったのに」

「故障か?」

「それが……よく解らないダ」


『警告!』


 たったの一言、シロタマが天井から喚いたまま壁の一点を凝視した。玲子の口紅で落書きされた丸印がピクリとも動かないで静止している。


「何の警告や!」

 社長の声で我に返ったシロタマは、異様な早口で報告。


『空間麻痺状態です。巨大な質量が実空間を押し拡げようとしています』


「ど、ど、どうゆうことや。もっと詳しゅうに説明せんかい! 自然現象か?」


『自然現象ではありません。これと同じ現象を以前記録しています』

「なんや!?」


『時空間を飛び越えたスフィアが、実空間に戻る時と同じ現象です』

「カタパルトか。あの三角形のでっか?」


「ネブラがその技術を盗んでいて、何かを送り込んでくるんだ」

「たぶんデバッガーが軍団で押し寄せて来るんやで。やばい! 機長逃げまっせ!」


《だめです。ひずみに囲まれています。無理に突っ込むと銀龍の構造維持が持ちません》


「ど、ど、ど、ど、ど、どないしまんねん!」

 ど、の大安売りだった。


 恐怖に駆られた茜は俺の袖にしがみつき、その茜にミカンがつかまる。重くってこっちの身動きがとれん。


『警告! 未知の転送シーケンスが始まりました』

「転送?」

「未知?」

 俺と社長の視線がシロタマへ飛ぶ。


『これまでにない異質なワープサインです。次元転移のフェーズが観測されませんので時間跳躍ではありません。空間ワープサインを検知。これは実空間移動です』


 社長は緊迫した声を優衣へ飛ばし、

「ハイパートランスポーターは動きまへんのか?」

「最低でもあと30分は充電しませんと……あ! 正体不明の質量が物質化します。右舷3500メートル!」

 別のインスペクター画面を覗いて優衣は凝固した。


 ぎょっとして全員がスクリーンにかぶりつく。

「うぉっ……」

 カラフルに輝く満天の星空が不気味に歪みだしてきた。ちょうどゴムで作ったスクリーンに夜空を映し、大きな丸い物で後ろから圧した感じだ。広い範囲の空間が球状に歪み始めた。


「な、な、何ダす? 何が起きてるんダ?」

 室内が小刻みに振動し、テーブルに置いてあった小物がカタカタと音を上げて踊り出した。

 デスクから落そうになったポインティングデバイスを咄嗟に抑え、茜が不安げに天井の隅へ視線を固定させた。


 タマはスフィアと同じものだと言うが、以前時空を跳躍してきたスフィアと遭遇した時は、一瞬で過去と現代との空間転移をしてしまい現象をよく把握していない。でもこれだけは言える。目の前の現象はその時と比べ物にならないほど大きな動きなのだが、爆発的ではなく静寂的だ。広範囲に渡る壮大な空間を堂々と拡げようとする様が昂然(こうぜん)として出ていた。



「さらに左、4000メートル。物質化が始まりました。あっ。後方2800メートル。右上、3700メートル……」


 優衣は栗色のボブカットスタイルを翻して俺たちに叫んだ。

「囲まれています!」


「ヤバイ、やばいデ!!」

 落ち着きを失くして今にも舞い上がりそうな社長に、優衣が手を振って止めた。

「ちょっと待ってください! あー。これは……」

「な、なんや!」

「安心してください社長さん。ザリオン艦隊です。彼らの識別信号を傍受しました」


「ザリゅォン?」

 ハゲオヤジは力の抜けた声を吐いた。


「いくらなんでも早すぎるだろ! まだ30分ほどしか経ってない」

 と懐疑的に言った俺の肩をグイッと引いて、玲子が立ち上がる。


「ほーらね。さすが、あたしのシモベたちよ」

 ビューワー内に広がる丸く歪んだ星空を見上げて、優衣も嬉しげに言う。


「間違いなくザリオン艦隊の識別信号です。全部で5、いえ……戦闘機も……」

 一拍、間が空いた。今度はディスプレイを見て息を飲んだのだ。アンドロイドのくせに人間みたいなヤツだ。


「ザリオン連邦軍の5艦隊。攻撃用の戦闘機、50機が到着しました」


 空間を引き裂いて堂々と顔を出した見覚えのある巨大な十字架。


「のぉぁぁ……」

 声は出ないし、息も止まるし。

「何なんだ! お前の家来!」


 俺から睨まれた玲子は、楽しそうに顔をほころばせ、

「ね。体育会系はこんなもんなのよ」

「こんなものって……」

 程度っていうのがあるだろ、まったく。脅かしやがって。


「ねぇ社長? あれ? 社長?」

 ハゲオヤジは自分の席で腰を抜かして、今にも泡を吹きそうな顔をしていた。



 連中が実体化するたびに押し出してくる空間の波動に銀龍は激しく揺さぶられ、さしずめ大海原に浮かぶ笹船状態だ。気付くと灼熱の惑星から大きく離されていた。


「うはぁぁぁ。すげぇぇダなぁ」

 田吾はスクリーンに縫い付けられて驚嘆の声を漏らしていたが、

「ド派手な野郎たちだぜ」

 とでも言わなきゃ気が済まん。なんたって、星空の広がる大空間にとんでもなく巨大な十字型をした戦艦が5機、それから数えきれないほどの新鋭戦闘機が整然と並んで銀龍をずらりと取り囲んでいた。


