GW 特別編 二人で見た青色の夕方
「五月の夕方って赤色じゃなくてたまに青色の空になるよね。なんて言えばいいんだろう・・・夜と夕方の狭間的な?えっと・・・」
「ふふ・・・紫穂が言いたい事は何となく分かるよ。綺麗な青い夕方の空だよね」
ふと、紫穂が口にしつつ空を仰ぎどう説明したらいいのか悩んでいる隣で、尋もまた微笑みながら真似をするように空を仰ぐ。田植えも終わり青々しい苗が空に向かい伸び、気持ちよさそうに蛙が合唱している。仲良く二人とも同じ店の袋をぶら下げ歩幅を合わせながら歩いている。ゴールデンウィークも最終日。尋は一日中家で掃除をしたり部屋の模様替えをしようとしていたのだけれど、朝っぱらから唐突に紫穂がやってくると強制的に買い物に行く!と、連れ出されてしまった。最初こそ渋々ついて行っていた尋だったが時間が経てばいつの間にか紫穂との買い物を楽しんでいた。いや、誘った紫穂よりも尋の方が最終的には楽しんでいたにちがいない。
「紫穂?」
「うん?」
「今日は暴力的に誘ってくれてありがとうね。部屋の掃除とかできなかったのは予定外だったけど凄く楽しかったよ!やっぱり休みの日には外で遊ぶのが一番だね!」
尋へと視線を向けてみるけれど空を仰いだままだったため表情は見れなかった。けれど、きっと、いや、絶対に尋は幸せ
そうな笑顔になっている。と、分かってしまう。紫穂もいつもなら前半の悪気ない言葉に暴力を入れるところであるが頷き微笑む。
「うん。楽しかったんなら良かったね」
「へへっ。それにこれ楽しみだよね」
尋は視線を空から手に持っていた袋へと視線を向ける。それは、お互いに似あうTシャツをプレゼントし合うというものだった。Tシャツ交換の考案者は尋であり紫穂はあまりにも予想もしなかった提案に驚き戸惑いつつもすぐに承諾したのは言うまでもない。
「・・・五月なのにまだ少しだけ肌寒いね。私が尋に選んだの一応半そでだからね」
「長袖だったら冬まで見れなかったから良かったよ。心遣いありがとうございます。僕も紫穂の為に選んだのは半そでだからね」
「ふふっ」
久々の感覚。中学の頃はお互いに部活が忙しくて遊んだりすることも少なかった。同じ学校だったから、近所だったから毎日、話しもしていたしたまにお互いの家でご飯だって食べたりもしていた。けれど、こうしてデートみたいに二人で買い物にいけるなんて思ってもみなかった。小さな勇気、小さな一歩を踏み出せて良かった。彼女は心の中で静かに隣に居る男の子に聞かれないように呟く。
暖かい気持ち。柔らかい気持ち。儚い気持ち。
気が付けば暖かく幸せな笑みはどこか諦めのような笑みへと変わっていく。考えれば考えるほど嬉しい気持ちが辛い気持ちに変わっていく。きっとこの心を離してしまえば楽になることは分かっている。分かっているけれど離せない。離してしまえばきっともう手に届くことはないと分かっているから。だからこそ今日の彼女の一歩は凄いものであった。
「わっ!?」
「うおっ!」
下ばかり向いてはいけない。そう思い視線を上げた瞬間、尋の視線と交差しつい動揺してしまい声を荒げてしまう。つられて尋も過剰な反応に驚いたのか同じように目を見開き驚愕していた。
「急に大声出さないでよ」
「ご、ごめん。尋と目があったからおどろ・・・気持ち悪くて」
「なんて失礼なことをスラっと言うね」
いつもの反応。だけど今回に限っては尋がどこか大人っぽく少しだけ、ほんの少しだけ格好良く見えてしまう。鼓動が大きく跳ね何度も何度も小さくため息が漏れ胸の奥の辺りがジワリと熱くなってくる。気を紛らわせようと空を仰いでみる。と、深青色だった空は黒色に変わり小さな銀色の色が混ざりはじめていた。キラキラと輝く星。まんまるに膨れた黄色い月。
「やっぱり雲ひとつない星空って凄く綺麗だと思わない?四季それぞれに夜空の表情って違うから天体観測はやめれないね」
ふと、尋の言葉に小さく頷くと、
「うん、好き」
彼女自身も誰に対して向けた言葉かなんて分からない。けれど、自然と口から出てきた言葉。彼女が発した言葉は星空へと溶けていく。
「・・・尋?」
「ん?」
「・・・今日は私のわがままに付き合ってくれてありがとね」
「ふふ・・・こちらこそ、ありがとう」
「・・・うん」
買い物辺りも書いていたのですが・・・保存を・・・挫折して・・・以下略。
片思いをしている時が人って一番表情が輝いているんじゃあないかなぁ・・・って思ったりしてます。夏に向けて特に尋、紫穂の恋愛が色々と進展していきます。楽しみにしておいてください。




