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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第一章》旅の途中
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宇宙科学局 大河内寅之助

  

  

「久しぶりだな……」

 以前私が占拠に失敗したブレインタワーが遠方に見える。芸津とあの秘書がジャマをしなければ、あのタワービルは私のものになっておったのに……あまりに美しい秘書の可憐な舞いのような動きに見入ってしまったのが運の尽きだった。


「たしか……レイコとか呼ばれておったな……」

 苦い経験と切ない思い出の詰まったブレインタワーを背景に、大規模なビルが前を遮ると、その門の中に黒塗りの乗用車が次々と飲み込まれていった。


「ふん。寅之助のヤツ。立派なビルを作りやがって」


 そう。ここが宇宙科学局、オーコーチ研究所のビルだ。つまり藩主の直下にある由緒正しき研究所だが、私からすれば幼稚園だな。あるいは、児童公園とでも言っておこう。


「こちらです。今田さま」

 慇懃無礼な態度が見え見えの黒尽くめの男たちに誘導されて、とある一室に放り込まれた。




「なぜ。囚人のお前がこの事故を知ったんだ!」

 白髪が増えていたが、よく知る顔がそこにあった。


「相変わらず、口の利き方がなっとらんのぉ。寅之助くん」

「名前で呼べ! 今田……ていうか、お前は犯罪者だ。ワタシと同等に口を利くな」


「ふん。息巻くのではない、大河内。偉くなったもんだな」

「うるさい! ワタシの質問に答えろ。なぜイクトの事故のことを知った?」


「高血圧症だな。たまには医者へ行け、大河内……わ、分かった。そう怒るな」

 ……ったく。最近の若い奴等はどうしようもないな。


「芸津は管理者の作ったハイパートランスポーターで3万6000光年彼方のとある惑星へ飛ばされたのだ」


「……お前、狂ったか。バカヤロめ」

 大河内はよりにもよって、この私を罵倒しおった。


「もうろくジジイめ。W3CのBMI操作で脳が侵されたんだな。こんなヤツすぐ監獄に戻せ!」


「黙れいっ!! 大河内寅之助!」

「うっ!!」


「いいか。よく聞け。私はW3Cからの命を受けて、この事実を伝えに来ておるのだ。疑うのならここをよく見ろ!」

 私の後頭部。黒髪がまだフサフサだ。羨ましかろう、芸津め──そこを手で捲り上げ、

「どうだ。これがW3CのBMIポッドだ。オマエらの中にこれを装着してる奴がおるか! よーくその目をかっ(ぴろ)げるんだ。私はW3C囚人更生収容所から自らの足で出向いておる。言っている意味が解るか、大河内!」


 奴はしばらく金魚みたいに口を開け閉めしておったが、急激に態度を変えた。

「しゅ……囚人が自ら監獄を出て何事も無いなどありえません。一つを除いて……」


「よーし。いい子だ、寅之助くん。きみの言うとおりW3Cの監視の目から逃れられる囚人はいない。私がここに来ておるということは、W3Cの代弁者として来ておるんだ。そのことを忘れるな!」


「は、ははっ、承知しました」


「ふははははは。いい気分だ……うがぁぁぁぁ。い、痛い! エモーショナルアップセットを起こした。すまぬ。今のは私が悪い。大河内くん許してくれたまえ。尊大な態度を取った私を……」


「あ? はぁ?」

 大河内はたいそう困った顔をしたが、致し方ない。『頭痛が痛い』のは、この私なのだ。これがW3Cから課せられる罰である。


「うぅぅぅぅ」

 大したショックでなくてよかった。ひどい時は気を失いそうになるのだ。


 これはあれだな。坊主のお供をして遠方まで旅をする大陸の猿の頭につけられた金輪、緊箍児(きんこじ)と同じ──説明が回りくどいのはここがアルトオーネだという問題と、別星系の作者がそっちの話と混同して……まぁよい。説明はやめておこう。余計にややこしくなる。


「あ? がぅぅぅ痛いぃぃ。すまぬ。関係ない話はやめるからエモーショナルサージを止めてくれ」



 気付くと、研究所の職員がきょとんとしておった。




 咳払いと共に、

「取り乱してすまぬな。W3Cがお茶目で困るんじゃ……ごほん。で? 銀龍と連絡は取れるのかね、大河内くん」

「はい、今田さん……」

「ぐわぁぁぁ痛い! わ、私に対して敬語はやめるように。W3Cがお(いか)りのようだ」

「うわわわ。分かった、今田。先ほどの定時報告では、芸津との連絡が」


「どわわわっわ。そっちは敬称をつけろ。オマエ、真剣にやれ! そのつど私が痛めつけられるのだぞ」


「りょ……了解した。先ほどの定時報告では、芸津社長と秘書の玲子くんらは、謎の建造物の中に入った様子なのだが、扉が閉まってしまい、捜索に向かったパーサーでは入ることができないらしい」



「ふむ。W3Cの報告どおりだな」

「一体何が起きたんだ。詳しく教えてくれないか、今田」

「今回の一連の事故はすべてW3Cが把握しておる。そして救助へ行くには最高の知力が必要とされる。それが私だ、大河内よ。またまた私がW3Cに選ばれたのだ。()が高いぞ、大河内」


