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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
9/112

8

「はぁ・・・どうしたものか」

自然とため息が出てきてしまう自分が面白かったのか少し微笑んでしまう。一日に何回ため息をしているんだろう。そう考えると毎日ため息をついている気がする。僕がため息をする時は幼馴染の考えている時が多い。清水香織の事を思う時、彼女の事を思う時は胸が苦しくて食欲も無くなってしまうことが多々ある。考えすぎてしまい気持ち悪くなったことだってある。我ながら気持ちが悪く誰にもこの症状を言うことはできない。言ってしまったら最後、僕の周りに友人が居なくなってしまいかねない。そして、もう一人の幼馴染であり親友の平木紫穂の事を考えている時もため息が多く出てきてしまったりする。今回も昼間の怒りは相当だったらしく放課後になっても口を一切利いてくれない。勝手に怒っているんだからほっておけばいい。お前らって仲良いけどいつも喧嘩してるよな。いつもの事だろう。と、相談にも乗ってくれやしない。紫穂の場合は自分自身で解決するしかない。と、言っても毎度のことどう言う風に声をかけていいのか分からない。それに殆どの場合は時間が経てば向こうから話しかけて来てくれるのだけど、今回はこちらから謝罪を向けなければ口を聞いてくれなさそうな雰囲気が後ろからひしひしと伝わってくる。禍々しいほどの視線が首元辺りに午後からずっと感じていた。授業中に殺されてしまうんじゃあないかと思うほど刺々しいものでそのせいもあってか声をかけるタイミングを失い今に至っている。放課後にもなり文句を言いながらも部活へと忙しそうに向かっているクラスメイトや放課後ライフを満喫しているのか男女少数グループが固まって話しをしたりと各々の時間を過ごそうとしていた。

「おっし!俺も部活行くわ!香織も来るか?今日、新曲できたから聴かせてやるよ!」

名前を聞いた瞬間に反応してしまい視線を雨谷の声がする方へと向けてしまう。香織も周りに居た友人たちを誘い、新曲聴こう!、香織っていいな~。なんて楽しそうに会話をしつつ鞄を持ち雨谷が立っている場所まで数人の女子を連れて歩いていく。すると、雨谷はこちらへと向いてきたため目があってしまう。

「お前と平木も来る?新曲聴かせてやるよ!今回はすっげー自信作なんだぜ!」

「ひろちゃんも紫穂も一緒に聴きに行こー!」

香織は両手をあげこちらへと手招きしてくる。どうしたものか。と、思い後ろを向いてみると紫穂もこちらを見ていたのか目が合うと紫穂から視線を逸らしてくると鞄を持ち香織たちが立っている場所まで歩きだす。未だ怒っているらしく視線も合うことさえ嫌なんだろう。誰もいない机へと視線を向けたまま少しの間固まってしまう。流石にあの状態の紫穂と一緒の空間に居てしまったら空気が悪くなりそうだと察知し引きつった笑顔になりながらも雨谷の方へ向き直しながら

「誘ってくれてありがとう。けど、ごめん。今日、親に買い物を頼まれててさ。だから、また今度聴かせてよ。じゃあ、また明日ね!」

そう言うと僕は逃げ出すように鞄を持ち教室を後にする。香織、雨谷たちからは了解。また明日。など声をかけてもらったが紫穂の声は一切聞こえはしなかった。廊下には未だ人通りは多くそれを避けながら教室から、いや、紫穂から少しでも離れるために早足で歩き続ける。階段付近になると早めていた足も緩ませ通常通りの足取りで階段を降りはじめる。放課後になりたてと言うこともあってか部活に向かう生徒が多く多発しておりもの凄い速度で降りて行く。階段にある窓から校門辺りを見てみると思った以上に生徒が歩いており少しばかりどこかで時間を潰すべきか悩んでしまうが、学校に居ると紫穂に会ってしまう確率が高くなってしまうため一度は人の多さに止まりかけた足を動かし昇降口へと向かう。靴を履き替え昇降口を出ると背伸びをしつつ空へと視線を向ける。

「夏の空は本当に綺麗だ」

「なに黄昏てんだか」

独り言を言ったつもりだったのに、後ろから思いもしない声が聞こえてきたため首が驚き過ぎてしまい下へと下がり両肩が上へと上がり軽い鞭打ちになってしまう。伸びきった首を擦りながら声のする方へと振り向くとムスッとした表情で腕を組みながら紫穂が視界へ入ってくる。どうしてこんな所に居るのか分からずオドオドしていると呆れたようなため息をしつつ、痛かった?と言いながら首を擦ってくる。紫穂の華奢な手はひんやりと冷たく柔らかかった。気がつくとチラチラと下校している生徒に見られている事に気が付きすぐさま手をどけ大丈夫だと言うことを伝える。冷たい手で触られていたのに妙に火照ってくる。紫穂は何事もなかったように歩き出す。数歩ほど先を歩いたかと思えば振り向いてくるなり、さっさと行くよ。と、言ってきたため急ぎ彼女の横へと小走りで向かう。

「あ、あのさ」

歩き返っていると紫穂が口を開いてくる。何か口調がいつもと違いオドオドとしている様に思え不思議と紫穂の方へと視線を向けてしまう。すると両手で鞄を持ちなにやらもじもじと女の子らしい仕草をしている。あまりにも女の子らしい仕草に何故か向けた視線を空へと向け直してしまう。一体何を言いだそうとしているのだろう?ここまで女の子っぽい紫穂を見るのはいつぶりだろうか?と、思いつつ彼女が発する次の言葉を待っていると、

