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「本当に骨が折れただけでよかったよな」
少し眉間にしわを寄せつつ片腕を擦りながら雨谷は口を開いてくる。自分が骨折をしたわけでもないのに無意識に自分の手を擦ってしまう気持ちはなんとなく分かってしまい笑ってしまう。尋の笑い声が気になったのか視線を向けてくる、と
「俺、何か面白いこと言ったか?」
「あ、いや。雨谷が手を擦ってたでしょ?多分だけど骨折したことを想像して擦ってたのかなって思ったら何となく微笑ましくてね」
「そう言うことか。しかし、骨折で済んでよかったよな。実際、車に轢かれたって聞かされた時は一瞬にして血の気が引くって現象始めて体験したし。本当にさーって漫画みたいに体温が下がっていく感じ分かったもん。尋もそうだったろ?だから、一人調子に乗って自転車で深夜に病院に行って病院の前で立ってちょっとしたら帰ったって気持ち悪い事をしちゃったんだろう?」
からかい口調で肩を何度か軽く叩いてくる。雨谷の言葉を強気で否定したかったけれどどうも強く否定できなかった。実際、昨日の出来事を冷静に考えてみると相当気持ち悪い行動をしてしまったんじゃあないかと思ってしまっていた。帰りの道なんて殆ど衝動的に動いてしまった自分に対して何度も叱りつけてやったぐらいだ。電話では御崎の声は相変わらず元気そうだったし引いた感じも伝わって来なかったけれど内心はどうだったかなんて本人にしか分からない。御崎の本音はどうだったんだろう?そう考えるだけで怖く今日のお見舞いも行くかどうか迷ったぐらいだった。雨谷も尋からの反論があるものだとばかり思っていたが反論が無く露骨に落ち込んだ表情になっていたため焦ってしまう。
「って!冗談で言ったんだっての。普通はバスとかで行く場所を深夜に向かうなんて中々出来ないと思うぞ?調子に乗ったとか言ったけどあれはなんて言うか・・・冗談だからな?実際は中々出来ない事だから嬉しかったと思うぞ?」
「そうかな?雨谷の言う事も分かるからさ。実際、深夜に自転車で病院まで行くって気持ち悪いとかってよりも恐怖の方が大きいよね」
「だー!また始まった!って、今回は俺がちょっかいかけてしまったのが始まりか・・・ははは・・・。ごめんって!お前は男として最高に格好良いことをしたと思うぞ!男代表として俺が褒めてやろう!」
男代表ってなんだよ?なんてツッコミを入れる事を忘れてしまうほど昨日の衝動的な行動をしてしまった自分が恥ずかしくなってしまっていた。雨谷も苦笑を浮かべつつ何度も肩を叩きながら頷いてくるだけであった。いい加減、落ち込んでいる姿を見飽きたのか雨谷は一度大きく咳払いをすると、
「よっし!じゃあ、お前が悩んでることは本人に聞けば解決するだろ。自分以外の人の気持ちを考えたところで正確に分かるはずなんてないんだからさ。正直考えるだけ無駄なんだって!」
「無駄って。確かにそうかもしれないけどやっぱり色々と考えちゃうよ」
「分かるよ!分かるけどな?考えてモジモジしててもなんも前には進まないんだぞ?今回は俺が変な事を言ってしまったのも悪いけど仕方ないって!だからお見舞いに行くんだから聞いてみろよ」
「でもさ、昨日の僕の行動気持ち悪かったかな?って聞くもの余計に気持ち悪くない?」
尋の言葉にぐうの音も出なかったのか誤魔化すように苦笑を浮かべバスから流れる街の景色を見はじめる。尋は雨谷の行動が面白かったのか微笑を浮かべ天井を仰ぐ。しばらくすると途中の駅から紫穂、香織がバスへと乗車してくる。尋、雨谷よりも先に街へと出てお見舞いの品を買いに出ていた。二人をすぐに見つけたのか丁度、後ろに席が空いていたため紫穂、御崎は座ってくる。と、
「席がガラガラなのに男二人で同じ席に座るって見た感じちょっとだけ・・・あれだよね」
苦笑を浮かべつつ男二人に言葉を向けると雨谷が結構な速度で後ろへと振り向いてくるなり焦るように口を開いてくる。
「い、いやいや!俺は一人ずつで座るものだと思ってたけど俺が座って隣に自然と尋が座ってきただけだからな!」
「へ?何がおかしいの?紫穂もあれってなんだよ?友達なら隣に座るでしょ?話しやすいしそれに他の人が乗ってきた時に一人ずつ座っているよりも一人でも多く座れるくない?」
