表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
8/112

7

「はぁ・・・」

「どうした?ため息なんかついてらしくない・・・こともないか。ははっ!カツサンド美味い!」

雨谷はひろの顔を見るなり笑い昼食に買ったカツサンドを幸せそうな表情で頬張りスマホの画面を見始める。ひろも購買で買ったアンパンを片手にもち口をつけることなくずっとため息を漏らすだけであった。片思いとはちょっとした青春の香辛料だと目の前の男はいつだったか言ってきた。が、僕にはそれの意味がよく分からなかった。確かに、毎日好きな人と会える学校は最高に楽しいと感じるし幸せだとも思える。しかし、香辛料と言うことはちょっとした刺激があると言うことだろう。僕には片思いを続けてきて刺激なんて一度も感じた事はなく、ごく自然にひろは雨谷に疑問を投げかけてしまう。

「ねえ」

「ん?」

返事こそ返すが相変わらず雨谷の視線はスマホへ向いている。なんでも妖精探検に必要な事務員の見回り時間などの情報を集めているらしい。企画発案者だけあって様々な下準備を着実にしている所は素直に尊敬できるし同性として格好良いとさえ思う。流石、香織が好きになった人だと納得させられてしまう。同性、異性からもモテる人間はやはり根本的にやることをちゃんとやっている人間なんだといつも雨谷を見ていると痛感させられる。今、自分が忙しそうに作業をしている雨谷にしようとしていた質問がちっぽけに感じてしまう。声をかけてきたのに中々声を発しない事に疑問を持ったのか、雨谷が不思議そうな表情を作りこちらを見てくる。

「どうした?熱さにでもやられたか?」

「あ、いや!雨谷は凄いなって思ってさ」

「どうしたんだよ?気持ち悪いな!」

「ははっ!まあ、それは置いておいて、妖精探検っていつやるかは未定ってメールで書いてあったけど?どうして?教室では早速、今日の夜にやるぞー!みたいなテンションだったでしょ」

ああ。そのことか。と言う風に頷くと手に持っていたスマホをこちらへと向けてくる。なんでも、まだ手がかりが動画だけであり詳しい情報がまた少ししか入ってきていないためしばらくは情報収集をしたいらしい。それに、学校掲示板に貼られていたと言うこともあり教師たちも夜、生徒が妖精目的で侵入するかもしれないため夜間の警備を強化し夜間の学校侵入が少しの間、厳しくなるかもしれない。と、言う話題が教師の間で出てきているらしい。様々な考えが雨谷の口から次々と出てくる。あまりにも考えていないようでもの凄く考えていた雨谷に対してより自分との能力の差が見えてしまい落ち込んでしまう。肩を落とすひろを見るなり雨谷はただ、笑っているだけであった。すると、雨谷は何を思ったのか今までずっと見ていたスマホを置きなにやら気味の悪い笑みを浮かべながらこちらを見てくる。この表情を作る時は決まって聞いてくることはあの事であった。

「んで、ひろはいい加減彼女作らないの?」

「いっつもその話しになるよね!それにしばらく連絡取り合ってみろって今日の朝に言ったばかりじゃん」

「まあ、そうなんだけどな!にしても、なんであんな可愛い後輩が好意を持ってくれてるのにすぐに行かないかなー!絶対に他の男子だったらいってんぜ?それなのにお前と来たら・・・お前は思っている以上にカッコいいしいい奴なんだからなっ!それに結構、もててるらしいぞ?特に後輩から」

どうして疑問形なのかつっこもうとしたけれど、きっと本人も噂程度で聞いたことなのだろうから喉まで出かかった言葉を飲み感謝の言葉を向ける。

「そうそう、今回の妖精騒動あるだろ?」

「朝、動画で見たやつ?」

そうそう。と、言いながら雨谷は嬉しげに学校掲示板へとアクセスするとものすごい勢いで掲示板が更新されていっていた。【恋愛成就妖精について】など様々な妖精関連の部屋が乱立しており掲示板がお祭り騒ぎとなっている。学校中の生徒の関心がとてつもなく高い、と言うことを目の当たりにしてしまう。自分たちのクラスだけで盛り上がっているかと思いきやそうではなく、学校全体を巻き込むほどのものだったのか。と、知りひろはたじろいでしまう。掲示板で情報を求めている人々の熱量は相当なもので熱い文字を見るだけで汗が出てきてしまいそうだった。

