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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第三章》追 跡
207/297

  ダフ屋のギンジ  

  

  

 ユイねえさんは、まるで自分の家を案内するみたいに正確な誘導で、ヤスの白バンをダウンタウンの深部へと進めた。

「この辺りです。惑星コルスのシンボルタワーが右手に見えるビルがありませんか? あ、その前に……。遠くの山に突き出た放送用の3本のアンテナを探してください。右端のアンテナが最も高く、それを左に見る位置にあるビルがそれです。あ。隣のビルに青い色に塗られた給水塔が2つ建っています」


 もはやその場にいたとしか思えない詳細な描写。

「あれっすね」

 探す必要はまるで無い。告げたまんまの場所がすぐに見つかった。

 アンテナも青い給水塔もすべて実在している。巫女ねえさん、恐れ入ったぜ。


 だが――。

 目の前に目的の建物がそびえるのだが、一向に近づくことができない。空中から行けば近寄ることは容易(たやす)いのだが、地面にはびっしりと薄汚れた家屋がひしめき合って道路を占拠していた。まぁダウンタウンではよく目にする光景で、オレたちは見慣れた景色だが。


「もう。何なのこのクルマ。役に立たないわね。このボタンの数はこけおどしじゃない。どれが空飛ぶボタンなの。マサ、端から押してってよ」

 とムチャクチャ言い出した姐御が後ろから腕を伸ばして押そうとするので、ヤスが慌てた。

「あー。やめてください姐さん。それってニトロターボの点火ボタンっすよ。そんなの押したらぶっ飛びます」

「飛ぶんだったらいいじゃん。そのまま、あそこの入口までひとっ飛びしてよ」


「飛ぶ……の、意味が違いますよー」

 女みたいに悲鳴まで上げるヤスに根負けした姐御は渋々引き下がった。


「あにい。これ以上進めないですね」

「しょうがねえな。ここから先は歩きだな」


 目を細くして遠くを見遣るヤス。

「あのビルの(ふもと)まで、このバラック小屋がぎっしりですぜ」


 はっきり言って、ジャングルだった。

 足元に絡みつくゴミの山と、ペラペラの薄い亜鉛鉄板を屋根や壁にした小さな家屋。それらが一面を覆い尽くして、行く手を阻んでいる。


 それと建物の大きさにしては柱が多すぎる、と言いたくなるのは、ちょっとした風で崩れるためだ。その行き過ぎた処置で、細い棒っ切れなどが林のように立って余計に歩きずらいのだ。



「あー。みんな来てみろよ。クラッシックカーだ!」

 路地の隅にクルマを止めて外に出た途端、ガキんちょどもに囲まれた。


「あはは。中古車センターにもこんな古臭いの置いてねえぜ」

「ほんとだ。タイヤが付いてんぜ。オレ初めて見たよぉ」

 という声が飛び交い、どこにこれだけのガキが潜んでいたのかと思うほどの子供が出てきた。


 幼児たちはコルス星人の特徴である三つコブが無く、柔らかげな栗色の髪の毛が覆っており、頬の周りのマダラ斑点が無ければ、オレたちの星のガキと何も変わらない。頭の突起物は成長しないと目立たないようだ。


「おぉーお。なんとかの子だくさんってやつか。こいう連中が世間を支えるんだ。おい、お前ら立派に育つんだぜ」


 わぁーと駆け寄った子供たちが、クラッシックカーだとか、オンボロだとか嘲笑めいたセリフをそれぞれに吐いて指差すもんだから、

「どこがクラッシックだ!」

 ヤスが怒るのも無理はない。こいつにしたら最先端のつもりだからな。


「だってよー。今どきタイヤ転がして走るって、原始時代じゃねーか!」

 どこの地域もそうだが、ダウンタウンのガキは、口の利き方がオレたち風味に育ってやがる。


「こぉらぁぁクソガキ! 汚ねえ手でクルマに触るな! ぶっ殺すぞ!」

 ヤスの野郎。子供相手に本気で凄みやがった。極道の本気の凄味はこいう世界のガキにはよく浸透するんだ。本物を知って育つからな。案の定、さっとガキの集団が後ろに引いた。


