GW特別篇 一の星と一つの気持ち
この世の中にはどうしても努力して手に入れることができないものが意外と多い。それは誰にだって分かっているし、知っていること。けれど、努力をすることで少しだけその願望に届くことだってできる。それは、なんだって共通していることだと思う。けれど、努力だけじゃあどうしようもできないことだってある。僕たちで一番身近なことはきっと恋愛なんだと思う。いや、僕たちって言い方は決めつけになるからやめておこう。僕にとって一番努力をしてもどうしようもないことは恋愛だと思う。どうしようもない。この言葉は僕にとって都合がよく、現実から目を背ける逃自分にとっては一番気楽な言葉なんだろう。ポン、と肩を叩かれ視線を向けると雨谷が口を尖らせこちらを向いていた。
「男が口を尖らせてこっち見てると気持ちいい感じはしないね」
尋の言葉に雨谷は余計に口を尖らせ鳥の羽を彷彿させるように上下に動かし始める。その行動が買い出し班ではないクラスの女の子に受けたのか少し離れたところで笑い声が聞こえてくる。ちょっとした緊張の男女の壁が崩れたのかなんとなく同性同士で遊んでいたクラスメイトも少しずつ男女交えて話したり遊び始める。雨谷はさも、自分の手柄のように不敵な笑みを浮かべ親指を伸ばしこちらへ向けてくる。凄い。すごい。と、適当に頷く。雨谷も苦笑いを浮かべながらも頷いている。
「にしてもさ、あの山に行って肝試ししなくても仲良くなってね?」
雨谷は両手を頭の裏で組みながら楽しそうに青春しているクラスメイト達を眺めている。尋も確かにそんな気がするね。と、笑みを浮かべ視線を向ける。
「折角、準備色々としたんだけどな」
どこか名残惜しそうな声色につい、笑ってしまう。
「雨谷ってホント何事にも百パーセントで楽しもうとするよね。凄く良いことだと思うけど、ほぼ一人で準備したりするの大変じゃあない?」
「うんや。企画というか誰かがこれしてみたいって言うと、確かにしたい!ってなって俺自身が楽しくなるから全然大変じゃあないぞ。それにいつもお前が結局、嫌々でも手伝ってくれるし」
「嫌々ってのは気が付いているんだ」
まあな。なんて笑いあう。と、何か妙に視線を感じたため二人して顔を向けてみると、買い物班の一員でもある香織、紫穂の姿が目に映る。うふ。なんて雨谷が冗談で腕を組んでくる。気持ち悪くすぐに手を放す。香織は微笑ましい光景を見るような表情を浮かべ、紫穂はどこか引いているような表情を浮かべている。
「って、雨谷の冗談なんだから露骨に引きつった表情を浮かべるなって!雨谷には香織って言う彼女もいるし!」
何を焦ったのか尋は紫穂に突っ込みを入れる。と、紫穂も頷きながら
「分かってるよ。そういう風に必死に否定すると変に誤解されるよ?あー怖い、こわい。行こっ」
両腕を摩りながら香織を連れていく。香織は笑いながら二人に対して手を振り秋鹿家に入っていく。買い出ししてきた野菜などを切るのだろう。仲良く遊んでいたクラスメイト達も手伝いをするためか遊ぶ手を止め秋鹿家に入っていく。特例として、尋、雨谷は火の番をさせられるため一向に動こうとはしなかった。火が消えたらバーベキューができないしな。と、言い聞かせるように何度も合言葉のように口にしていた。
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「今日はごちそうさまでした」
場所を提供してくれた尋の家族に挨拶を済ませ次々と楽しそうにクラスメイトが帰っていく。自転車を押しながら楽しそうに男女交えて帰っていく後姿はなぜか悔しい気持ちになってしまう。自分の家で開催されているのだから仕方ないけどああやって自分も話をしながら帰りたかった。そんなことを思っていると、肩にトンと軽く手を置かれる。
「ひーろちゃん!」
