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雨の無い場所


 心もとない街灯に照らされたその少女は、まるで迷子に話しかけるように首をかしげながら、こちらを見ている。俺としては、同じ言葉を返したいくらいだ。

 「子供が外にいるには遅い時間だが?」

 少女の態度に、大人として上から見られ、つい口から出た言葉である。

 「私は好きでいるからいいの」

 つんと口を前に出し、軽い不快感を示す少女。俺はといえば、その口の形にさらに口の端を歪めるような形をとっていた。

 「それで、お兄さんはなんでここに?」

 手を後ろで組み、俺に質問を投げかけるそ様子は、どこか不思議な違和感を感じた。

 「帰り道で通っただけ・・・・・・そんなことより、なんで雨が降ってないんだ?」

 当初の疑問を俺は思い出し、再び辺りを見る。そんな俺を少女はため息をつながら見て、疑問に答えてくれた。

 「ここは雨の無い空間。雨降りの日にだけ、たまたまできる入り口にお兄さんは迷い込んだの」

 少女の言うことに、俺の思考はついていかない。何を言ってるんだこの娘は。

 「あ、信じてないって顔してるー」

 「あっ・・・いや、まぁ、そうではあるが」

 考えを読まれたのか、そういう少女の顔はたいして怒ってもなく、むしろいたずらをする子供のように笑っている。

 「気持ちは分かるけど、いまこの場にいるのが、何よりの証拠。それに、お兄さんの車だって、今雨にぬれてきましたーってなってるよ?」

 自分の車をみると、確かにそうかもしれないと思ってしまう。俺は今、あの風雨の中を走っていた。確かに。

 「これはゆめ・・・」

 「夢なら居眠り運転だねー。お兄さん起きたら死んじゃってるかも」

 被せるようにいってくる言葉はなんとも不謹慎で、俺の口はさらに歪む。

 あの状況で寝たら確実に死んでしまう。むしろ寝れるなら自身の神経の図太さに感心してしまう。

 「ほら、言い訳はすんだ?」

 「ああ、もう分かった。分かったよ」

 なにを言ってもこの少女には言い負かされそうだ。





 「改めて聞くが、ここはなんなんだ?」

 しばらく時間をおき、落ち着いた俺は、少女に同じ質問を繰り返す。

 「名前なんて無いけど、私は雨の無い空間って呼んでるよ。雲だってほとんど無いんだ。ほら」

 見上げる少女につられて、顔を上げると、丸い月だけが夜空に浮かんでいた。綺麗でしょと言う少女の言葉に、なにも返せないまま、その月に俺は見とれていた。

 「ここの月にはね、魔法があるんだよ」

 「魔法・・・?」

 「そう、御伽噺のような火を出したりとかじゃないけど、月がね、願いを叶えてくれるんだ」

 わざとらしく両手を胸の前で組み、目をつぶって大げさ口調でそう答える。それこそまるで御伽噺だ。

 「まーた信じてない顔してるよー」

 もともとこんな顔だと悪態つきながらも、確かに俺はじてなかった。魔法のランプのような類は、いつから信じなくなったっだろうか。

 願えば叶う。そんなことはありはしない。例えそうだとしても、自分で行動するか、誰かのおこぼれに与るか。夢がなくなったものだ。

 「仕方ないなぁ。みせてあげるよ」

 夢の無い俺の思考遮るように、少女は笑うと、空に向かって大きく口を開いた。



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