「うわ。凄いねこれ!なんでここまで熱くなれるんだろう?」

ひろの発言に何を言ってんだ。と、言いたげな鼻で笑う声が聞こえる。

「分かってねーな!恋を成就させる妖精だぞ?恋愛盛りな高校生にとってはこれとないイベントじゃないかよ!お前な!ちょっとよく考えてみ?好きな人が居るとするだろ?けれど、勇気がなくて自分の思いを告げることはできない。そんな時にこの妖精の話しを聞いたらどう思うよ!?」

雨谷はテンションが上がり思考回路が少し壊れ始めたのかひろの肩を掴み左右に力いっぱいに振り始める。ひろもなすがまま、と言う感じに振られ続ける。

「そりゃあ、不思議であり都市伝説かもしれない。けれど、その妖精を見て願うと恋が叶うかもしれないって分かったら一度は探してみた言って思うだろう?それも自分たちが登校している学校で出現だぞ?!そりゃあ、熱くなって探すだろうが!!」

テンションが最高潮に達してしまったのかとうとう雨谷は辺り構わず走りだす。ひろは彼をどう対処していいのか分からず苦笑いを浮かべながら雨谷が疲れるまで走っている姿を見守るしかなかった。しばらくして高揚した気持ちが落ち着いてきたのか息を切らしながらこちらへと戻ってくる。

「お、お前な・・・ツッコミを入れて止めてくれたっていいだろう・・・疲れた」

「あ、ツッコミ待ちだったの!?ごめん!」

「当たり前だろ。急に話していたかと思えば走りだすなんてどう考えたってオカシイだろ!」

「う、うん。オカシイと思ったから困った顔で見てた」

一番悲しい反応だよ。と、笑いながらペットボトルのお茶を飲み始める。相変わらずカッコいいのにこう言う風に面白い事をするから困ってしまう。男二人っきり笑いながら見つめ合っている所を女子がみたらどう思うだろうか?きっと今、まさに二人の事を陰から見ている女子が思っている事を思う人もいるんじゃあないだろうか。

「ね、ねぇ・・・秋鹿さんと雨谷さんって・・・まさか」

「そんなわけないでしょ・・・多分。ちょ、ちょっと押さないでよ」

するとなにか物音に気が付いたのか雨谷が女子二人の方へと視線を向け手を振る。ひろも振り向いてみるとそこには弁当箱の袋のような巾着を持った二人組の女子が申し訳なさそうな表情で頭を下げ近づいてくる。リボンの色からして下級生だろう。すると、雨谷は両手を叩き謝罪を向けてくる。何のことか分からず不思議がっていると、

「すまん!今から俺相談受けるんだよ。俺って結構、誰からも相談受けるじゃん?だから、こうしていつも相談がある子には屋上まで来てもらってるんだ」

屋上に出れる事は秘密ではなかったのだろうか?そう不思議に思ってしまうが謝罪をしてきたということはここから去れと言う意味だろう。仕方なく立ちあがり屋上を後にしようとすると一人の女の子が、

「あ!よろしければ秋鹿さんにもお話しを聞いてほしいんですが・・・」

「へ?僕も?」

予想外の言葉にひろは甲高い声が出てしまう。その声に三人ともが笑い顔が熱くなってしまう。雨谷も、そう言うことなら話しを聞いてあげろよ。と、言い先ほど座っていた椅子を叩いてくる。オドオドしつつも頭を下げ座る。ひろの動きが面白かったのか一人の女の子が笑ってくる。初対面なためどうしていいのか分からずただ、笑顔で返すと彼女も、秋鹿さんって面白い方なんですね。と、もう一人の女の子も言い始める。雨谷もその話題に乗っかり、いい奴なんだよこいつ。是非、一年でも評判上げてあげといてね。なんて肩を叩きながら言ってくる。彼女たちも、分かりました!任せてください!なんて上手く雨谷の言葉に反応しており驚いてしまう。