「うわっ!」
「おぉ!」
予想もしない人物が視界に入ってきてしまいつい、声のボリュームが大きくなってしまう。つられ、少しのけぞりながら笑いどうどう。と、落ち着かせるよう両手を小刻みに上下に動かしている。
「ご、ごめん!急に視界に入ってきたから」
「ん?なんか失礼だな!私が尋ちゃんの視界に入ってきたら迷惑みたいじゃん」
「ご、ごめん!そんなつも」
「つもりじゃあないんでしょ?分かってるって!意地悪してごめんごめん!今日は楽しかったね!やっぱりみんなとごはんを食べるっていいね!また、夏になる頃に開催したいね!」
あはは。なんて笑いながら尋の横へやってくる。グッと無意識に尋の掌に力が入ってしまう。無意識のうちに緊張してしまっているのだろう。バレないように静かに数回、深い深呼吸をしてみる。五月といえもう初夏に近い。青々しい生きた空気が火照った体を冷ましてくれる。
「尋ちゃん。みんなの後姿を見てていいな~って思ってたでしょ?」
「やっぱり分かった?」
「うんうん!私もそう思ったもん。だから、今度は場所家から遠いところで開催しようね!イベント終わりでみんなと帰りながら余韻を楽しめるって凄く良いよね。今回、私たちはホームだから友達と余韻に浸りながら話できないし尋ちゃんに至ってはもう帰ってるもんね」
同情しているのか小馬鹿にしているのか笑っている。尋も確かにそうだけど笑いすぎだよ。なんて笑い返す。
「そう言えば、雨谷と紫穂は?」
「圭はおじさんと尋ちゃんの家でテレビ見てて紫穂はおばさんとアイス買いに車で出かけてる」
「あれ?」
疑問に思ったことをすぐに察したのか香織はふふふ。と不敵な笑みを浮かべながら、
「私は洗い物をしていたんだよ。尋ちゃんが外の片づけをしてみんなを見送ってる隙になっ!」
「ごめん!手伝えばよかったね!」
「んーん!ほとんど紙皿と紙コップだったから。野菜を乗せたお皿とかだったから余裕だったよ」
グッとガッツポーズを作り笑ってくる。不意に視線を空へと向けてしまう。このままだと、貴方のことが好きです。と親友の彼女にまた、告白してしまいそうになる。そんなことをしてしまうことは裏切りになってしまう。好きな人は好きな人がいる。そのことから一瞬だけでも忘れてしまい雰囲気に流されてしまいそうになった自分に苛立ちを覚える。そんな尋の感情も知る由もない香織もまた空を見上げる。と、
「わぁ・・・凄く綺麗な青色だね・・・冬が終わって春も過ぎて夏になりかけの時期に顔を出してくれる青色の夕方って凄く神秘的で好きなんだ。何て言うか、夕方と夜の間みたいな感じでさっ」
言葉が出てこなかった。香織の言葉に対して何か反応して上手く返答すればよかった。けれど、それさえも出来なかった。本当に同じことを思っていたから。紫穂には自分が青色の夕方が好きだってことは言ったことがある。けれど、香織には言ったことはない気がする。それなのにここまで同じ気持ちになれていたなんて・・・。香織も尋の返答を待っている様子もなくけれど、少し、もじもじした後、尋のわき腹をつついてくる。
「わわっ!」
「ち、ちょっと!恥ずかしいことを勇気出して言ったんだから少しぐらい反応してよっ!」
「ご、ごめん!月を見ててぼーっとしちゃってた!」
尋ちゃんらしいね。と、笑いながら空を見上げる。と、まん丸な月がきらきらと二人を照らしている。香織は笑いながら
「本当にまんまるな月だね!月が綺麗ですねぇ」
「本当に綺麗な月だね」
徐々に黒色に染まっていききらきらと光る星たちが顔を出し始める。つられてカエルたちも歌の合唱の準備を始める。そっと、二人の間には今までなかった距離が生まれていた。それは、それは小さな距離。尋が無意識のうちに作った距離。いつかは気が付く距離。
GW中に更新ができず本当に申し訳ございませんでした。<(_ _)>土下座