嵐の夜
しとしと
ざあぁ
人が雨に擬音をつけたのは、いつからなのだろう。自分の遠い記憶の中では、幼い頃に刷り込まれるように歌わされいたような気がする。しとしとぴっちゃんしとぴっちゃん
「そんな可愛いものならいいんだが」
おゆうぎの可愛い歌詞なんかを無視するかのごとく、ワイパーは嵐を必死で搔き分ける。アクセルを踏む俺の右足は、1センチ奥へ進むことを躊躇している。
うかつだった・・・・・・
予報の言葉なんか鵜呑みにしてはいけない。いつか誰かが言ってたような無かったような言葉が脳裏に浮かぶ。相手は自然で、しかも数百キロ、数千キロもの距離を、渦巻きながら移動する化け物だ。そんな奴の動きなんて、完璧に読めるわけない。
情報はあった。しかし、誰が急速旋回して進路予想から四十五度も曲がって来ると思うだろう。友人を連れて休日に遠出をし、屋内で遊んで外に出ればこの有様だ。そして運転手は必ず最後に帰ることになる。仕方ない。三人の友人を送るともなれば、必然的に時間は遅くなる。そうなれば、暴風雨が更に勢力の増す中心部に近づくことになる。
「頼むから、なにもとんでくるなよ・・・・・・」
願いというのは、むなしいもので、願ったものはえてして叶わない。くるわくるわ。葉っぱや小枝、放置された店先のマット。どこに置いてたんだかバイクの収納ボックス。一番最後のが左前方に当たる音がした。・・・・・・あとで確認しておこう。
幸いのことに車道は空いている。いや、こんな日に外にいる俺が馬鹿なだけなのだろう。そのおかげか、いつもより速く進んでる。いつもよりアクセルは踏んでないのだが、いったいいつもはどんなに混んでるんだこの道は。暴風に慣れて余裕ができ、そんなことを考えてると
ふいに雨がやんだ
えっ・・・・・・?
唐突だった。おもわずブレーキを踏む。前のめりになり、シートベルトが袈裟懸けに食い込む。若干のい圧迫。戸惑いと痛み。それでもハザードをつけ路肩によせるのは、現代人の性なのか。
一呼吸がはいる。それでどうとはならないが、それから行動しても遅くはならないだろう。
改めて周りを見渡す。雨というのは、急にやんだりするのは珍しくない、しかし、その前兆というのがある。どんな大雨であれ、徐々に勢いがなくなり、やむ。天候により、その差はあるものの、こんなスイッチを切りか換えたような雨の上がり方なんてそうそうあるものではない。
「なんなんだ・・・・・・?」
正直、雨がやんだ程度ならば、ここまで気に留めないだろう。しかし、おかしいのだ。なにが?いや、一目瞭然だ。雨が降ったという形跡が、少なくとも俺の見える範囲に存在しない。
雨は形跡を残す。建物は色を上塗りされ、地面はその水が溜まり排水へと小さな小川をつくる。足元は注意を怠ればとらわれる。
それが、ない。
あるとすれば、車が残したタイヤの跡のみ。
俺は、周りを確認し外へ出る。予想したとおりの、乾いた感触が足裏から伝わる。両足でその感触を踏みしめ、再度改めて周りを見る。
呆然、と言うべきか。理解の範疇を超えると人間、いや、少なくとも俺は思考が働かなくなるらしい。
「お兄さんどうしたの?」
言葉を失っている俺の後ろから、突然女の子の声が響く。
弾かれる様に振り向いた俺の目に入るのは、歳にして十と少しといった頃だろうか。そんな少女であった。