「さて、それで相談って言うのは?」

一通り僕いじりが終わったところで雨谷は本題へと話題を切り変え始める。先ほど笑顔だった女の子も困った表情を作ると手に持っていた巾着を広げ始める。こじんまりとした可愛らしい弁当箱であった。いつも思うけれど良くこんな小さな弁当でお腹いっぱいになるな。と、感心してしまう。ご飯なんかホントすっすらと敷いてあるだけで、おかずは色とりどり添えてあり見ているだけで癒されてしまうほど綺麗な作品となっている。しかし、これが一体どうしたと言うのだろうか?

「これ、私が始めて作ったお弁当なんです。それで、味の評価をしてもらいたくて」

は?。咄嗟に出てきそうだった言葉をなんとか飲み込み彼女たちの話しを黙って聞くことにした。自分が勝手に想像していたのが悪い事も分かっている。もしかしたら、修羅場的な相談をされるのかと思って身構えていたけれど予想以上に可愛らしい相談内容につい、驚いてしまい微笑んでしまう。その表情を見逃さなかったのか雨谷がツッコミを入れてくる。

「どうした?何で笑ってる?」

女性二人の視線がこちらへと向けられる。アドリブが効かないひろだったが咄嗟に思いついた言葉を言うしかなかった。

「いや。すごく可愛いお弁当につい顔が綻んでしまったんだ。初めてでこれだけ上手に作れるなんて凄いよ」

その言葉がとても嬉しかったのか二人ともの女の子は手を取り合い喜んでいるようだった。しばらく四人で会話をしつつ味見もさせてもらった。美味しくこれなら大丈夫。と雨谷の一言を聞くと二人とも頭を下げお礼を言い駆け足で去っていく。相談相手が見えなくなったことを確認しつい、ひろはポロっと言葉をこぼすように雨谷に問いかける。

「相談って言うかただの味見をしただけだよ・・・ね?」

ひろの言葉に雨谷もそうだよ。美味かったな!と頷きながら笑っているだけであった。しかし、彼女たちの意図が分からなく不思議がっているとひろの思っていることが分かったのか、

「ああ。アレはあの子たちが俺に会うために言っている口実」

「口実?なんでそんなこと」

雨谷は背伸びをしつつどこか言いにくそうな表情を作るが、こちらを見るなり頬を緩ませ

「俺の事が好きなんだと」

「へーそうなんだ。雨谷の事が好きなんだ・・・なんと?!」

驚くひろを見つつ雨谷は笑い椅子から立ち上がり空を見上げる。雨谷は気を持たせ続け割る言い方をすればキープをするような男ではない。しかし、一体全体どう言うことだろうか?気がないのにお弁当まで一緒に食べるなんてあまりにも彼女たちからしたら酷ではないだろうか。

「いや、好意を寄せてくれるのはありがたいよ。けど、俺には香織が居るって言って断ってるんだ。けど、いつも相談があります。ってメールが来ると本当に今回は困っているかも?って思うだろ?それにいつもじゃないし。まあ、雑談したりするだけだからいいかなって思ってさ」

「いいかなって・・・それでもさ、身近・・・」

「ん?」

言いかけた言葉を飲み込んでしまう。身近に好きな人が居てたまに二人っきりじゃなくても逢っているって知ったら彼女はどう思う?そう、言おうとした瞬間に自分と照らし合わせてしまう。僕だって雨谷の彼女でもある香織と二人っきりで天体観測をしたりしてるじゃないか。なに偉そうに雨谷に指摘しようとしているんだ。

