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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第三章》追 跡
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  特別行政区域・ジフカ  

  

  

「もぉぉ。どうして現れたのよ」

 まるでパシリに使うニイチャンへ文句を垂れるような言葉を狂暴な顔つきのワニ相手に平気で使うアネゴ。


 オレとヤスは落ち着きを失っていた。そらそうだ。差し出された椅子は巨人の惑星という映画のセットに使われたのではないかと思うほどのデカさだ。床から足が1メートルは浮いていた。


「犯人を逃がしておきながら、何を言ってやがる」と言うのはザグルの旦那で、

「見てたのかぁ……」

 恥ずかしそうに頭を掻くのが姐御。


「それだけではありません。ヴォルティ・アカネはすでに捨てられておりますぞ」

 捨てるとは、ちょっと不謹慎な言葉遣いではないか、オレが言うのもナンだけど……。


「何でそこまで知ってるのさ?」

「我々のセンサー網を掻い潜れるヤツらはいない。逃げた先も判明しておる!」

 とザグルの旦那が息巻き、超巨大恐竜みたいなやつが継げる。

「管理者製のガイノイドが持つ驚異的なパワーはどの星域の連中でも昔から知られてるんだ。だから旧バージョンのガイノイドはよく狙われる。そのため管理者はFシリーズにさならるパワーを付けた。身を守らせるためにな」


「だが、ヴォルティ・アカネはなんだ。何も教育もされていない。危機管理がまるでできていないんだ。よほど間抜けなコマンダーが付いていると見えるな」


「言葉巧みに誘われるがままザリオンについて行くとは……情けない」


 巨大建築物にぐるりと取り囲まれたみたいな中で交互にワニが語るが、何を言い合っているのか皆目見当がつかない。こっちは赤く裂けた口の動きを黙って見上げるだけだ。


「まぁ。ザリオンに変な慣れがあるからね、あの子は」

 姐御はちゃんと受け答えするところを見ると、事情は把握していそうだ。


「まあ連中もまさかオレたちのヴォルティだとは思ってもいなかったから、手を出したのだ」

「バカな連中じゃわい。連邦軍のヴォルティだとは知らず、おおかた奴隷商人にでも高く売ろうとしたんじゃろな。管理者製のは高額で取引されておるからな」


「で、そのうちバックに連邦軍の5艦隊がついていたことに気づいた」

「それで怖くなってどこかに捨てたというわけね。ひどいことをするわ」


 何の話しだかよく解からないが、つまり誘拐した女の子がどこかの組長の娘だったと解り、怖くなって逃がした、のか。

 よくある話だ……。


 ところどころ『管理者』とか『ガイノイド』とか意味不明の言葉が出てくるが、結局ザリオンの連中も裏でアカネさんを探していた。つまりバックにザリオンがついていたというのは冗談でもなんでもない。マジなんだ。いったい姐御は何モンなんだ。ただのじゃじゃ馬ではないとは思っていたが、何だか底知れぬ怖さがあるな。オレが言うのもナンだけど。



