表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏になる頃へ  作者: masaya
二章 from sky
70/112

12

120センチの世界。銀色と黒色の綺麗な空。穏やかな時間。きっと昔に触れたことのある空間(せかい)はとても穏やかで温かいものだった。きっと何も知らなかったからこそ抱けていた感情だったのかもしれない。たかだかまだ命を受けて二十年もたっていない若輩者が何を言っているのだろう。いつも話しをしてくれるお婆さんが聞いたらきっと笑って相槌を打ってくれるんだろう。けれど、この気持ちだけは決して口にする事は無い・・・と、思う。何度も心の中で繰り返し呟いてみる。呟きすぎて心の中には沢山の言葉が詰まってしまった。いつか溢れて口に出してしまうことがあるのだろうか?分からない。どうして自分の気持ちなのに分からないのだろう?様々な感情が頭の中をぐるぐると廻り始めそうになったため大きく息を吐きだし感情を言葉ではなく息として吐き出してしまう。外へ視線を向けてみると相変わらず綺麗な夜景が目に映ってくる。窓も少し開いているためひんやりとした夜風がカーテンを揺らして心地よい。

「・・・毎日見てると有難味も薄くなっちゃうよね。でも、綺麗だけどさ。やっぱり夏の夜空もいいけど冬の夜空の方が星が近いからいい・・・かな?」

拗ねるように口をとがらせ誰に言う訳でもない言葉を口にしつつ彼女は部屋の明かりをつけることなく手に持っていたアルバムを開き月明かりで照らしめくり見はじめる。秋鹿尋。この名前を聞いた瞬間にどこか懐かしい感覚を覚えたのは気のせいなのか、気のせいじゃあ無いのか確かめるために母親に家から持って来てもらったものだった。アルバムは小学校、中学校の二冊ありとりあえず記憶が一番鮮明に残っているであろう中学校のアルバムを見はじめていた。体育祭や文化祭で楽しそうにみんな笑っている。所々に自分の姿も映っておりつい、懐かしさのあまり口元が緩み笑ってしまう。過去はあまり思い返す事は無かったのだけれど最近はそこまで嫌悪感は薄くなってきている。

「あ、これ懐かしい」

自然と独り言も跳ねたような声色になり思い出に浸りながらクラス写真を見てしまっていた。数分の間、自分が何故卒業アルバムを見ているのか忘れてしまうほどに中学校の思い出に懐かしんでいた。目を瞑り深呼吸をしてみる。と、中学校(あのころ)の雰囲気が手に取るように思い出せる。一枚、一枚ページをめくり思い出にどっぷりと浸りそうになっていたけれど、本来の目的を思い出したのか目を見開きながら、危ない、危ない。なんて言葉を口にしながら他クラスの男子生徒の名前を一人一人見てみるが秋鹿尋と言う名前は記載されてはいなかった。小学校のアルバムを手に取り探してみたけれど一向に探している名前を見つけることが出来なかった。気のせいだったのだろうか?首を傾げつつひと休憩とばかりに外へと視線を向けてみる。変わり映えのしない夜景であったが、見ているだけで穏やかな気持ちになり自然と笑みがこぼれてしまう。しばらくの間、俯き静止して見ていたせいか体に疲れを感じたため両手を頭上へと伸ばしストレッチを数秒間ほどする。

「っと。それでどうしようかな。別にこれ見ても分からないだろうし・・・うむ」

ストレッチをし終わり彼女の視線の先に映ったのは卒業アルバムのような業者(プロ)がつくったものではなく、母親が作ってくれていた家族アルバム二冊であった。これは殆どが家族写真である事は分かりきっているため見る必要があるかどうか悩んでしまっていた。名前が記載されているわけでもないのだからもしも秋鹿尋という男の子が映っていたとしても気がつけるだろうか分からない。それに、懐かしい。と、感じた気持ちが本当は気のせいだったのかもしれない。

