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「そっか。そうだったんだ」
ふと、無意識に出てきてしまった言葉にハッと口へ手を添え覆い隠してしまう。周りを見渡しても自分の言葉に気が付く人は居なかったらしく胸を撫で下ろしてしまう。はて?どうして私は焦っているんだろう?自分が抱いた感情が一体何なのか気が付かないフリを演じる。きっと気が付いてしまったら後戻りが出来ないことを知っているから。可愛い年下の後輩。まっすぐな気持ちは眩しすぎてたまに視線を逸らしてしまいそうになる。けれど、視線を逸らしてしまったらきっとそのまま見失ってしまう。下がり気味だった視線を上げてみる。と、雨谷は自分のことのように誇らしそうに微笑み、香織は手のひらをくっつけキラキラとした表情を浮かべている。二人ともきっと御崎が口にした言葉の根の部分を感じ取ったのだろう。私だって分かってしまった。いや、分かってはいた。その部分だけは視線を逸らしていたんだと思う。そして、肝心の尋へと視線を向けてみる。と、最初は驚き硬い表情を浮かべていたけれど次第に雪が解けていくように優しい微笑みへと変わっていく。
「・・・そ、それは良かった!実は御崎ちゃんがどう思っているのか不安だったんだ!あはは。気持ち悪いとか思われてなくて本当によかった」
えへへ。なんて照れるように尋は言葉を口にする。きっと察しがいい雨谷、香織、紫穂は御崎の言い方を聞けばどういう感情で勇気を出して口にしたのか容易に分かっただろう。尋もいつもならきっと少なからず察することはできたであろう。しかし、今回は流石にやりすぎてしまったのではないか?と、そのことで頭がいっぱいで御崎の本意を感じることができなかったのだろう。尋の言葉に雨谷は呆れ顔を作り肩を落とし香織は微笑を浮かべ紫穂も同じように笑みを浮かべる。すかさず雨谷が御崎の本当の意味を伝えようとした瞬間、御崎の笑い声がそれを遮る。
「あははっ。私がそんな事で気持ち悪いなんて思うわけないじゃないですか!一生懸命、私のために夜遅くになっても自転車で来てくれるなんて女子としてはすごく嬉しいですよ!」
御崎の言葉に同意するように香織も頷きだす。
「私もそう思う。自分のために一生懸命になってくれる男子って格好いいよ。圭は茶化して気持ち悪いとか言ってたけど実際はメールで、あいつぁ男だ!って言ってたよ」
腕を組むと香織は声を作り雨谷のものまねをする。と、焦ったように雨谷は香織を口を覆いそれ以上は喋らせないように静止させていた。微笑ましい光景に尋の雰囲気もいつものほんわかしたものへと戻っていく。御崎、尋、雨谷、香織は穏やかな表情なのに紫穂だけは浮かない表情に一番最初に気が付いたのは尋であった。
「紫穂?どうかした?クーラー効きすぎて体調でも悪くなった?」
尋の言葉に皆の視線が紫穂へと集まる。と、紫穂は大げさに首、手を振り笑みを作る。
「大丈夫!大丈夫!いつもの通り元気だよ。それより、本当に御崎ちゃんが元気でよかったよね!」
「・・・」
そう口にすると分かりやすく握りこぶしを作りアピールをする。雨谷、御崎は紫穂の言葉を信じ笑みを浮かべるが幼馴染の二人は騙せるわけもなく香織、尋は何か隠していることは分かったがそれ以上は聞こうとしなかった。無理をしている時に限って彼女は元気を装うことは癖でもあった。すると、雨谷が思い立ったように両手を叩きながら
「うわっ!お見舞いのお土産をもう一つ買い忘れていた!香織と平木とで行ってくるわ!尋はお土産センスがないから留守番してて」