「あ、あのさ。昼休みのことなんだけど・・・イライラしちゃってて色々とひろの気持ちとかを考えずに私の思ってることばかりを言っちゃってごめんなさい」

そう言うと足を止め深々と頭を下げてくる。ここまでちゃんと謝られたのは初めてで自分でもどうしていいのか分からずつい、真似をするようにこちらも頭を下げてしまう。二人ともが歩道で頭を下げているのだから当然、視線も集まるに決まっている。ざわつく声に二人ともが気が付き顔をあげると丁度よく視線が合い笑ってしまう。

「どうして、ひろも頭下げてるのよ」

「いや、紫穂が頭を下げて謝ってくるなんて珍しくて。それに、僕も紫穂に気に障った事をしちゃったかもしれないからごめんなさいの意味も込めて頭下げたんだ。改めて、なんか理由が分からないけどごめんね」

再度、軽く頭を下げると紫穂は微笑みながら頭をゴシゴシと雑に頭を撫でてくる。急に思い切り撫でてきたせいかまた首が少しばかり痛みが走ったが余計な心配をさせないように我慢し顔をあげる。紫穂も謝罪ができて満足したのか両手を上げ軽くストレッチのように上半身を軽くのけ反らせる。

「よっし!じゃあ、帰ろっか?」

「ちょっと母さんからお使い頼まれちゃってて。紫穂は急いで帰るなら先に帰ってていいよ」

「んー。帰っても暇だから仕方がなく付き合ってあげるよ。本当に仕方がなくね!」

仕方がないと言いながらもどこか楽しそうに笑いながら歩きだす。いつもの紫穂の笑顔につられて僕も口元が緩んでしまう。

「あ、でもね!」

何かを思いついたのか、思いだしたのか紫穂はひろの方へ視線を向けてくる。こう言う時は決まって良い事を言われる事は先ず無い。こう言った切り口から始まる言葉の殆どが僕に対してのダメだしのことが多い。今回だってきっと僕の悪い所を指摘してくるに違いない。覚悟を決め、なに?と問うと当然のようにダメ出しが始まると思いきや、紫穂の表情はいつものダメ出しをする時のように眉間にしわが寄っておらずどこか優しい表情であった。

「やっぱり、恋愛に置いてマイナス思考って駄目だと思うよ?そりゃあ、ひろが抱いている感情は別に悪いことじゃないと思うの。けど、親友の彼女の事を好きになってしまった自分が嫌だって思ってるのも確かだよね。見てて分かるし。絶対に叶わない恋だとしてもひろは思い続けるよね。馬鹿だからさ」

「馬鹿は余計だよ。けど、本当は分かってるよ。絶対に叶わない恋なんだから忘れてしまった方がいい事もさ。それに告白をして気持ちよくフラれたいなんて自己満足で相手側からしたらとんでもない迷惑なことだってこともさ・・・ん?」

息をのんだ声が聞こえたため横を向いてみると、意外そうな表情を浮かべた紫穂がこちらを見ていた。信じられない言葉でも聞き驚いているような表情が可笑しくつい笑ってしまう。笑い声に我を取り戻したのか紫穂は意外そうな声色で、

「そこまで分かってるんだったらあともう少しだね。この短時間でなにが起こったか分からないけど感心、感心」

「どう言うこと?」

そう言うと紫穂はどこか嬉しそうな表情を浮かべ、なんでもない。と、いいあとはなにも答えてはくれなかった。けれど、この時間のお陰で少しだけ、ほんの少しだけ前を向けたような気がした。確かに、香織の事は好きだけど、どこかで自分の初恋にケリを付けなければならないと思ってはいた。頭では分かっているけれど実際に香織を目の前にすると考えていた言葉、決意がいつも砕け散り目先の楽しさしか目に行かなくなってしまう。そして、一人になった時に襲ってくる虚しさが重く圧し掛かってくる。つい先ほど自分で言った言葉でさえ香織の事を考えていると壊れそうになってしまう。自分の心の弱さに嫌気がさしているとお尻に衝撃が襲ってくる。紫穂が呆れたようなけれど笑いながら何度も鞄を使い叩いてくる。

「まっ!ずっと思い続けてきた恋心なんだもん!すぐには諦め付かないってのが正直なところなんだから、徐々に視線を他の人に変えていきなよっ!本当にひろって口ではいい事を言うくせに結局ウジウジ頭の中で考えるよね!もう少ししっかりしろっ!困ったことがあればなんでも聞いてあげるから遠慮せずに頼りなよ」

紫穂の優しさが素直に嬉しかった。ここまで親身になってくれる幼馴染が誇らしかった。ありがとう。そう告げると紫穂は親指を立て、当然でしょ。と、笑う。つられて僕も笑いだす。

「それで、お使いってなにを買うの?」

「えっとね。なんだっけな?」

なにを買って来いと言われていたのか確かめるために携帯を開いてみると一件メールが着ていた。

「加藤からだ。なんか写メもついてるよ?」

「え?どれどれ?」

二人して添付されていた画像を見るとただの誰もいない教室に加藤と一年生だろうか?二人の幸せそうなツーショット画像が出てくる。ただの自慢画像だと思い閉じようとした瞬間に紫穂が二の腕辺りを握ってきたためどうしたのか聞こうとした瞬間、

「ひ、ひろには見えないの?」

「は?なにが」

そう言うと紫穂は小刻みに揺れている人差し指を二人が映っている写メの左端に映っている窓付近へと伸ばす。指された場所へじっくりと視線を向けてみると、写っては欲しくないものが薄らと写っていた。

「こ、これって・・・人の顔?なんで、首だけ窓から出てるんだよ・・・」

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