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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第三章》追 跡
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  トレジャーハンター  

  

  

「ねえ、神さま……死なないって言って。お願い助けて……」

 俺の腕の中で白くなっていくシムの顔をマーラは怯えた眼差しで見つめてそう訴えた。


「安心しろ。シロタマなら絶対に助けてくれる」


 しかし頭上は夕暮れ間近の青空が広がるだけで、時折り遠くでシロタマを呼ぶ玲子の声が空虚に森をこだましていた。

「くそっ! いつもはうるさいほどに付きまとうクセに、肝心な時に何やってんだ!」

 ひどく焦燥めいていた。ヤツ当たりもいいところだ。


「だいじょうぶなのか?」

 諸刃を腕の中に戻し、ケイトとか呼ばれていた女ミュータリアンが顔を近づけて来た。


 赤く燃えるような双眸は宝石のよう。軽くウエーブした金髪を肩まで垂らし、妖艶な面持ちはどきりとするほど美しいが、

「身の危険を悟り、急に助けを乞うってつもりか!」

 俺のハラワタは煮えくり返っていた。


「そんなつもりは無い」

 女はおとなしく片膝を突いて俺の横にしゃがみ込み、シムを覗き込んだ。

「これがレイヤーの娘か……」


「だいたい、何なんだお前ら!」


 女は急激におとなしくなり、

「ワタシの名はケイト・オブリザードだ。こいつらはザレックにマッドン。でかいほうがマッドンだ」


「何で俺たちをつけて来た」


「我々はケイゾンに入る方法が知りたかっただけだ」

 と、囁きにも似た小いさな声でそう言ってから、鋭い目で二人のザリオン人を睨んだ。


「オマエら、救急キットは持っていないのか!」


「へ、へい。ザリオン人はそんなもの持ちませんぜ」

「はんっ、役に立たん奴らだ」

 そう言い捨てると女は滑々の腕を伸ばし、俺の着ていた上着を脱がそうとする。

「なっ……」

 逆の腕から剣呑な光を放った諸刃が音もなく突き出た。


「お前のシャツを使って包帯を作るんだ。見るところ下にまだ衣服があるようだから進呈してもよかろう?」

 どんな仕組みでそうなるのか理解に苦しむが、切れ味のよさそうな長い両刃の刀が手の甲から伸びている。


 絶句する俺をちらっと見遣って、

「ワタシの服を使えと言うのか? この下は何も着ておらぬ。なんなら裸になろうか? きっとおぞましい物を見ることになるぞ」

 豊かに盛り上がる革製の服を片目ですがめながら、俺は黙って着ていた物を差し出した。


 器用な手の動きと、想像どおり背筋の凍りそうな切れ味で、一枚のシャツからリンゴの皮のように長い包帯が作られて行く。

「こいうのはオレに任せろ。やり慣れてるぜ」

 できた包帯を奪い取ったのはマサだった。


 さっとシムの貫頭衣を引き千切り、小さな肩を抜き出すと、手慣れた仕草で止血を始めるが、その包帯が見る間に赤く染まっていった。

 きつく一文字に閉じらたマサの唇。コメカミに流れる一筋の汗。どちらを見ても楽観できる状態ではないことが窺える。


「だめだ。動脈の位置がオレたちとは違うんだ。止血ができねえ……。ちっ、いい医者知ってんだが、ここまでは往診してくれねえし」


 どうしたらいい。何ができる。ヤスのシャトルなら医療キットがあるはずだが、ここに呼び寄せることはできないし……焦燥感は募るばかりだ。


 そこへ玲子が駆け込んだ。

「裕輔! シロタマが戻ったわ!」

 叫び声よりも早く、空から舞い降りたシロタマがステージ3に切り替わる。


『すぐに傷口を見せてください』


 やけに爽やかに命じる男性の声に従い、血が染みた真っ赤な包帯を外した。

 シムの意識はすでに無く、ぐったりした肩から流れ出た鮮血が石畳を広がっていく。


『貫通銃創による負傷度は32パーセント。筋肉組織の損傷が激しく、損傷血管は8本あります。そのうち動脈が1本、出血率20パーセント、危険レベルまであと13パーセント。すぐに止血処理を始めます』


