12.8
「意味?言葉のままだけど?」
そうだ。こうしていつも彼は私の心の中をぐちゃぐちゃにかきまわしてくる。返ってくる言葉が分かっている癖に質問をぶつけて苛立ってしまう自分が嫌いだ。けれど、少しでも違う言葉を期待したっていいじゃあないか。自分でも本当に尋の事が男性として好きなのかわらからない。多分だけど、異性として好きではない。と、思う。そう思わないといけない気がした。誰かに対して抱いてしまう罪悪感。この罪悪感はどこから生まれてきたのだろう?きっとこの罪悪感は中学の頃からずっと私の心の中に住み続けている。目を逸らしたくなるほど嫌な表情を作り私を見てくる。
「・・・ほ?紫穂ってば。どうかした?なんかボーっとしてたけど」
「え・・・」
心配そうな表情で肩を掴み揺らしてくる幼馴染が目に映る。ああ、ごめん。と、謝罪を口にしつつ絶対に気が付かれる事は無いと分かっている本音。言葉にしていないのだから気が付かれる事なんてまずあり得ない。けれど、必死に気が付かれないように胸の奥へと無理矢理しまい込む。絶対、尋にだけは気が付いて欲しくない罪悪感。空はこんなに晴れ渡り雲ひとつない星夜。こんな日にこんな気持ちを抱くなんてもったいない。せっかくなら今の状況を楽しむべきだ。いい聞かせるように何度も何度も小さく頷いていると、自分の気持ちを隠す事で精一杯だったせいか尋の視線に数十秒遅れで気が付き睨みつけるように視線を返す。と、尋は安心したのか微笑しつつ一度頷く。
「睨みつけてくるところを見るといつも通りの紫穂で安心した。急に黙りこんで俯くんだもん。僕が話しかけてもしばらく反応無かったし。一瞬、何か僕が気に入らない事を言って無視されてるのかと思ったよ」
「ごめん。ちょっとだけ考え事してた。まあ、反応しなかったんだから無視しちゃったことになるのかな。ごめんね」
「別に謝らなくてもいいよ。そっか・・・なら良いんだけど。まあ、なんて言うかさ?僕でよければ相談、いつでも聞くからいいなよ?幼馴染なんだからさ。それに僕には話しにくい話題だったら香織に相談すればいいんだからさ」
尋の言葉はどうしてこんなに棘があると感じてしまうのだろう。優しい言葉をかけられる程、自分と尋の距離が遠くなっている気がしてならない。きっとそう感じているのは自分だけ。尋は何も悪くない。けれど・・・こんな距離を感じてしまうんだったら幼馴染なんて・・・
「違う違う!」
「うわっ!どうしたの急に大声出して」
唐突な紫穂の大声に尋は驚きのけ反ってしまう。マイナス思考になってどうする。今考える事はそんな事じゃあ無い筈だ。もっと考えることがあるはずだ。無意識に出かかった言葉を飲み込む。
「・・・あ。そう言えば、尋が思い出したがってた昔の事で手掛かりになるかどうか分からないけど写真がまた出てきたよ。なんか香織と尋と私以外にもう一人女の子が写ってるんだけどよく思い出せなくて。写真も丁度ポラロイドで撮ってるっぽいから病院っぽい写真と関係があるのかなって」
紫穂の言葉に尋は机に出されていたアルバムを素早く手に取り戻ってくる。窓が空いているため電気を付けてしまえば虫が入って来ることは分かっている。もしも虫が部屋に入ってきてしまえば暴力を与えられるのは分かりきっているため月光に照らしアルバムをめくり始める。尋の行動が微笑ましくつい、笑ってしまう。
「どうして電気つけないの?見にくくない?」
「電気付けたら虫が入ってきてめちゃくちゃ怒るくせに。昔だってクワガタが部屋に入ってきただけで大騒ぎして何故か近くに居た僕が意味もなく叩かれたし。いや、アレは叩かれたってもんじゃあないな・・・丸めた新聞紙でぼっこぼこに殴られたって表現の方が正解だな」
「あははは・・・そうだったっけ?私ってそんなに暴力的だったっけ?」