「それが……アカネもかなりひどいことをしたみたいで、怖くなって捨てたというより、手に負えなくなって捨てたと言うほうが正しいかと」

 どこかで見ていたみたいに、また言ってるよ、ユイねえさん。


「それでアカネさんはどこなんっすか、ザグルの旦那?」

 か弱い女の子が迷子になったかと思うと、胸が締め付けられてくる。我慢できなくなって口を挟んだ。


 片目がぎろりとこちらを向き、

「それなんだが、さっき逃げようとした犯人を引っ掴まえた。今、拘束室に閉じ込めてある。締め上げたらすぐに吐くだろう」

 ひとまずオレも話に加えてくれたのは、少しは気を許してくれた証かも知れないな。




 ザグルの案内で拘束室へと出向いた。それにしてもザリオンの船はでかい。そりゃぁ、あのティラノくんが直立して歩けるんだから。天井なんかちょっとした体育館だった。

 拘束室の檻の中。怯えているかと思っていたが、オレの予想を大きく外して、そいつはふんぞり返っていた。


「お前の名を言ってみろ」

「オレか?」

 さすがにザリオンだ。ザグルの旦那にぎろりと睨まれてもピクリとも動じない。

「オレは、ザルギス。ザリオンの民間人だ」

「ウソを吐くな。民間人がガイノイドをさらって奴隷商人に売り飛ばそうとするか!」

「オレだってザリオンだ。それぐらいは普通だ。何が悪い」


 こいつらマジで悪人なんだ。オレが言うのもナンだが。



 そいつは裂けた口をバンッと閉じ、でかい鼻から排気する。

 ぶふぅぅぅ。

 こっちにまで嫌な臭いが漂い、怖気ついた。


 しかし男はゴツゴツとした骨格のワニ顔に疲れを見せ、

「もうFシリーズには金輪際手を出さん。ビルに閉じ込めていた時は床を引っ()がすし天井を崩すわ、おおかたほとんどのフロアーが崩れちまった。ビルのオーナーに見つかるとサツを呼びやがるので、交代で補強材を買ってきたり、修理屋を呼んだり。大騒ぎだ」


 ギンジの野郎。どこが貢ぎ(みつぎもの)だ。相当に目が悪いな。

 レイコ姐さんは「思っていたとおりね」と鼻で笑い飛ばした。


「それと、ユースケ、ユースケとうるさい事。ユースケの足を直す薬を出せと脅してくるし、いったいユースケって何なんだ?」

「ユースケはシャトルの名だ」

「人じゃないのか?」

「ああ。シャトル・ユースケだ」

 あっちはユウスケさな。


 そいつはしゃあしゃと言い続ける。

「あんなムチャクチャをされたらこっちの体が持たない。あいつを相手にするぐらいなら連邦軍に捕まっていたほうがまだマシだ」

 と悪態をついて、ぷいとあらぬほうを見た。

 煮ても焼いても喰えない野郎だ。


「それで、ヴォルティ・アカネをどこに捨てた」

「ぐっ!」

 さすがに男は息を飲んだ。


「でっか!」

 腰に差していた15センチはあろうかというナイフを、いきなり抜いて脅すザグル。

 あー。ここんとこ注意してくれよ。刃渡り15センチじゃねえぜ。そんなちっこいナイフをザリオンが出すワケがねえだろ。15センチは刀の横幅だからな。こうなるとナイフとは言わね、巨刀だ。こんなのを持つのもたぶん姐御の影響だろな。


 だが何度も言うが、相手もザリオンだ。怯むことは無い。


「言いたくないのなら言わんでもよい。だがの、我々のヴォルティをさらったうえにどこかに捨てて帰ったという、腰抜け伝説は本国のメディアに売らせていただく。末代までの恥としてな」


 横から忠告したのはバジル長官だ。穏和な口調の割にドスが利いている。



「やめてくれ。それだけは勘弁してくれ。これでもザリオンだ。恥をかくぐらいなら殺されたほうがマシだ」

「ほぅ、なら簡単だ。5隻の連邦軍の船が待機しておる。両手両足、それから首にロープを付けてゆっくりと引っ張ってやろう。その光景を本国のメディアに売る。それでどうかな?」

 こいつらえげつないな……オレが言うのもナンだが。


 ヤツは血を吐くような声で吐露した。

「特別行政区域だ」


 何だそれ?


 観念したのか、極度のストレスから肌の色が白っぽくなったワニ野郎がもう一度囁いた。

「あのガイノイドは特別行政区域に捨てた」


「……まずいな」


 おいおい。空気が一変したぞ。

「特別行政区域ってどこなんだ?」

 と尋ねるオレに、暴悪な顔をしたザグルが重々しい吐息と共に答えた。


「ゴミ捨て場だ」

「はあぁ?」


「宇宙のゴミ捨て場じゃよ。フジワライッカどの」

 こちらも重みのある声でバジル長官。


 この暗く沈んだ重々しい空気を察すれば、何がまずいのか、説明を受けるまでもなく、とてもヤバそうな場所だということだけは伝わってくる。


「ねー。今日はこれでお開きにしない? あたし眠くなってきた」

「なんとっ!」

 こ、この人………大物なのか、ただのバカなのか?

  

  

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