 男性の声に切り替わったシロタマがステージ3、医療モードだ。

 これまでにレーザーで撃たれた今田の脳外科手術や、ザリオン相手に何度も外科的手術を行っていて、すべてパーフェクトの処置を行ってくれるステージ3だ。シムの肩に銃弾が貫通した傷ぐらい簡単だとは思うが、やはりこの血の量だ。考えなくてもいいことまで考えてしまう。


 シロタマは躊躇無く傷口にメスを当て、縦にスライドする。びっくりして目を逸らすマーラを抱き寄せる玲子。

「大丈夫よ。シロタマは優秀なお医者さんでもあるのよ」


「あーそうさ。ブラックジョークもこなす、立派なヤツだから安心しな」


 少しでも場を明るめようと軽いノリで言う俺に、

「そりゃあよかった。こんどカチコムときはぜひご同行願いたいもんだ」

 と言ってから、罰悪そうにあらぬ方向へ視線を逃がすマサ。


 ナナの手によって流動性金属と呼ばれる未知の素材に変化させられたシロタマはぷよぷよと柔らかい。気を許し過ぎた軟式テニスボールみたいな動きをするが、今は手足を忙しなく動かす甲殻類、カニだな。そうすべての足が医療用マニピュレーターと化した動きを目の当たりにすると視線を外せなくなる。止血から損傷組織の縫合、殺菌まで同時進行でこなすのだ。


『止血完了。排液作業はユウスケに任せます。よけいな血液を吸い出してください』


 ボディから垂らされたドレーンの先端を患部に入れて、溢れ出た血液を吸い上げるのが俺の仕事だ。

 手先が人より少しばかり器用だからと、いつも助手として駆り出される。茜たちのコマンダーにしてもそうだ。たまたまそこにいたメンバーの中で一番若い男というだけで、俺が選ばれた。不幸な星の下に生まれてきたとしか思えない。


「すごいでシュ……」

 ステージ3の最中に素に戻るなど、今までに一度も無かったシロタマがつぶやいた。


「どうしたんだ。まずいことでも?」

 ちょっと焦って尋ねる俺の前で、今度は報告モードに切り替わり。


『銃創の自然治癒が始まっています。驚異的な治癒力です。これ以上手を出すところがありません』


「よかった。シム……」

 緊張の糸がほどけて、ぐたっと地面に崩れたマーラと一緒に玲子も地面に座り込み、安堵の息を吐いた。


「マサ。あなたも怪我してるわよ」

 ようやく周りに目を配る余裕も出たと思えて、玲子が手を出そうとするが、

「アネゴ。オレは大丈夫だ。こんなのは毎日の朝飯前だ」

 日常茶飯事だと言いたいんだろな。


『廃液処置を終了してください。傷が塞がります』

 その光景に目を疑う。ドレーンを抜いた手術痕がみるみる閉じて行くのだ。


「傷口の縫合も要らないぜ……すごい」

 手を当てるだけで俺が受けた殴打の痛みを消してくれたシムを思い出した。これもレイヤーの能力の一つなのだろう。考えたらケイゾン内には病院など無いから、進化の過程でそうなったのかもしれない。


 とりあえず急場はしのげた。ようやく肩の力を落とし、不安げに覗き込んで来ていた連中に振り返る。

「で? 第八艦隊の船はどこで待機してんだ?」

 ザリオンのくせにどことなく軟弱そうに感じるのは、やはりザグルたちの頑強な肉体を見慣れているせいだ。


「第八艦隊だと?」

 ケイトが首をかしげ、成りのでかいほうのザリオン人が戸惑いの目で俺を見た。

「オレたちは民間人だ」

「着てるのは軍服じゃねえか」

 視線を自分の服装に落としてから、にやりと口の端を歪めて言う。

「オレたちは第八艦隊の軍艦に忍び込もうとしていたんだ」


「何のために?」


 穏やかに眠り続けるシムを静謐(せいひつ)な目で見つめているマーラ。その子を気遣うような姿勢を維持させて、ザリオン人は語りだした。

「オレたちは神の土地と呼ばれるケイゾンの謎を探りに来ていたんだ。そしたらこのジフバンヌがそこから出てくるところを見たので、あとを追ったが先に連邦軍に捕らえられた」