「おい。ヤス。あんまり怖がらせるな。ガキは情報源なんだぜ」

「あ……すいやせん」

 ヤスは腰をひと折りして、

「いいか。このクルマはオレたちのお嬢様が乗っていらっしゃるんだ。あんまり近づくんじゃないぞ」

 ぐるりと睨みを利かせた。


 ちっこいガキは数歩後退りする可愛らしさがあるが、

「どうせぶっさいくなネエチャンを乗せてるくせに、何イキがってんだよ、オッサン!」

 年長のガキはさすがだ。ヤスの凄味ぐらいでは動じてねえ。しかもその言葉にちょっち、カチンと来たぜ。


 眉間にしわを寄せて目力を溜めて睥睨する。

「おいっ! 今、口にしたガキはどいつだ?」

 大人気も無くほんの少し本気になっちまった。


「………………っ!」

 ガキの輪がさらに数メートル引いた。


 まるで自分の子供時代にタイムスリップしたような、そんな連中に囲まれたクルマの後部ドアが開き、姐御のお美しい脚が地面に下ろされた。


「おぉぉぉぉぉぉ」

 感嘆の声が広がる中、続いて反対側からユイねえさんが顔を出した。


「すげぇぇ。髪の毛長げぇぇ」

「き、き、き、き、き、き、き、き、き、きれい」

 そこまで言葉を詰まらせる必要は無いだろうに。


 ガキはガキなりに、オレたちの姐御を見つめて魅了され、ユイねえさんは柔和に微笑みを返して、遠くにそびえるビルの頂を仰いだ。


「あんたらねー。子供相手になに息巻いてるの。そんなに力が余ってるのならザリオンを相手にしなさい」

 うーんと腕を上げ、凝り固まった背筋を伸ばしながら姐御がそう言うが、とんでもねぇ話だ。オレはぶるぶると首を振った。




「ねえ。ボクちゃん?」

 タイトなミニスカから伸ばしたビーナスみたいな脚を少し折り曲げて、姐御は前にいたクソガキの頭に手のひらを添えた。


「ね。あそこのビルまで行く道を教えてくれない?」

 ガキは、初めて美しいという言葉を文字に直した古代人みたいに、丸い目ん玉をおっぴろげて硬直した。

「このハナ垂れにボクちゃんは似合わねえっすよ」

 こいつも言われたことが無いワードだったのだろう。さっきまで浮かべていた驚嘆の表情が、瞬時に怯え顔になり、年長のガキの後ろに飛び込んだ。


「アネゴ。こういう世界はオレたちに任せておいてくれ。まず警戒心を解かないといけねえんだ。それとガキの教える道はオレたちが歩いて通れるとは限らないっすよ。何でそんなファッショナブルなお姿でこんな下町に来たんでやすか? ユイねえさんまで一緒っすね。それって制服っすか? グリーンがキレイだな」


 いつもより口数が多く興奮するのは、後部座席にいてよく見ていなかったが、二人ともあり得ないほど美しい曲線をしたボディをしていて、しかも服のデザインがそれを隠すことなくうまく表に引き出しているからだ。


 さては執拗にバックミラーをチラ見していたヤスの野郎……そういうことか。

 デザイナーさん、ありがとう。



 姐御は小さな赤い舌をちょろっと出して小声で伝える。芳しい香りと共に。

「こんな世界が世の中にあるんだね。生まれて初めてよ」

 深呼吸するのが忙しくて、よく聞いていなかったが、オレたちとは育ちが違うということを言いたかったのかな?


