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アカネ・パラドックス  作者: 雲黒斎草菜
《第三章》追 跡
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宇宙を駆け巡るサラリーマンのとある休日( ピクセレート )

  

  

「はぁぁ」という玲子が漏らす失意の溜め息。そしてあらためて深く息を吸う声がして、

「まぁ。とっても素敵ですわね。……はい、言って」

「あい。……と、とぉてーもぉ。すてきれすられ~」

「違うでしょ。『とっても』の部分はもう少し声のトーンを上げるのよ」


 さっきから聞こえてくる玲子と茜の奇妙な会話が気になって、ギャレー奥にある娯楽室へ様子を見にやって来たのだが。


「アカネぇー。あなた、まじめにやってるの?」

「あ、あーい。やってまふ」

 玲子は色濃くなった落胆の吐息をもう一つ落とし、焦った茜は言語品位を最低レベルに落としていた。


「だいたいその短いヘアースタイルも、どうにかしないといけないわね」

 ケチで節電された扉は開け放たれている。そこからそっと覗くと、玲子は茜の額の上で切り揃えたショートヘアーを無理やりセンター分けにしょうとしていた。


「これじゃあ、リボンも結べないじゃない。ボーイッシュっちゃあボーイッシュだけど。これってそういう仕様なの? ユイみたいに伸びないの?」

 いくら頑張っても、ちょっとした動きで元のヘアースタイルに戻ってしまう。


 茜はむなしく首を振る。

「頭髪システムは150年後の技術れすから」

「そっか。でもこれじゃぁなぁ」

 銀色の短い髪を摘まみあげるものの、確かにその長さではリボンを結んだところで擦り落ちるのが関の山だ。


 茜は傾けていた首を元に戻し、

「レイコさーん。『すんごぉーい』ではだめなんですか?」

「だめよ。レディはそんな言葉遣いはしないわ。そんなのだからヲタの餌食になるのよ」



「お前らそろって、何やってんの?」

 そろそろ茜が可哀相になって来たので、助け舟のつもりで部屋に入った。


「えっ!」

 振り返った玲子の視線は確実に彷徨っていた。まさかこのタイミングで誰かに入室されるとは、思ってもみなかったのだろう。だが、

「なーんだ、裕輔か……」

 俺だと分かると肩の力を緩め、安穏としやがった。


「何もしてないわよ!」

「アカネに何か教えてたろ?」

「あたしは教育係として、アカネにレディのたしなみとは、どういうものかを教えていたのよ」

 つんと顎を突き出す玲子の肩越しに、助けを求める茜の疲れた視線を感じ、

「レベル2以上の言語品位は社長命令で消しちまったんだから、幼げに感じるのは仕方ないだろう」

「でもさ。もうちょい大人っぽくしないと田吾がちょっかい掛けてきてしょうがないのよ」


「お前が見張ってんだから大丈夫さ。それよりアカネには社会勉強をもっとさせるべきだな。そうすりゃあ、言葉遣いは自然とレベルアップするぜ。なにしろ学習型のアンドロイドだ。そしていつの日にかはユイになる。あいつは完璧な女性になってんぜ」