 許可を取るようにケイトの赤い目の動きを探り、わずかな首の動きに首肯すると、男はさらに詳しく継いだ。

「オレたちは長いあいだこの辺りを調べていたんだ。そしたらこの子がケイゾンから出て来た。質問をしようと近寄る目前で第八の連中にとっ捕まった。だから艦隊から助け出そうと遮蔽状態で軍艦に忍び寄ってチャンスを見計らっていたら、そこを横取りしたのがあんたらだ。でもってつけて来たら、あの金色の泉に飛び込んだのを目撃した。こっちも飛び込むのに決まってんだろ」


「よく飛び込む気になったな」


 男はゴツゴツした面立ちに自嘲めいた笑みを浮かべた。

「この稼業、危険は承知だぜ」

 ぽつりと漏らしてから、ケイトへ目を転じ、ザリオン人はその口が動き出すのを待った。


 ゆっくりとケイトが口を開く。

「こちらからも質問させてもらう」


 もう一度、俺たちをぐるりと見渡してから、

「オマエたちは何者なんだ?」

 宙に浮かぶシロタマを鋭い目で一瞥し、

「この球体は人工物のようだが……いったい何だ? 緊急救命装置にしては小生意気な言葉を吐くな」


 驚くのは無理もない。この宇宙域では珍しい存在だ。俺だって未だに理解できていない。

「こいつは対ヒューマノイドインターフェースって言って……。管理者って言っても解るか?」


 ケイトは薄い笑みを浮かべて黙り込んだ。代わりにザレックがザリオンらしいオレンジの目玉を吊り上げて言う。

「ここらで知らない奴はいないぞ。オレたちザリオンの天敵じゃねえか」

 と言った後、またもや自嘲的な笑みに戻して、

「ま、オレ的にはちょっと興味がある種族だ」


 マッドンも言う。

「そうさな。管理者の作った物体なら何でもこなして当然だろう。連中は手先が器用だからな。やっぱあいつらはすげえっと思ってるぜ」

 二人のザリオン人は珍しく管理者を否定しようとせず、むしろ友好的な雰囲気を醸し出していた。


 ザリオンは変わりつつある、と言ったザグルの言葉が記憶の奥から浮かび上がる。

 あいつも最初は優衣たち管理者製のアンドロイドを蔑んだ態度で見下していたのが、どうだ、あの変わり様。まったく別人のようだ。



 ケイトは管理者に対してそれほど興味は無いようで、

「おい。ザレックにマッドン。焚き木を集めろ。野営の準備をするんだ」

 二人のザリオン人へ居丈高に命じ、捲り上げていた袖を下ろした。


 その振る舞いに目が留まり、俺もようやく異変に気が付いた。

 色濃くなった夕陽が遺跡を横から射し込み、石柱の影が長く伸びて冷気が漂っていたのだ。


 ここはそれほど高度のある土地では無いはずなのに、どんどん気温が下がっていく。昨夜とはだいぶ様子が違うようだ。


「寒いな……」とマサ。腕を摩ってぶるっと身震いした。


「岩山からこっちの奥地は時々白い物が降るんだ」

 マーラが夕陽を背にして異様なことをつぶやいた。


「それでこちら側は枯れ木が多いのか……」

 今のマーラの言葉が無ければ見過ごすところだったが、冷静に周りを観察すると草木の先が黒ずんでおり、ところどころ染みのように枯れ木が目立つ。


「ケイゾンの隅は暖かいので、レイヤーの人たちが移動してるって話だよ」

「いつからだ?」

 ポカンとした表情で、俺を上目に見るマーラに訊く。


「寒さに気づいたのは半年も前かな……」

「第八の野郎が始めた爆撃の時期と一致するな」とマサ。


「環境システムがおかしくなってきたのかもしれない」

 フィールドはびくともしないと言っても、あれだけの衝撃波動が内部に広がったら、何らかのダメージを受けたとしても不思議でも何でもない。