「……ま、こういうところはオレたちのほうが慣れっこさ。人選は正しかったっすよ」





 クルマから離れ、数百メートル奥へ進み。こじんまりとした広場に出た。

 ぞろぞろとガキどもが付きまとい、ちょっとした祭りの騒ぎさ。


 半分崩れた家屋からギラギラとした視線を浴びせ、そこらじゅうに胡散臭そうな連中がたむろする。そこはオレたちの慣れ親しんだ世界とまんま同じで、なんとも馴染みやすい雰囲気が充満していた。


 あー。なんか落ち着くぜ。



「あにい。あそこのオヤジ、ほらダフ屋のギンジに似てやすぜ」

「ほんとだ。ちょっと聞いてこよう」

「ちょっとぉ、だいじょうぶ?」

「何を心配してんですか。そのためにオレたちを呼んだんでしょうが」

 姐御は別の星の人種だから気をつけろと言いたいのだろうが、こういうのは勢いだ。勢いで飲み込んじまえばいいのさ。


「よーギンジ。どうだ景気は?」

 そいつは濁った目をオレに向けてポカンとしやがった。薄汚れたシャツはいつ洗濯したのか、シワだらけでボロボロのズボンからスソを半分出して、だらしない格好は、まさにギンジだった。いっつも博打に負けて、酒に浸り、どうしようもねえ奴なんだが、裏の情報通でオレたちに常に正しいニュースを伝えてくれる。ただしタダじゃねえ。