「そりゃそうだけどさ。あたしにはこの()がユイになるとはどうしても思えないの。どこかで歴史を変えられたのよ、きっと」


 その手の話題を出すと虫唾が走るとか言っていたくせに、

「歴史を変えたとしたら、ネブラの連中だろ。でもよそんなことする理由がないぜ」

「わかんないわ。それともメッセンジャーの仕業かもしれないし」

「そっちもおかしな話だろ。それならもっと変な細工をするだろ。アカネをレディにして何の得もねえもん。むしろ脳みそ取っちまうとか」


 玲子の後ろで茜が嫌そうに顔を歪めた。

「かわいそうなこと言わないでよ。ひどい人ね」

 とか言われて玲子に睨まれた。


「なんでこっちが悪者になってんだよ。意味わかんね」


 俺は降参と小さく両手を掲げて、

「ま、適当にな。アカネ」

 茜は苦笑いを混ぜた困り顔でこくんと顎を落とし、玲子はもう一度振り返る。

「さ。もう一度、いくよ。『とても素敵なお洋服ですこと♪』 はい、言って」

「ば、ばぁ。どっでもずでぎれすらー」


 こりゃあ、450年は掛かるわな。


 スパルタ先生に(とり)りつかれて茜も気の毒だ……とか考えながら冷蔵庫からビールを取り出そうとしたが、ふと思い出すことがあって、

「やっぱ、やめ。アルコール分子が連中に届いたらマズイ」

 冷えた缶コーヒーの棚にあるコイン投入口へ硬化を入れて吐き出されるのを待った。


 言っておくが、嗜好品は有料だからな。徹底したケチさ加減がすげえだろ。飲料水と食料は無料供給してくれるが、さすがはケチらハゲだぜ。


 でっかい金属音を上げて出てきた缶コーヒーを握って部屋を出る。

 さて、どうやって暇を潰すか。なにしろ今日は休日なのである。


 宇宙規模の使命を受けた割に休日が設けられるって、やけに企業っぽいのはしょうがないな。会社だもん。俺たちは舞黒屋の特殊危険課のメンバーさ。

 笑いたければ笑えばいいさ。俺たちゃ宇宙を駆け巡るサラリーマンだぜ。

 とか開き直る気は無いけれど、暇ができたのはスキンヘッドのオヤジが予備のパワーコンジットをケチったためで、銀龍ではハイパートランスポーターの充電をするために、イオンエンジンで航行する必要があるんだ。こうしてチビチビと貧乏臭く充電しなければいけない。


 暇ついでにって言うのもなんだけど、ここでざっと宇宙船、銀龍の中を紹介しておこう。


 まず、船首から順に説明すると、先っちょが操舵室、機長のニート部屋みたいな場所さ。さぞかし銀龍ラブになってんだろうね。

 その後ろの右舷側に医務室、左舷に環境制御室、それに続いて左と右の両舷に3部屋の居住ブロックが後部へと並び、ど真ん中を突っ切る通路が機体のほぼ中央に位置する司令室まで抜けている。まるで長屋みたいな作りさ。

 そんで司令室の奥、船尾にサブ格納庫、メイン格納庫などが続く。


 居住ブロックはそれぞれ仲のいい者どうしがペアになって一部屋を使っている。例えば社長の部屋は右舷船首側で、俺と田吾が真ん中。船尾側に短距離トランスポーターが設置された通称転送室。左舷先頭が機長とパーサーの部屋で、真ん中がギャレーと娯楽室、続いて玲子と茜、優衣の部屋となる。


 女性陣の部屋だけが狭苦しさを感じるが、優衣と茜は寝るという行為を取らないため、二段ベッドの上段を玲子が使い、下段は二人の腰掛けとか、勉強に使う本の置き場所らしい。これは実際に見たわけではなく茜から聞いた話だ。


 ちなみに恒星間転送が可能なハイパートランスポーターてのがある。元々は管理者のもので、現在は借りパク状態だが、そいつはとてもでかいのでメイン格納庫に設置されている。