「俺の心臓を弄びやがって」

「オラはもう死んだかと思ったダよ」

 お前はノミの心臓だからな。


 さらに驚きレベルがワンランク上昇。

「おい、なんで?」

 栗色ボブが黒髪のサイドポニーテールに変えられていた。

 そうこれだ。記憶にある髪型だ。でもこんな状況でヘアースタイルを変更する必要があるのか?


 ひどい既視感と意味不明のめまいに襲われながらも、

「どうして急にヘアースタイルを変えたんだよ?」

 こともなげに応える優衣。

「ザリオンでは、ショートヘアーの女性は婚姻の証となっています。混乱を招くといけませんので」


 なんとも釈然としない理由だが、さっきから襲うデジャブ。黒髪サイドポニテの優衣と会話を交わした記憶が脳裏を駆け巡る……何を話したっけ?


 うぅぅ。急激に気分が悪くなってきた。


「ユウスケさん。あまりこだわらないでください」

 などと言われるもんだから、なおさらのコト……。

 うげぇぇ。嘔吐が半端ねえ!

 なんか違うことを考えなきゃ。そうだ。あの時、優衣がそう忠告していた。受け入れろと。


 何を受け入れろと?


 うぎゃおぉ~~。口から胃が飛び出そうだ。


「だいじょうぶレすか、コマンダぁ?」

 駆け寄る茜を優しく制止。

「だいじょうぶだ、アカネ。気にするな」

 違うこと、違うこと……そだ、今の状況を考えればいいんだ。


 今最大の疑問と言えば……。


 ザリオンの連中はどうやって840光年も移動できるようになったんだろう。

 そ、そうさ。これは大疑問だ。


 この様子だとワープは一回切りの様子だ。たいして時間が掛かってねえもんな。これが敵ならもうお手上げなのだが、今のところ敵意は無さそうだけど、まだ玲子のことをヴォルティだとか言って、崇める気はあるのか?