唐突な申し出に女性三名男子一名は呆気にとられ雨谷を見つめることしかできなかった。が、暴走状態になってしまった雨谷を止めることはできず香織、紫穂はなすがまま。と、いう感じに部屋を出て行ってしまう。御崎、尋は未だに驚いたまま三人が出て行ったドアへと視線を向けたままであった。が、しばらくすると御崎が口を開いてくる。
「せ、先輩・・・えっと、ど、どうぞ」
「う、うん!ありがとう。それよか、雨谷ってああいう風にたまに変になるからね。ほんと友人代表として謝るね。ごめんね!」
頭を下げると御崎も慌てながら
「そ、そんなことないです!雨谷さんには色々とお世話になっていますから。どうか頭を上げてください」
「ははっ。なんか僕、御崎ちゃんに謝ってばかりだね。でも、本当にさっきは引いていないって聞けて本当に安心したよ。御崎ちゃんって優しいから本当は違うって思ってても僕とか傷つけないために違わないっていうかもしれないからさ」
苦笑を浮かべつつ口にすると御崎は先ほどよりも力強く首を数回ほど振り髪がゆらゆらと揺れる。
「私、先輩には気を使っていません!私は先輩が思ってくれてるほど優しくないですし・・・私より先輩のほうが優しくて・・・その、えっと・・・」
「ははっ。本当に御崎ちゃんは優しいな。僕だって御崎ちゃんが思ってくれてるほど優しくないよ?自分勝手だし・・・それに」
「そんなことないです!先輩は優しくて本当に格好いいんです!」
尋の言葉を遮るように前のめりになる御崎はいつもよりも真剣な表情に尋も驚いたがすぐに微笑へと変わる。と、
「ありがとう。そう言ってくれて凄くうれしいよ」
尋の感謝の言葉を耳にすると遅れて照れがやってきたのか茹蛸のように顔を真っ赤にしつつ俯いてしまう。しばらくの間、二人の間には沈黙が流れる。窓からそよそよと風が入り込みカーテンを揺らしている。沈黙なのだけれど気まずさはなく尋は外から見える夏の景色を楽しみ御崎は二人の空間を噛みしめているようだった。ふと、尋は外の景色から御崎へと視線を向けなおす。
「そうだ。御崎ちゃんって散歩はできないの?」
「散歩ですか?」
唐突な質問に驚きつつも、さてどうなんでしょうか?なんて首を傾げている。尋は何を思ったのか椅子から立ち上がり笑みを浮かべる。
「中庭ぐらいだったら外出てもいいでしょう!病室にずっといるのも飽きちゃうだろうし・・・って、まだ一日ぐらいしか経ってないから飽きるとかそんなことも思わないだろうけど・・・」
「そ、そんなことないです!私も外に出て太陽の光を浴びたいです!」
「ははっ。了解。ちょっとナースステーションの看護師の人に御崎が外出していいか聞いてくるよ」
「えっ?」
「ん?あ、やっぱり嫌だった?」
「そ、そうじゃあなくて・・・先輩が初めて呼び捨てで・・・」
「うわっ!ごめん!なんか変に急いでて呼び捨てで呼んじゃった!ごめん!」
急ぎ頭を下げる。と、
「ち、違います!嬉しかったんです。なんかちゃん付けだと幼い感じがしてて・・・それで・・・えっと、先輩がよければでいいんですけど・・・えっと・・・下の名前で呼んでいただけませんか?」
「下の名前で?」
「あっ!い、嫌じゃあなかったらでいいので!な、なんかすみません!急に変なことを言っちゃって・・・やっぱり忘れてください!ごめんなさい!」
必死に頭を下げる御崎は微笑ましくつい、尋は笑ってしまう。微笑を浮かべ部屋のドアを手にかけ開き振り返ると、
「分かったよ!律ちゃん・・・ははっ。なんだか慣れないから恥ずかしいね!じゃあ、ちょっと聞いてくるから待っててね」
照笑を浮かべ部屋を出ていく。
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「やっぱり天気がいい日には外で日向ぼっこが最高だね」