 とまぁ、銀龍の内部事情はこんなところだな──。


 まだ発着ベイとかが階下に広がってっけどまたおいおいな。




「ほお……」

 玲子たちの部屋の扉が珍しく開いており、バレッタでまとめた髪を胸の前に垂らし、先を指に絡めながら読書に(ふけ)る優衣の姿が見えた。

 その立ち居振る舞いは完璧だった。まさにレディだ。

「なに読んでんだ?」

「あ、ユウスケさん……」

 自然な動きで目線を上げて俺に向けた表紙を見て、驚きのレベルをもう一段アップする。


「電話帳じゃねえか……なんで?」


 言葉を失った俺に、優衣は意味不明の説明をする。

「この数字の並びが面白くてたまらないんです」


 数学者だってそんな言葉は吐かないだろうに。


「人の趣味をとやかく言う気はないが、田吾の趣味より非生産的でないかい?」

「そうですか? ワタシにはお人形や写真を集めるほうが理解できません」

「俺だって解らないさ。でもよりによって電話帳って……ま、今日は休日だし、好きにすればいい」

 肩をすくめつつ、かつ首をひねりつつ、玲子の部屋を後にした。



 自分の部屋を前にして船内通信の(ひら)かれる音がして、休日には聞きたくない声が通路に響いた。


《裕輔はおりまへんか?》


 社長のでっかい声だが──、

「いるに決まってるだろ。外は宇宙空間だ。いったいどこをほっつき歩くってんだ?」

 言い返してやろうかと思ったが、とにかく早いとこ返事をしないと変なペナルティを課せられるので、

「はい。いま自分の部屋の前です」

 と答えておく。


《ちょっと司令室まで来てくれまっか》


 なんだよー。休日もへったくれもないなぁ。 

 憤懣やるかたない思いで、居住区より後部にある司令室へと歩んだ。





 司令室には田吾もいて。

「裕輔。これ見てみぃーな」

 と出された一本の透き通った物体。


 水晶みたいな透明度を持った一本のガラス状の円柱なのだが、それは妖しげな光彩を放ち、ただのガラス棒ではないことは一見しただけで判断がつく。


「何すか、それ?」


 社長は溜め息混じりに言う。

「ユイから渡されて、田吾が持ってきたんやけどな」

 田吾もどうしていいのか、分からないようで、

「女子部屋の前を通ったら電話帳を見てたんダす。それで声を掛けたら……」

 そんなときから読んでんだ。

「これを社長に使ってもらうようにって渡されたんダすけど、どういう意味か解からなくて……裕輔なら知ってるかと思って」

「知るかよー」

「そやけど、おまはんはコマンダーや。何か聞いてないんか?」 


 コマンダーなんて名ばかり、なーんも教えてもらっていない。損な役割さ。

「宝石か何かっすかね?」

 ピンクダイヤほどの派手さは無いが、その奥ゆかしい煌きはそう思えるのに匹敵するだけの威厳を放っていた。


「そうか。おまはんも知らんとなると、しゃあない本人に訊くしかないか」


 すぐに優衣が呼び出され──。


「お呼びですか?」

 司令室のドアを手で開けて、可憐な顔を覗かせた。

 本来は自動開閉のドアなのだが、ケチらハゲが電源を切っちまっている──困ったオヤジだぜ。


「読書しとるところを悪いねんけどなぁ」

 ケチらハゲは優衣の脇に挟まれた分厚い本に視線を遣って、すぐに目ん玉を丸めた。

「なんや。電話帳やないか? こんな外宇宙でどこか連絡しまんの?」


 なははは。持ってくるなよー。


「いえ、面白くて止まらないんです」

 まじかよ──なんだか読んでみたくなってきたぞ。


 社長も田吾も電話帳を抱える優衣に首をひねるものの、輝く鉱石のほうが気になるようで、

「それよりもユイ。この石みたいなのは何ダすか?」

「ピクセレートですけど……」

 知らないのが、おかしいかのような言い方だった。


「何でんのそれ?」

「ピクセレートですよ」

「だから何でんの?」

「ピクセ……」

「もうええ。それは分かったがな。何んで、ワシに渡したんか、ちゅうことを訊いてまんねん」

 ハゲがイラついて半トーンほど声を上げたのは仕方が無い。こいつら、茜も含めてたまにくそまじめに繰り返すときがある。


 優衣はニコニコしたまま、

「社長さんがお金で困ったときに使いなさいと、管理者からこの宇宙域で使えるピクセレートを頂きました」

 ハゲオヤジの手のひらで転がった透明度の高い円柱を摘まんで照明に当てて見せた。それは光の当て方次第で、金色にも輝くし、青にも赤にも光る不思議な鉱石だ。


 色が変わるのは円柱だけではなく、ケチらハゲの目の色も変わった。

「なんぼぐらいで売れまんの?」


「売ったらダメですよ。見せるだけです」と優衣。

「宝石はあまりくわしないけど、どういうこっちゃ? それともこれが貨幣の代わりになりまんの?」

 と言ってから、ああ、と膝を叩き。

「クレジットカード、ちゅうワケか?」


「ん~。ちょっと違いますけど、そんなものですね」


「ほうかぁ、なるほど」


 納得してうなずく社長に、優衣はピクセレートにも匹敵する無色透明の光で満たした瞳を向けてこう言った。

「ここらで、皆さんリフレッシュされたらどうでしょ。二、三日休暇をとっていただき、あらためてプロトタイプの破壊に集中していただいたほうが効率よくいく気がします。費用はすべてこのピクセレートで支払いますから」


