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夏になる頃へ  作者: masaya
二章 from sky
95/112

20

「暑い中野球って尋も物好きだよな」

だらだらと汗を流しながらベンチに座る雨谷。その恰好はいつの間にか野球のユニフォーム姿になっていた。いつの間に着替えたのだろう?と問いたくなってしまう。が、問うてしまうと雨谷の思うツボだと思い無視を決め込む。しかし、そんな尋の無視で心が折れる雨谷ではない。じっと、尋の横顔を見つめ続ける。

「・・・」

「・・・うーん」

雨谷の甘えたような声を耳にした瞬間、つい、吹き出してしまう。あまりにも予想外の声色に鳥肌が立ってしまう。

「その、甘えたような声を出して気を引くのはずるいと思うよ!あーもう!分かったよ!どうして野球のユニフォームに着替えてるの?さっきまで、私服だったのに」

えっ?気が付いちゃった?まいったなこりゃあ。なんてワザとらしい表情を浮かべ髪の毛をかきながら、

「いや、夏ってさ。野球の季節だろう?何て言うか相棒(ユニフォーム)が俺を許しちゃあくれなくてさ・・・ははっ。だから、夏が俺を着替えさせた・・・的な?」

満足そうに頷きこちらを見つめてくる。その表情にため息以外何が出てこようか。

「・・・凄いよね。ここまで無駄な時間を使えるって。聞いてほしそうな表情するからもう少し納得というか頷ける理由かと思ったら本当にどうでもいい返答って。それより、どうして野球?それも僕ら以外全員小学生だよね?」

「ああ。なんか、病院のテラスで暇そうにぶらついてる子供たちを連れてきた。ずっと病院、病室にいるよりもこうして外で野球してるほうが元気なるだろう」

「び、病院で暇そうにしている子供たちを勝手に!?」

そうだけど。何か悪い事でもした?なんて楽観的にとらえているのかひょうひょうとした表情で首を左右に振りリズムをとっている。病院にいたという事はどこかしら体が悪いからであって、こうして炎天下野球をやって良いわけがない。尋はそっさに立ち上がり外でキャッチボールを行っている子供たちの方へ向かおうとした瞬間、グッと腕をつかまれる。視線を向けると先ほどよりも少しだけ、真面目な表情をした雨谷が映る。

「大丈夫。ちゃんと、小児科の先生には言ってるよ」

「え?」

驚いた表情を向ける。と、雨谷は鼻で笑う。

「俺って一応、そう言うところはちゃんとしているぜ?オレ、ここの小児科病棟でたまにだけど弾き語りボランティアで行ってんだよ。恥ずかしいから黙ってたけどな?そんで、あいつらさ。いつも暇だ、暇だって言ってるわけ。小児喘息の子とか重症の子供たちはここにはいないよ。そりゃあ、無理したら発作する可能性があるからそこはちゃんと見てるけどな?どう?意外と俺ってしっかりしてるだろう?これがイケメンたる所以なのかもしれないなっ」

どこか恥ずかしそうな表情に尋は、驚きながらも口を開く。

「純粋に凄いと思うよ。そこまで考えてるというか・・・ボランティアで歌を歌いに来てるとか初めて知った。いつからしてるの?」

背伸びをしつつ照れくさそうに、

「ボランティアなんて人に言ってするものじゃあないしな。いつからだろうな?中学の頃からかな?てか、いつ始めたなんてもう覚えてないわ」

いつもふざけた事ばかりするから忘れていたけれど、彼は人間としても格好良かった。負けたよ。なんて言葉を聞こえるか聞こえないかくらいの声で告げ雨谷の肩を軽く叩く。と、外でキャッチボールを行っていた子供たちが雨谷、尋を呼んでくる。

「よし、そろそろ再開しますか!」

「いいけど、守備が僕だけっていじめに近いから雨谷交代して」

笑いながら雨谷はグラウンドへと走り出る。尋もまた微笑み走りグランドへと駆け出る。


----------


「ありがとう!圭兄ちゃんに尋!」

僕だけ呼び捨てかよ。なんて笑いながら突っ込みを入れると子供たちは嬉しそうに手に付けているグローブを持ち病室へ戻っていく。許可が出たといっても時間制限はある。節度を守ってこそ許可も出る。子供たちはまだ遊びたいと駄々をこねていたけれど、雨谷の一言ですぐにおとなしくなる。ジュース奢ってやるから。尋が、と。

近くにあった自動販売機に連れていかれ尋は子供たち数人にジュースを奢らされてしまう。ここでまたごねると子供たちに格好つかないととりあえずは奢ったものの釈然としないのは当然のことである。当然のように尋は雨谷に片手を差し出す。雨谷もまた頷きながら手を差し出し握ってくる。

「僕は別に握手を求めて手を差し出したわけじゃあないよ?子供たちがいなくなったから言わせてもらうけど、なんで僕が全員の・・・雨谷の分まで奢らなきゃならなかった?」

「それは、俺ものどが渇いていたからだよ」

「当たり前のように言ってるけど、おかしいからね。のどが渇いたから友達にジュースを奢ってもらうって思考は!」

まあ、まあ。と、尋を落ち着かせるように自動販売機の近くのベンチに腰掛ける。雨谷(やつ)は代金を払う気はさらさらないことに諦めしぶしぶ尋もベンチに腰掛ける。夕方というにはまだ早い時間で空の色も青色のままである。ほのぼのとしているとある疑問を抱いてしまう。雨谷の方へ視線を向けてみる。と、清々しい表情で空を眺めている。

「そう言えばさ、僕らって野球をするために病院に行ったわけじゃあないよね?御崎ちゃんのお見舞いに来たんだよね?・・・やべっ!!」

「あーそう言えばそうだったような・・・やばいって?」

「御崎ちゃんにどこに行くかも告げずにふらっと出てきたから戻らないと!絶対に心配してそうだし!ちょっと、先に病院に戻ってくる」

焦りながら病院に戻る尋の姿はまるで彼女の元まで戻っている微笑ましい姿に映り笑ってしまう。つい、独り言を口にしてしまう。

「本当にあの二人付き合っちゃえばいいのにな。絶対にお似合いだろう」

「何がお似合いなの?てか、尋。焦ってどこかに行っちゃってるけどどこ行ったの?」

後ろから声を掛けられたにもかかわらず雨谷は驚きもせず振り向く。と、紫穂が不思議そうな表情で問うてきていた。そこには儚い。この言葉がよく似合いそうな車椅子の女性が会釈をしてくる。

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