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堤防の上
堤防越しに川を眺めていた。気が向くと堤防の上を歩いた。足場は、一層狭くなったが、幼い頃のような恐怖は、もはやなかった。足の置き場に迷いはなかった。
目を開いて、思った。あの頃は何を見ていたのだろう。川を見ていたのだろうか。それとも、足元を、一歩ゝその先を見ていたのだろうか。幼い頃は、川が見たくてたまらなかった。そう、きっと川を見ていたのだ。成長してからは、覚えているのは、堤防の幅のみだ。川なんて見ていなかった。川を見るときは、立ち止まっているときだった。
そして、今は、目には、月が映っている。月は、出ていた。川面には、月が映っているだろう。川越しに、月を眺めているに、違いない。