「あ……」

 おもむろに玲子が空を見上げた。

 ゆっくりと視線を揺らしながら下ろしていく。

「マジ、雪だぜ……」

 マサの手のひらに、ふありと舞い降りた白い物体。


『この環境で雪が降り出すのは異常事態です』

 シロタマに報告されなくても俺の身体が寒すぎる、と警告を出していた。


 陽がかげると、何かのスイッチが入ったかのようにサーっと寒風が吹き荒れ、枯れ葉が舞った。さっきまでの暖かい温暖な雰囲気が一掃されていく。

「やっぱり、どこかおかしくなってんだ」

「レイヤーの人もジフカリアンもみんな薄着だぜ。こりゃ堪えるぜ」

 玲子も不安に揺れる眼差しで言う。

「このまま放っておいていいの? 冷蔵庫の中に閉じ込められたみたいにならない?」


 想像してゾッとしてきた。外敵から身を守るために拵えられたケイゾンのフィールドが今度は中の人の首を絞めることになる。

 急激に下がってきた気温以上に、寒気が背筋を走った。



 ケイトもぶるっと身震いして、

「どちらにしても暖を取りつつ野営をするしかない。こんな天国みたいな場所で凍死したら、笑えない冗談だ」

 自らの腕を抱き込み、濃紺になりだした青空を仰いだ。

 フィールドの外は雲一つない晴天の夕刻だが、中は深々(しんしん)と冷えてきた。


「マーラ、俺たちはここで一晩明かす。お前らもここにいろ。火のそばを離れると凍え死ぬかもしれない」

「うん。アタイはシムを守らなきゃいけないからここに残る……でも……」


 ちらりちらりと様子を気にするマーラへ、ケイトはウエーブした金髪を掻き上げて腰を屈めた。

「さっきは悪かったな。少々血の気の多いザリオン人でどうしようもない。今後はワタシも注意するから安心してくれ」


 ぎんと険しい表情に戻すと、

「この人らの分も焚き木を集めて来い。それぐらいでしか謝罪の気持ちを表せんだろ。バカ者が! さっさと散れ! もたもたしてると、その突き出た顎を輪切りにするぞ!」

 引っ込めていた諸刃を片腕の先からシャリーンと出して、空間を()いで見せた。


「ひっ!」

 斜めに一閃を引かれた刃物の鋭い音に小さな悲鳴を漏らして草むらへ散っていく二人を俺は憐憫の情で見送りながら、

「もしかして、お前もあいつらのヴォルティなのか?」

 ケイトは片眉をピクつかせて、

「オマエ 『も』とは? 」

 赤い目玉に疑念の光を浮かべて睨まれた。


「………………」

 玲子から猛烈な非難の視線を浴びて言い直す。


「わりい。言い間違えだ。あんたはあいつらのヴォルティなのか?」


 ふんっ、と鼻を鳴らし。

「ザリオンに詳しいな……」

 玲子と視線を重ねてから、俺たちに背を向けた。

「ワタシはこのジフカへ見世物のミュータリアンとして渡って来たのではない」

 険しい目つきでくるりと振り返り、豊満なボディを俺たちにぐいっと曝け出した。


 頑丈そうな革のジャケットを羽織り、黒いシャツの胸の部分がはち切れんばかりだが、相手はミュータリアンだ。おそらく構造が異なるはずだ。何しろ両腕から刃物が飛び出る化け物だ。


 強張って固まる俺の前でケイトは金属音と共に右腕から諸刃を抜き出した。反射的に自分の剣に手を出す玲子へ、冷たい息をひと吐きして切れ長の目を瞬かせる。

「慌てるな。襲う気は無い。それよりこれをよく見てみろ。この身体は兵器として作られたのだ。殺人兵器としてな」

 再び摩擦音とともに刃が引っ込んだ。


「ワタシはこの身体を恨んだ。それから作った奴に逆らった。そうだ。殺人兵器が人殺しを拒否してやった。そうなれば何の役にも立たん。最高の謀反(むほん)だと思ったんだ」