 ケチらハゲが透明の円柱をぱっと取り上げると、高らかに宣言した。

「よっしゃ。オゴリとなったら善は急げや。全員司令室に徴集や! 裕輔、集合を掛けてんか」


 きっちりさっぱり、分かりやすいオヤジだぜ。





「ほぉ。休暇ですか。いいですね」とはパイロットアタッチメントを握って司令室に入って来た機長だ。

「たまには羽目を外すのもエエもんやで」

「ゴキブリの羽休め……」

 久しぶりに和んだ気分の司令室で、それぞれにリフレッシュについて期待に膨らむ会話をしていた。


「こんどこそ本物の海に行こうぜ」と言う俺に、

「泳がないでレイコのお尻を見てるだけ……」


 パーサーはさっきから小うるさい物体にちらりと視線を振ってから、

「この際、ロッククライミングはどうです?」

 この人は多趣味だから色々な楽しみ方を知っている。でも一泊しかない休暇ではちょっとハードだろ。


「何かあると、すぐ高いところに登りたがる……」


 なんだか天井が鬱陶しい。

「高いところから声をかけてきて説得力ねえな。登りたがるのはお前のほうじゃないか」


 シロタマはさっと降りてくると、俺の目の前で(わめ)いた。

「ヒューマノイドは効率の悪いエネルギーの使い方をしゅるから、すぐにくだらないことに目が行くんでシュ!」


「ほっとけ。高度な思考行為は疲れるんだ。お前みたいに何も考えないでフワフワ浮かぶ水風船とは違うんだ」


 奴は瞬時に細長い楕円形に体を変形させると、

「ユースケは休息とリクリエーションの区別もついてない!」

 痛いところを突いた台詞(セリフ)だ。


「し、知ってるワ。休息は休むことで、リクリエーションは遊ぶことだ……あり? 何か変だな。とにかくどっちも仕事をしないことだ。あー仕事は()だってな感じだな」


「ふんっ。低能……しゃる(サル)」

 奴は人工物のくせに鼻を鳴らすという高等技術をひけらかせて、その場から去った。


「……………………」


 玲子はゴキタマ野郎が残して行った淀んだ空気をかき混ぜるように言う。


「あたしはスポーツジムで汗を流したいわ」


 とぼけたことをほざくので、急いで否定。

「そんなものには金を使いたくない。それだとお前の日常と変わらないじゃないか。我々が議論しているのは休暇だぞ、休暇」

「なら。オラは『ままクロ』のコンサートに行きたいダす」


「それも却下だ! 即行で却下だぜ、田吾。誰も楽しくない」


「銀龍の外壁を洗浄しませんか?」とは機長。

 いくら銀龍ラブでも、そうなったら休暇じゃないし。


「リフレッシュってなんですかー?」

 ずっとリフレッシュ中の茜にはそんなものは必要無いだろうし。


「あー。うるさいでんなぁ。ちょっと黙りなはれ」

 手と声を上げて、ワイワイ言い合う部屋の中を鎮める社長。


「一泊しかない休暇や。こういうときは旅行にかぎるんや。社員旅行や。そや、ユイのオゴリで社員旅行にしまっせ」

「ひでぇ。人の金で会社のリクリエーション費を浮かそうとしてるー」

「なんや、裕輔は留守番でっか? かまへんでそれで。ほな皆、リゾートすんで。どこ行きまひょか? 海か? 山か?」


 言葉の使い方が間違っている気もするが、

「あぁぁ。行くー。俺も行くぜ」

 こうなったら、タダ酒でも飲んで騒いでやる。


「でも、アルトオーネのリゾート地へ行くのは無理でしょ?」と玲子。

 瞬間に沈黙の井戸に落ちた。


「ほんまやな。また忘れてたワ。ここは2年過去の時間域やった」