「そうだよ。写真でも分かるけど紫穂って今は落ち着いて女の子みたいになってるけど、昔はそりゃあ酷い悪戯っ子でしたよ。友達と川に遊びに行った時も僕は嫌だって言ったのに無理矢理ヘッドロックして二人で飛び込んだりしたし・・・」
「女の子みた・・・い?」
うんうん。なんて恨めしそうに過去の紫穂の行為を思い出しながら頷くと同時にノイズのような音が頭の中を横ぎる。唐突に言葉が止まった事に心配したのか怒りに震え始めていた紫穂も心配そうな表情をこちらへと向けてくる。一瞬、ほんの一瞬だけ紫穂、香織のどちらでもない女の子がこちらを見て微笑んでいた映像が脳裏へと映る。これは、きっと奇跡の流れ星に乗ってきた誰かの記憶の欠片が自分自身の心に入ってきたんだ。なんとなくだけれど分かってしまう。映像と共にもう一つ胸の奥の辺りがキュッと締め付けられるような感覚も覚える。自然と左手を胸の辺りへと添えてしまう。この痛みは自分の痛みじゃあない。けれど、誰かに知って欲しいと願っている痛み。
「・・・紫穂?」
「ん?」
「やっぱり、五不思議の流れ星の奇跡って本当にあるかも。信じてもらえないかもしれないけど一瞬だけ見覚えのない映像が頭の中で流れたんだ。それに、なんか胸の辺りが締め付けられるような痛みでさ。感覚でしか言えないから信憑性は皆無だけどその流れ星に乗って誰かの感情が僕の所に来たんだって・・・思って・・・その」
後半から自分でも気持ち悪い事を言っていると気が付き始めたのかぼそぼそ声になってしまう。きっと、誰だって唐突にそんな流れ星に乗って誰かの感情が自分の中に入ってきた。なんて事を聞かされた日には流してしまうか。適当に相槌を打つだけだろう。けれど、紫穂は違う。昔からずっと側で過ごしているだけあってその人の人間性を知っている。もしかしたら両親よりも年齢が近い分よけいに分かってしまっているかもしれない。尋の言葉に紫穂は微笑みながら耳を傾けていた。五不思議なんて本当にあるかも分からないし奇跡の流れ星だって本当にあるかなんて半信半疑だ。けれど、
「尋がそう言うんだったらそうなんだと思うよ。私は尋の言葉を信じるよ。でもさ?奇跡イコール願いが叶うってことでしょ?つまり、その流れ星に願ったのは尋に昔の事を思い出して欲しいって気持ちだったのかな?思い出してもらって何がしたかったんだろう?」
「・・・そうなのかな?でも、感覚なんだけどその願いってやつの断片しか僕の中に入っていない気がするんだよね。本当はもう少し違う事なのかも?わっかんないな!!」
苦笑を浮かべぐちゃぐちゃになりかけた思考を整理するため夜空へと視線を向けてみる。と、夏の星座たちが自分たちの物語を見てもらおうとキラキラと力強く輝いている。耳を澄ましてみると外からは五月蠅すぎない蛙の合唱が耳へと入ってくる。瞼を閉じスッと鼻から息を吸ってみる。夏はもう始まりだしているのにどこか切なくちょっぴり冷たくどこか懐かしさを覚え視線を何気なく紫穂へと向ける。と、同じ事を思っていたのかどこか懐かしそうな表情をつかべ微笑んでいた。
「尋?」
「ん?どうしたの?」
「・・・なんでもない」
「なに?気になるじゃん!言いかけたんだったら最後まで言ってよ。途中で止められるのが一番消化不良で気になる」
「あはは。ごめんごめん。なんとなく名前を呼んでみたかっただけ」
「良く分からないなんとなくだね。・・・ホントになんとなくだったの?」
「しつこい!」
インフルエンザにかかってしまいました。頭が上手く回らなく、とても文字数は少ないですが更新させて頂きます。皆さんも外から帰ってきた後には手洗いうがいはして下さいね。まあ、インフルにかかってしまった私が偉そうに言えませんけどね・・・(笑)