 夕日に包まれていく影のある表情が悩ましい。

「そうなると……反対にワタシの命が狙われた。連中は殺人兵器を殺そうと目論みやがった。その時に目覚めたんだ」

「な、なにを?」


「殺してもいい奴と、いけない奴を見極めた」

「まさか……殺っちまったのか?」

 固唾を飲むマサ。


「ああぁ。それが最初で最後だ……」


 ケイトは重い吐息のような、唸り声を漏らした後、

「オマエらなぜここに?」


「俺たちは観光さ」

「ふんっ。ウソをつくな。この女の動きは人間業ではなかった。こいつも肉体的に改造されたか、遺伝子操作の賜物だろう?」


 ……何て答えよう。

 肉体的に改造されている、というのはあながち違うとは否定しにくい。


「あたしのはただのクラブ活動よ。会社の剣道部なのよ」

 ウソを吐け――っ!


「ふっ……」

 赤い唇を妖艶に持ち上げてケイトは笑った。

 そりゃそうさ。クラブ活動ごときであれだけの殺気が出るかってんだ。解る者には解る。バレバレだぜ。


「ジフバンヌとレイヤーの小娘を引き連れた観光客などありえん」

 えー。そっちかよ?


 マサもその辺はスルーさ。

「それで……なぜ執拗にケイゾンを調べてんだよ?」


 ケイトは肩の力を緩めると、マサに金髪を翻した。

「我々は遺跡を巡る……」

 途中で言葉を濁したケイトに手のひらを見せるマサ。

「おーと。観光客なんて言うジョークはもう通じねえぜ」


 指を左右に振って言いのける。

「おおかた、宝探しだろ」


「そのとおりだ。オレたちはトレジャーハンターさ」

 焚き木を山ほど抱えて戻って来たザリオン人が口を挟んだ。


「狩猟民族が宝探しっておかしくないか?」

「もう狩猟の時代は終わったんだ。オレたちは、ハンターはハンターでも宝物を探すほうだ。もう殺しはしねえ」


「何言いやがる。さっき殺そうとしたじゃねえか!」

 喰ってかかるマサ。

「あれは事故だ」

「なんだとっ !!」


「やめなさいマサ。この子たちが怯えてるでしょ」

 立ち上がろうとするマサを剣で制する玲子に、丸い目を向けるシムとマーラ。


 驚異の治癒力でシムはもう起きようとしていたが、マーラがそれを許さなかった。

「わ、悪りいな。シムちゃん。オレはもう荒い事はしないって約束したもんな」

 無理な宣言をしたもんだ。さっそく破ろうとしてんぜ。


「で? トレジャーハンターって何だ?」とマサ。

「冒険家だ」

「ほぉ。カッコいいな。オレも今日から冒険家と名乗ろうかな」

「あんたニュータイプのヤクザを目指していたんじゃないのか?」


「そうさ、任侠稼業を背負った冒険家だぜ。カッコいいだろ」

 何でそんな明るい顔するかな。


「あんたはガラス細工の店のほうが似合ってんぜ」

「何でオレがガラス屋をやらなくちゃいけねえんだ?」

「いや、べつに……」


 俺たちの情けない会話を呆れ気味に観察していたケイトが、素顔で念を押した。

「宝探しは金にはならないぞ。やめておけ」

「でも、見つけたらでっかいだろ?」

 身を乗り出すマサの相手を放棄して俺は立ち昇る火の粉を追い、視線を空中で巡らせ、そして一点に止めた。

 たまにチラつく雪を見上げる球体がそこにいた。


「タマ……お前。俺たちがこの連中からつけられていたことを知っていたんだろ?」

 こいつが気付かないはずがない。1キロ先のゴキブリの動きでさえも察知する奴さ。


 だがそっけなく返答した。

「興味がないもん」


 これは本音だな。自分本位な奴だということは、骨身に沁みている。玲子に危機が迫るような緊急的な事件でも起きない限り、知らせてくれない。むしろ落とし穴に誘導して、落ちた俺を見て大笑いするタイプだ。

  

  

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