「いや、ごめん。なんでもない!でも、二人っきりで話しを屋上でするとか勘違いされないように気をつけなよ」

精一杯の言葉を絞り出すと雨谷は笑い肩を叩いてくる。

「お前は余計なことを心配しなくてもいいんだよ。今は自分の事と妖精探検の事だけを考えろって!なっ!いい奴なんだから!」

しっかりしろよ!なんて言いたそうな表情を向けてくる。友人として心配をしてくれているのも痛いほど分かる。けれど、その優し言葉ががひろにとっては痛みにしか感じれなかった。自分勝手な考えだと言うことも分かっている。僕はいい奴なんかじゃないよ。本当にごめん。様々な感情が胸の奥から溢れだしそうになりつい、口から言葉として出てきてしまいそうになってしまう。が、それでもなんとか飲み込み笑顔を向ける。その卑怯な自分に嫌気がさしてしまい奥歯を噛みしめる。

「まあ、五不思議の一つが身近にあるって幸せなことだよな!俺は恋を成就させる必要はないからイベントとして楽しみなんだけどお前は色々と頑張れよ!あと、恋愛の先輩から一言だけアドバイスを捧げようかなっ!」

そう言うと雨谷は座っていた椅子から反動をつけ立ちあがる。その表情は相変わらずの凛々しくて優しい笑顔がひろへと向けられる。

「後悔する恋愛はするなよ。それがどんな思いの恋でも、だ。・・・おっと、そろそろ昼休みも終わるな!降りようぜ!」

そう言いながら雨谷は歩きだす。親友に対して後ろめたい気持ちを抱きながらひろも後を追うように歩きついていくと、雨谷は急に立ち止まりこちらを見てくる。咄嗟の事で視線を下げてしまうと笑い声が聞こえてくる。

「どうした?急に変なテンションになってるけど?俺なんか気に障ること言ったか?」

心当たりなんて無いと思うけど。と笑いながらも困ったような表情にすぐに否定をする。

「違う!違う!ちょっと考え事をしていてね。好きって感情って難しいなって思ってただけ。黙って変な空気にしちゃってごめん!これは僕が全面的に悪い!」

「ならよかったけどな!」

そう言うと安心したようすで雨谷は歩きだし先に屋上を後にする。

「はぁ・・・何やってんだ。僕は!!!」

両手を広げ夏になりかけの乾いた空気を思い切り吸い吐き出し両頬を思い切り叩く。思いきりが良すぎたのか自分で叩いたくせに強烈な痛みで涙が出てきてしまう。けれど、それでいい。そうじゃないといけないんだ。幼馴染を好きになった、いや、親友の彼女を好きになってしまった。代償としては安すぎる。これでも足りないぐらいだ。ただ、好きになったぐらいいいだろ?別に奪う訳じゃあないんだから。そんなことを無責任に言う奴はきっと居るだろう。いや、そう言う人を僕は、無責任と言える側じゃない。寧ろ、もっと僕はずるい。

「ねえ?邪魔なんだけど」

扉の前には紫穂の姿があった。僕は謝罪の言葉を向け避けると咄嗟に左頬に衝撃が走る。紫穂がビンタをしてきたのだ。

「どう?これで気が済んだ?」

冷たい言葉を向け両腕を組み睨みつけてくる。僕はなにも言葉を発することなくただ、黙っているとイライラした表情を浮かべ左足を何度も、何度も踏んづけてくる。

「あー!!イライラするなっ!」

「なんで紫穂が怒るんだよ。そりゃあ、僕だってすぐに気が付かずにどけなかったのは謝るけどそこまで怒ること?」

「そんな事で怒ってないよ!もう、見てたら分かるよ!どうせ、またお得意の親友の彼女の事が好きになってしまった。悪い奴だー。ってなことを思ってんでしょ。ばっかじゃない!」

苛立ちをぶつけるように言葉を吐き捨てる。どうして彼女がそこまで怒るのかがよく分からなく、理由もなく苛立ちをぶつけられるのにも慣れているがひろはただおろおろと紫穂を見るだけであった。そのよく分かっていない。と、言う表情が気にいらなく余計に紫穂の怒りを買ってしまったのか思いきり睨みつけられてしまう。

「そんなに怒ってても分からないよ!僕が悪い事をしたんなら謝るけど」

「あー!もうっ!馬鹿っ!女々しいったらありゃしない!」

そう言うと紫穂は何をしに来たのか入ってきた扉から出て行ってしまう。ひろはよく分からなくただ、戸惑いながら屋上を後にする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