「まじ……?」


「局長。いいタイミングです。銀龍が表側に周回してきました。無線が使えます」と別の職員。

「出してくれ」


《大河内さん……ガガ。こ……ガ……ちら銀龍のパーサーで……ガガ。感度は……ガガザザ……ですか?》


「もう少しで明瞭になる。しばらく辛抱してくれ。で、芸津さんたちの捜索はどうかね?」

《……ザザザ。先ほど……ガガ。現地へ赴き……ザザガ……調査しましたが、ガザザ……内部とは無線も通じませんガガガサッ……返事はありません》


「ふん。無線が通じ無いのではない。返事に7万2000年も掛かるのだ」


《局長。今、7万2000年ザザ、聞こ……ガガ……のですが?》

「ああ。この件に関して今田薄荷が協力するようだ」


《えーっ! ガガ……今田薄荷と言えば極悪人ですよ。なぜ刑務所から出したんです。ヤツは何を考えているか、ザザガガ……、分かったもんじゃありません》


 おいおい、ひどい口の利き(ざま)だな。


「それがな。BMI接続された状態でここにもう来ておる。つまりもっともW3Cを理解した今田が選ばれたようなのだ」

《誰ですか、そんな無茶なことをするのは? また藩主様ですね?》


「確かにあの方は時々子供みたいな提案をされる。だがな、パーサーくん。今回はW3C自身だ」

 もどかしいので、私がマイクを取った。


「パーサー。久しぶりだな」


《今田……薄荷》

 だいたいの者は私の名を聞くと、一度息を呑むものだ。


「いま大河内が言っていたのは真実だ。つまり高度な技術力を必要としておるのだ。あのコンベンションセンターのカギを開けられるのは。この私だけなのだよパーサーくん……痛だだだだだだっだ! す、すまぬ。カギを開けられるのはW3Cだけだ。私はただのお手伝いだ」


 頭の芯が締め付けられる。


「くそっ! このBMI、じゃまーー! ぐわぁおぉぉぉ痛だだだだ、頭ガイ骨が割れるぞ。すまん……ごめんって」



《コンベンションセンターとは何だ、今田。あの建物は何なんだ?》

「あの建物は、管理者と呼ばれる種族が建てた開発商品を展示するプライベートショールームなのだ」


《お前……BMI中毒で脳みそが腐ったのか?》

「パーサー、オマエもか!」

 ったくどいつもこいつも。


「よいか。よく聞け。私はBMI中毒でも、アルコール中毒でもない。ましてやニコチン中毒でもないからな。すべてW3Cの命じるままに動いておるだけだ。いや、動かないと痛めつけられる。胆を入れて聞け。芸津ら三名はイクトから3万6000光年彼方の惑星へ飛ばされたのだ」


《誰が……またお前か!》

「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇ! どいつもこいつも。私は囚人更生収容所にいたって言ってんだろ。どうやってそんなことができるんだ」


《じゃあ。誰が飛ばしたんだ。だいたい3万6000光年も一度に移動できるモノなどこの世に無い》

「そこまでは知らぬ。とにかくW3Cは私にそのコンベンションセンターの扉を開け、芸津たちを連れ戻せとのご命令だ。解ったか?」


 しばらく所内も沈黙に落ちた。

 どこの馬の骨とも言えない老人が飛び込んできて、こんなことを喚けば、摘まみ出されるのがオチなのだが、私がW3CとBMIで接続されていることをここの連中、また銀龍の連中も委細承知のはずだ。ここまで来ると疑いを持つ者はいない。


 しんと静まり返った所内で、銀龍からの無線が響いた。

《だいたいの事情は把握しました。BMIが装着されているのなら問題無いでしょう。ですがイクトの裏側に入るとW3Cとのリンクが切れてしまいます。それとここまで40万キロ。銀龍以外の船だと一日以上掛かってしまいます。社長たちの酸素は残り2時間しかありません》


「酸素の心配は無い。中は適度な気圧の空気で満たされておる」

《そこまで分かっていたのなら、なぜ社長が中に入る前に警告しなかったんだ!》


「そー怒るな、パーサーくん。私は代弁者だ。細かい事情は知らぬわ。だがこれだけは言っておこう。正しい時空連続体を構築するために今回の事件は必然なこと……らしい」


《どういう意味だ、今田!》

「知らんって。W3Cの代弁をしておるだけだ。私だって、どのような理由があって、ここで時空連続体が出て来るのか意味が解らん。だがW3Cがそう言えと命じるのだ」


《しかし、24時間以上も待てない。そしてリンクの問題が……》


「寅之助! イクトまで数時間で行ける宇宙船を宇宙科学局は所持しておるか?」


 半身をひねって後ろを向いた私に、奴は虚しく頭を振った。

「化学燃料で飛ぶ物ばかりで……無理だ。銀龍はW3Cが設計した特別な船なんだ。イクトまで十数分という信じられないことを成し遂げた」

「十数分? 慣性ダンプナーが装備されておるからな。おおかた半重力リアクターをカタパルト代わりにしたのだろう」


《さすがだな、今田……そのとおりだ》

 私は大河内に言ったのだが、反応したのは銀龍のパーサーだった。



「おい。私の設計した宇宙船はまだ健在か?」

「あ……あれか?」


「そうだ、一人乗りのアダムスキー型だ」


「あれ、本物なのか? イベント用のハリボテかと思って、倉庫のどこかに放っちゃってるぞ」

「ばかもん。あれも半重力リアクターと慣性ダンプナー装備だ。しかも衝突検知機能付きの高性能だぞ。パーサーくん。リンク圏内ギリギリの位置で待つようにとそっちの戦闘機乗りに伝えろ。こっちはもっと速く。そうだな、数分で到着してやる」


《そんなことは無理だ!》


 声が変わったと思ったら、

「ふん。機長か。オマエとも久しく顔を合わしとらんな。何度も言わすな。芸津より私のほうが(まさ)っておるのだ。必ず数分で駆けつけてやる。とにかく準備ができたら知らせるから言われた位置で待っていろ」

  

  

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