 好き勝手に喋る人物へ、その都度首を振って好奇な視線を注いでいた茜がピンク色の顔を上げた。

「じゃあ、関係ない別の惑星に行きましょーよ」


 その申し出はありがたい。でも社長はツルツルした頭に不安を滲ませた。

「そやけど。ワシら他の星系の人種と交流がないデ。それよりこの宝石みたいなもんが、通用するかどうかもよう分からんし。ほんま大丈夫なんか?」


 優衣が柔和に微笑む。

「ここらの星系はほとんどが管理者の管轄エリアですし、星間協議会のメンバーばかりですから、どの惑星でもピクセレートは通用します。それと他の人種に関しては、ワタシが付いていますから絶対に大丈夫です」


 優衣がそう決然と言い切る自信がどういうものなか、最終的には愕然とする結果をもたらすのだが──この時の俺たちには知る由もなかった。



「これってそんなに有名なもんでっか?」

 不思議な光沢を放つ円柱をマジマジと見つめながら、なおも言う。

「アルトオーネでは通じひんで、初めて見るモンや」

 ハゲオヤジは丸っこい目で優衣を見た。


「そうですね。アルトオーネは中心星域からだいぶ外れていますし、星間協議会にも入る資格がありませんから……」

「遠巻きに田舎者やとゆうてませんか?」

「いいえ! とんでもない」

 大仰に首を振る優衣。髪の毛まで翻して、その慌てぶりが肯定していないかい?


「まぁええ。ほなリゾート計画はユイに任せますワ。充電ができ次第すぐに出発や」


「うほほほーい。リゾートダす。うれしいなぁ。可愛い子に会いたいダすなぁ」

「お前はリゾートという言葉が最も似合わない体型だな」


「何とでも言うダすよ。でも裕輔。リゾートと言えば女の子。女の子と言えばリゾートダすよ」

 バカみたいなこと言うが、その方程式は間違っちゃいない。


「あたしは美味しいものでも食べるわ」

「あ。社長、忘れていました。食料も調達していきましょう。そろそろここらで、新鮮な野菜や魚肉類を買い込んで冷凍しておきませんと、食糧庫の底が付きそうです」

 と懇願するのは、最近調理長にも志願したパーサーの意見だ。


 社長はちらりと優衣の顔を窺い。彼女が快くうなずくのを確認してから、

「冷凍庫が満杯になるまで買ぉたらエエがな」

 人の(かね)だと思ったら大きく出やがって。このシブチンめ。


「なんだか楽しくなってきたダすなー」

「田吾。タダ酒だ。飲み明かそうぜ」

 俺だって同じ気分さ。仕事しないでいいんだ。休暇だぜ。


 それぞれに浮き足立つヒューマノイドたちを、茜が不思議そうに見て、大きく首をかしげた。

「リゾートって何ですかぁ?」

 その時、過去体の自分自身に優衣が苦笑いを浮かべる姿を俺は見逃さなかった。

 茜が経験する出来事は、優衣にはすでに経験済みなのが、時間のパスで繋がったこの二人だから起きる特異な状況なのだ。


「ぬはははははは、タダで社員旅行か……エエがな。オゴリっちゅう言葉は死ぬほど好きやからな」

 ケチらハゲは、いつもより楽しげに笑って、

「オンナの子がいればどこでもいいダ」

 というセクハラ以外何ものでもないセリフを吐いたヲタを横目ですがめ。俺は一人思案に暮れる。


 誰も気付かなかったようだが、さっきの優衣の苦々しい表情は、ぜってぇ。何か嫌なことが起きることを暗示している。

 行くのよそうかな……。

  

  

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