「でも、お母さんが折角持って来てくれたんだから見てみようかな」

母親にお礼をしたつもりなのか無意識に頭を下げアルバムを開く。と、幼少期の頃の自分が家族全員と楽しそうにピースをした集合写真が一枚目の一ページを使いでかでかと贅沢に一枚貼られていた。堂々とした写真に驚きつつも恥ずかしかったのか下唇をアマガミしつつ次のページを開く。と、幼いころは様々な場所へ旅行していたのか全国の名所、名所が映り込んでいる写真が数多く貼られていた。

「もう少し記憶が曖昧じゃあなくて大きくなった頃に連れて行ってくれればよかったのに。私、保育園にも行ってない頃だと思うから全く思い出せないや」

微笑から苦笑へと変わりつつもどこか暖かな雰囲気を纏ったままページをめくっていると、

「ん?この辺りだけ写真が少し小さい?どうしてだろう?」

先ほどから見ていた写真は誰もが知っている写真の大きさだったのだけれど、ニ、三ページめくってみるとそこだけ写真のサイズが気持ち小さかったのだ。少し飛ばし見てみるとまた、通常のサイズに戻っていたためカメラのフィルムがいつものやつとは違ったのかもしれないな。なんて軽い気持ちでページを戻しサイズが少し小さな写真のページへ視線を向ける。と、保育園の年長か小学校低学年辺りだろうか?仲良さそうにカメラに向かってピースをしている自分と女の子が立っている。この子は一体誰なんだろう?小学校の卒業アルバムには真っ黒な髪で目がまん丸な可愛い子は居なかった気がする。もしかしたら親の都合などで転校したのかもしれない。それにしても手を繋いで楽しそうにしている所を見ると相当仲がよかったんだろうな。なんて思いつつ秋鹿尋という名前を聞いた瞬間に抱いた懐かしい感情をこの女の子を見たときにも感じてしまう。このままこのアルバムを見て行けば何か分かる気がした。その瞬間に、穏やかに打っていた鼓動がトクン、トクンと少しだけ早く打ち始める。自然と左手を胸の辺りに持っていき息を小さく吐きアルバムへと視線を向けようとした瞬間、

「っ!」

ドアからノック音が聞こえたかと思えばガラガラとドアが開かれ懐中電燈のような光が床を照らす。

「お、今日も起きてるね。体がだるかったりする?」

「あ、いえ。ちょっと夜景を見てて」

なんとか出てきた言葉を巡回している看護師へと応対する。と、看護師は笑いながら、確かにここから見える夜景って凄く綺麗だよね。そう言うと近くにあった椅子に腰をかけ小さくため息を漏らす。

「岸井さん今日もお疲れですね」

「あはっ。まあ、仕事は疲れるけどやりがいがあるからそこまで疲れてないよっ」

ガッツポーズを作って見せてくる姿はちょっぴり可笑しくつい、笑ってしまう。笑わせるつもりで彼女もやったのか満足そうに微笑みながら夜景へと視線を向け直す。

「そう言えば最近は野球とか見に行ってないけど体で痛いところとかある?無理していない?」

以前は土日になれば近所の子供たちが野球をしている公園がありたまに見に行ったりもしていた。が、最近はなんとなく外へ出るのが億劫になっており出ていなかった。わざわざ熱い思いをして外に出る事もないのかな?中庭で十分。なんて心の奥で思っていたのかもしれない。

「また、気が向いたら行こうかな」

「そうそう。ずっと病院に居るよりも少しでも外出できるなら断然外に出た方が体にも良いからね。やっぱり外出すると心の洗濯ができるからね。やっぱりずっと室内に居るよりもいいからね。・・・よっと、じゃあ、私はサボりと思われたら行けないので巡回してくるね。かなでちゃんも夜景を見続けるのもいいけど早めに寝るんだよ」

椅子から立ち上がり少しだけ名残惜しそうに夜景から背を向け手を振りながら出ていく。手を振り返し岸井を見送り視線を夜景へと向ける。と、あくびが出てきたため丁度集中力も切れかかり始めたため記憶あさりは明日にしよう。と、アルバムをまとめ机へ置き静かに横になるとまだすぐには寝れるわけではないけれどゆっくりとなんとなく瞼を閉じる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