 ポケットから札束を取り出し――、

 オレは財布を持たない主義だ。サラリーマンじゃねえからな。


 一枚摘まむと、男の前でチラつかせる。

「なぁ。最近あそこのビルに綺麗な女の子が連れ込まれたところを見た奴はいねえか?」


 男は引っ剥がすように札を奪い取ると、まじまじと見つめた後、くしゃくしゃと丸めてぽいっと捨てやがった。


「な、何しやがる、ギンジ! 金は要らねえのかよ」

「何が金だ。鼻紙にもならないじゃないか」

 声まで一緒だ。ぐしゃぐしゃに絡まった髪を持ち上げる三つコブと、コメカミに広がるマダラの斑点が無けりゃ、まんまギンジだった。


「アルトオーネの紙幣はここのとは違いますので……」

 オレの肩口からユイねえさんの声が落ちる。

 そりゃそうだわな。外国だと思えばその理屈は正しい。こいう時は現時の連中の欲しがるものだ。例えば酒、タバコあたりかな。


「おい、ヤス。何か持ってねえか?」

 ヤスはひと通り考えたが、首を振る。

「オレ、タバコ吸わないし、SDD(ストップ・ドリンク・ドライビング)主義だし……」

 腕を組んで首を捻っていたが、あ、と顔を上げると、愛車に駆け戻り、何かを握ってとんぼ返りして来た。


「ギンジよ。これでどうだ?」

 もう今日からこのオッサンはギンジだ。そのほうが都合いい。


 ところで――、

 ヤスがギンジの前に突き出したのは、

「有名なモデラーが作ったフィギュアだぜ。売りゃあ、金になるだろ?」


 姐御と同時に、オレも額に手を当てて目を閉じた。

 いくら金が無いからって、人形さんだぞ。


「バカか。ヤス」


 しかしギンジはそれを素早く奪い取った。

「おーぉ。いい仕事してやがるなー。こりゃ高く売れる」

「なぬぅ?」

 ヲタが経済を支えるという都市伝説は本当なんだ。まさかガキが遊ぶ人形が貨幣の代わりになるとはな。


 ギンジは大切に人形を胸ポケットに突っ込むと、だらしなくハミ出していたシャツを急いでズボンに突っ込み、

「兄さんら。タダもんじゃねえな。ベッピンさんを二人も連れて。セミロングのほうはあんたのオンナか?」


「おぅ、気分いいじゃねえか、ギンジ。もう一体、進呈してやろうぜ。ヤス……。あ。やらなくていい。アネゴがすんげーイヤな顔してるから」


 そこまで完全否定することねえだろうに、姐御。

 ちょっと傷ついて悄然とするオレの肩をグイッと引くギンジ。

「兄さん。何でも聞きな。この辺のモノはあらかたオレのもんだ」


 おーおー。でっかく出たな。



「なあギンジ。最近どうだ。あのビルで何か変わった事は無かったか?」

 オレは顎の先で天蓋の柱となっているビルの一つをしゃくってみせた。


 ギンジも眩しそうにそれを見上げて、

「そうだなぁ。そういやあ。最近ザリオンの姿をよく見かけるなぁ」

「ほぅお、そうか。オレも出会ったことあるんだが、あいつらって、ほんとうに怖ぇえのか?」

「連中は狂暴で喧嘩早く、そしてあくどい。宇宙一の鼻つまみ者だ。よく無事だったな?」


 そうひどい言い方をされると、少しを気を許しかけた連中なだけに、あまりいい気分にはなれない。

 だからか、ちょっと肩を持っちまった。

「そんな程度の連中ならどの星にでもいらぁ。艦隊だからってそう騒ぐことは無いだろ?」


 ギンジは陽に焼けた薄汚い(つら)を勢いよくこちらに旋回させた。

「艦隊だと!?」

 じっととオレを睨み。

「艦隊って、ザリオン連邦軍か!」


「あぁ。そうだ」


 ギンジは目を見開き息を飲んだ。

「兄さんが大ウソ吐きでなければ、相当に運がいい」

 さっきまで濁っていた目が驚愕の色で染まっていた。


「フィギュアの礼じゃないが、いいことを教えてやる!」

 まだ昼だというのに、酒臭い息を吐いてオレの顔を覗き込む。


「……いいか連邦軍には近づくな。もし奴らと出会ったら、視線が合う前に逃げろ。それが長生きの秘訣だ」


「マジかよ……」

 じんわりとレイコ姐さんに目を転じる。

 ピースなんかして喜んでる場合じゃねえですぜ。


「そんな狂暴な連中があのビルの周囲をうろついてるのか?」

「ああ、そうだ。それも物々しい量の……たぶん供え物だな。あいつら、あー見えて意外と信心深いんだ。自分たちより強いものを神と崇め奉るクセがある」

「そうみたいだな。それはオレも……知ってる」

 最後は溜め息みたいな声になっちまった。


「じゃあ。あのビルに連中が崇拝するような強ぇヤツを用心棒にして潜んでるってことっすか?」

 横から口を出したヤスに、ギンジは薄気味悪い笑みを浮かべた。


「用心棒だぁ?」


 疑念のこもる目でヤスの顔をいつまでも見ているギンジが気にかかる。

「あのな……。自分たちよりも強い者を厚遇するのは、何かから身を守るためだろう? そういう(やから)を用心棒と言うんだぜ」


「ふっ……ふぁ……ふぁっはははははははは」

 突然ギンジが笑い出した。


 キョトンとするオレたちをまたもや疑念の目で一瞥すると、ギンジは震える手でビルの屋上を指し示し、

「オマエら……本当のザリオンを知らねえな。あいつらに用心棒など必要(いら)ねえ。宇宙一凶暴で、宇宙一強ぇんだ。だから自分より強い者はいないと信じてる。だがたまに強いヤツが現れるんだ。そうすると一変する。今度は神として崇めるんだ。つまりその神が現れたんだよ。よく聞け、これは宇宙の終わりが近いことを意味する。これから恐ろしいことが起きるぞ」


「それって……」

 姐御が口を挟んだ。

「まさかデバッガーを仲間にしたとかじゃないよね、ユイ?」

 グリーンのミニスカ姿のレイコ姐さんが、整った顔立ちに不穏を滲ませていた。


 デバッガー?