尋の言っていることは正論である。が、紫穂、雨谷は苦笑を浮かべている。この時間帯のバスの乗車客は立つほど人は乗車して来ない。現に紫穂、香織が乗車してきた時は尋たちを含めて四人しかいなかった。そこで高校生男子がバスの後部座席辺りに二人同じ椅子に座っているのは変に感じても仕方が無かったのかもしれない。尋が口にした言葉に同意するように香織が微笑みながら大きく頷いてくる。
「私も尋ちゃんに賛成かな!本当に尋ちゃんて優しいよね。隣に座ってる彼氏にも見習わせたいよ・・・本当に」
薄ら目を細め雨谷へ鋭い視線を向ける。雨谷もまた苦笑を浮かべつつ香織へと視線を送っていた。交差する二人の視線はなんだかとても羨ましくただ、視線を合わせているだけなのに二人にしか分からない言葉を話しているようで見ているだけで胸の奥の辺りが絞めつけられてしまうような感覚を覚えてしまう。もう諦めた恋。諦めなければいけない恋心。分かっている。分かっているから自然と椅子の背もたれへと視線を下げたと同時ぐらいにポンと肩に優しい衝撃を受ける。苦笑を浮かべていた紫穂の表情は微笑へと変わり数回ほど小さく頷いてくる。と、
「雨谷君は彼女にお叱りを受けなさい!と、言う事で席変わってねっと!尋もそこに座ってたら邪魔だからちょっとどけて!」
席を立ち急に何かを言うかと思えば手を引っ張り有無を言う間を与えず無理矢理立たされてしまう。思った以上に強い力に驚きつつ近くにあった吊り輪に捕まると一瞬、バスが揺らぎ紫穂の体も揺れ重心が崩れたのかこちらに向かって倒れてくる。自然と片手で抱きしめるように受け止める。
「おっと。大丈夫?てか、走行中に席立つと危ないよ」
「あ、ありがとう。分かってるけど、何となく尋が辛いかなって思って」
小さく尋だけに聞こえる声で告げ雨谷を香織の座る後部座席へと誘導する。と、雨谷が不思議そうな表情でこちらを見つつ香織は微笑まし表情でこちらへと視線を向け、紫穂に至っては若干体が熱くなっているようにも感じた。不思議そうに首を傾げつつ雨谷の方へと視線を向けていると、
「んで、お前はいつまで平木を抱きしめてるの?」
「あ、ごめんごめん!」
「無意識に女の子を抱きしめ続けるなんて尋ちゃんはやりてですな」
「ホントホント!あのボーイはきっと平木の胸の感触を楽しんでるのよきっと!まあ、イヤらしいわ!」
「どう見てもそれはないでしょっ!ホントすぐに変なことで尋ちゃんをからかうよねっ!」
変な口調になり発した言葉に香織は雨谷を叱るように叩きじゃれあいはじめていた。視線を戻し謝罪の言葉を向け先に椅子に座らせ続けて椅子へと座る。妙な沈黙が続くかと思えば紫穂はこちらへと視線を向けてくる。
「さっきはありがとうね」
「いやいや。僕の方こそありがとう。しかし、紫穂の気持ちは嬉しいんだけど後ろから二人の楽しそうな会話を聞くのもちょっと辛いんだけど」
「でも、視界に入っていないだけマシでしょ?」
「逆に視界に入っていない方が気になりまくりなんだけど・・・そ、そうだ!紫穂たちは御崎ちゃんに何のお見舞いを買って来たの?」
膝の上にはご当地キャラのエコバッグがこんもりと膨らんでいた。紫穂は袋を開き中身を見せてくる。と、そこには数種類のシュークリーム、本が入っていた。甘味がシュークリームだけだと思ってもみなかったため苦笑を浮かべてしまう。尋の反応が気に入らなかったのか紫穂の眉間が寄る、と
「分かってないね!シュークリームは最高に美味しいんだよ?それに同じ味じゃあないから飽きも来ないし。それに果物とかはきっと他の人が持って来てるだろうから買ってこなかっただけ!リンゴとかベタだし」
「ベタって・・・紫穂ってしっかりしているようでたまに変になるよね」
なによそれ。なんて文句言いたそうに口を尖らせそっぽを向いてしまう。その行動が可笑しくつい笑ってしまう。ふと、思い出したように紫穂がこちらへ振り向き小声で話しかけてくる。
「そう言えばあの写真の事はどうする?」
「あ」
あまりにも衝撃的なことがあり過ぎてしまいすっかり忘れてしまっていた。尋の一言で何もかも察した紫穂はため息を吐きつつスマホの画面を見せてくる。
「アルバムを持ってくるのは無理だったから写メって来たから見る?」
「流石、紫穂だね!」
「ほんっとに世話が焼けるなー!」