 悪寒に耐えながら、冷や汗を拭っているとビューワーが点灯。


《これは、愛しのヴォルティさま。ズダフ・バジルでございます》

 深々と頭を下げたのはザリオン最高評議会総裁のズダフ・バジル長官、いや提督だ。


「あなた忙しい身なのに、来てくれたの?」

 うっひゃぁー。ワニの提督相手にビビってねぇぜ。

 やっぱ……鉄の心臓だワ。こいつ。



《お約束しましたじゃろ。ヴォルティ・ザガからお呼びが掛かれば、地獄の底からでも馳せ参じますぞ》

 馬鹿丁寧な言葉遣いはこの人特有のモノで、気を許すとひっくり返される。この中で最も気が荒いのだ。


《オレはまだ朝飯の前だったんだ。今日は機嫌が悪いぞ!》

 にやにやと言いのけるのは、シム・スダルカ大佐。身長3メートル42センチ、メンバーの中で最大の巨漢で、ザグルに次いで口が悪い。


《今は3メートル45センチだ。まだ伸びてるぜ》

 成長期の長い奴だな。そろそろ生物学的に限界の大きさじゃないのか。


《ブタの餌でよければ食ってくか? スダルカ》

 と言ってビューワーのスクリーンに登場したのは片目のザグル。画面が三分割され、左から提督、巨漢、片目と並んだ。


《ザグルの飯を喰うと腹壊すぜ》

 四分割目にジェスダ大佐。そして、


《下痢止めならオレの艦に来い。いいのがある》

 これで全員勢揃い。アジルマ大佐だ。


 どいつもこいつもガラは悪いし、怖ぇえし。ワニだし。


「さすがザリオン連邦軍ね。機敏だわ。あたしも誇り高い。でもどうやってここまで来たの? ワープ?」

 スクリーンに向かって胸を張る玲子へと片眉を持ち上げてみせる提督。ワニなので眉毛は無い。目の上のゴツゴツした隆起だな。


《シューレイの長老が解放の感謝に応えて、一度に千光年近く跳躍できるワープ技術を(さず)けてくれたのじゃ。おかげで行動範囲が飛躍的に広がったわい》

「よかったわね。連邦軍としては儲けたじゃない」


《ザリオン連邦軍と言う名前はもう無くなった。我々は民間人。会社組織になったのじゃ》

「あらそうなの? 親しみを感じるわ。何と言う会社を立ち上げたの?」


《株式会社ズダフ・サルベージじゃ。そして今日集まったのはその中でも特別な部署、特殊危険課の連中じゃわい》

 マジで名乗っているんだ。社長も渋そうな顔をするが、その名を使うなとはとても言えないだろな。


 後ろからコソコソ近づき、

「玲子。時間が無いデ。はよ主旨を伝えなはれ」

 カメラの死角からビクつく姿が滑稽だ。


「はい……」

 玲子は瞬時に秘書面(づら)に切り替え、咳払いを一つ落とす。


「早急なお願いと言うのは」

 ビューワーに拡大表示された、現在のプロトタイプの姿。


 だいぶ冷されて、黒々としたダイヤに乗った不細工な一体のアンドロイド。それを取り囲み冷却作業を続ける十数体のデバッガーたち。


「特殊危険課はあの小さなアンドロイドを破壊するのが使命です。支部の皆さんは、それを阻止してくる周りの連中を掃除してほしいの。以前出会ったことがあるでしょ?」


《デバッガーとか言っていたな。時空間を飛んでくる連中だ》

 とザグル。


《結構、手ごわかったよな》

《手ごわいほうがおもしろいぜ》

 色めき立つサルベージ会社の連中へ玲子が宣言した。


「今回は報酬を付けます」


《ふっ。どうせ子供の駄賃程度だろう。要らぬワ》


「プロトタイプが乗ってる物体を注目してちょうだい。あの半分をあげるわ」

 勝手に決めちゃって……。ま、残りの半分でも持て余すのは目に見えている。社長も文句はなさそうだ。


《隕石なんか要らん。鉄クズにもならんぜ》


 鼻にもかけない様子のザグルヘ、優衣が割って入る。

「ただの隕石かどうか、このデータを分析してください。それかあの物体に直接スペクトルスキャンを行っていただいても結構ですよ」


《おい、センサーに掛けてみろ》

 スクリーンにはそれぞれ部下に命じる光景が映っていたが、しばらく沈黙の後、ほぼ全員が同時に身を乗り出して叫んだ。


《あり得ん! 炭素の結晶だ!》


「そっよー。別名何て言うか知ってる?」

 明らかにからかう玲子に、ワニどもは口をそろえた。


《ダイヤモンドだっ!》


「そ。ご名答。あたしたちと同じ値打ちなら、そのすごさがわかるでしょ。それを半分よ。直径1キロメートル。それをズダフ・サルベージ株式会社にご祝儀よ。設立祝いのね」

 色気たっぷりに体をくねらせて説明する玲子に、唸り声ともとれる声が。


《信じられん……。隕石クラスのダイヤモンドなどあり得んだろ》


「せやけど。ワシが言うのもなんやけど。宇宙は謎に満ちてまんのや。何度データを見直しても、正真正銘のダイヤでっせ。まだ原石ですけどな」

 ビビっていた社長もようやく参加。


《原石にしてもこんな巨大なのは見たことも……いや考えたことも無いぞ》


《デバッガーの退治と引き換えにプレゼントだと言うのか。さすがヴォルティ・ザガ。太っ腹だ》


「失礼ね、太ってないわよ。あたしは体脂肪7パーセントなんだからね」


《体脂肪とは何か?》


 筋骨隆々、マッチョ ムキムキのあんたらには、無縁のものさ。なー、田吾?

「オラ……40パーセントだす。勝ったダな」


「………………」


「バジル提督……いやバジル社長。時間がおまへん。協力してくれまへんか?」


《これは本社社長。久しぶりじゃな、ゲイツ殿》

 一見して優しげな面持ちだが、ザリオンの頂点に立つ男だ。威厳に満ちた眼光はこの中で最も射すくめてくる力が強い。


《いやはや、これまでの軍隊と違って勝手が分からぬ会社組織で、四苦八苦しておる。そなたの苦労が今になって骨身に浸みておる次第じゃで。でもこっちも会社じゃ。利益の追求、現金収入が見込まれるのなら何でもやらせてもらいますぞ》


「ふははは。なんや急にバジルはんが身近に感じるやんか。ほなダイヤモンド折半と言うことで、お願いしまっせ」


《ならば……》

 バジル提督、いやバジル支社長はいきなり温厚な面立ちを反転させた。

 弛んでいた目元が吊り上がり、口の両脇から牙がにょきっと、


《ごらぁ! 野郎どもっ! 気合入れて行くぞ! 隕石級のダイヤモンドだ。死んでも持ち帰るぞっ!》

《うぉおぉぉっ!》

 四人の艦長が雄たけびを上げる。


《デバッガーを一匹たりとも生きて帰らすな! ぶち殺せっ!》


《ぶっ殺せ!》


《首根っこ洗って待ってやがれ》


《待ってやがれっ!》


《血の雨 降らせっ!》


《おぉーーーっ!》


 デバッガーはアンドロイドだ。血の雨は降らないと思うが――にしても民営に変わったからと言って、本質は何も変わっていなかったのであった。

  

  

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