 ユイねえさんの説明で出てきたヤツだ。ケンのガキが持ってたオモチャじゃないのか。

「それが……。それに関してはそのうち解ります」

 ユイねえさんのお告げによると、正体はすでに判明しているようだが、にしたって何だか意味深な啓示だった。


「それでギンジ。ちょっと訊きたいが、そのザリオンの連中と一緒に、このユイねえさんとよく似た少女の姿は見かけなかったか?」

「そうだなぁ。思い出せねえことも無いが……もうちょっと工面してくれねえかな」


「なんだと、この野郎。まだせびる気か、このクソオヤジ!」


「あにい……」

 憤然と立ち上がるオレの脇からヤスが手を出した。オレにもやらせてくれという意思表示だ。


「おぅ。タッチ交代だ」

 オレたちに胡乱げな視線を注いでくる薄汚いギンジを前にして、オレと入れ代わりにヤスがしゃがみ込み、もう一体のフィギュアをチラつかせた。


「ほら。これが欲しいんだろ? くれてやってもいいが、オッサンの情報が正しいかどうか先に聞いてからでないと渡さない」


 ヤスも慣れてきやがったな。いっぱしに使い分けてんじゃねえか。

 こういう連中をうまく動かせるようになったら、一人前だ。


「レイコさん!?」

 忽然とユイねえさんが叫んだ。


「な、なんだ、なんだ?」


「アカネのEM輻射波が揺らぎだしました。たぶん移動を始めたのだと思います」

 新たなお告げが出たみたいだが、それはただならない慌てようだった。


「なぜ? あー。ワタシたちの動きと向こうの動きが同期していません。こちらが少し遅いようです」


「どういうこと?」

 姐御が飛びつき、お告げを待つ。

 ユイねえさんは再び目をつむり、

「犯人がアカネをどこかに移送するのですが、ザリオンが衛星から撤退するニュースがわずかに早く伝わったようです」


「また歴史が変化したの?」


 二人は何が起きたのか理解して会話をするが、オレたちにはまったく理解不能だ。

「ど、どうしたんでやんすか。えらい緊迫して、何かまずいことでも?」


『ユイの記憶は850年の誤差を含んでいますので、この程度の揺らぎは許容値です』


 シロくんの説明は常に難解なのだ。おかげでさらに事態は混乱してくる。

「850年とか……。テニスボールは何を言ってんすか?」


「マサさん、ヤスさん。急ぎましょう。空港です」

「はぁ?」


「あのビルには行かなくていいんすか?」

 ヤスは目前にまで迫ったビルを指差し、ギンジは恐怖に怯えた目で立ち上がる。

「ザリオン艦隊がコルスに来るのか!」


「来る、じゃない。すでに衛星の裏に集まってんだ」

 オレが情報を漏らしてどうすんだと責められても、言っちまったんだからあとの祭りさ。


 ギンジは酒臭い息を吐いた。

「逃げるぞ!」


「なにビビってんだよ?」


「ビルの連中が慌てていたのはそれだ!」

 血色の悪い唇をおぞましげに歪め、意味もなく足踏みをするギンジ。


「ザリオンが宇宙一強いんじゃネエのかよ。なんで怖がるんだ?」

「バカヤロ。相手は連邦軍の艦隊だぞ! ザリオンの中で最も悪逆で強い。だから誰も逆らえない」


「うぉっと!」

 いきなりグイッと袖を引かれ、体勢を崩した。


「なぁ。オッチャン。オレにもフィギュアくれよー」

「あたちにもちょうだい」

「オレもオレも、人形くれ」

 いつの間にかガキに囲まれていた。そしてギンジがすたこら逃げていく後ろ姿が、

「あ、この野郎。まだ肝心なことを訊いてねえぞ! こらー、逃げるな!!」

 逃げ足の速さもギンジと瓜二つだった。


「フィギュアちょうだい」

「お人形さんくれ。高く売れるんだろ?」

 小さな手がオレたちの行く手を塞ぐ。


「うっせぇぞ、クソガキ! 散れ、散れ」


「とにかく空港に急ぎましょう。アカネはそこへ向かっています」

「分かった。ヤス戻るぞ!」

「あにい、ガキを何とかしないと。うわぁぁ」

 ガキの群れにヤスが引き摺り込まれた。一人一人の力は弱いが、これだけの群れになるとちょっとしたモンだ。オレの大嫌いなホラー映画のシーンと重なって見える。


「ほら、ヤス手を貸せ。逃げるぞ」

 ガキの大群からヤスを引き出し、オレたちはクルマへと走った。バラック建ての小屋や狭い路地からウじゃウじゃと、薄汚いガキが湧いてくる。


「ひゃー。あにい、どっかのテーマパークより怖いぜ」

 姐御とユイねえさんはすでにオレたちの先を走っていた。やっぱアスリート並みの運動神経をしているだけあって、逃げ足も速い。

  

  

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