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夏になる頃へ  作者: masaya
二章 from sky
75/112

12.99

紫穂に挨拶を済ませ自宅に向かう尋の表情は先ほどの柔らかいものではなく眉間にしわを寄せ不愉快そうなものへと変わっていた。ずっと耳鳴(ノイズ)のような音が頭全体で響いており頭を左右に振ろうが上下に振ろうが一向に静まる気配がない。いつもなら耳をすまし夜虫の鳴声(えんそう)へ耳を傾け心地よい夏の夜を楽しむところだったのだけど今はそのような余裕さえ出てこない。

「何なんだろうこれ。ずっと小さくキーンって鳴ってるけど・・・もぅ・・・」

苦虫を噛んだような表情を浮かべ足元に転がっていた石を軽く蹴る。と、同時にポケットから震動が左足を襲ってくる。液晶を見た瞬間に歪んでいた表情は一転、思ってもみなかった人物からの着信だったため驚きの表情へと変わり携帯を耳へと当てる。

「こんばんは!良い夜空だね。尋ちゃんはやっぱり天体観測をしていたのかな?」

電話から聞こえてくる明るい言葉に頬笑みを浮かべ夜空を仰ぎ口を開く。

「こんばんは。今見てるけどまだ目が慣れてないせいか星はさほど見えませぬ」

「尋ちゃんの事だから天体観測してるかと思ったのに意外だねっ。もしかして何かあったの?」

香織の言葉に鼓動が大きく一度だけ跳ねる。どうして彼女はこうも勘が鋭いのだろうか。近くで尋の表情を見ていたわけでもなければ心のモヤモヤを口にしたわけではない。けれど、いつも少しの変化も香織が一番に気が付いてくれる。しかし、それにしても今回は勘が鋭すぎる気がする。嬉しい半面、驚愕してしまう。

「か、香織ってもしかしてエスパー?」

「ん?あははっ。やっぱり当たっちゃったか!もしかしたら本当に私って尋ちゃん限定でエスパーなのかも。なんとなく、ホントになんとなく尋ちゃんの事を思って空を見上げたら流れ星が流れてさっ!それで尋ちゃん何か悩みでもあるのかな?って思って電話してみたんだ」

「ぼ、僕限定のエスパー・・・って!香織って本当に凄いしこうして僕の事を気にかけてくれる人が居るって本当に幸せなんだなって思うよ。ありがとう」

目の前に居る訳でもないのに自然と頭を深く下げてしまう。と、電話越しでは笑い声が聞こえてくる。

「あははっ。ちょっとだけ声がごもったよ?もしかしてお辞儀しちゃった?あははっ。尋ちゃんって本当に可愛いよね!」

「か、可愛いとか言わないでください!それにお辞儀なんてしてないし!ちょっと背伸びして声がごもっただけだし!」

そっかそっか。なんて愉快そうな声色で相槌を打ってくる。先ほどまで気になっていたノイズは香織のお陰かいつの間にか気にならなくなっていた。左耳からは香織の声が聞こえ右側からは蛙の合唱が自然と耳へ入ってきていた。しばらく雑談をしていると雑談に区切りをつけようとしたのか香織は一度だけ、よし!と、掛け声のような言葉を発してくる。まるで腕まくりでもしていつでも来なさい。そんな風にも聞こえた。相変わらず彼女らしい配慮である。尋はその配慮(やさしさ)に微笑を浮かべ無意識に小さくお辞儀をしてしまう。

「それで、尋ちゃん悩みがあるんでしょ?私でよければ聞くけどどうかな?それとももう少し星座になった神話の話しでもする?」

「その題材だと三時間は僕が一方的に話しちゃうけど大丈夫?」

「さ、流石に夏休みだからって尋ちゃんの独演会はご遠慮しよう!」

「ですよね!」

お互いに笑いあい尋は、ちょっと変な事を言うかもしれないけど引かないでね?と、予防線を張るが電話越しでは香織の声が聞こえてこなかった。けれど、尋の表情は笑みが浮かんでいた。きっと香織は無言のまま頷いてくれている。何となくだけどわかってしまう。尋も感謝の言葉を口にに出さず小さく頭を下げると、

「誰かの思いの欠片が流れ星に乗って僕の所に来た気がしたんだ。それが何となくだけど昔、僕と接点があった人のような気がするんだ。・・・えっとね、なんか変な夢を何度か見てさ。それが昔の香織や紫穂じゃあない誰と一緒だったんだ。それが誰だか分からなくて・・・さっきまで紫穂の家に行ってて一つだけ手掛かりの写真が見つかって・・・あははっ!急に変なこといいだしてごめん!やっぱり忘れて!だ、大丈夫?引いてない?!」

冷静に自分の口にしていた言葉を分析すると明らかに頭がおかしくなってしまったように思えてしまう。幼馴染とはいえ流石に引かれてしまったのではないだろうか。苦笑を浮かべつつ後悔しか残らないまま返答を待っていると、

「・・・ううん。ちゃんと聞いていたし引かないよ。それに尋ちゃんが困ってたら力になってあげたいもん。私には引いたとか言わなくても大丈夫だよ。私は絶対に尋ちゃんのこと引いたりしないし嫌いにもなったりしないよ?」

「・・・あ、あ」

ここは格好良くスマートにありがとう。僕も香織と同じ気持ちだよ。なんて言えればよかったのだけど上手く声が出てこない。あまりにも嬉しすぎる言葉に上手く口が回らない。人はここまで驚きにも似た感動を覚えると言葉を発することが出来なくなってしまう事を始めて知った。そうだとしても、だからこそ、尋は止まりかけた(ことば)を一歩踏み出し口にする。

「あ、ありがとう。僕も香織の事は好きだしいつだって力になります」

よく分からない。一秒後には自分で口にした言葉を忘れてしまっているだろう。無責任にも見えるが仕方のないこと。振られたといってもまだ数日しか経っていない人からあんな事を言われれば変に言葉が出てきてしまう。一秒、いや、二秒経った辺りでクスリと優しい微笑みが聞こえてくる。尋は我に帰り先ほどなんて返答したのか問おうとした瞬間、

「ありがとう。尋ちゃんにそう思ってもらえるなんて私って幸せものだねっ!私も少しアルバムを見て探してみるね。小学校に入るまでだよね?また何か分かったら連絡するね」

「あ、うん。じゃあよろし・・・」

「あ、そうだ!」

感謝の言葉を口にしようとした瞬間、何かを思い出したかのように

「急に電話したのに長電話しちゃってごめんね。それと、相談してくれてありがとう。じゃあ、またね!」

「ぼ、僕こそありがとう!じゃあ、ま、また」

電話を切ると何故かどっと両肩に疲れが圧し掛かってくる。ただ、電話をしただけなのにここまで疲れてしまうものだろうか。電話を握っていた手が汗ばんでいる。苦笑を浮かべつつズボンで手を擦り夜空を仰ぐ。

「なんだろうな。吹っ切れているようで吹っ切れてな・・・うわっ!蒼い流れ星!?」

咄嗟に電話を取り写真に収めようとしたが取れるわけもなく虚しく暗闇の画像がフォルダーへと保存される。

しばらくの間、更新をすることが出来なく誠に申し訳ございません。久々の更新なのにも関わらず本当に短い文章で本当にすみません。

13はできるだけ早めに更新させていただくのでよろしくお願いします。

楽しみにみて下さっていた方々にはご迷惑をお掛けしました。本当にすみませんでした。

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