背伸びをしつつベンチに座る御崎へ視線を向ける。御崎もはい。なんて嬉しそうな表情を浮かべ背伸びをしている。中庭には他の入院患者も気分転換にと散歩をしている人もいれば楽しそうにベンチに座り飲み物を片手に楽しそうに雑談をしている人など各々の時間を過ごしているようだった。中庭に出る途中に自動販売機があり二人分の飲み物を買っており二人とも掌でころころと転がし遊んでいる。夏らしい真っ青な空が広がりふわふわと雲が揺らいでいる。木々から漏れる日差しがまた熱すぎず心地よい。
「先輩。ありがとうございます」
「ん?僕、なんかお礼言われるようなことしたっけ?」
「たっくさんしてくれていますよっ!だから、お礼を何度言っても足りないぐらいなんです」
照れくさそうに、けれど、どこか清々し笑みを向けてくる。と、尋もつられて笑みを浮かべ、どういたしましてかな?なんて笑いながら缶コーヒーの蓋を開ける。穏やかで静かな二人だけの空間。
「そう言えば、先輩・・・覚えてくれていますか?」
控えめな視線を向けてくる御崎。大きな瞳に整った顔。見つめられてしまうと大抵の男子高校生たちはコロッと御崎に惚れてしまうだろう。尋も御崎に対しての免疫がなければきっと惚れるなり緊張してしまい挙動不審になってしまっていただろう。御崎の問いに対して尋は数秒間思考が停止してしまう。覚えてくれていますか?きっとその問いかけからして彼女と何か約束事をしたのだろう。必死に思い出そうと脳内の引き出しを引っ張りだしてみるけれど、まったく思い出すことができない。女子との約束を忘れることは万死に値する。紫穂や香織に言われ続けていたことであった。そのため極力、人との約束は忘れないようにしているつもりであった。が、今回ばかりは本当に思い出せなかった。問いかけに対して随分と長い沈黙が続いていたが尋は必死に思い出していたため時間が一体どれだけ経っていたのかは分からない。ゴクリと生唾を飲み頭を下げる。
「ごめん!約束を忘れるなんて失礼だよね・・・だけど、思い出せないんだ!ごめん!」
長い間、またされた御崎は尋がどう言うかなんて予想済みであった。が、それでも御崎の表情は約束を忘れられて怒っている表情ではなく柔らかく微笑ましいものであった。
「先輩!謝らないでください。一生懸命思い出そうとしてくれていただけで私は嬉しいですよ。それに大したことでもないですから・・・」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどごめんね!本当に申し訳ないけどもう一度言ってもらってもいい?次は絶対に忘れないから!」
尋の言葉に御崎は驚いた表情を浮かべるもすぐに微笑を浮かべる。と、
「そんな。大丈夫ですよ!言い出した私がいうのもなんですけど本当に大したことじゃあないので・・・なんだか変に口走っちゃってごめんなさい」
尋ではなく御崎が深々と頭を下げてきたためすかさず尋は御崎の両肩を持ち頭を上げさせる。と、そんなことをされるとは思ってもみなかったのか御崎は目を見開き驚いたような表情を浮かべ両目をパチパチと瞬きをしていた。
「御崎ちゃんが謝ることなんてないよ!僕が悪いんだから!・・・じゃあ、御崎ちゃんの言うことを一回聞くってのはどう?言いたくないならそれでお願い!」
「そ、そんな・・・」
「僕の気持ちを押し付けてごめんだけどそうして!じゃないと僕の気が収まらないんだ・・・それでもいい?」
尋の提案に御崎の表情は驚愕した表情から照れくさそうな笑みへと変わり、小さく頷く。と、尋も安堵の表情を浮かべ数回小さく頷く。
物語を見てくださっている皆さま・・・ただ、ただ、ごめんなさい<m(__)m>土下座




